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中編
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私の言葉にリリーもまた、ハッとした顔をした。気付かなかったというように驚いた顔をして、手を口元に当てて震えだした。
「恋・・・?ええそうだわ、これは恋だわ。これが恋なのね!お姉様、私とってもドキドキしてるの!これが恋なのね!?」
「そんなの知らないわよ」
貴女の心の内など私が知るわけないじゃない。どうしてそれが恋かどうかなんて私に分かるのよ。
けれどリリーは私のそんな考えなどどうでも良いかのように、ずっとブツブツと呟いている。
「そう、これが恋・・・恋なんだわ」
思えばこれが彼女の初恋なのかもしれない。だからこそ、彼女もそんな自分の心境に戸惑いつつも感動を覚えてるのだろう。
「私、王子様に恋してるの!だからお姉様、婚約者を私にくださいな!」
「リリー!馬鹿を言うんじゃない!」
いつもはリリーを甘やかしてばかりのお父様。彼女の願いごとなら何でも叶えてきたお父様。
リリーが欲しいと言ったもの、即ちそれが私の宝物であろうと何であろうと、彼女に与えてきたお父様。
『サリアはお姉さんだろう?妹を大切にしてあげなさい』
それが父の常套句だった。
姉だから?でも逆の立場だったら、お父様はきっとこう言うのよね。
『サリアは妹だろう?お姉様を大切にしなさい』
姉だから、妹だからではない。リリーだから。可愛い美しいリリーだから。だからみんな贔屓する。可愛がる。そこに私の意思は意味を成さない。
だが今回はさすがにそれは通らなかった。流石のお父様もリリーを怒鳴った。駄目だと怒る。
が、そんなものは無意味だ。
「どうしてえ?だって・・・だって私は・・・リリーは王子様と結婚したいんです・・・どうして駄目なの?どうしてえ?う・・・ひっく・・・ぐす・・・」
涙が出てきた。リリーが涙を流し始めた。もうこれは決定だ。これぞ最終奥義、泣き落とし。これを出して今までリリーが欲しかった物が手に入らなかったことは一度もない。
ズキン!
これは私の胸ではない。が、聞こえた気がしたのだ。リリーの涙を見て胸痛める音が。
案の定、苦し気に胸を抑える男衆が大勢視界に入った。目の前の父親も泣きそうになっている。
「あああ・・・可哀想にリリー。そうだな、恋してるんだものな、結婚したいよな。分かるよ、父様にはその気持ちよく分かるよ。母様の事が大好きで結婚した父様にはよく分かるよ」
ここまでくればもう次が見える。私は近くのテーブルに置かれたシャンパンを手にして、喉を潤した。これ以上この茶番劇を見ていたくない。早く終わってくれと願いながら。
「よし分かった。それじゃあリリーの婚約者は王太子様だ。政略で愛情のないサリアとよりも、愛してくれるリリーとの方が王太子も幸せだろう。うう、可愛いリリーを嫁にやるのは寂しいが・・・まだ結婚までは数年あるからね。それまでは可愛い我が娘だよ」
「ありがとうございますお父様!だーい好き!」
先ほどまでの涙はなんだったのかと思える程に清々しい笑顔で、リリーはバッとお父様に抱きついた。それですっかり気をよくしたお父様。少し不満顔のお母様は、きっとこの後お父様に説得されるんだろうな。結局母もリリーと父に甘いのだもの。
「ごめんなさいねえお姉様。婚約者、もらっちゃいますね」
ごめんなさいと言いながらも全く悪びれる様子のない妹。私はため息をついて、仕方ないなという顔をしてみせた。そして一応苦言を呈しておく。
「リリー、これがどういうことか分かってやってるのよね?言っておくけど私は王妃の仕事の補佐はしないからそのつもりで」
「え・・・」
「このような辱めを受けたのだから、私はもうこの国を出ます。お祖母様の故郷である異国へと行こうと思うの」
さすがにこの提案は予想外だったのだろう。リリーは元より両親も驚いた顔をしている。だが事情が事情なのだ。誰も止めようとはしなかった。
いや、一人止めてきた。
「そんなあ!それじゃあ誰が王妃の仕事やるんです!?」
「王妃の仕事は王妃がするものでしょう」
リリーの言葉に、何を言ってるのか、というように返したら泣きそうな顔をされた。
両親に救いを求めるリリーだが、いくらなんでもこれ以上は私に何かを要求するのは酷だと両親も考えたようで両親はリリーを諫める方を選んだ。
困りながらリリーをなだめる両親を見て、最低限の愛情はあって良かったと情けない事を考えてしまった。
もうこの場には用は無いな・・・と、私はグラスを置いて家族に背を向ける。とっとと屋敷に戻って荷物をまとめましょう。
「ああそうだ」
まだ言う事があったのだと、私は一度振り返って妹を見た。
「グスッ・・・なに?」
「王子様だけど・・・返品不可だからね」
「え?」
何を言ってるのか分からないと言うように、首を傾げる妹。
その時、会場に音楽が響き渡った。
「国王様夫妻と王太子様、ご入場です!」
