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短編完結
エピローグ、魔王ベルグラとリグレット【後編】
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結局の所、彼が愛しているのは前世の身体なのだということを知る。
前世の自分に嫉妬するなど思いもしなかった。
目の前のベルは黄金色の瞳を潤ませながら私をきつく睨んでいる。
「絶対に嫌だ!!!」
大声で言い放った。
「…そうか」
私は心の中で落胆した。
結局の所、彼の想い人は…今の私ではないのか。
「ベルグラ」
私は深い溜め息を吐いた。
名前を呼ぶとベルはビクリと肩を震わせる。
「そこを退け」
「できない相談だ!」
私の命令に彼は従わなかった。
だから私は行動した。
両手を広げるベルに向かって右手を突き出し、その胸倉を掴む。
「!?」
私の行動に対して動揺したベルが目を丸くするが、私は止まらない。
そのまま彼を押し倒した。
ベルは突然のことで体制を崩し、死守しようとしていた花畑に尻餅をつく。
「リアーネ!?」
「私はもうリアーネじゃないよ」
私は彼の腰の上にのしかかると掴んだままの胸倉を引っ張る。
そして顔を近づけると強引に唇を重ねた。
驚く顔面を無視して、半開きになった唇に自分のものを押し当てる。
触れて離れるだけのキスだったが、それでも初めての口同士のキスだった。
ベルが目を丸くしている。
突然の事態に驚きを隠せないようだった。
「何が嫌だ?君が好きなのは前世の私であって今の私じゃないだろ?今の私に昔の場所が踏み荒らされるのが嫌なだけだろ?」
「…リグレット」
「そうだ。私はリグレットだ。どうせ男の体なんて抱いたこともないくせに。君は魔女にご執心だったのだから。お前だけが好きだと思うなよ?」
私の言葉に面食らったまま、ベルは呆けていた。
その顔は真っ赤に染まっていた。
だが、次の瞬間にはハッとしたように停止の台詞を放つ。
「リグレット!お前、少し落ちつ…」
ベルが言葉を紡ぐ前に、私は顔を近づけてもう一度彼の唇を塞ぐ。
舌先でベルの唇をこじ開けて相手の唾液に触れた。
「っぅ…んぅ、っぁう!?」
舌先が触れた瞬間、くぐもった息を漏らして呻いたのはベルではなく私だった。
一体何が起こったのかわからない。
私は混乱した頭を整頓しようとしたが、うまくまとまらなかった。
舌先がベルの唾液に触れた瞬間、身体中にしびれが走った。
そこに含まれる濃厚な魔力によりぶわりと熱が広がる。
すぐに唇を離したが、酒にでも酔ったかのように上半身がよろめいた。
「なっ…ん…っだ、これ…?」
熱に浮かされた肌が真っ赤になる。
流れ込んできた何かが体の中心に集中する。
(なにが…おこった?)
ふわふわと溶けてゆく思考が頭の中でぐるぐると回る。
「…まったく、だから止めたというのに…いくらなんでも直接は性急すぎる。この黒百合にも長年の俺の魔力が染み付いているから食うのも大変だぞ?」
「どういう…こと、だ?」
「お前の魂は魔族だ。魂が俺の魔力に惹かれて反応すると発情するぞ」
「へ…?」
私はハッとする。
魔王ベルグラは魔族の女は抱き潰し、人間の女は犯し殺すという噂を。
ベルがそんな女たらしとは思えないとその噂を聞いた時には思っていたが、実際そうだったのかもしれないと今理解する。
私が転生するまでの間、人間や魔族を抱き潰していたベルはこの状況を当然のように受け止めているようだった。
(…まさか魔族の女を抱き潰したという噂はここからか?…それに人間を犯し殺すというのはまさか)
まさか。
(犯し殺すような性行為だったということではないのか?)
