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12 大洪水

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「寒っ!?」

 休み明け、さあ、やるぞ! と意気込んで出てみれば心臓が止まるんじゃないかってくらい寒かった。

 昨日、昼間に出たときは春の陽気だったのに、また寒くなるとか卑怯だろう。なにか? この世界にも三寒四温があるのか? 春は曙か?

 なんて突っ込む前にセフティーホームに戻れや、オレ!

 転がるように戻り、使い捨てカイロを買って体中に貼りつけた。

「クソ。痛いくらい寒いとかなんなんだよ? これ、マイナス十度はいってんじゃないか?」

 昔、スノボーにいったときマイナス五度を経験しだが、これはそれ以上だ。マイナス十度と言われても納得できるぞ。

「ゴブリン、よくこれで生きてるよな。どんだけ生命力が強いんだよ?」

 体毛もなく服も着ずにこの寒さで生きてるとか異常だろう。もっと暖かいとこに住めよ。

「クソ。先にオレが死にそうだ」

 それでも使い捨てカイロのお陰で挫けるまでにはいかず、コロニーと思わしき山へと向かった。

「さすがに出歩いているのはいないな」

 巣の中で固まっている感じだ。

「ってか、手榴弾、マイナス十度でも作動するんだろうか?」

 仕様までわからんので、ポーチから出してジャケットのポケットに移した。

 一キロくらい歩いて体を温め、近くの巣へと手榴弾を放り入れた。

 温めたお陰かは知らないが、ちゃんと爆発してくれ四匹のゴブリンを駆除できた。さらに一キロくらい歩いて巣にホールイン。五匹を駆除できた。

 そして、一キロ離れてセフティーホームへ補給しに戻る。

 効率の悪いことしてるなと言われそうだが、体力をつけるには歩くしかない。今は冬だからゴブリンの動きも鈍いが、春になって食い物増えれば体力も回復し、今以上の動きをみせるはずだ。

 それまでに体力を増やし、ゴブリンを駆除して金を貯め、きたるべき日に備えなければならない。そう、これはチャンス。寒さで動けない間に巣を叩く。負けるなオレ。がんばれオレ。今はボーナスタイムだ。寒さに負けずがんばれ、だ。

 地道に巣の駆除を続けること五日。三十以上あったゴブリンの巣を駆除できた。

「ふー。また暖かくなってきたな」

 今日は特に暖かい。お昼過ぎても大陽は出てるし、十度くらいあるんじゃないか? じんわりと汗も出ているし。

 ニット帽を取り、額の汗を拭う。そろそろ春の装備を考えないとな。

 山の頂上へと登り、ちょうどいい岩に腰かけた。

「……そろそろ人に会いたいな……」

 現地人がどんなものかわからないが、ダメ女神の言葉からしてそれなりの文明文化は持っている感じだった。冒険者ギルドを創ったとか言ってたし。

「異世界転移か」

 今さらながら笑えてくるよな。まさか自分の身に起こるんだから。

 そう言う創作物は好きだ。その手の漫画やアニメを観たこともある。妄想したこともある。だが、まさかゴブリン駆除をしろとは夢にも思わなかった。やらせるならチート一つくらいつけても罰は当たらんだろうが。

「ハァー。イカンな。愚痴が出るのは気持ちが散漫している証拠だ。しっかりしろ、オレ! 死にたくなければしっかりしろ!」

 ポジティブに考えろ。巣の駆除で五十万円はプラスになっている。セフティーホームも物が増えて充実もしてきた。毎日三食美味いものが食えて酒も飲める。工場勤務していたときより豊かだぜ。

 そう自分を奮い立たせていると、なんか肝が冷えるほどの鳴き声が響き渡った。な、なんだ!?

 危険を感じたら隠れろが身についたお陰で、考えるより先に木の陰に隠れていた。

「……マ、マジか……」

 空を優雅に飛ぶレッドなドラコン。数百メートル上空を飛んでいるってのに、その威圧感は漏らしてしまいそうなくらい凄かった。

 ……そ、そう言えば、この世界、魔王とかもいるんだった……。

 レッドなドラコンは、そのまま飛び去っていき、何事もなく終わった。

 だが、オレの下半身は大洪水になっていた。

 三十歳にもなってなにやってんだと笑うべからず。あんなもん見たら大洪水になっても当然だ。メッチャ怖かったんだからな!

 セフティーホームに戻り、玄関で全部脱ぎ捨てユニットバスに向かって熱いシャワーを浴びた。さっきまで汗をかくくらい暑かったのに、今は寒くてしょうがない。震えが止まってくれないよ。

「……あんなのがいるとか反則だろう……」

 別にオレが戦う必要はないんだが、あんなのがいる世界でゴブリン駆除とか、危険手当て一千万円くらいもらわないとやってらんねーよ。

「あれと戦うために呼ばれたヤツはご愁傷様だな」

 いくらチートをもらってもあんなもんと戦うとかオレには無理だ。大洪水だけじゃ済まないぞ。土砂崩れを起こすわ。

「ハァー。この先どうなるんだよ……」

 あんなの見たらネガティブにしかならないよ。

 一時間以上熱いシャワーを浴びたお陰で恐怖は静まってくれだが、震えはまだ続いている。これは酒の力を借りるしかないと、飲んだことのないウォッカを買った。

 急性アルコール中毒とか知るか! どうにでもなれ!

 蓋を外し、ラッパ飲みでウォッカをがぶ飲みした。
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