遥かなるムーンサルト

新堂路務

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ウルフ・ド・ローンリ ザ・レックス アース・デラックス組 VS 華翔 カオル ガイア・ジャイアント組 六人タッグマッチ

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                                      「さ、やってまいりました。加是市総合ホールよりお送りしております、プロレスリング・フューリアス。BURST FIREシリーズも最終戦。本日はメインイベント、六人タッグマッチをお送りしたいと思います。実況は新木、解説はいつものようにプロレスの技を研究して二十年、著書も多数のマサ正木さんにお願いします。マサさんついに来ました」
 リング下の場外エリアの鉄柵のすぐ外側、正面側に本部席があり、その横に中継用の実況解説席が設けられていた。
「ええ、シリーズ最終戦、ジュニア選手含めたの六人タッグがメインですからね。異例中の異例でしょうこれは」
 新木の口は実況をしているが、残りの四感は目の前に置かれた資料をめくったり戻したりしながら、試合への準備に注がれていた。
 一方、マサさんのほうは落ち着いたもので、大きな体でドカッと椅子に座ると、誰もいないリングを見据えていた。
「マサさんからも紹介いただきましたが、やはりシリーズ最終戦、それもメインでジュニアの選手を含む六人タッグ、我々も中継してきて資料を確認しましたが過去には無いと」
 新木はそこで資料をめくる手を止める。
「だいたい、タイトルマッチですよ。それでも、先シリーズからの流れ、そして今シリーズの盛り上がり、ファンの皆さんの注目度から言っても、文句無しでしょう」
「マサさんが言う通り、華翔とカオルというジュニアの二大スターが手を組み、それにガイアを加えた三人の新たに生まれたユニット『コンクイスタ』。そしてそれぞれの元タッグパートーナー同士が裏切って、出来たユニット、ウルフ群との全面抗争。今回の一ヶ月のシリーズにおいて、様々な形で前哨戦を繰り広げ、ついに最終戦、完全決着をつけようじゃないかという試合になります」
 マサさんは胸を大きく張ると、大きく腕を組む。
「実績という点では、ここ数年ジュニアのてっぺんを分け合う形の華とカオル組に大きく分があると思うんですけど、ウルフ群は試合巧者のレックスとアース、一瞬で試合を決める力のあるウルフと割と不気味なユニットなんですよね」
「確かに関係者に取材してみると、一人一人の力で言えば華とカオルというツートップ、決定力という点では力はあるもののガイアを加えた連携面に目を向けると不安が残ると。ウルフ群がどこまでその点をついていけるかという事になりますね」
 実況新木、解説マサさんともに試合前に言いたい事は言い終わったのか、お互いにウンウンと頷き。後は試合開始を待った。

 一人のスーツの男がマイクのコードを気にしながら、リングに上がってきた。
「こやまーー」
 観客から、そう声をかけられた男は
「はっはっは」
 と笑ったが、声がそれを拾った事に少しあわてて、マイクを口から大きく離した。そして、咳払いを一つマイク外でいれると仕切り直してリング中央に立った。
「本日は、プロレスリングフューリアス、BURST FIREシリーズ最終戦加是市総合ホール大会にお集まりいただきありがとうございます。本日、無事にチケット完売、満員御礼となっております。弊社一同を代表して感謝を申し上げます」
 そう言うと、小山と呼ばれたリングアナウンサーは頭を下げた。
「さて、残す所はメイン一試合となりました。今シリーズ、うちの団体を引っ張ってきたのは間違い無く、この六人。それが一同に集結して真正面からぶつかります。是非、是非、最後まで大きな声援で彼らの事を応援してもらえたらと思います」
 小山はもう一度、マイクに入らないように咳払いをして喉の準備をする。
「それでは、メインイベント、全面抗争決着戦、ジュニア六人タッグマッチを開始したいと思います」
「うおおおおおおおおお」
 歓声と拍手と期待が会場内を充満する。
「青コーナーより、ウルフ群。現代に蘇る肉食竜、最強にして最悪、今夜も相手を食い散らかす。ザ・レックス選手、入場!」
 小山はそう言い終わると、リング中央を空け、端の方に下がった。

「ギャアアアアアアアア」
 怪獣のいななきが会場に響く渡る。
「ああーっと、この聞き覚えのあるいななき、ウルフ群のタフネスオブタフネス、レックス選手の入場ですね」
 新木は再び資料の整理をしながら、耳で入場曲を聞きながら、口で実況を初めた。
「これは恐竜じゃなくて、怪獣ですよね」
「流石メインですね。一人一人入場でしょうか。ザ・レックス選手の入場です」
 マサさんの解説が、選手のコンセプトを覆しかねないので、新木は聞こえない振りをした。
 HIPHOPの音楽がひとしきり流れた所で、ザ・レックスが会場に姿を現した。TーREXをモチーフにしたマスク。グリーンを基調にしたロングパンツに、同じ色のガウンを羽織り背中には背びれのようなものがついている。
「T-REXにああいう背びれみたいなのありましたっけ?」
「レックス選手は元は華選手のタッグパートーナーで、二度タッグのチャンピオンにもなってます。先シリーズに華選手を裏切りウルフ群に加入。攻撃的なウルフ選手と対称的に受けがうまく非常にタフな選手として名を馳せています。そしてデビュー以来一度もピンフォール負けが無いという記録も持っています」
 マサさんの解説が不味いのか、やはり新木はそこには触れずに入場を解説した。
 レックスはヒップホッパーのような手振りをみせつつ、ゆっくりと入場し、リングインをした。リング中央でもひとしきりラップをし終わると。
「ジュラーーーー」
 レックスは両手を真横に広げると、指を鉤形に曲げて吠えた。
「ジュラーーーー」
 会場にいるレックスファンが反応した。
「T-REXってジュラ紀の恐竜じゃ、ないらしいですよ」
「レックス選手のファンを通称『ジュラっこ』と呼びますが、今日もたくさん来場されてますね』
 やはり、マサさんの解説はコンセプトをグラグラとさせるため、新木は反応しようとしなかった。コンビネーションは上々だ。
 レックスの入場曲のボリュームが絞られ、音が小さくなってくると、小山はゆっくりと、相変わらずマイクのコードを気にしながらリング中央へと歩み出た。

