遥かなるムーンサルト

新堂路務

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試合後

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 レフェリーのカウントスリーと、終了のゴングが会場に鳴り響く。拍子抜けの観客。至るところから聞こえてくるのは
「華は?」
「華、どうした?」
 の訝しむ声。
 俺がノックアウトしたのよ。おそらく、華がカウントを阻止しに来るだろうという事で、ツキガミとレックスも思っていたのだろう。しかし、その華は俺がハイキックでノックアウトしてしまってのびてしまっている。
 気づけば、若手とジュースタイスのメンバーが華を担いで退場している。
「ふざけんなぁ!」
 そこへ大声を出したのは、カオルだ。いつの間にか本部席からマイクを持ち出しリング上から退場するジュースタイスのメンバーの方へと呼びかけた。
「おい! 華、こんな試合で前哨戦もあるかよ! いいか? タイトルマッチ覚えてろよ、ぶっ殺してやるからな! いいな!」
 怒りと興奮がマックスに達していたからか、半分以上は怒声だったが、言わんとするところはわかった。なぜか俺もいたたまれない気持ちになる。
 すると、アースがこっちへ来る。そして俺を両手で突き飛ばした。
 何するんだこいつ。
「お前、邪魔ばっかりするんじゃねぇよ」
 アースは顔を近づけてくると俺を指さして、大きな声を上げた。
「はぁ?」
 俺は理由よくわからないので、俺も大きな声を出して反論した。
「お前が試合を壊してるんだよ!」
 アースは汚い顔をさらに近づけて来て、汚い。
「どこがだよ!」
 そこへ、弟分のガイアまでがTシャツ姿でリングインしてきた。
「いいか、華、そのベルトは俺のほうがより輝く」
 カオルは、相変わらず華に向かって演説している。おそらく華にはまったく聞こえていないだろうけど。
「お前、なんで華をノックアウトしてんだ」
 リング下で見ていた、ガイアには事の真相がわかっているらしい。「どういうことだ」
 アースがそれをガイアから事の顛末を聞いているようだ。
 ああ、なんだこのリング上のカオスは。俺は純粋にUWFのプロレスをしたいだけなのに、こんなラリアットとパワーボムのプロレスのやつらに絡まれなきゃならないんだ。
「お前、タイトル戦にも絡んでないのに、何してくれてんだ。ええ!」
 アースの最初の俺への怒りはなんだったんだよ。ただ、怒りたいだけだったのかよ。と思いながら、俺は知らない知らないという素振りを見せてリングを降りようとした。
 不意に掴まれる左腕。普段の癖でロープに振られまいとして踏ん張り、掴まれた側を見る。
 どうせ、ガイアがもう少し目立ちたいだけだろう。
 軽い気持ちで見ると、アースの右肘が飛んで来る。
 試合終わったのに、何エルボーして来てんだよ。
 俺はしたたかに倒れた。受け身は完璧。
「ほら立てよ」
 ガイアは俺を立ち上がらせると、半ば強引に俺をコーナーポストに立たせた。
 こういう、プロレス嫌いなのよ。次々に攻撃してくるんだろう。ああいや、逃げたい。しかし、ダメージデカくて動けないな。
「うおおおおおお」
 そこへ、ガイアがダッシュしてきて、腹を俺にぶつけて来る。
「うえっぷ」
 Tシャツを着ているとはいえ、汚い腹をぶつけてくるなよ。
「ぬおおおおおお」
 今度はアースだ。準備してたのは見えてたが、まさかやってくるなんてな。
「ぐいいい」
 さっきと同じモーションのエルボーを俺の喉元へ突き刺す。
 技、変えろよ。相変わらず、パワープロレス。ムーブは頭いいのに、技にバリエーションが無いんだよ、まったく。
 最後に控えているのは、カオル。
 こいつは状況、わかって無いだろうよ。何、ついでに追撃してんだ。なんか、技あったっけ? もう試合終わってるし、いいかもう。
「あああああ」
 何か、奇声が聞こえたかと思うと、会場がざわざわし始める。
 どした? 社長か渚さんでも出てきて、場を収めようとでもしてるのか?
 リングインしてきたのは、先程フォール負けした、ザ・レックスだった。ガイアとアースはレックスのつま先蹴りを腹に受けてうずくまり、首を掴まれて場外へ落とされた。残ったカオルは、レックスにボディーブローを受け、俺への攻撃は中断された。そして、レックスの右肩にカオルは顎を乗せられ、二人とも同じ方向、ちょうどコーナーに串刺し状態の俺の側を向いた。レックスは右手でカオルの顔を、神輿を担ぐような形にすると、そのまま中央へ走ると、自分の右肩がリングへ強く打ちつけるようにあおむけに倒れた。カオルの顎はそのままリングに打ち付けられ、大ダメージをおった。レックスのフェイバリットムーブの晴天の顎砕きだ。確か、恐竜時代の終わりのきっかけとなった、隕石の衝突をイメージしているらしい。あくまでもイメージなので、よくわからないのと、それでどうしてあの名前になったのかもよくわからない。
 カオルは、そのまま横に転がりながらリング外へ。
「レックスー」
 会場から、声援が響く。
 ジュニアで同じマスクマン。年も俺より少し上。しかし、あまり話したことはない。ま、俺はどのレスラーともあまり話はしないが。
「ウルフ、大丈夫か」
「ああ、はい」
 先輩なので、敬語。できるだけ小さく声を出した。
「おい! レックスどういうことだ!」
 カオルがリング下でマイクを持つと、俺達に向かって吠えた。そして、そのマイクを俺達の方へと放った。
 レックスはそれを拾い上げると
「これから、俺達は二人で行動していく。いいな、ウルフ」
 聞いてなかったし、どうして急にっていう気持ちがどうしてもあるが、アルクホールを抜けてから一人での寂しさと、助けてもらったというありがたさから
「ああ、もちろん、やるぞレックス!」
 すごーーく頑張って、呼び捨てにした。ものすごく緊張した。
 俺達は握手をすると、つないだまま両手をあげて観客にアピールした。

