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17. 天使のキッス
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「やあ、アメリア。お邪魔しているよ」
「……ご機嫌麗しゅう、レオナルド殿下……?」
ある日、お父様の代わりに向かった領地視察から3日振りに王都の公爵邸に帰宅すると、見目麗しい美丈夫と、そのお友達が自宅の応接間で寛いでいた。
お父様は王宮に出向いていて留守らしい。お母様とカトレアが、ソファで向かい合ってお客様の相手をしていた。
「お帰りなさい、アメリア。ご苦労様。この度の視察はどうでした?」
「……ただ今戻りました。全て、恙なく」
「そう、それは良かったわ」
「はい、あの……」
お母様に視線だけでこの状況の説明を求めるが、もちろん本人達を前にして答えが返ってくるわけがない。
「あの、旅後で少し埃を被っておりますので、着替えてまいります」
一礼して御前を失礼し、丁寧にドアを閉める。そっとその場から離れること数歩、おもむろに振り向き様、私は側に控えていた執事の胸ぐらを掴む勢いで彼に詰め寄った。
「どどど、どういうこと?」
「お、落ち着いて下さいませ、お嬢様」
執事のスチュワートが引き気味に答える。
だがこれが落ち着いていられるか。こんなイベントはゲームの中でなかったはずだ。何もかもすっ飛ばして、早々にカトレアに求婚に来たのかと疑ってしまう。
「いつものアレですよ」
「……アレ?」
「はい、お嬢様考案の、『まよねーず』をお召し上がりに」
「……」
そうだったわね。あの天使様の味を、レオナルド殿下は大そうお気に召していたわね。
異世界の食べ物は、その全てが私にとって斬新なものだった。加奈子の家の食卓に出てきたものも充分珍しかったが、『てれび』に映る見知らぬ食材に、初めて知る調理法。そのどれもが私には魅力的だった。残念なことに私が実際に体験できたのは、加奈子が口にしたものだけ。彼女を通してそれとなく感じられるだけだから、私に選択の余地はなかったのだけれど。
中でも加奈子が『たこ焼き』を食べた時には、そのあまりの美味しさに、パンパカパーンと頭の中でラッパの音が鳴り響く程の衝撃を受けた。
あれは本当に、天使様が作り出した至上の食べ物だったわ……
艶やかなカラメルカラーと、淡いオフホワイトの絶妙なハーモニー……
どうしてもあのソースとマヨネーズが複雑に絡み合った、至高の味が忘れられなくて、こちらの世界でも食べたいと切に願った。
加奈子の体を乗っ取る勢いで何日も思念を送り、その作り方をググらせる。
ソースの作り方は複雑すぎて諦めたけれど、『まよねーず』だけは意地でもシェフ長と協力して再現した。赤いキャップの天使様の味には遠く及ばないけれど、基本の材料、卵と油、塩と酢だけでもそれらしいものが作れた時には、飛び上がるほど歓喜したものだ。
いきなり公爵邸の厨房に篭った娘を訝しんだ両親に、「異国の本に珍しい料理の作り方が載っていて、どうしても試してみたいのです」と苦しい言い訳をして。そうして出来た『まよねーず』を初めて家族に披露した時、皆がその美味しさに夢中になった。
それはレオナルド殿下も例外なく、何かの折に初めて我が家でその味を召し上がってから、時々こうしてお忍びで来られるようになった。
まあこれを機に、カトレアとの仲が進展するかもしれないし?
