【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います

ほしふり

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(1)プロローグ

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「リアーネ!お願いだ!!目を開けてくれ!」

聞き慣れた声が鼓膜を震わせる。
地面に倒れていた私は彼の腕に抱き上げられ、何度も何度も名前を呼ばれた。

「リアーネ!リアーネ!!しっかりしてくれ!!」

重い瞼を上げて視界に映ったのは、叫ぶ夫の姿。
濡烏のように艷やかな彼の黒髪が私の顔にこぼれ落ちている。
彼は長いまつ毛を震わせながら泣くのを堪えている。
私の手を握りしめ、顔を覗き込みながら喉を振り絞って名前を呼んだ。

地面にいくつもの魔法陣が同時に展開して傷の治癒を促すが意味はない。
胸に突き立てられた短剣の傷は塞がれることもなく血を流し続けている。
私がまだ生きていられるのは、溢れる血の中に流れる魔力のおかげだろう。
だがそれも長くは持たないと本能で理解していた。

(ああ…よりにもよって、なぜ今日なのだ…)

今日は私と夫の結婚記念日だった。
待ち合わせの場所に向かった私はそこで待ち構えていた人間たちに取り囲まれて交戦した。
魔族を狙った人間の襲撃はいつもの事だったから油断していたのかもしれない。
すぐに決着が付くはずだった。
不死者を葬る短剣の術が発動するまでは。

「ぐっ…!」

私が血を吐くと、夫の顔が絶望に染まる。
闇色のローブが赤黒く濡れていた。
痛みは感じない、なぜなら、目の前にいる夫の方が辛い痛みに耐えているようだったから。
気管に詰まった血を吐き出すと私は声を出す。

「そんな……顔をするな…ベル…私は」

握られていた手を振りほどき、私はその手を夫の頬に添える。
彼の白い頬に赤い血が張り付いたが、ベルはずっと私を見ていた。

「死には…しないよ」
「リアーネっ!だが、これは…これではっ!」
「心配するな…」

頬に添えていた手から力が抜けてずるりと落ちる。

「リアーネ!!…いやだ!!嫌だ!俺をっ」

一人にしないで。

置いていかないで。

ここにいて。

「リアーネ!!待ってくれ!お願いだから、お願いだから俺を置いていかないでくれ!!」

喉の奥から吐き出される悲痛な叫びが草原に響き渡る。
彼の声を聞いたのは…それが最後となった。
目は開いているはずなのに、視界は暗く塗りつぶされている。

…常闇の魔女リアーネは人間たちの手によって殺された。
まるで他人事のように私は自分の死を受け入れた。
意識を失った私の魂は、肉体からこぼれ落ちた。



✕✕✕



私は死んだ。
それから五百年の時が流れた。
私の魂を修復するのにはそれぐらいの時間が必要だった。

今頃、ベルのやつも私なんて忘れて好き勝手に生きているに違いない。
それぐらいの思い出になることが彼にとっても丁度いい。

政略結婚により長い道のりを二人で歩んできたが、決められた婚姻に振り回された彼がこれからの幸せを享受する権利はある。
魔族と魔女の結婚が二千年続いたのだ。
それで十分じゃないか。

彼は今頃、自分で選んだ想い人でも見つけて、その魔族の手をとって愛を誓っているはず。

ああ…

それは…

(……少しだけ…妬けるな)

常闇に包まれていた私の魂は、次なる肉体に転生した。

アルケミス聖王国。

魔族が生きる国ではない。
人間の国だった。

私はその王国の第三王子として新たに転生した。
無論、人間である。
だが私の魂は常闇の魔女リアーネであり、その魂の形が変わることはなかった。

「第三王子…ねぇ…?」

私を生んだ人間の母は深い溜め息を吐く。

「あなたなんて、産まれてこなければよかったのよ」

リグレット。
後悔。

それが人間になった私に与えられた名前。
魔族にとって黒色は特別な色だが、人間たちにとっては違う。
この世界に黒髪の人間はいない。
いたとしても、異端者として黒髪の人間は陽のあたる場所では生活できない。
それなのに私は第三王子として生まれ落ちてしまったのだ。
艷やかな黒髪に赤い瞳。
リグレット・フォン・アルケミスは第三王子でありながらも忌み子として扱われ、王族の表舞台に立つことはなかった。

それは私にとっても都合が良かった。
なぜなら、私は人間たちが本来扱うことのできない闇の魔導を扱うことができる。
これが人間に知られたら、王族だったとしても処刑されるに違いない。
それは避けたかった。


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