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試合後
しおりを挟むボロボロの体ながら、立ち上がり勝ち名乗りを上げる、華。
ガイアがすぐさまカオルに駆け寄る、カオルの状態を確認する。そして、肩を貸してそそくさとリングから降りようとしていた。
華はベルトを贈呈されると、腰に巻き、勝利のマイクをはじめた。
「おい! カオル。楽しかったな、なぁ」
華の問いかけに、未だリングから降りて無く、ガイアに肩を借りたままのカオルは足を止めた。
「しかし、何だなぁ。お互いタッグのパートナーを取られてどうなんだ、気持ちはよお。裏切りヤローどもがなぁ!」
カオルも足を止めただけじゃなく、顔も華の方を向いた。
「おい! レックス。何、仲間気取りでヘルプしたりしてんだ。てめぇ勝手に出て行ったんだろうがよ」
カオルも手を出し、マイクをよこせという動きをする。
それに呼応するように、華もカオルにマイクを渡す。
「おい、アースいるんだろう? お前だって勝手に出ていってよお、弱いくせに、弱いチーム入ってもしょうもないんだよぉ!」
いつもの甘い声の怒声が会場にマイク越しに響く。
会場の端がざわざわすると思ったら、アースがリングへと駆け寄って行くのが見えた。そして、リング下のレックスと並び立った。
「お前ら二人の上にもっと弱いやつがリーダーでいるだろう。あの一人ぼっちのやつがよ。そのリーダーも連れて来い、はぐれ悪魔軍だっけ」
バコン。
マイクを叩きつける音が会場内に響く。
俺もかぁ。面倒くさいなぁ。
行くのをためらっていると、近くにいる観客が俺がいるのにはとっくに気づいていたので、めちゃくちゃ視線をこちらに向けている。
仕方無しに、俺はジョギング程度のスピードでリングサイドに行った。
待ち構える、レックスとアース。
アースが、顔をクイッとリングへと向ける。
ここでも、アースがしっかりと指示する。こいつが行けって事は、行くタイミングなのかもな。
渋々俺はリングに上がる。レックスとアースが続いて来る。リング上には華、カオル、ガイアが並び立っていた。
「おおおおおおお」
会場から六人が並び立った事に、幾分声が漏れた。華とカオルのタイトルマッチが終わり、新たなストーリーが初まる事に興味を持ってくれたようだ。
カオルが、俺の足元にあるマイクを指差す。
ガイアは今にも飛びかかってこんばかりにフンフン言いながらこちらを見ている。
華は静かにこちらを見ている。いや正確には俺を見ている。
レックスじゃないのか? 違和感を感じながらも俺はマイクを拾った。
「いいか、俺が勧誘したんじゃない。コイツらが勝手にこっちに来たんだ」
レックスとアースが『おいおい』といった感じで、俺の肩を持つ。
会場からもあちこちから笑い声が漏れるのがわかった。
「とにかくよお、振られた男みたいにうじうじしてんじゃねーぞ。やるならやってやるよ。全面抗争だ」
バコン。
マイクを叩きつけた。良く思い出したら、こんな事にしたのデビューしてから初めてじゃないのかな。マイクパフォーマンスなんて無縁のプロレス人生だったもんな。最初に本音を言って、おかしな雰囲気を立て直すためにも無理やり怒って、抗争を全面に押し出すように叫んでみた。恥ずかしさもあり、爽快感もあった。
「だから、こういう技かけたらこっちのコーナー側に転がるほうが得なのよ」
アースのプロレス講座は、ほぼ毎日開かれた。
「じゃあ、こういう場合は場外へエスケープもあり?」
俺よりもレックスの質問のほうが、回数も多く、そして質も良い。
「ありだけど、どうしても、残った側が孤立しちゃうから気にしながらだな。うん。でもケースバイケース」
「なるほど、そこ悩んでたんだよ」
うん、うん、と頷きレックスはリング内をウロウロする。
「ウルフは無いのか?」
「いや、ちょっと・・・」
レベルが高すぎて、俺の今までの自分の動きを押し付けるようなムーブがどれほど相手の良さを引き出せて無いか、と思うと恥ずかしくなって、いたたまれなくなっていた。
「とりあえずお前は、コーナーから飛んでろ」
結局、アースからはぶっきらぼうに物申されるだけだった。
「あのさぁ、こういう場合もあって・・・」
再び、レックスから質問が始まり、アースと二人でシチュエーション別のムーブの検証が始まった。
俺は、暑くなってきた事もあり、練習用のマスクを脱ぐと、一人でコーナーからの飛び技を練習するために、ポストに登った。
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