魔王の魔力に酔っている私を眺めながらベルは口元に笑みを浮かべた。
赤い唇がつり上がると、黄金色の瞳を細めて極悪な笑みを刻む。
「だが、そうだな。これはお前の自業自得だよなぁ?リグレット」
「なんの…はなしだ?」
強大な者が生み出す濃厚な魔力の循環。
人間の身体を内側から作り変えるほどの圧倒的な力関係。
魔王ほどの魔力の持ち主に抱かれた事がある者たちは皆、また魔王に抱かれようと何度もその魔力を求め続ける。
ベルの魔力は魔族と人間にとっては媚薬効果があった。
その事を私は知らなかった。
なぜなら、前世も今生も彼とは性交どころか唇同士のキスもやったことがないのだから。
私の思考が定まる前にベルが片手を差し出して、頬に触れる。
「んぅっ!?」
肌と肌が触れただけで電撃が走るような反動を受けて私は呻いた。
「辛いだろリグレット?」
意地悪な声音でベルが問う。
「うっ…」
「だが、その身体は人間のものだ。大きな魔力を一気に受けとめることは出来ない。だから、これからゆっくりと魔力を流し込むしか無い」
「だから…なんの…はなしを…」
「お前も俺も今から生殺しになるという話だ」
ベルは馬乗りになった私の腰をゆっくりと片手でなで上げる。
ぞわぞわと背筋が粟立った。
腰を抱きしめて引き寄せられることは何度もあったが、性的なニュアンスを含めてこんなにねっとりと触れてくるのは初めてだった。
「安心しろ。今日のところはキスだけで済ませてやる。あまりにも急で何も準備ができなかったからな」
「きみがこの行為をやめればいいだけだろっ!?」
「この状況で「はい、そうですか」と引き下がれるわけがないだろ!?少なくとも俺の方に理性が残ってる事に感謝しろ!!」
「いっ!?」
身体をぐるりと回転させられて、今度は私が花畑を背中に押し倒される。
その上から覆いかぶさってくるとベルは私の腰に跨り、身体を床に縫い止めた。
「魔力を取り込みながら発情するお前を見て、俺が正気を保てるわけがないだろ。だから必死に止めたのにな?これはしょうがないことだな?いいな?」
「まて、おい、早まるな!?…ひっ」
のしかかってきたベルを正面から直視して、私の声は焦りにより裏返る。
ベルの顔が近い。
キスする寸前まで顔を寄せるとベルは首を傾けて角度を固定する。
「や、やめっ…」
唾液に一瞬触れただけでどうにかなりそうだったのに、深い口付けなんてできるわけがない。
顔をそらして逃げようとすれば、両手で私の頭を挟んで固定した。
動けなくなった私は正面から端正に整った顔を眺めながらその時が訪れるのを待ち続けるしかなくなった。
「おい、ベル…まてっ」
「お前だけが好きだと思うなよ?」
それはさっきの私の台詞だった。
地の底を這うような低音でベルが吐き捨てると私の唇に噛み付く。
「んぐっ、うっ、うぅっ、んぅっ!?」
唇を割り開いて舌が口内に侵入する。
唾液をこれでもかと送り込まれて、私の視界がチカチカと点滅した。
喘ぎ声はベルの唇に塞がれている。
与えられる強すぎる刺激を受け止めながら、身体がビクビクと跳ねて甘い痺れに犯される。
「ふぅっ、んンっ、んっ、ぅっ…!」
胸板を押し返そうとした腕から力が抜けると、抵抗らしい抵抗ができなくなった。
唇から注がれ続ける唾液という名の魔力が私の内側に流れ込んでくる。
魂が燃えるように熱い。
絶対にこれ以上掻き乱す必要はないのに、私のそれをベルの舌が撫で上げた。
深く深く、もっと深いところに彼のものが私の中へ向かって入ってくる。
「むぅっ、ん、んっ、んぅ」
身体の芯が反応する。
男の体なのだからしょうがない。