その瞬間、皆が慌てて居住まいを正す。シンと静まりかえる会場内。
そんな中で、大きな扉が開いた。
「恋・・・?ええそうだわ、これは恋だわ。これが恋なのね!お姉様、私とってもドキドキしてるの!これが恋なのね!?」
「そんなの知らないわよ」
貴女の心の内など私が知るわけないじゃない。どうしてそれが恋かどうかなんて私に分かるのよ。
けれどリリーは私のそんな考えなどどうでも良いかのように、ずっとブツブツと呟いている。
「そう、これが恋・・・恋なんだわ」
思えばこれが彼女の初恋なのかもしれない。だからこそ、彼女もそんな自分の心境に戸惑いつつも感動を覚えてるのだろう。
「私、王子様に恋してるの!だからお姉様、婚約者を私にくださいな!」
「リリー!馬鹿を言うんじゃない!」
いつもはリリーを甘やかしてばかりのお父様。彼女の願いごとなら何でも叶えてきたお父様。
リリーが欲しいと言ったもの、即ちそれが私の宝物であろうと何であろうと、彼女に与えてきたお父様。
『サリアはお姉さんだろう?妹を大切にしてあげなさい』
それが父の常套句だった。
姉だから?でも逆の立場だったら、お父様はきっとこう言うのよね。
『サリアは妹だろう?お姉様を大切にしなさい』
姉だから、妹だからではない。リリーだから。可愛い美しいリリーだから。だからみんな贔屓する。可愛がる。そこに私の意思は意味を成さない。
だが今回はさすがにそれは通らなかった。流石のお父様もリリーを怒鳴った。駄目だと怒る。
が、そんなものは無意味だ。
「どうしてえ?だって・・・だって私は・・・リリーは王子様と結婚したいんです・・・どうして駄目なの?どうしてえ?う・・・ひっく・・・ぐす・・・」
涙が出てきた。リリーが涙を流し始めた。もうこれは決定だ。これぞ最終奥義、泣き落とし。これを出して今までリリーが欲しかった物が手に入らなかったことは一度もない。
ズキン!
これは私の胸ではない。が、聞こえた気がしたのだ。リリーの涙を見て胸痛める音が。
案の定、苦し気に胸を抑える男衆が大勢視界に入った。目の前の父親も泣きそうになっている。
「あああ・・・可哀想にリリー。そうだな、恋してるんだものな、結婚したいよな。分かるよ、父様にはその気持ちよく分かるよ。母様の事が大好きで結婚した父様にはよく分かるよ」
ここまでくればもう次が見える。私は近くのテーブルに置かれたシャンパンを手にして、喉を潤した。これ以上この茶番劇を見ていたくない。早く終わってくれと願いながら。
「よし分かった。それじゃあリリーの婚約者は王太子様だ。政略で愛情のないサリアとよりも、愛してくれるリリーとの方が王太子も幸せだろう。うう、可愛いリリーを嫁にやるのは寂しいが・・・まだ結婚までは数年あるからね。それまでは可愛い我が娘だよ」
「ありがとうございますお父様!だーい好き!」
先ほどまでの涙はなんだったのかと思える程に清々しい笑顔で、リリーはバッとお父様に抱きついた。それですっかり気をよくしたお父様。少し不満顔のお母様は、きっとこの後お父様に説得されるんだろうな。結局母もリリーと父に甘いのだもの。
「ごめんなさいねえお姉様。婚約者、もらっちゃいますね」
ごめんなさいと言いながらも全く悪びれる様子のない妹。私はため息をついて、仕方ないなという顔をしてみせた。そして一応苦言を呈しておく。
「リリー、これがどういうことか分かってやってるのよね?言っておくけど私は王妃の仕事の補佐はしないからそのつもりで」
「え・・・」
「このような辱めを受けたのだから、私はもうこの国を出ます。お祖母様の故郷である異国へと行こうと思うの」
さすがにこの提案は予想外だったのだろう。リリーは元より両親も驚いた顔をしている。だが事情が事情なのだ。誰も止めようとはしなかった。
いや、一人止めてきた。
「そんなあ!それじゃあ誰が王妃の仕事やるんです!?」
「王妃の仕事は王妃がするものでしょう」
リリーの言葉に、何を言ってるのか、というように返したら泣きそうな顔をされた。
両親に救いを求めるリリーだが、いくらなんでもこれ以上は私に何かを要求するのは酷だと両親も考えたようで両親はリリーを諫める方を選んだ。
困りながらリリーをなだめる両親を見て、最低限の愛情はあって良かったと情けない事を考えてしまった。
もうこの場には用は無いな・・・と、私はグラスを置いて家族に背を向ける。とっとと屋敷に戻って荷物をまとめましょう。
「ああそうだ」
まだ言う事があったのだと、私は一度振り返って妹を見た。
「グスッ・・・なに?」
「王子様だけど・・・返品不可だからね」
「え?」
何を言ってるのか分からないと言うように、首を傾げる妹。
その時、会場に音楽が響き渡った。
「国王様夫妻と王太子様、ご入場です!」
その瞬間、皆が慌てて居住まいを正す。シンと静まりかえる会場内。
そんな中で、大きな扉が開いた。
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