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今思えば唯一平和だった時期(文化祭編)

もうなにもこわくない。

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じめじめとした梅雨時期。
夏服に装いを変えた皆様が惜しげも無く晒す腕の筋に心の中で拝んでいます。ありがとうみんな。
空色の爽やかなワイシャツのおかげで不躾な視線も少し和らいでる気がするよ。気だけな。
ちなみに私はまだ肌寒いのでボレロを取っただけの長袖ワンピースだ。おいこらそこ残念そうな顔するな。女の子はお腹冷やしちゃいけないんだよ!


白雪祭まで残すところひと月とした本日より、部活動は1週間の停止期間に入る。

それもそのはず、前期中間考査が行われるからだ。

月曜は各々の自習時間、火曜から金曜に各教科のテストが詰め込まれている。授業によってテスト日が違うので、組み方次第ではオフができたりする。
ちなみに単位制総合学科だった私の高校時代は、3年次に実技教科ばかり取っていたためテストが一教科のみだった。あの歳は遊んでいた…(そのかわり就活してたんだよ)。
高校と方式が似てるので、その辺戸惑いが少なくて助かったなぁ。



「姫愛っ!勉強教えて!!クラスSになりたいー!!((o(;□;`)o))」


「えっ!?私!?宗くんじゃだめなの!?」


「やだよなんで学年1位差し置いて俺なの」


やべ、すっかり忘れていた。私入試学年1位なんだった…。
学年代表はどう足掻いてもこのままだし、すると諒太郎とも、……遥斗とも接点はあるまま。
いや、南雲兄弟とがないだけマシか。

しかし、勉強は体が勝手にやってる事で、私の脳みそは一切理解していない。
これ、テスト大丈夫なのか?と思うが、時々あった小テストでは完璧だったのでもうなにもこわくない。


「うーん、私教えるのめっちゃ下手だしなぁ…」


「そんなに?」


「うん。教え子に泣かれるレベル」


「どんなんだよ…」


しかし、秀くんもクラスSになるのは個人的に嬉しいな。今まで以上に行動しやすくなるし。
なら、と思い、私(の体)が見事に纏めたノートを差し出す。


「参考になればどうぞ」


「かっ、神よ~!!!!( ´^ω^)人」


「あっ、それ俺も見たい!!」



「てか今からで大丈夫なの?明日から始まるのに」


「「余裕(Θ̋֊Θ̋)」」


「これが国内トップクラスの進学校合格者…」


「自習日なのに勉強しようとしないお前に言われたくない(´ω`╬ )」


「だって授業ちゃんと聞いてればだいたい出来るし…」


「後ろから刺されてしまえ|ू•᷄ὤ•᷅)」














「~♪︎」


誰もいない音楽室。
ヴァイオリンを弾きながらあの世界の歌を歌う。
こういう時じゃないと歌えないもんね。誰かに聞かれて「何の曲?」と言われても答えられないし、かといって自分で作ったなんて言えるわけが無い。


「ん?ちょっと違ったか…えっと…」


「いい曲だな」


「───────っ!?」


急に声を掛けられ顔を上げると、部長がこちらを見ていた。
──────聴かれていた!?!?!?!?


「部活動は停止期間だと話していたはずだが?」


「ごめんなさい、気晴らしに」


「テスト勉強は?」


「え、授業受けてる分だけで充分では?」


そう答えると部長はきょとんとした後ふは、と笑い出した。
え?変なこと言った?宗くんたちにも怒られるくらいだし…私は普通だと思うんだけど…実際私の学生時代もそうだったし。
まぁ今回に関しては勉強する意味がないからなんだけどね!


「学年代表はみんなそんな感じなんだな、はは」


「えぇ…」


という事は悟あたりもそうなのだろうか。さすがだな。
一頻り笑った後、ふっと軽く息を吐いていつもの顔に戻った。あー…。


「練習熱心なのはいいが、ここで練習されると他の部員に示しがつかない」


「えー、じゃあどこでやればいいですか」


「寮の部屋は防音だ。そこ使え」


「ファッ!?」


と思ったが、そういえばピアノあるんだった。よく考えてるなぁ、さすが部長。
なら、と思いヴァイオリンをしまう。寮で出来るなら寮でやるわ。


「何故お前はそんなに練習するんだ?」


「…え?」


「白雪祭でやる曲目が多いとはいえ、お前は既に一通り弾けるだろう。それに相手はあの軽音楽部だ。そんなに練習が必要か?」


そう、今の軽音楽部を知ってる人からの評価はそんなもんだ。
遥斗1人でなんとか成り立ってる、お遊びの音楽。
いや、音楽なんて呼ぶのも躊躇われる。そんなレベルだと。
でも、私は知っている。書いている。彼らが努力をし、これしかないという方法で管弦楽部に勝つのを。


「だって、そう思って何もしないで負けたら腹立つじゃないですか」


「───」


「勝手に景品にされるし、話聞かないし、私は望んで管弦楽部に入ったのにあんな無理矢理。言うこと聞きたくないですよ」


「それは、確かに…」


「でしょう?だから全力で抵抗するんです。そしてあわよくばそのまま傍観主としての生活を確保したい…!」


「傍観主?」


「へ!?いや、なんでもないです!!聞き間違いでは!?」


「……そうか…?」


まぁいい。と言ってくれたのでそっと息を吐く。なに声に出してんだ私は!!!!


「お前がそう願うなら、俺も全力を出そう」


「部長……」


「実際真宮は大事な戦力だ。例え兼部といえど、貴重な時間をアイツらに割く必要は無い」


「そう思うなら景品の件否定してほしかったです」


「すまない、絶対勝つからいいかと思って」


ぽん、とてのひらが頭に置かれる。
わしゃわしゃされてるから撫でられてる、のか…?
温かさと心地良さにされるがままになっていたら、前髪をかきあげられたかと思うと、ふわりと爽やかなせっけんの香りが近付いた。


「お前のことは、俺が守るから」




───────────え?



額に触れた生温かさと、微かなリップ音。





「えっ、えぇ~~~~!?!?!?!?」





で、でこちゅーだとぉ!?!?!?!?

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