参加型ゲームの配信でキャリーをされた話

ほしふり

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前編

春兎の配信

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新感覚ゲーム発売後、しばらくの時間がたった。
五感を使うフルダイブは発売当時から業界を賑わせていたが、そこから次々と多種多様のプラットフォームが開発されていった。
ユーザー数の増加に比例して盛り上がり続けて今に至る。
そして…ゲームの賑わいにより、多くの配信者もネット上に存在した。
3Dのバーチャルアバターで冒険をしたり、内輪のコミュニティを楽しんだり、時にはバーチャル空間のサーバーで番組をはじめたり、発達と進歩が目に見えて繁栄していた。
そんな華やかな世界の片隅で、俺も個人のバーチャル配信者としてゲーム実況に勤しんでいた。
滑らかな半円型のデジタルドームの部屋。
空中を浮遊する自分用の丸いカメラに向けて手を振りながら、俺は配信を開始した。

「どうも、こんにちは~配信者の春兎はるとです」

サラリとした黒髪ロングの頭部に伸びる黒色の兎耳。
上はセーラー服をモチーフにしたワンピース、下はゴスロリ風味のふんわりミニスカート。
足は黒色のニーハイにヒール。
俺は兎の男の娘キャラとして活動していた。
リアル世界でヒールを履いて動くのは難しいが、この世界なら身体アシスト機能があるので大丈夫。
身長175cmの大学生でも150cmの可愛い女の子のアバターで動き回ることができる。

「今回のゲームは最近発売したばかりのFPSゲーム、シューターです!今日も今日とて参加型企画!みんなの参加お待ちしております!!」

俺の言葉と同時に賑わい流れるコメント欄…なんて、そんなわけはなかった。
元々、登録者数は70人程度。
そして最新のゲームということもあって、視聴者は他のゲーム実況者の配信に流れてしまっている。
とはいえ、この配信を見ている15人に感謝しながら企画を続けた。
新感覚ゲームの繁栄と同時に様々な3D制作機能も発達した。
それによってハイレベルのアバターを個人でも手に入れることができるようになり、バーチャル配信者がこれまで以上に増えていた。
個人で行う活動なんてたかが知れており、俺の配信はネット世界の辺境となっていた。
それでも配信をやめないのは有名になりたいからではない。
誰かとワイワイしながらゲームをプレイしたいからだった。
目指せ有名配信者!というのは目標ではあるが、現実味はない。

「『めめめ』さん、ご参加ありがとうございます!」

バーチャル空間にやってきたのは視聴者のめめめさん。
参加型企画を行っても、毎回いつものメンバーというやつになる。
めめめさんは参加型でよく一緒にプレイしてくれる方だった。

「よろしくおねがいします」

めめめさんは挨拶の時にマイクをオンにして、挨拶が終了したらオフ。
配信に声が乗らないように必要最低限のやり取りしか行わない気遣いもいつもどおりだった。

「では時間なので締め切りますね、バトルに向かいましょう!」

俺はFPS仕様の服にコスチュームチェンジする。
ウサギ耳は見方しか見えない機能。
ふんわりと広がるスカートはショートパンツに切り替えて、上はジャケットを着て黒手袋を装着する。
今回のゲームはFPS系列の新作ゲーム『シューター』である。
科学や医療などが発達した近未来チックな荒野を走り回る世界観。
シューターはガンアクションと作戦がメインのゲームであり、十人程度のメンバーが敵と味方に分かれて様々な地形のマップに飛ばされてそこからフラッグを集める陣取り合戦である。
前衛、中衛、後衛のバランスと立ち回りが重要になる。
チームを組んだのは俺を含めて二人だったので、他は野良のマルチプレイヤー。
俺はハンドガンとマシンガンを使う前衛であり、めめめさんもマシンガンを使う前衛。

「さてさて、後衛のプレイヤーは来てくれるかな?」

マッチング開始ボタンを押すと空中に浮かぶデジタル画面にマッチング中と表示された。
すぐに相手が決定し、俺たち二人は待合室のブリーフィングルームに転送された。
ゲーム開始まで準備時間がある、ここでは見方同士で会話やチャットを行い作戦会議することができる。
足元の間接照明のみの暗いコンテナの中に俺たちは転送されると、自分の装備を確認しつつ残りのプレイヤーが来るのを待った。

「俺たちが一番乗りですね」

なんて言葉をカメラに向かってつぶやいたところで他のメンバーと合流した。
だが、その時にめめめさんが「まじかよ」と低い声音をもらした。

「どうかしましたかめめめさん?」

めめめさんは元々、必要最低限の言葉しか口に出さない。
彼が引く何かが気になって声をかけた。

「名前が本物なら、見方に化け物が来ますよ」
「?」

一体何のことだろうと思っていた見方が揃ってワープしてきた。
三人の中で、一人のアバターには見覚えがあった。

(え…まさか、この人…)

180cm以上の長身であり、白い肌の中央にある鼻筋は堀が深く白人男性のもの。
整えられた金髪ショートボブの後は撫でつけられており、キッチリとした印象を受ける。
彼が横にいる俺を見る、涼し気な琥珀色の瞳が俺を捉えた。
上から下まで黒色のコートとズボンとブーツの軍服コスチュームで統一されている中、手袋のみが白色。

「対戦、よろしくお願いします」

響く低音ボイスは落ち着いた大人の余裕を感じる。
金髪の青年は手に持っていた黒色の軍帽を被った。
彼の帽子と腕章を目にして俺は固まる。

(…せ、せせっ、聖良帝せらみかど!?)

