とある少年の奮闘記

シンさん

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役立たずな俺

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「コタロー、変な名前…」
「そう言うお前の名前はさぞ格好いいんだろうな。」
「俺は普通…」
「普通って?」

俺にはその普通が解らない。日本人とは感覚が違うし。

「名前言わないなら俺がつけるぞ。よし、お前はゴエモンだ。」
「はっ!?そんなダサい名前絶対にムリ!」
「何だと!?全然ダサくねぇし!」
「センス無さすぎだろ!」
「じゃあ名前言えよ!」
「……セバスティアン…」

なんか、めっちゃ格好いいし…。
でも、ちょっと長いし呼びづらい。

「あだ名とかないの?」
「バスティ」

あだ名まで格好いい…。

「よし、じゃあバスティな。俺の横に座ってる、この茶髪イケメンはレイモンドで、馬車の運転手は、トマスだ。」
「ふーん…」

あんまり興味なさそうだな。まぁ、あるわけないか。俺達はバスティからすれば、親の敵なんだし。

「コタロー、彼は何と言ってますか?」
「名前はセバスティアンで、あだ名はバスティだって。畑仕事を手伝って貰う事にしたから、よろしく。」
「よろしくって、私とトマスは彼の言葉が解りませんから、暫くはコタローが通訳してくださいね。」
「通訳が必要とは、レイモンドもまだまだだな。」

調子に乗ったのが悪かった。

「邸に帰ったら、何故私が知らない言語をコタローが知っているのか、その理由を聞くまで食事抜きです。」

俺は一応王子様なのに、扱いが雑すぎる気がするぞ!!


邸に着いてすぐ、トマスがバスティを風呂へ連れて行った。そして俺は、レイモンドの部屋へ連行された。

「馬車でも同じ質問をしましたが、何故彼の言葉が解るのですか?」
「勉強したんだ。レイモンドが勉強不足なだけで、俺は何も悪くないぞ。」

断固悪くないっ!

「まぁ、それは認めましょう。ただ、納得出来ないんです。この島の言葉は、部族によって違います。私はこの島に来る一年前から全てを学んでいましたが、それでも彼の言葉は聞いた事がありません。」

日本語でいう方言みたいなもん?
それとも、全く違う言葉なのか?
どっちにしても、俺には違いが解らない!

「俺の部屋に、バスティが喋ってる言葉の本があるから、レイモンドも読めば良いだろ。俺は着替えてくる!」

逃げるが勝ち!


その日の夕食の前に、俺はトマスとレイモンドとバスティを集めた。

「今から重大発表!!」

トマスとレイモンドからは、『また何か面倒な事を言い出すんだろう』って、凄い嫌そうな雰囲気が伝わってくる。
ちょっとは隠そうとしろよ。
バスティは言葉が通じてないからキョトンとしてるけど。

「コホン。えーと、今日から4人で一緒にご飯を食べる事にする。」
「……」
「……」
「?」

何か言ってくれよ。
嫌われてる相手に『毎日一緒にご飯食べよう』って言うの、どんだけ勇気いると思ってんだよ。

「それは、同じテーブルで…一緒にという事ですか?」

トマスの顔が青い。そんなに嫌なのか!?

「一緒に食べるんだから、同じテーブルで同じもんを食べるに決まってるだろ。」
「嫌ではないのですか?」
「嫌だったら誘わない。それに、バスティと喋れるのが俺だけなのは困る。言葉を覚えるなら喋るのが一番早い。」

俺は、予め用意しておいた取説を、鞄から取り出した。

「はい、これがバスティの喋ってる言葉について書いてある本。」

トマスとレイモンドにそれを渡した。

「バスティにはこれ。」
「……」
「覚えんの面倒だと思うけど、一緒に働くなら意志疎通が必要だからな。」
「俺、字…読めない……」
「そうなの?」
「うん…」

まぁ、別に珍しい事でもないのか。日本は義務教育があるから、基礎的な読み書き計算が出来るってだけだし。

「とりあえず、会話が出来ればいい。」

バスティがコクンと頷いた。

「コタロー、今日から1週間、私に言葉を教えてくれますか?」
「俺がレイモンドに?」
「はい。発音だけで構いませんので。」
「いいけど…」

いや、全然良くないぞ。
レイモンドとバスティ、俺にはどちらの言葉も日本語に聞こえてるんだから。そして、俺が喋ってるのも日本語だ。発音なんて、全くわからん。
だけど、勉強してきたって言い切った手前、断れるわけないのである…。

「じゃ、皆でご飯にしましょうか。」

レイモンドが取説をペラペラとめくりながら言った。

「俺も一緒に?」
「そうです。」

レイモンド、もうバスティと会話してやがる…。俺が教える必要ない気がする。

「トマス、レイモンドは何でもう喋れるんだ?」
「あの男は、1度目を通した文章は全て覚えますから。いわゆる、変人です。」
「いや、天才だろ…」

どうせ体をくれるなら、レイモンドみたいなハイスペックなのにしてくれればいいのに。ジークははっきり言って、ハズレだ。


「レイモンド、今日の夕飯は何だ?」
「トマトのリゾットです。」
「リゾット!って事は、米!?米なのか!?」
「はい。この地域では米と芋が主食のようなので。」
「やったー!」

米と芋は万能だ。どうやって食べても美味しい。無敵だ。

川や海で魚をとって食べてるみたいだし、この国の食料は俺の口には合うかもしれない。

「ご機嫌ですね…」

トマスが少し引いているが、今の俺はご飯が楽しみでそれどころではない!

「バスティ、ここら辺で皆がよく食べてる料理とかある?」
「あるけど…」
「よし、明日はそれにしよう。って事で、料理が運ばれてくるまで自由時間だ。」
「俺は手伝わなくていいのか?」
「今日は疲れてるだろうし、気にするな。」

バスティ、何て良い奴なんだ。俺なんてジークになってからというもの、1度もご飯を作るのも運ぶのも手伝った事がないぞ。
ジークは嫌な奴だから、俺もそれでいいと思ってたけど、それじゃいつまでたっても成長しないな。

夕食中、レイモンドは取説片手にバスティと喋っている。
俺、マジでいらなくね?

「うおっ!?」

目の前に巨大な蛾が飛んできて、俺は椅子から転がり落ちた。

「いててて…」
「大丈夫か?」

隣に座るバスティが、手を引っ張って起こしてくれた。

「俺、虫嫌いなんだよな。」

しかも、いちいちデカイんだよ…。
巨大なのとかホントむり。

蛾は暫く飛び回って、最終的に蝋燭の火に突っ込んでいった。明るい場所に向かって飛ぶんだし、そういう事もあるんだろうけど焦げた臭いが何ともいえない。

「そうだ!蚊帳を作ろう!」
「蚊帳?」
「そう!虫が入って来ないように、網戸の網の部分を使って」
「網戸?」
「……」

網戸なんてないのか。

「あの、漁業の網あるだろ?あれの目の細かいやつで…」
「そんなのないけど」

日本って、蚊帳はいつの時代から存在したんだろう…。
いい事を思い付いたと思ったのに、結局何の役にも立たない!
現代っ子の俺、何一つ自分で作れない!
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