私は涙目で深いキスに耐えたが、頭が固定されたまま逃げようがなかった。
流し込まれる唾液と魔力を飲み干すように促されて、コクリと飲み込む。
「ぷはっ!?」
やっと口を離すことができた。
…と、思ったら、また唇を寄せてきた。
「ま、まて!」
私が甘く上ずった声で停止の声を放つ。
「待たない」
その声は腰に響く低音だった。
彼の黄金色の瞳はギラギラと鈍い光を放つ。
ベルは怒っているわけではない。
彼も興奮していることを理解して、私は覚悟した。
赤い彼の唇が私を求め続けていた。
その後も貪るように深い口付けは続いた。
何度も、何度も、何度も。
***
…やりすぎた。
それがベルグラの感想だった。
予告通りキスのみで終了したとはいえ、これはやりすぎたという自覚があった。
押し倒されたまま、意識を手放したリアーネもといいリグレット。
眠っているというのに頬は上気したまま赤く染まっており、艷やかな唇には銀色の筋が流れている。
先程まで口づけの行為に付き合わされたせいである。
服は着込んでいるのに内側から無茶苦茶にしてしまったという感覚があった。
(しょうがないだろ、二千年と五百年と少しの時間を待ったんだぞ)
俺は悪くないと言い聞かせる。
むしろここでストップできた自分を褒めて欲しい。
視覚効果と混ざり合う唾液、お互いの魔力を循環したことによりベルグラも興奮状態だった。
リグレットはベルグラの魔力で酔っていたが、ベルグラもリグレットの魔力に酔っていた。
ここが寝室だったのならと考えるとゾッとする。
リグレットを手荒には扱いたくなかった。
(それなのに)
だが、この惨状はさすがにどうかと思う。
他の魔族たちが来なかったことが唯一の救いだった。
(絶対に…絶対に、目を覚ましたら怒られる…!)
黒百合の中に眠るリグレットを眺めながらベルグラは冷や汗を流した。
そのくせ、身体はまだまだ足りないとばかりに目の前で眠る妻を元気に求めているのだった。
(おちつけ、おちつけ、おちつけ!!)
冷静になれ。
これ以上人間のリグレットに負担をかけるわけにはいかない。
壊したくない。
それに、こんな場所で初めてを行うわけにはいかないのだ。
(初めて…)
そうだ。
初めてのキスだった。
手を繋ぐのに三百年かかった。
性欲丸出しで近づいてリアーネに嫌われたくなかったベルグラは二千年、結婚してから一度も唇同士のキスなんてしたことがなかった。
紳士的に手の甲へキスを落とすぐらいの距離でとどめていた。
性欲丸出しの男は人間も魔族も関係なく嫌われるのは知っている。
痴情のもつれで関係が破局した魔族は過去に何組もいたのだから。
だからずっと堅実で真面目でいようと格好をつけて振る舞っていた。
(嬉しかったんだ…嬉しかったよ)
好きなのが自分だけなのではないのかと思う時が何度もある。
だが、嫉妬を滲ませて詰め寄ってきたリグレットの赤い瞳に映った自分に満たされたのは本当だった。
(お前からの口づけによって、今の俺でもいいのだと…やっと…やっと自分自身が許せた)
妻が亡くなってからの五百年間、ろくなことをしてこなかった魔王をリグレットは愛してくれていると知った。
(男とか女とか、前世とか今生なんて俺には関係ない)
瞳を閉じて黒百合の中に横たわるリグレットをベルグラは見下ろす。
(俺はお前がいい)
こうして眠っているだけなら精巧な人形のように美しい少年だ。
ベルグラはふいに顔を近づけて、眠るリグレットの胸元に耳を寄せた。
トクトクと心臓の鼓動を感じた。
(生きている)
生きている。
鼓動があり、呼吸があり、命がそこにある。
この少年は死体などではない。
呼吸で上下に揺れる胸元に耳をよせたまま、ベルグラも瞳を閉じてその音に聞き入った。