聖良帝とは有名なバーチャルアイドルであり、軍人モチーフのアバターで活躍するゲーム配信者。
愛称は隊長。
ファンたちの間では氷属性の皇帝として認識されている。
有名な事務所の所属であり、最近は登録者100万人達成配信が記憶に新しい。
歌って踊るのは勿論の事、ゲームの腕が上手すぎるプレイヤーとして界隈ではお馴染みだった。
戦闘の解説やナレーションを涼しい声音で実況するのもポイントであり、同僚とのホラー実況のコラボでも殆ど怖がる素振りを見せなかった鋼の心臓の持ち主。
どんな時も立ち回りと言い回しがスマートであり、俺もよく彼の解説動画を観ていた。
普通のゲームの腕前なら、聖良と俺は天と地ほどの差があるのだが、発売日付近ということもありこうしてマッチングしたらしい。

「はい!よろしくおねがいします!!」

声が裏返りかけた。
あまりにも激しい緊張により心臓が爆発しそうになる。
空中に彼の実況カメラが飛んでいる。
しかもコウモリ型の俺より高性能なやつ…

「そのっ、こちらも配信中なのですが、よろしいですか?」
「はい。大丈夫です」

リアルなら滝のような汗を流しているに違いない、ここがバーチャル世界でよかった…
思わぬ有名人との出会いもオンラインの対戦ゲームらしいところだ。

(絶対に変なプレイはできないな…)

緊張に押しつぶされそうになりながらも俺は気合を入れた。
ブリーフィングは聖良がその場をまとめてくれた。
さすが隊長。
前衛は俺とめめめさんとマルチプレイヤー二人。
中衛はいなかったので、後衛は聖良一人。

「僕は後ろからなるべく全体のサポートをしますが、武器相性的には春兎さんのサポートを中心にしていいですか?」
「おっ、俺は構いません!」

聖良はスコープライフルの使い手であり、世にいうスナイパー。
対する俺は武器の種類の中でも射程が短いものしか持ち合わせていなかったので、援護射撃はありがたい。
ブリーフィング終了時刻と同時に俺たちはバトルエリアに転送された。
光の粒子となってエリアに向かい、実態が形成される。
バトル開始のカウントダウン、3、2、1…ゼロと同時にダッシュ。

(スナイパーならあそこの高台のはず)

窪んだ平原に小高い丘がいくつかあるマップだ。
前衛は中央の平原を遮蔽物に身を潜ませ前進しながら正面で敵とぶつかる。
その戦闘でどれだけ被害を抑えて制圧できるかが勝敗を決める。
俺は前方に走りながらもマップを広げて後衛位置の確認をする。
まだ敵と戦う距離ではないため、見方の把握をする。
予想通りの小高い丘に聖良が位置についた事を確認すると、彼の射程に収まるように俺は前進した。
その時、上から敵サイドの前衛が降ってきた。

「!?」

遅かった。
振り返らなければならない視界ギリギリの端から降ってきたことにより、俺の反応が遅れた。
空中から降ってくる敵に向かって右手に持ったハンドガンを構え、狙いを合わせる。
間に合わない。
この距離で引き金を引いても合うはずがない。

「がっ!?」

俺が引き金を引くのより早く、敵の頭が拘束の弾丸によって撃ち抜かれた。
デスした敵が光の粒子となってキラキラと輝き、リスポーン地点に光の塊が飛ばされる。
周りの近距離に味方がいなかったことと、この位置からの援護となれば聖良しかいない。

(つよっ!?)

戦闘中なのだから敵が動くのは当たり前だが、上の丘から下に降ってくる敵を長距離から見事ヘッドショットした聖良にびっくりした。
配信で観たことのある強さそのままである。

「一人やりました。前に敵はいません。春兎さんは前進可能です」
「ありがとうございます!!助かりました!!」

業務的な無線連絡の後、俺は彼の指示に従って前に出る。
敵の前衛もうひとりとぶつかったが、それは俺の実力でも対処できた。
マシンガンの連射でキルした後に俺はマップを確認する。
マップは見方の位置が常に把握できるが、見方に接近した敵なら目視できる。
どうやら俺が向かった右側に敵が集中しているらしく、3人目の遭遇を予想していたが…

(…ん?)

