とある少年の奮闘記

シンさん

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大乱闘2

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「助けてー!!」

スーツを着たオッサンを刺そうとする男に、トマスが鞘にしまったままの剣を振り下ろした。

ゴンッ
ってめっちゃデカい音がしたけど、頭蓋骨砕けてたらどうするんだ!

痛みに悶えてる仲間を見て、他が一斉にトマスに襲いかかった。
トマスはそれを簡単にいなして、隙が出来た所を剣で突いたり殴ったりしていたから死人は出てないみたいだ。
あっという間に、店にいた悪党とやっつけて、トマスは俺の側に戻ってきた。

「店を出ましょう。」
「うん」

トマスにやられて転がってるヤツらに、さっきまで逃げ回ってたヤツらが食べ物や皿を投げつけ始めた。

「調子にのりやがってっ!!」
「死ねっ!!」
「臭いんだよ!!」

さっきまでギャーギャー叫んで逃げてたくせに、何だコイツら…

「……コタロー、ここで待機してください。」

席を立とうとする俺の頭を、トマスが押さえて座らせた。

「うん…」

俺が返事をした時、トマスと同じくらいゴツい男が店に入ってきた。
喧嘩なんてした事ない、弱い俺でもわかる。今までトマスが戦ってたヤツらと違うって。見ただけで鳥肌が立った。

トマスが鞘から剣を抜いた。こいつはやっぱり強いんだ。
……怖くて動けない俺。トマスが負けたら死亡確定。

その辺で転がってたヤツらも起き上がってきて、また店内は大騒ぎになってきた。裏口も塞がれて、逃げられずに店内に戻ってくる客もいる。

トマス達が睨みあってる間に、まわりが既に大乱闘に…

ガチャーン ガタン バタバタ
「キャー!」
「ヒィィィ」

どうしたらいいのか解らず、1人椅子に座ったままの俺の視界に、女の人が切られそうになっている姿がチラッとうつった。

剣を持ってるヤツに飛びかかっていく勇気なんて俺にはない!
とりあえず、目の前にある皿をフリスビーみたいにして投げた。

こんだけゴチャゴチャ乱闘になってるから当たらないと思ったのに、まさかのクリーンヒット!!

「やべ……」

この騒ぎの中、今まで空気のようにスルーされていたのに、わざわざ注目されるような事をしてしまった。

気付いたトマスが俺の元へ戻ろうとしたけど、それをきっかけにゴツい男との戦いが始まってしまった。


「何しやがる、テメー!」
「…すみません」

謝ったくらいで許されるはずもない!
皿をぶつけられた男が、側にいる人を俺に向けて投げつけてきた。

「うわっ!?」

ガシャーンっ

この状況にビビってる俺は逃げられもせず、飛んできた人にぶつかって後ろへ倒れた。

トマスは強い男と戦ってるし、俺を助けにこれない。自分で何とかしなきゃ死ぬ!
倒れたテーブルの影に隠れて、俺はヘッポコ魔法を使った。『あの部族の取説』出てこい!

ドサっ
「へ…?」
こんな時に限って、分厚いの出てきたー!!
いつもペラッペラのくせに、熊人間の時なんてポケットサイズだったくせに、マジで役に立たねぇ!!

とりあえず、何か弱点はないのか。

【ワルザス族】
トング山に住む狩猟民族
一族は108人
気性が荒く、攻撃的、
平均して高い運動能力をもつ

駄目だ、こんなの最初から読んでられない!索引だ!!

「喧嘩…喧嘩……対処法、あった69ページ」

取説をめくっていると、俺が隠れていたテーブルがポイっとどこかに放り投げられ、目の前に男がいた。

「グハッ!!」

避ける間もなく、俺は殴られた。

「うぅ……」

顔が痛い…、ジンジンする……熱い…
血の味がする…

「…っ!?」

今度は蹴られそうになって、俺はなんとか避けた。あの勢いで腹なんて蹴られたら死ぬ!!

