女公爵になるはずが、なぜこうなった?

薄荷ニキ

文字の大きさ
17 / 38

17. 天使のキッス

しおりを挟む
「やあ、アメリア。お邪魔しているよ」

「……ご機嫌麗しゅう、レオナルド殿下……?」

 ある日、お父様の代わりに向かった領地視察から3日振りに王都の公爵邸に帰宅すると、見目麗しい美丈夫と、そのお友達が自宅の応接間で寛いでいた。
 お父様は王宮に出向いていて留守らしい。お母様とカトレアが、ソファで向かい合ってお客様の相手をしていた。

「お帰りなさい、アメリア。ご苦労様。この度の視察はどうでした?」

「……ただ今戻りました。全て、つつがなく」

「そう、それは良かったわ」

「はい、あの……」

 お母様に視線だけでこの状況の説明を求めるが、もちろん本人達を前にして答えが返ってくるわけがない。

「あの、旅後で少し埃を被っておりますので、着替えてまいります」

 一礼して御前を失礼し、丁寧にドアを閉める。そっとその場から離れること数歩、おもむろに振り向き様、私は側に控えていた執事の胸ぐらを掴む勢いで彼に詰め寄った。

「どどど、どういうこと?」

「お、落ち着いて下さいませ、お嬢様」

 執事のスチュワートが引き気味に答える。
 だがこれが落ち着いていられるか。こんなイベントはゲームの中でなかったはずだ。何もかもすっ飛ばして、早々にカトレアに求婚に来たのかと疑ってしまう。

「いつものアレですよ」

「……アレ?」

「はい、お嬢様考案の、『まよねーず』をお召し上がりに」

「……」

 そうだったわね。あの天使様の味を、レオナルド殿下は大そうお気に召していたわね。

 異世界の食べ物は、その全てが私にとって斬新なものだった。加奈子の家の食卓に出てきたものも充分珍しかったが、『てれび』に映る見知らぬ食材に、初めて知る調理法。そのどれもが私には魅力的だった。残念なことに私が実際に体験できたのは、加奈子が口にしたものだけ。彼女を通してそれとなく感じられるだけだから、私に選択の余地はなかったのだけれど。

 中でも加奈子が『たこ焼き』を食べた時には、そのあまりの美味しさに、パンパカパーンと頭の中でラッパの音が鳴り響く程の衝撃を受けた。

 あれは本当に、天使様が作り出した至上の食べ物だったわ……

 艶やかなカラメルカラーと、淡いオフホワイトの絶妙なハーモニー……
 どうしてもあのソースとマヨネーズが複雑に絡み合った、至高の味が忘れられなくて、こちらの世界でも食べたいと切に願った。
 加奈子の体を乗っ取る勢いで何日も思念を送り、その作り方をググらせる。
 ソースの作り方は複雑すぎて諦めたけれど、『まよねーず』だけは意地でもシェフ長と協力して再現した。赤いキャップの天使様の味には遠く及ばないけれど、基本の材料、卵と油、塩と酢だけでもそれらしいものが作れた時には、飛び上がるほど歓喜したものだ。

 いきなり公爵邸の厨房に篭った娘を訝しんだ両親に、「異国の本に珍しい料理の作り方が載っていて、どうしても試してみたいのです」と苦しい言い訳をして。そうして出来た『まよねーず』を初めて家族に披露した時、皆がその美味しさに夢中になった。
 それはレオナルド殿下も例外なく、何かの折に初めて我が家でその味を召し上がってから、時々こうしてお忍びで来られるようになった。

 まあこれを機に、カトレアとの仲が進展するかもしれないし?
 もしかしたらこれも、私が覚えていないだけでカトレアルートに進むイベントの一つかもしれないと思い直す。

「そう、じゃあ今日のディナーは『ぽてとさらだ』ね」

「はい、厨房にもそのように指示しております。あとは車海老の『まよ焼き』など殿下のお好きなものと、シェフ長のお勧めのものを幾つか。ただ足りない食材を急遽買い出しに出ていますので、もう少しご用意にお時間がかかるかと思いますが。あと、全体に味がしつこくなりますので、お口直しにはさっぱり目のものをご用意致しました」

「ふっ、それは楽しみね。流石スチュワートだわ。全て抜かりがないわね。いつもありがとう」

「お褒めに預かり、光栄でございます」

 我が家に長く仕えるやり手の執事と、私はニヤリと笑い合った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

売られた先は潔癖侯爵とその弟でした

しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ルビーナの元に縁談が来た。 潔癖で有名な25歳の侯爵である。 多額の援助と引き換えに嫁ぐことになった。 お飾りの嫁になる覚悟のもと、嫁いだ先でのありえない生活に流されて順応するお話です。

【完結】お父様(悪人顔・強面)似のウブな辺境伯令嬢は白い?結婚を望みます。

カヨワイさつき
恋愛
魔物討伐で功績を上げた男勝りの辺境伯の5女は、"子だねがない"とウワサがある王子と政略結婚結婚する事になってしまった。"3年間子ども出来なければ離縁出来る・白い結婚・夜の夫婦生活はダメ"と悪人顔で強面の父(愛妻家で子煩悩)と約束した。だが婚姻後、初夜で……。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。

能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る

基本二度寝
恋愛
「婚姻は王命だ。私に愛されようなんて思うな」 若き宰相次官のボルスターは、薄い夜着を纏って寝台に腰掛けている今日妻になったばかりのクエッカに向かって言い放った。 実力でその立場までのし上がったボルスターには敵が多かった。 一目惚れをしたクエッカに想いを伝えたかったが、政敵から彼女がボルスターの弱点になる事を悟られるわけには行かない。 巻き込みたくない気持ちとそれでも一緒にいたいという欲望が鬩ぎ合っていた。 ボルスターは国王陛下に願い、その令嬢との婚姻を王命という形にしてもらうことで、彼女との婚姻はあくまで命令で、本意ではないという態度を取ることで、ボルスターはめでたく彼女を手中に収めた。 けれど。 「旦那様。お久しぶりです。離縁してください」 結婚から半年後に、ボルスターは離縁を突きつけられたのだった。 ※復縁、元サヤ無しです。 ※時系列と視点がコロコロゴロゴロ変わるのでタイトル入れました ※えろありです ※ボルスター主人公のつもりが、端役になってます(どうしてだ) ※タイトル変更→旧題:黒い結婚

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

処理中です...