最後の将軍

おくん血•タケルfrom八鶴な書店

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⸻ 第23話「魂の継承」―最終章

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海を越え、オランダの風が吹き抜ける街。
その片隅に、一つの看板が掲げられていた。

──「Takahda Dojo」

白壁の小さな道場から、子供たちの元気な声が響く。
木刀がぶつかり合い、畳を踏み鳴らす音が風に混じる。

鷹田羅刹は静かに目を閉じた。
この音こそが、平和の音。
あの戦の中で失われた“誇り”が、今ここで息を吹き返している。

娘たちはそれぞれの役割を果たしていた。
長女・茉莉は母・沙代のように道場を取り仕切り、
次女・楓音は琴の調べで道場を包み、
三女・凛華は子供たちの笑顔を絶やさない。
末娘・小雪は玄鬼の面倒を見ながら、海外の子供たちに日本語を教えていた。

そして、中央の道場で――
四歳になった玄鬼が、オランダの少年たちと木刀を交えていた。
「押忍ッ!!」
その声の響きに、羅刹の胸が熱くなる。

「……そうだ、それでいい。
 戦うための武じゃない。
 “心を立てるための武”だ。」

羅刹の隣で、オランダ人の友であり、今や盟友となったルーカス・アーツが頷いた。
「君の教えは評判だ。
 子供たちは、強さの中に“優しさ”を見ている。」

羅刹は静かに笑った。
「侍の魂は、どんな地でも生きる。
 形じゃない、心が残ればいい。」

その時、道場の入り口から沙代が駆け込んできた。
手には一枚の新聞。
その見出しを見た瞬間、羅刹の眉が僅かに動く。

『米国軍将校リチャード・X・ブラックバーン氏、ロンドンにて謎の死』

記事の本文には、こうあった。

“彼の死には政治的背景があるとの見方も。
欧州で活動する秘密結社《Eye(アイ)》との関連が囁かれている。”

ルーカスが息を呑んだ。
「“Eye”……それは、我々の国でも恐れられる組織だ。
 王族や財閥さえも逆らえない。
 まさか、そこまでの闇に……。」

羅刹は新聞を静かに折りたたみ、
外の青空を見上げた。

「……やはり、敵は人ではなかったか。
 だが、俺たちは恐れぬ。
 武道とは、闇を斬る“光”の道だ。」

そう言うと、彼は竹刀を手に取り、道場の中央へ歩いていった。

「玄鬼、構えろ。」
「はいっ、お父様!!」

小さな身体で真っすぐに立つ玄鬼。
その目は、父と同じ“侍の眼”をしていた。

竹刀が交わる音が響く。
子供たちは稽古を止め、父と子の試合を見つめる。
その光景に、沙代も楓も凛も微笑みを浮かべた。

「……これが、私たちの答えなのね。」
沙代の呟きに、楓が頷く。
「ええ。形に縛られず、心で生きる。それが“鷹田家”。」

稽古を終えた羅刹が空を見上げる。
ヨーロッパの空は高く、どこまでも澄んでいた。
遠くで鐘が鳴り響き、風に混じって異国の子供たちの笑い声が響く。

「この地でも、“道”は続く。」
羅刹は心の中で呟いた。
「たとえ世界が闇に包まれようとも、
 我ら侍の魂が消えることはない。」

彼の背中を、柔らかな光が包む。
まるでその魂を祝福するかのように、道場の天窓から光が差し込んだ。

──そして、物語は次の世代へ。

侍の血は絶えず。魂は、世界を照らす。



🕊️ 完 ― THE END ―
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