女公爵になるはずが、なぜこうなった?

薄荷ニキ

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16. 貴女が私にくれたもの

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 お父様は、母である王妃が国王に毒を盛ったと証言した。正しくは、「お母様が、紅茶のポットにお砂糖か何かを入れているのが見えた」と言っただけだけれど、それで十分だった。

 お祖母様は恐らく、他に疑いを持たれて冤罪にかけられる人が出ることを恐れたのだろう。だから心を病んだ王妃の心中としてカタが付くよう、息子である王子を目撃者に仕立てたのだ。
 当時僅か6歳だった子供に、その役目はあまりに酷だろうと私は思うが、お祖母様の教育の賜物か、お父様は見事にその役をやり切った。

 ーー欲に溺れず、状況を見極められる人間になりなさい。

 亡きお祖母様の言葉を胸に。

 早急な葬儀の後、唯一の嫡男であるお父様を次期国王に推す声もあったが、自分がまだ幼いこと、そして父の時世が国民に無理を強いたことを理由に、お父様は固辞した。さらには父の取り巻きだった派閥に将来利用されては堪らないと、一切の継承権を破棄して、当時改革派の筆頭だったフェルマー侯爵家に臣下として降下した。まだ幼かったお母様の、夫として。

 そうして第二王子であった、亡き国王の異母弟が王位を引き継いだ。王族の血筋はそちらに引き継がれ、今ではお父様の従兄弟、アーノルド様が現国王だ。その息子、レオナルド王太子殿下は私のはとこにあたる。

 フェルマー家に預けられたお父様は、侯爵家の養子にはならず、たった6歳で当時10歳だったお母様と結婚した。
 当時のフェルマー侯爵ーーお祖父様は、当初お父様を養子にして跡取りにするつもりだったが、

「暗君であった父と、賢妃と呼ばれた母が、私の唯一の親です。いまさら貴方を父とは呼べない」

 と、お父様に拒否されてしまったらしい。
 お父様を手元に置くのは、未だ好機を窺う反対勢力への抑止として必須。更には新王家にも恩を売れる。
 幼い二人を政略結婚の犠牲にするのは忍びなかったが、お祖父様も貴族の端くれ、他に選択の余地はなかった。

「ハワードはうちに来た時から、感情の抜け落ちた子供だったわ」

 当時を振り返って、お母様が懐かしそうに笑う。

 まだ10歳だったので、夫というより弟が出来たぐらいの心情で接していたらしいが、なにせ筋金入りの無表情、無感情のお父様のことだ。邪険にされることはなかったが、一緒に駆け回って遊ぶようなこともなかった。
 二人一緒にする事と言ったら、午後のお茶ぐらい。しかも会話もそう弾まなかった。
 だが男気はあったらしく、ある日、庭に迷い込んできた犬に、お父様はお母様を庇って果敢に立ちはだかったそうだ。

「怖くて震えてるくせに、私のことを必死に守ろうとしているその姿が、本当にーー可笑しくって!」

「……」

 お母様、そこはお父様の勇気に感動するところでは?

 本当は人懐っこい犬が、遊んで欲しそうに尻尾をフリフリ構えていただけだったのだが、どうにもお父様には、今にも飛び掛からんとしている猛犬に見えていたらしい。

「その後、犬に押し倒されて、顔中ベロベロ舐められていたわ。あの時、あなた地味に泣いていたわよね?」

「……」

 クスクスと笑って、お母様はお父様の忘れたい過去をばらす。

 政略結婚した2人だったが、両親の仲は悪くない。幼い頃から一緒にいて分かり合えたおかげもあるが、何よりお父様がお母様を大切にしたからだ。
 自分の母を蔑ろにした父の背を見て育ったせいで、反面教師よろしく、お父様は自分の妻をきちんと扱った。もしくは天真爛漫なお母様の性格に、孤独だったお父様の心が救われたからか。

 ラッセル王国の歴史に、第二王子の謀反という汚点を残さない為、国王暗殺の罪は全て亡き王妃に課せられた。国王殺しの犯人として正式に祀ることも出来ず、もちろん王室の墓に入ることなど許されない。
 未だ燻る反対派に大義名分を与えないよう、新国王及び新政権は、先の不幸には無関係。救国の王妃だったにも拘らず、彼女は稀代の悪女として名を残すことになった。

 それが彼女の願いだったとはいえ、やるせ無かったのは先代様だ。全ての責を、亡くなった後も王妃にだけ押し付けることになってしまった。
 せめて残された子には不自由のないように。先代様はお父様を事あるごとに気にかけ、実の息子のように扱った。
 お父様がフェルマーの家を正式に継ぐ時、侯爵から公爵へと陞爵させたのも先代様だ。

 私達家族はいつも先代様の温かいお心に見守られ、そして、お祖母様の守った平和なこの国で今日も幸せに生きている。
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