するりと頬を胸元に擦り寄せてその身体に触れた。
心が凪ぐようだった。
(やっと…やっとだ…)
やっと会えた。
(もう放さない)
ベルグラはリグレットの胸元にキスを落とす。
そこには心臓があり、魂があった。
エピローグ、おわり。
前世の自分に嫉妬するなど思いもしなかった。
目の前のベルは黄金色の瞳を潤ませながら私をきつく睨んでいる。
「絶対に嫌だ!!!」
大声で言い放った。
「…そうか」
私は心の中で落胆した。
結局の所、彼の想い人は…今の私ではないのか。
「ベルグラ」
私は深い溜め息を吐いた。
名前を呼ぶとベルはビクリと肩を震わせる。
「そこを退け」
「できない相談だ!」
私の命令に彼は従わなかった。
だから私は行動した。
両手を広げるベルに向かって右手を突き出し、その胸倉を掴む。
「!?」
私の行動に対して動揺したベルが目を丸くするが、私は止まらない。
そのまま彼を押し倒した。
ベルは突然のことで体制を崩し、死守しようとしていた花畑に尻餅をつく。
「リアーネ!?」
「私はもうリアーネじゃないよ」
私は彼の腰の上にのしかかると掴んだままの胸倉を引っ張る。
そして顔を近づけると強引に唇を重ねた。
驚く顔面を無視して、半開きになった唇に自分のものを押し当てる。
触れて離れるだけのキスだったが、それでも初めての口同士のキスだった。
ベルが目を丸くしている。
突然の事態に驚きを隠せないようだった。
「何が嫌だ?君が好きなのは前世の私であって今の私じゃないだろ?今の私に昔の場所が踏み荒らされるのが嫌なだけだろ?」
「…リグレット」
「そうだ。私はリグレットだ。どうせ男の体なんて抱いたこともないくせに。君は魔女にご執心だったのだから。お前だけが好きだと思うなよ?」
私の言葉に面食らったまま、ベルは呆けていた。
その顔は真っ赤に染まっていた。
だが、次の瞬間にはハッとしたように停止の台詞を放つ。
「リグレット!お前、少し落ちつ…」
ベルが言葉を紡ぐ前に、私は顔を近づけてもう一度彼の唇を塞ぐ。
舌先でベルの唇をこじ開けて相手の唾液に触れた。
「っぅ…んぅ、っぁう!?」
舌先が触れた瞬間、くぐもった息を漏らして呻いたのはベルではなく私だった。
一体何が起こったのかわからない。
私は混乱した頭を整頓しようとしたが、うまくまとまらなかった。
舌先がベルの唾液に触れた瞬間、身体中にしびれが走った。
そこに含まれる濃厚な魔力によりぶわりと熱が広がる。
すぐに唇を離したが、酒にでも酔ったかのように上半身がよろめいた。
「なっ…ん…っだ、これ…?」
熱に浮かされた肌が真っ赤になる。
流れ込んできた何かが体の中心に集中する。
(なにが…おこった?)
ふわふわと溶けてゆく思考が頭の中でぐるぐると回る。
「…まったく、だから止めたというのに…いくらなんでも直接は性急すぎる。この黒百合にも長年の俺の魔力が染み付いているから食うのも大変だぞ?」
「どういう…こと、だ?」
「お前の魂は魔族だ。魂が俺の魔力に惹かれて反応すると発情するぞ」
「へ…?」
私はハッとする。
魔王ベルグラは魔族の女は抱き潰し、人間の女は犯し殺すという噂を。
ベルがそんな女たらしとは思えないとその噂を聞いた時には思っていたが、実際そうだったのかもしれないと今理解する。
私が転生するまでの間、人間や魔族を抱き潰していたベルはこの状況を当然のように受け止めているようだった。
(…まさか魔族の女を抱き潰したという噂はここからか?…それに人間を犯し殺すというのはまさか)
まさか。
(犯し殺すような性行為だったということではないのか?)
