伯爵代理なんてやりたくないので、私を捨てた夫を見つけてください。

シンさん

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下弦の月

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「……っん…」

 ここは何処だ……?
 俺はこんな所で何をしているんだ……?
 頭が痛い、怠い……

 時間は解らないが、もう夜だ。
 重い体を起こして横を見てみれば、椅子に座ったまま眠るクレアがいる。

 ――っ!?

 クレアの顔を見て、自分が拐われた時の事をはっきり思い出した。

「クレア、クレア!」

 サイズのあわない着古したヨレヨレのシャツに、七分丈のズボン、足元をみれば靴は履いていない。一体何があった?

「リアム様、そのまま寝かせてあげてください」

 部屋の外に立っていたであろうイエナが、クレアよりも先に答えた。

「疲れているだけで、怪我はありません」
「そうか……。俺はどれくらい寝ていた?」
「4時間ほど」
「イエナが助けてくれたのか?」
「その話は後程。もう暫く休んでください」
「いや、大丈夫だ」

 クレアをベッドに寝かして、俺はイエナに話を聞く事にした。これ以上クレアを巻き込みたくはない。


 部屋を出ると、廊下ではなく直接部屋に繋がっていた。小さい部屋だが、ダイニングだろうか。テーブルに蝋燭が立ててあるだけの薄暗い部屋にいるのは、老爺とイエナと中年の男が2人。部屋のすみには縛られた男が2人いて、青痣だらけだ。

「イエナ、俺が連れ去られてからの事を、簡単に説明してくれるか?」
「はい。結論から申し上げます。我々を狙ったのはヤコブ子爵です。フィンネル公爵の指示があるかどうかまでは確認できていません」
「……そうか」
「村人達の手を借りて伯爵を救出する事が出来ました。この方がペイレス村の長です」

 イエナに紹介され、老爺が俺に頭を下げた。


「貴方がイマーク村長ですか。俺はリアム・ハンストン。迷惑をかけて、大変申し訳ない」
「迷惑だなんてとんでもない。これくらいでは、私達が伯爵から受けた恩はとても返しきれません。伯爵様がいなければ、私達は遠の昔に死んでいました」

 直接会った事はなかったが、予想していた通りの男だ。彼はいつも礼状を送ってくる。恐らく文字もよく知らない。それでも『ありがとうございます』の一言を送ってくる。律儀な男だ。

「民がそんな状況にならないように管理するのが我々の仕事。それが行き届かなかったのは、俺の力不足だ」

 今までハリーに頼んだ所で『関係ない』と言われ何も進まなかった。クレアが代理になったのを良い事に無理矢理連れてきて、クレアの命を危険にさらしてしまうなんて……、何をやってるんだ俺は。

「イエナ、クレアの体調は?」
「身体からアルコールが抜ければ問題ありません」
「アルコール?」
「ラムとウォッカをストレートで飲み比べしていたようです」
「どちらもアルコール度数が高いのに、大丈夫だったのか?」
「はい、村人が仲裁に入ってくれたので」
「そうか」

 クレアとイエナだけ送り返すにしても、また狙われる可能性がある。

「この村に兵を呼ぶのに何日かかる?」
「既に遣いを出しているので、明後日の朝には」

 子爵に会うのも明後日……。
 兵が来たとしても、相手は俺の誘拐など知らぬ振りをするだろう。この村の現状を何とかしろと書状を送り続けてものらりくらりとかわされてきた。だが、そろそろ決着をつけないと。

「イマーク、村の現状とここ数年の死人の数、借金の利息、収穫高、川の修繕に使われていた材料など、解る事は全て教えてくれ」
「はい」

 村長やイエナ、部屋にいた村人に話を聞いていると、寝癖頭のクレアがボーと部屋に入ってきた。
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