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第2話 その日の夜+α
しおりを挟む「お兄ちゃん、なんでニヤニヤしてるの?」
妹の可憐と二人で夕食を取っている俺はいつの間にか顔がニヤケていたそうだ。それに気付いた妹が顔を引き攣らせている。
「実は今日、彼女が出来てな」
「えっ! 本当!?」
妹は嬉しそうに目をキラキラと輝かせている。実際嬉しいんだろう。今までさんざん俺に彼女を作れとか幸せは近くに転がってるとか、別に誰でも私は受け入れるとか、お兄ちゃんが童貞とか妹として恥ずかしい、とにかく俺に誰でもいいから彼女を作れと煩かったんだよな。
「それで! 誰にしたの? 大丈夫、私は誰でも受け入れる覚悟は出来てるからねっ!」
まだ、顔も知らない筈なのに既に受け入れる気満々とは、人見知りする妹にしては珍しいな。
「ねぇ! 誰なの?。 早く教えてよ!」
「あぁ、春野さんだ」
「へ?」
妹の目から生気が失われたかのように色が抜ける。一体どうしたんだ?
「おい、大丈夫か?」
「ねぇ、お兄ちゃん。 春野って……誰?」
「いや、誰ってお前知らない相手だし?」
「は?」
妹のドスの効いた声と、殺意の籠った視線を向ける。俺は命の危機を感じ、冷や汗が額から流れる。
やばい本能が逃げろと言っている。
「……灯さんは?」
「え?」
「里香さんは? 萌さんは? 鏡花さんは? 明日香さんは?……どうしたのよ!!!」
「どうしたって、あいつらはただの幼馴染だろ」
俺の言葉を聞いて、妹の顔が更に怒りに染まる。
「この鈍感男が!! 私はそんなどこの馬の骨かわからない女認めないからね!!!」
妹はそう言い残して、自分の部屋に籠ってしまった。誰でも受け入れる覚悟は出来ているんじゃなかったのか?
その日の俺は妹が怒った理由もわからず一晩もやもやした気持ちで眠りについた。
★★★
俺は烏丸 隼人。最近、少し……いや、かなりだな。友人の青葉の鈍感さには驚かされている。あいつは学年アイドル的な立ち位置の5人の幼馴染から異性として恋心を抱かれているにも関わらずそれに気付いていない。自分はモテないと豪語している。俺も始めは照れ臭くて気付いて無いフリしてるだけかと思ってたんだが、青葉の言動を見ていたらマジで言ってる事がわかった。
周りから見れば、一目瞭然なんだけどな。
でも俺が一番驚いたのは青葉が幼馴染5人を避けてるということだ。普通の男子なら泣いて喜ぶような境遇を青葉は自らの意思で抜け出そうとしているんだ。驚くのは無理もないだろう。俺が代わって欲しいくらいだよ。
わざわざ幼馴染避けるために屋上で昼食取るわ、迎えに来てくれる幼馴染から逃げるわで毎日大変な事。こういうのリア充っていうんじゃねーのって思う。
俺はまぁ、あいつの友人な訳だから、愚痴も聞くし、昼休憩のあいつの居場所を聞かれても、そりゃ教えないけどさ少し幼馴染が不憫だとは思う。好きな人間から避けられるって凄く不安でストレスになるよな。
そういえば昨日、女子からラブレター貰ったとかいって騒いでたな。モテ期が来たとか言ってたけど、お前のモテ期はずっと来てるだろ!って突っ込みたくなったわマジで。あの後、青葉が出てこないって愛野瀬と羽生が教室まで様子見に来たんで、ラブレター貰ってたことを伝えたら、鬼のような形相してたな。
場所を聞かれたんだけど、さすがにそれを教えるのは野暮だろ? でも教えちゃったよ。 羽生さんって凄い怪力してるんだね。 片手で教卓持ち上げた時の笑顔、あれより怖いものって中々ないんじゃないか? 俺、いい歳してお漏らしするとこだったわ。
場所教えた後はなんかLIMEで誰かに連絡してたな。口振りから察するに多分他の幼馴染だったんだろうな。 結局あいつなんて返事したんだろうな。さすがに無自覚とはいえあの5人差し置いて他の女子と付き合うのはありえないよな。
だけど、俺はこの日そのありえないと思った報告を青葉から受けた。
★★★
私は如月 灯。バスケ部に所属している。 いつものように部活に精を出していた。私は水分補給の際にふと見たスマホの画面に身体が一瞬硬直した。
グループLIMEには萌ちゃんから、緊急!雄君がクラスメイトにラブレター貰って体育館裏に向かいましたと送信されて来ていた。 私は慌てて部活を抜け出した。
でも、よく考えれば私は体育館で部活している訳だし、皆が来てから抜け出せばよかったと思いながら一人で待つ。
高校に入ってからの雄ちゃんは私達をよく避けるようになった。中学の時までは毎日のように一緒にしていた登下校も高校に入ってからは頻度が激減した。それは他の皆も口には出さないが気にしている筈だ。
雄ちゃんは昔から人前に立ったり、目立つのが嫌いだと言っていた。それが理由なのだろうか。自分で言うのも自意識過剰かも知れないが、他の4人と同様私もよく周囲の視線を集めてしまうから。
私は雄ちゃんにとって邪魔で迷惑な存在なのかも知れない。雄ちゃんは優しいからそんな言い方はしないだろうけど、私はこんな場所で人の告白を覗き見しようとする女だ。すっぱり諦めて離れていく方がいいのかも知れない。
――――――それでも、10年間蓄積された想いは強すぎて、私は彼を諦めることができない。
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