魔王の魔力に酔っている私を眺めながらベルは口元に笑みを浮かべた。
赤い唇がつり上がると、黄金色の瞳を細めて極悪な笑みを刻む。
「だが、そうだな。これはお前の自業自得だよなぁ?リグレット」
「なんの…はなしだ?」
強大な者が生み出す濃厚な魔力の循環。
人間の身体を内側から作り変えるほどの圧倒的な力関係。
魔王ほどの魔力の持ち主に抱かれた事がある者たちは皆、また魔王に抱かれようと何度もその魔力を求め続ける。
ベルの魔力は魔族と人間にとっては媚薬効果があった。
その事を私は知らなかった。
なぜなら、前世も今生も彼とは性交どころか唇同士のキスもやったことがないのだから。
私の思考が定まる前にベルが片手を差し出して、頬に触れる。
「んぅっ!?」
肌と肌が触れただけで電撃が走るような反動を受けて私は呻いた。
「辛いだろリグレット?」
意地悪な声音でベルが問う。
「うっ…」
「だが、その身体は人間のものだ。大きな魔力を一気に受けとめることは出来ない。だから、これからゆっくりと魔力を流し込むしか無い」
「だから…なんの…はなしを…」
「お前も俺も今から生殺しになるという話だ」
ベルは馬乗りになった私の腰をゆっくりと片手でなで上げる。
ぞわぞわと背筋が粟立った。
腰を抱きしめて引き寄せられることは何度もあったが、性的なニュアンスを含めてこんなにねっとりと触れてくるのは初めてだった。
「安心しろ。今日のところはキスだけで済ませてやる。あまりにも急で何も準備ができなかったからな」
「きみがこの行為をやめればいいだけだろっ!?」
「この状況で「はい、そうですか」と引き下がれるわけがないだろ!?少なくとも俺の方に理性が残ってる事に感謝しろ!!」
「いっ!?」
身体をぐるりと回転させられて、今度は私が花畑を背中に押し倒される。
その上から覆いかぶさってくるとベルは私の腰に跨り、身体を床に縫い止めた。
「魔力を取り込みながら発情するお前を見て、俺が正気を保てるわけがないだろ。だから必死に止めたのにな?これはしょうがないことだな?いいな?」
「まて、おい、早まるな!?…ひっ」
のしかかってきたベルを正面から直視して、私の声は焦りにより裏返る。
ベルの顔が近い。
キスする寸前まで顔を寄せるとベルは首を傾けて角度を固定する。
「や、やめっ…」
唾液に一瞬触れただけでどうにかなりそうだったのに、深い口付けなんてできるわけがない。
顔をそらして逃げようとすれば、両手で私の頭を挟んで固定した。
動けなくなった私は正面から端正に整った顔を眺めながらその時が訪れるのを待ち続けるしかなくなった。
「おい、ベル…まてっ」
「お前だけが好きだと思うなよ?」
それはさっきの私の台詞だった。
地の底を這うような低音でベルが吐き捨てると私の唇に噛み付く。
「んぐっ、うっ、うぅっ、んぅっ!?」
唇を割り開いて舌が口内に侵入する。
唾液をこれでもかと送り込まれて、私の視界がチカチカと点滅した。
喘ぎ声はベルの唇に塞がれている。
与えられる強すぎる刺激を受け止めながら、身体がビクビクと跳ねて甘い痺れに犯される。
「ふぅっ、んンっ、んっ、ぅっ…!」
胸板を押し返そうとした腕から力が抜けると、抵抗らしい抵抗ができなくなった。
唇から注がれ続ける唾液という名の魔力が私の内側に流れ込んでくる。
魂が燃えるように熱い。
絶対にこれ以上掻き乱す必要はないのに、私のそれをベルの舌が撫で上げた。
深く深く、もっと深いところに彼のものが私の中へ向かって入ってくる。
「むぅっ、ん、んっ、んぅ」
身体の芯が反応する。
男の体なのだからしょうがない。
私は涙目で深いキスに耐えたが、頭が固定されたまま逃げようがなかった。
流し込まれる唾液と魔力を飲み干すように促されて、コクリと飲み込む。
「ぷはっ!?」
やっと口を離すことができた。
…と、思ったら、また唇を寄せてきた。