距離をとって、何とか取説の69ページを開いてた。

【喧嘩の対処法】

・『ジャリムファール』と叫ぶと一時休戦になります。

これだ!!

「ジャリムファールっ!!」

そう叫ぶと、俺に剣を振り下ろそうとしていた男が動きを止めた。回りを見てみると、他の覆面達も攻撃を止めている。

「…小僧、再戦の日を決めろ。」

トマスと戦っていた男が俺に聞いてきた。

「再…戦…?」
「族長の名を呼んだ時は、仕切り直しが掟。それに従う。」

『一時休戦』って取説には書いてあったのに『仕切り直し』って何だよ!

「話し合いで…済ませたい…」
「駄目だ。」
「何でだよ。理由も解らず戦ったって解決しないだろ。」

よく見たら、こいつの来てる服は熊人間の毛に似てる。……もしそうなら、トマスでも負ける可能性がある!チームコタロー負け決定。
絶対に話し合いにしないと。
一度刺殺された経験をもつ男、田中小太郎をなめるなよ!

「話し合いだっ!!」
「……小僧、何故お前は俺達と喋れる?」
「へ?」

何その質問。まさかこいつらも、皆が知らない言葉を喋ってるのか?
じゃあ、俺達の会話はトマスにも解ってない…。
これは更にヤバい!!
再戦する事になったら、日付は決めてもらおうと思ったのに。

「コタロー!!」

何て答えようか悩んでいた俺のもとに、バスティが勢いよく走ってきた。

トマスと戦っていた男は、覆面達に店から出る命令をしている。このまま帰ってくれれば、再戦は無しの方向に進むかも。

「小僧、1ヶ月後にここへ1人で来い。話し合いで済ませてやる。」
「えっ!?ちょっと待てっ」

俺の制止などあっさり無視して、覆面男は帰ってしまった。
1人とか…酷すぎる。

「コタロー、ワルザス族に何て言われたんだ?」
「バスティもあいつらの言葉は解らないのか?」
「うん、あいつらは閉鎖的だから、多分この島の誰もわからないと思う。」

それを解ってしまった俺…。レイモンドに絶対に詰められる!


「申し訳ござ」

トマスが膝をついて謝まろうとするのを、俺は遮った。

「っ大丈夫です、トマス様!!大したことないので!!」

今は喧嘩を止めた俺に、皆が注目してる。
こんな状況で、トマスがレイモンドの弟子の俺に頭を下げたらダメだ。俺がトマスより身分が高い人間だってバレるし、バスティにも変に思われる!!

「…怪我は大丈夫か?コタロー」
「大丈夫です。」

トマスに俺の言いたい事が通じたみたいで良かった。

「これは一体…」

レイモンドが顔や手に包帯を巻いたセフィルと一緒に、手を繋いで店に入ってきた。

「トマス、何があった?」
「覆面の部族が店に乗り込んできて、乱闘になった。方法は解らんが、コタローの一声で帰っていった。」
「コタローの?」

レイモンドの視線が怖い…

「とりあえず、手当てをしてすぐにここを出ましょう。」

まわりに倒れてる人がいっぱいいるのに、全然気にしないレイモンドが1番怖い気がする。

手当てと言っても、消毒薬を塗られて治療は終わり。
医者も本土の人間っぽいな。俺の顔見て、ジークってバレたりして。

「後は冷やしときゃ治る。」

この雑な扱い…。全くバレてないな…。


馬車に乗ると、レイモンドからの質問が矢のようにとんできた。

「どうやって乱闘を止めたんですか?」

族長の名前を言った…なんて言えない。
その族長の名前をどうやって知ったかって質問されたら、答えようがないんだから。

「『話し合いをしよう』って…」
「それを、聞き入れたんですか?覆面達が。」
「うん……」


話し合いで済ませてくれるって言ったし、嘘はついてないぞ。
もしかしたら罠かもしれないけど、あの場面で掟を守る男が嘘をつくとも思えない。

下手に話したら色々追求されるし、身動きがとれない。

どうする俺!!

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