木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第4章 記憶と思惑のフィアンツ帝国

第193話 あんたがいてくれて

「お疲れ様です。では、ここで1時間の休憩を取ります」
「はい、分かりました」


 王都を発って2日。
 宮廷魔法師団所属の研究者達と下級文官のマクシェルを乗せた馬車は、王国と帝国の国境付近にある騎士団駐屯地に到着する。


「ほう、ではこちらの魔道具は……」
「えぇ! こちらの魔道具は……」


 馬車から降りてきた研究者達とマクシェルは、騎士達が用意してくれた部屋で魔道具談議に花を咲かせて休息を取っていた。
 そんな彼らを見て一安心したラピスは、駐屯地に常駐している騎士に護衛の仕事を引き継ぐと、部屋の外で待機していたカトレアに声をかけた。


「お疲れ、カトレア」
「えぇ、お疲れ様。野宿を挟みながらの護衛任務なんて、随分と久しぶりだったから疲れたわ」


 そう言いながら周囲への警戒を怠らないカトレアに、ラピスは小さく笑みを浮かべるとそのまま彼女の隣に立った。


「それにしても……他国へ渡るにしては、随分と護衛役が少ないな」
「そうね。昨日の打ち合わせでも言っていたけど、どうやら宰相閣下が両団長に圧力をかけたらしいわ」
「そうだったな」


 (研究者10人、下級文官1人、御者3人……それに対して、護衛で来た宮廷魔法師は10人に騎士4人か)



「我が国の宰相閣下はよっぽど愛国心に溢れているお方だったのだな」
「それ、褒めている? 貶してる?」
「どっちに聞こえた?」
「後者かしら」
「当たり」
「全く……」


 (まぁ、あんたの気持ちは分からなくも無いけど)

 ニヤリと笑うラピスを見て、呆れたようにカトレアは溜息をついた。
 すると、部屋を出る前に他の護衛騎士から2人分の飲み物を受け取っていたラピスは、そっとカトレアに差し出した。


「ありがとう」
「どういたしまして。それで、打ち合わせの時にも言っていたが、今回は帝国に預けてある物を受け取り、ついでに魔道具開発の勉強で研究所に行くんだったよな?」
「えぇ、そうよ。研究所の方は、うちの団長が頑張ってくれたお陰なんだけど」


 受け取った飲み物で喉の渇きを潤したカトレアは、小さく息を吐くと飲み物に視線を落とした。


「でも、それを聞いた宰相閣下が『帝国に行くなら、お目付け役に王国の文官を同行させろ』って言ってきたのよ」
「なるほど。それでお目付け役として、あの下級文官ってことか」
「そういうこと」


 (本来なら宮廷魔法師団だけでも十分なのに、お目付け役として下級文官を寄こすなんて……横槍を入れた上に、こちらをバカにしているとしか思えないわ)

 穏やかな笑みを浮かべながら研究者達の話を聞いているマクシェルを思い出したカトレアは、小さく溜息をつくと飲み物を一口飲んだ。


「それにしても、近衛騎士のあんたが下級文官の護衛なんて……本来は、王族や王宮で働くお偉いさんの護衛をするのが仕事じゃないの?」
「まぁ、そうなんだが……」



『今のカトレア嬢の現状を知っているお前なら、彼女のことを守ってやれるだろ?』


 任務を拝命する時に言われたフェビルの言葉を思い出し、ラピスは小さく拳を握った。


「ラピス、どうしたの?」
「あっ、いや、その……ほら、俺のいる部隊って、宰相閣下から何かと目の敵にされているから、部隊の下っ端である俺に今回の任務を与えられたんだと思う」
「ふ~ん、そうだったんだ。でも……」


 一気に飲み物を飲み干したカトレアは、空になった容器を近くにあったゴミ箱に捨てると、ラピスに向かって微笑んだ。


「私は、ラピスが一緒にいてくれて良かったと思う」
「っ!? カトレア、それは……」


 微笑んだカトレアの潤んだ目を見て、ラピスがたまらず手を伸ばそうとした。
 その時、ラピスと同じように休憩を取っていたはずの護衛騎士が、突然2人のいる方に駆け寄ってきた。


「お~い、ラピス! この先に宿場町があるから、今日はそこで泊りだ!」
「えっ!? でも確か、今日は泊まらず国境まで行く予定だったのでは?」


 驚いて目を見開くラピスに、護衛騎士が呆れたように溜息をついた。


「それがさっき、王都から緊急の伝令が届いたらしい」
「伝令、ですか?」


 眉を顰めるカトレアを見て、護衛騎士は小さく頷いた。


「あぁ、宰相閣下から『今夜は私が指定した宿場町の宿に泊まれ』と」
「また、宰相閣下ですか……」


 深く溜息をついたラピスに、思わず苦笑いを浮かべた護衛騎士は彼の肩を叩いた。


「まぁ、お前が呆れる気持ちは分からんでもない。だが、命令は命令だ」
「分かっています」
「よし、日が暮れる前に宿場町に行くぞ。お前はカトレア様と一緒に、今すぐ護衛対象達に事情を説明して馬車に乗ってもらえ。その間に、俺たちで出立の準備をする」
「分かりました」


 小さく頷いたラピスは、そのままカトレアの方を見た。


「そういうことだ。カトレア、護衛の仕事に戻ろう」
「えぇ、分かったわ」


 力強く頷いたカトレアを一瞥し、ラピスは再び拳を強く握った。
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