「ま、まて!」
私が甘く上ずった声で停止の声を放つ。
「待たない」
その声は腰に響く低音だった。
彼の黄金色の瞳はギラギラと鈍い光を放つ。
ベルは怒っているわけではない。
彼も興奮していることを理解して、私は覚悟した。
赤い彼の唇が私を求め続けていた。
その後も貪るように深い口付けは続いた。
何度も、何度も、何度も。
***
…やりすぎた。
それがベルグラの感想だった。
予告通りキスのみで終了したとはいえ、これはやりすぎたという自覚があった。
押し倒されたまま、意識を手放したリアーネもといいリグレット。
眠っているというのに頬は上気したまま赤く染まっており、艷やかな唇には銀色の筋が流れている。
先程まで口づけの行為に付き合わされたせいである。
服は着込んでいるのに内側から無茶苦茶にしてしまったという感覚があった。
(しょうがないだろ、二千年と五百年と少しの時間を待ったんだぞ)
俺は悪くないと言い聞かせる。
むしろここでストップできた自分を褒めて欲しい。
視覚効果と混ざり合う唾液、お互いの魔力を循環したことによりベルグラも興奮状態だった。
リグレットはベルグラの魔力で酔っていたが、ベルグラもリグレットの魔力に酔っていた。
ここが寝室だったのならと考えるとゾッとする。
リグレットを手荒には扱いたくなかった。
(それなのに)
だが、この惨状はさすがにどうかと思う。
他の魔族たちが来なかったことが唯一の救いだった。
(絶対に…絶対に、目を覚ましたら怒られる…!)
黒百合の中に眠るリグレットを眺めながらベルグラは冷や汗を流した。
そのくせ、身体はまだまだ足りないとばかりに目の前で眠る妻を元気に求めているのだった。
(おちつけ、おちつけ、おちつけ!!)
冷静になれ。
これ以上人間のリグレットに負担をかけるわけにはいかない。
壊したくない。
それに、こんな場所で初めてを行うわけにはいかないのだ。
(初めて…)
そうだ。
初めてのキスだった。
手を繋ぐのに三百年かかった。
性欲丸出しで近づいてリアーネに嫌われたくなかったベルグラは二千年、結婚してから一度も唇同士のキスなんてしたことがなかった。
紳士的に手の甲へキスを落とすぐらいの距離でとどめていた。
性欲丸出しの男は人間も魔族も関係なく嫌われるのは知っている。
痴情のもつれで関係が破局した魔族は過去に何組もいたのだから。
だからずっと堅実で真面目でいようと格好をつけて振る舞っていた。
(嬉しかったんだ…嬉しかったよ)
好きなのが自分だけなのではないのかと思う時が何度もある。
だが、嫉妬を滲ませて詰め寄ってきたリグレットの赤い瞳に映った自分に満たされたのは本当だった。
(お前からの口づけによって、今の俺でもいいのだと…やっと…やっと自分自身が許せた)
妻が亡くなってからの五百年間、ろくなことをしてこなかった魔王をリグレットは愛してくれていると知った。
(男とか女とか、前世とか今生なんて俺には関係ない)
瞳を閉じて黒百合の中に横たわるリグレットをベルグラは見下ろす。
(俺はお前がいい)
こうして眠っているだけなら精巧な人形のように美しい少年だ。
ベルグラはふいに顔を近づけて、眠るリグレットの胸元に耳を寄せた。
トクトクと心臓の鼓動を感じた。
(生きている)
生きている。
鼓動があり、呼吸があり、命がそこにある。
この少年は死体などではない。
呼吸で上下に揺れる胸元に耳をよせたまま、ベルグラも瞳を閉じてその音に聞き入った。
するりと頬を胸元に擦り寄せてその身体に触れた。
心が凪ぐようだった。
(やっと…やっとだ…)
やっと会えた。
(もう放さない)
ベルグラはリグレットの胸元にキスを落とす。
そこには心臓があり、魂があった。
エピローグ、おわり。
114
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