とある少年の奮闘記

シンさん

文字の大きさ
30 / 36

蚊取り線香

しおりを挟む
この1週間、毎日泥団子を投げ付けられて、青い痣が沢山出来ている。あちこち痛い。ベッドに寝るのも痛い。
あまりにも俺の扱いが酷い…。

水を浴びで泥を流してから、夕飯を食べにダイニングに行くと、今日はバスティとセフィルがいた。

「バスティ、久々だな。セフィルは元気になったのか?」
「うん、今日から皆でご飯を食べるって。」
「そか。」

セフィルが元気になればバスティも安心だろうし、良い事だな。

パチン
「蚊が多くね?」
「うん。今からもっと増える。」
「今より…」
「うん」

やっぱ、蚊帳がいる。けど、何で作られてるのか解らない。
蚊取り線香…、取説に原材料とか載ってたりしないかな。

「なぁ、バスティ、セフィル。いつも蚊が出てきたらどうするんだ?」
「煙で寄せ付けないようにしたり、長袖を着たりかな…。」

このジメジメ暑い時に、長袖は嫌だ。

「煙って蚊取り線香みたいなのがあるのか?」
「かとりせんこう?俺達が住んでた村では蝋燭やランプはなかったから火を起こしてたし、それで少しは煙が出てた。けど、量も多くないから、殆んど意味がなかった。」

くそ…
『たかが蚊』だと思ってたけど、めちゃくちゃ厄介じゃね?このままじゃ、夜も眠れないぞ。

「レイモンド、何か良い方法ないのか?」
「1番いいのは、蚊が卵をうみやすい環境を作らない事ですね。」
「どんな?」
「使わないバケツに水を入れたままにしたり、水溜まりを放置していると、ボウフラが大量にわきます。あと、雑草は抜いた方がいいですね。蚊の住みかになりますから。」

なかなか面倒だな。

「明日から『家の回りの草、全部抜く大作戦』開始だ!」
「勝手に開始するな。明日も特訓だ。」
「トマスはセフィルが沢山蚊に刺されてもいいのか?」
「それは……」

トマスとレイモンドは俺以外には甘い。俺が『蚊に刺されるのは嫌だ』と言っても聞き入れてくれないけど、セフィルの事は絶対に心配する!!

「解った」

思った通りだ。
作戦としては上手くいったけど、なんか切ない…。

明日は草刈りをして、明後日は蚊が嫌いそうな物を探しにいこう。


寝る前に、俺は蚊取り線香について調べる事にした。

「蚊取り線香の取説」

……何も出てこない。マジで役に立たない。そもそも、欲望の神からの謝罪とギフトが、俺の欲望を満たさないなんて詐欺だろ。

蚊取り線香って何で作ってるんだろ…。
別に同じものを作らなくても、ここにある植物とかで同じ効能があるものを見付ければいいんだよな。

ここは地球じゃないんだから、見た事のない植物だって動物だって沢山いてもおかしくない。

密林に入って片っ端から取説で調べていけば、俺は植物博士になれるかもしれない。別になりたくないけど。

とりあえず、明日は庭の草抜きだな。正面はいいけど、家の裏側は草ぼうぼうだし。
蚊帳も同時進行で調べよう。ランプに蛾とカナブンみたいなのがめっちゃついててキモすぎる。


次の日
トマスと2人で寂しく草刈りかと思ったら、バスティとセフィルも一緒だった。

「勉強はいいのか?」
「うん、今日から1週間は勉強じゃなく蚊の対策をしろって、レイモンドが。」
「そっか。」

やっぱり、皆も蚊は気になってたんだな。

「セフィル」
「なに?」
「セフィルは子供だから、スコップ進呈。あとこれやるよ。」

俺は麦わら帽子をセフィルに被せた。

「そのうちレイモンドが新しいの買ってくれると思うけど、今はこれしかないから。」
「ありがとう…」

あまりにも日焼けに弱いから、俺だけ麦わら帽子を愛用している。
けど、これから人を雇うなら、皆の分の帽子も用意しておいた方がいい気がする。この島は暑くて湿気が多いし、熱中症対策も必要だな!

考えながら、ブチブチと草を抜いてると、バスティが何故か小さな声で話しかけてきた。


「明日、レイモンドと俺だけ出かけるんだ。人を雇う為に……」

人を雇う……奴隷市に行くのか。

「セフィルは?」
「コタローに見ててほしい。」
「俺はいいけど、セフィルはバスティがいなくても平気なのか?」
「納得はしてくれた。」

奴隷市なんてトラウマだろうし、セフィルを連れていきたくないよな。

「なぁ、セフィル。明日は俺とトマスと3人だけど、何かやりたい事ある?」
「…お菓子作りたい」

おかし?
レイモンドなら作れるだろうけど、トマスも作れんのかな?肉焼いてる所しか見た事ねぇけど。まぁ、何か作れるだろう。

「解った。明日はお菓子作りだな。」
「うん!」
「セフィルはお菓子は何が好きなんだ?」
「マーマレードジャム」

ジャムってお菓子なのか?よくわからんけど、セフィルが作りたいならそれにしよう。
この辺って、オレンジとかあるのかな。たしか、柑橘系の果物が原料だったはず…。ジャムの瓶にオレンジの絵が描いてあったし。

「家に材料があるかどうかレイモンドに聞いとくから、とりあえず草むしりするぞ。」
「うん」


午前中の草むしりを終えて昼飯…って時に、なぜか家の前に人が集まってきた。
家と庭を囲う柵があるから、正確には外にある門の前だけど。

「なんだ、あの集団。トマスかレイモンドの知り合い?」

この島にジークの知り合いはいないし、どっちかの知り合いだよな。

「トマス…子供達と奥の部屋にいてください。私が対応します。」
「解った。ほら、行くぞ、3人とも。」
「え?飯は?」
「待機」
「何で?客が来たからって、違う部屋に行く必要なくね?」
「いいから行くぞ。」

結局、誰なのか答えてくれる事なく、俺達は部屋に連れていかれた。

あれ?バスティの顔が青い気がする。

「気分が悪いのか?」
「いや、ちょっと疲れただけ。」
「無理すんなよ。しんどかったら、昼から休んでてもいいからな。」
「うん」

奥の部屋に移動して5分くらいたった時、急に外が騒がしくなった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...