 レックスが、ジュースタイスからウルフ群へ移動になるということは控室も俺と一緒になる。そう、あの狭い部屋に同室だ。
「狭いなぁ」
 荷物を運んでくるなり、第一声はこれだった。
「すいません」
 俺の謝罪に
「別にお前が悪いわけじゃない。とにかくこれからよろしくな」
 右手を出してきた。マスクはT-REXをモチーフにしたものを被っているが、素顔もどちらかというトカゲ顔なので被る意味ある? って感じだ。右手の出し方が、少し高い位置から手首だけを下に曲げていたのが、気になった。ちょうどヒップホップ系の人のようだ。
「ジュースタイスのほうがよくないっすか?」
 俺は、少し下から握手しながら、とにかくの疑問をぶつけた。
「いつまでも、華の影に隠れて恐竜やってても面白くないのよ。そしたら、お前みたいに、一人になっても自分のスタイル変えずにやってるやつ見ると眩しくてよ。根性あるなぁって、思ってたわけ」
「はぁ」
 俺は気の抜けた返事をした。ならざるをえなかったことなので、別に、偉いとは一ミリも思っていなかったので意外だった。
「ウルフ群ではお前がリーダーなんだから、リング上では敬語は無し。おそらく、当面の相手はアースとガイアの男性ホルモンタッグだろう。このシリーズ最後くらいにタッグで組んでくれたら一つのストーリーにはなる」
 あの二人を男性ホルモンタッグと呼んだときには吹きそうになった。ジュースタイスの控室ではそう呼ばれているのかもしれない。
 ガチャ
 不意に俺達の小さな控室が開いた。
「レックス、ややこしくするな」
 いたのは社長。
「ははは、まぁいいじゃないですか。俺の人生、俺が好きなように生きたって」
 レックスはもうとっくに、マスクの脱いで、汗を拭きながら笑い飛ばす。
「まぁ、ウルフもこれでちったぁ戦いやすくなるだろう。最終戦は男性ホルモンタッグとの試合な」
 あれって、正式に名乗っているのだろうか。俺だけが知らないことなのかもしれないと思いつつ、俺もマスクをとり、汗を拭いた。素顔の服柵雷韻に戻る。本音を言えば、戻ったのかどうかも、もうわからないんだが。
「名前は何にするんだ」
 すぐに退出すると思っていた社長は、そのまま入口に居座り質問してきた。
「恐竜と狼かぁ」
 社長は俺達を無視して、一人でタッグ名を考え始めた。
 俺達は、試合直後ということもあり、テンポよく返答できなかったこともあるが。
「ウルフレックス、TーWOLFもあるなぁ」
 もう、俺達のことなんか関係無い。一人でずっと話してる。
 正直、俺はなんでもよかった。なんかよくわからないが、俺を認めてくれる人がいて、その人が一緒に戦おうと言ってくれていることに少し感動していた。
「ウルフ群っていうのが名前であるし、俺はウルフ群に入るってことで、名前はいいでしょ」
 レックスが歯切れ良く言った。しばらくしてからわかることだが、レックスはさっぱりした性格で、割とスパッスパッと物事を決めていく。俺みたいに、ウジウジいた人間とは全然違った。
「まぁ、そうかそれなら、それでいいが」
「すいません」
 一通り着替えを終わらせた、レックスは本名の大町十四朗(おおまちとしろう)に戻った。そして、トイレにでも行くのであろう、社長の脇を抜けて部屋から出ていった。
「とりあえず、タッグパートーナーの件は解決したな。後は、お前が飛び技を出すだけだ。じゃなきゃ、約束は継続だぞ」
 急に、雰囲気を出して喋りだしたと思ったら、嫌なことを思い出させる。
「まだ、時間あるでしょ。俺だって準備とか、タイミングとかあるんですよ」
「ふん、好きにしろ。約束は約束だからな」
 社長はようやく俺達の控室から出ていった。
 さて、飛び技、どうしたものか。
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