水の兎

木佐優士

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終演

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 蔵前組との件があった裏では、美倉がファインレコーズの方々と話を進めてくれていた。五曲の選曲、曲順も慎重に進めていったという。バンド編成の曲のレコーディングには以前に水兎と同じステージで演奏していたUncoolのみんなも協力してくれた。水兎があかりさんに声をかけたことがきっかけで実現したコラボレーションだ。
 美倉のマネージメント能力の高さにより、水兎も安心して歌に集中できているようだ。
 そして、なんとか今日のライブを迎えることができた。
 日曜日開催ということもあって予約分のチケットは完売した。当日券を残すのみとなっている。桜さんのブログを見た人からも注文が多数あったそうだ。実力で地下アイドルからアーティストへの転向に至ったということも話題を生んだらしい。
「またアラバヒカで歌える日が来るなんて」
 水兎はまだ客のいない客席を、ステージ上から見ながら言った。
 僕は水兎のことをパソコンのモニター越しに見ている。
 ステージのみの画面と、客席まで映る広範囲の画面の二つだ。つかささんたちに頼んで撮影機材をセットしてもらい、中継してもらうことにした。
 組に入ったからにはステージに近づくわけにはいかない。
けれどそのことは伝えずに、あとで編集して配信したいからという理由でステージを映してもらっている。動画配信の仲間であるつかささんたちになら頼めると思った。
 開場時間の十三時四十五分まではあと五分。つかささんとともに入念なリハーサルをしてきた水兎の顔に迷いはない。アーアー、とぎりぎりまで声の調整をおこなっている。まもなくステージ裏に行った。
 いよいよ時は迫ってきた。
 ――開場します。
 モニターには映っていない松下さんの声が響く。
 次々と客が並び、受付の桜さんが慣れた手つきで対応している様子が目に浮かぶ。
 徐々に会場が埋まってきた。予約数よりも多く入るかもしれない。当日券を求めてやってきた人も少なからずいるだろう
 ざわつく会場のすみに美倉を見つけた。客にまぎれてステージを見つめている。
 美倉には会場に行けないことを伝えてある。組に入った者としての決意だと。「ミト」の担当から抜け、美倉に任せたいと話した。
 ――咲馬の決断がミトちゃんの未来を決める。胸の十字架を下すなよ。
 美倉の言葉が残響する。
 十五分が経過した。パッとステージにライトが下ろされる。
 中央に置かれたマイクを目指して、ゆっくりとした足取りで水兎が現れた。
 ――いや、讃美の歌姫Pierisが。
 位置に着いた彼女の背に、大きな天使の羽が広がり羽ばたいた。白く輝いている。
 CGで作った映像を物に投射するプロジェクションマッピングの技法だ。岩本さんに提案して作ってもらったものだ。正体を明かした僕の話を聞き、「アムカスのためなら」とこころよく引き受けてくれた。
 美倉と計画していたことが、目の前で形となって表現されている。
 Pierisは胸に手を当て、祈りを捧げるように『アメイジング・グレイス』を歌い始めた。
 歌声が天から降り注ぐ。
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