「ウルフ群、野生が生んだIQモンスター。地獄へのツーリングを楽しまないかい? アース・ザ・デラックス選手の入場!」
 会場にはエンジンをふかす音が鳴り響き、その後にエレキギターをかき鳴らすロック調の音楽が流れ初めた。
「ああーっと、今度はエレキの音楽。アース・ザ・デラックス選手の入場です」
 姿を現したアース。上半身は革ジャンを着込み、軽く縦ノリをしながらゆっくりと入場。相変わらずの長髪とヒゲ、下半身は黒のショートタイツに黒のリングシューズ。見かけによらずに軽快な足取りでリングへ向かう。
「アーーーース!」
 アースと同じように革ジャンを着込んだ男のファンが野太い声を上げる。
「アースファンはバイクファンと被ってますから」
 マサさんの解説。
「バイク雑誌に連載を持ち、来ている革ジャンのメーカーともスポンサー契約の交渉中と」
「それ、何年も言って無いですか?」
 マサさんの問いかけに、新木は戸惑いを見せながらも
「そうですね、二年前くらいから、私も言うようになりましたね。試合前にアース選手に確認した所、交渉は最終段階であるとのことでしたね」
「いつになることやら」
 マサさんは呆れ顔だ。
 放送席の前を通るアースは、実況解説の二人を睨んで威嚇するとリングイン。バイクのアクセルをフルスロットルするパフォーマンスをひとしきりする。
「ブルルルルルルルルルルル」」
 観客はそれに合わせて、エンジンを口で出し呼応する。
 アースはそれが終わると、レスラー特有のロープの張りを確認作業を初め、レックスと何やら言葉を交わす。
「ウルフ群が二人続いたという事は次はリーダーのあの人でしょう」
 新木の実況の声が一段と上がったような気がした。
「ウルフ群リーダー、ロンリーウルフなんてとうの昔、俺には仲間がいる。そして俺は孤高の存在なんだ。Uの遺伝子を受け継ぐ最後の狼。ウルフ・ド・ローンリ選手、入場!」

「ウォーーーーーー」
 狼の遠吠えが会場に鳴り響く。
「うぉーーーーーー」
 観客がそれに呼応するように、声を上げる。自然とこのような声を出す際にはみんな口を上にあげて、体が響くような体勢を取る。
 そして、先程のアースのようにエレキの音が鳴ると、日本語と英語が混じった歌詞の歌が流れ初める。
「ああーっと、これはウルフ群のリーダー、ウルフ・ド・ローンリ選手です。頭は人間、体は狼の狼バンド『ウルフインポッシブル』の楽曲が会場に鳴り響きます」
 ひとしきり曲が流れ、サビ前で転調した所でウルフが姿を現す。紫のガウンを纏い、フードを被る。そのフードの中にウルフのマスク。今シリーズから紫を基調としたものになっている。
「ウルフーーーー」
 無数の観客が鉄柵の外から、ウルフに手を伸ばす。ウルフはそれに無関心でリングへ向かう。
「今シリーズ、磨き上げられた打撃と研ぎ澄まされた関節技は、レックスとアースという仲間を得た事でさらなる脅威を増した気がしますね。マサさん」
 新木は軽快にマサに話を振る。
「ええ、このスタイルで現代プロレスを生きていくのは難しいと思ってたんですけどねぇ、本当に順応していて、唯一無二の存在になっているのは間違いないですね」
 相変わらず、マサさんは腕を組んだまま二度ほど頷く以外は、リングを見つめたままだ。
 ウルフはリング下につくと、両手を鼻の所に合わせて、拝むようなポーズをとった。奇しくも、入場曲の中で唯一テンポがゆっくりになる所でだった。まるで、リングまでの距離と時間を測り、歩くスピードに合わせて作詞作曲されたものであるかのように錯覚された。
 レックスとアースがサードロープに腰をかけて、リングインしやすいようにスペースを作る。
 ウルフは二人に軽く会釈するとエプロンに上がり、その間を頭を下げてリングインした。曲のボリュームは一層大きくなり、観客のボルテージもピークを迎えた。フードを脱ぐと、四方に指を差し、中央にひざまずくと吠えた。
「ウォーーーーーーーー」
 観客もそれに合わせて声を出す。
「このパフォーマンス『遠吠え』も随分と定着しましたね、マサさん」
「ウルフ群は、観客と合わせてやるムーブが多いんですよ。だから割と、観戦しに来たお客さんの心を掴んで、ファンに引き込んでいる事が多いと思いますよ」
「ええ、ウルフ群グッズの売上も上々で、猫耳、うさ耳、ならぬウルフ耳を付けた女性も会場で随分と見受けられますもんね」
「私も持ってます」
「ええ、マサさんも?」
「中継の時は恥ずかしいのでつけませんよ」
「ああ、はい、それは、別に・・・ええ」
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