もしかしたらこれも、私が覚えていないだけでカトレアルートに進むイベントの一つかもしれないと思い直す。
「そう、じゃあ今日のディナーは『ぽてとさらだ』ね」
「はい、厨房にもそのように指示しております。あとは車海老の『まよ焼き』など殿下のお好きなものと、シェフ長のお勧めのものを幾つか。ただ足りない食材を急遽買い出しに出ていますので、もう少しご用意にお時間がかかるかと思いますが。あと、全体に味がしつこくなりますので、お口直しにはさっぱり目のものをご用意致しました」
「ふっ、それは楽しみね。流石スチュワートだわ。全て抜かりがないわね。いつもありがとう」
「お褒めに預かり、光栄でございます」
我が家に長く仕えるやり手の執事と、私はニヤリと笑い合った。
「……ご機嫌麗しゅう、レオナルド殿下……?」
ある日、お父様の代わりに向かった領地視察から3日振りに王都の公爵邸に帰宅すると、見目麗しい美丈夫と、そのお友達が自宅の応接間で寛いでいた。
お父様は王宮に出向いていて留守らしい。お母様とカトレアが、ソファで向かい合ってお客様の相手をしていた。
「お帰りなさい、アメリア。ご苦労様。この度の視察はどうでした?」
「……ただ今戻りました。全て、恙なく」
「そう、それは良かったわ」
「はい、あの……」
お母様に視線だけでこの状況の説明を求めるが、もちろん本人達を前にして答えが返ってくるわけがない。
「あの、旅後で少し埃を被っておりますので、着替えてまいります」
一礼して御前を失礼し、丁寧にドアを閉める。そっとその場から離れること数歩、おもむろに振り向き様、私は側に控えていた執事の胸ぐらを掴む勢いで彼に詰め寄った。
「どどど、どういうこと?」
「お、落ち着いて下さいませ、お嬢様」
執事のスチュワートが引き気味に答える。
だがこれが落ち着いていられるか。こんなイベントはゲームの中でなかったはずだ。何もかもすっ飛ばして、早々にカトレアに求婚に来たのかと疑ってしまう。
「いつものアレですよ」
「……アレ?」
「はい、お嬢様考案の、『まよねーず』をお召し上がりに」
「……」
そうだったわね。あの天使様の味を、レオナルド殿下は大そうお気に召していたわね。
異世界の食べ物は、その全てが私にとって斬新なものだった。加奈子の家の食卓に出てきたものも充分珍しかったが、『てれび』に映る見知らぬ食材に、初めて知る調理法。そのどれもが私には魅力的だった。残念なことに私が実際に体験できたのは、加奈子が口にしたものだけ。彼女を通してそれとなく感じられるだけだから、私に選択の余地はなかったのだけれど。
中でも加奈子が『たこ焼き』を食べた時には、そのあまりの美味しさに、パンパカパーンと頭の中でラッパの音が鳴り響く程の衝撃を受けた。
あれは本当に、天使様が作り出した至上の食べ物だったわ……
艶やかなカラメルカラーと、淡いオフホワイトの絶妙なハーモニー……
どうしてもあのソースとマヨネーズが複雑に絡み合った、至高の味が忘れられなくて、こちらの世界でも食べたいと切に願った。
加奈子の体を乗っ取る勢いで何日も思念を送り、その作り方をググらせる。
ソースの作り方は複雑すぎて諦めたけれど、『まよねーず』だけは意地でもシェフ長と協力して再現した。赤いキャップの天使様の味には遠く及ばないけれど、基本の材料、卵と油、塩と酢だけでもそれらしいものが作れた時には、飛び上がるほど歓喜したものだ。
いきなり公爵邸の厨房に篭った娘を訝しんだ両親に、「異国の本に珍しい料理の作り方が載っていて、どうしても試してみたいのです」と苦しい言い訳をして。そうして出来た『まよねーず』を初めて家族に披露した時、皆がその美味しさに夢中になった。
それはレオナルド殿下も例外なく、何かの折に初めて我が家でその味を召し上がってから、時々こうしてお忍びで来られるようになった。
まあこれを機に、カトレアとの仲が進展するかもしれないし?
もしかしたらこれも、私が覚えていないだけでカトレアルートに進むイベントの一つかもしれないと思い直す。
「そう、じゃあ今日のディナーは『ぽてとさらだ』ね」
「はい、厨房にもそのように指示しております。あとは車海老の『まよ焼き』など殿下のお好きなものと、シェフ長のお勧めのものを幾つか。ただ足りない食材を急遽買い出しに出ていますので、もう少しご用意にお時間がかかるかと思いますが。あと、全体に味がしつこくなりますので、お口直しにはさっぱり目のものをご用意致しました」
「ふっ、それは楽しみね。流石スチュワートだわ。全て抜かりがないわね。いつもありがとう」
「お褒めに預かり、光栄でございます」
我が家に長く仕えるやり手の執事と、私はニヤリと笑い合った。
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