マップを眺めていると、俺の位置から後ろにいる聖良の近くに丁度、敵アイコンが表示された。

(嘘だろ!?)

先程二人とバトルを行っていた間に一人が陣地に入り込んでこちらのスナイパーを狙っていたのか?
無論、スナイパーはスコープライフルで戦場を観察しているため、近くに敵が来たらひとたまりもない。

(聖良さん危ない!)

俺は地図を閉じて振り返る。
手持ちの武器では射程的に攻撃不可能ではあるが、目視で無事を確認する。
すると、小高い丘にいた聖良がスナイパーライフルを持って自ら振り返ったところだった。
背後には敵がいる。
聖良は手に持ったスナイパーライフルを片手で持ち、撃った。
無論、後衛武器には扱いに癖があり、前衛の武器を持つ敵とはあまりにも相性が悪いのだが、それにも関わらず聖良の射撃には迷いはなく、襲撃者の頭を撃ち抜いてキルを取った。

(強すぎるのだが!?)

光の粒子となって敵がリスポーン位置に戻ってゆく。
それを眺めながら俺は呆気にとられていた。
聖良が後ろにいた敵を屠った後、振り返ってスナイパーライフルをこちらに向ける。

「問題ありません、援護に戻ります」

無機質な無線に低音の落ち着いた声が俺の耳まで届く。
無事で良かったという意思を込めて、俺はスコープを構えた聖良に向かってピースした。

「ナイスです聖良さん!では、改めて前へ向かいますね、見ててください!」

俺が調子に乗って、ピースしながらそういうとパァンとライフルが俺に向かって打ち込まれる。
厳密には、俺の後ろにいた敵を聖良が撃ち抜いたのだが…
後数センチ近ければ、その攻撃力により欠損判定のハンデを背負う距離スレスレで敵の胸を撃ち抜いていた。

(ひっ!?)

ここは戦場だ。
よそ見した俺が悪い。
聖良の足を引っ張った俺は急いで前を向き、戦闘に戻った。
今のは絶対、何か思われている…怖い…
その時、通信が入る。
めめめさんと他の前衛から最後の一人のキル報告を聞いた。
敵はリスポーンするまで時間がかかるので、今が攻め時だ。
俺は遮蔽物から躍り出て前進する。
その後は何の危うさもなく対戦が終了した。
あまりにもスマートな流れだった。
元々、作戦会議を行っていたのもあるが、聖良のキル数が飛び抜けている。
圧倒的な戦いではあったが敵が弱かったわけでもない。
対戦後のルームには次のゲームに行きたい人は抜けるのだが、今回は敵も味方も集まって、ワイワイと声が上がった。

「そっち強すぎませんか!?」

敵サイドの一声はそれだった。

「スナイパーが強すぎるし、前衛も息ぴったりで野良マルチとは思えないのですが!?」
「俺とめめめさんはチームですが、他の方たちは違いますよ」
「ひぇ~」

相手方もノリが良い人たちで、勝った負けたと言いながら盛り上がるプレイヤーばかりだった。

「対戦ありがとうございました」

会話を見守っていた聖良がにこやかに言う。
爽やかな雰囲気は好青年そのものであり、氷の皇帝なんて異名を思い出すとギャップを感じた。

「噂には聞いていましたがさすがの強さっすね」
「いえいえ、皆さんもすごかったですよ。最初の勢いとか、裏を取ってくるあたりとか」
「ははは…先制パンチする予定だったのに…全部綺麗に対処されましたけれどね…」
「僕もそこはびっくりしましたよ。試合後の記念撮影いいですか?」
「いいですよ~」

全員の承諾により記念撮影が行われた。
撮影が終了すると、俺は隣にいた聖良に声をかけられた。

「春兎さん」
「はい?」
「とてもいい試合でした。また。機会があればご一緒したいのですが、よろしいですか?」

それはお願いしたい。
したいのだが…
完全に今回の俺はお荷物だった。
この戦いでは聖良の援護によるキャリーで俺は前進できたようなものだった。
こんな荷物と一緒でいいのか?
…いいのか?

「はい!ぜひ、お願いします!!」

業界で言うところの社交辞令として、俺は聖良の言葉を受け取った。
その後はあっさりと別れ、フレンド登録もなかったのでそういうことだったのだろうと心の中で納得する。

「いやぁ、それにしても…一戦目からすごいことになっちゃった…」

配信カメラに言いながらも俺の心臓は高鳴ったままだ。

「とても紳士的で、噂通りの強い人でしたね…クールで格好良かったです」

ここまでの有名人と出会ったのは初めてであり、戦闘中に一緒だったのも含めて初めてだらけだ。
粗相をしていなかったかと不安にかられながらも俺は次の試合に向かった。
その日の配信は一時間程度で終了した。
発売したばかりのゲームであり、新しい発見やドキドキが盛りだくさんで充実したゲームライフである。
聖良との出会いもその一つである。
俺は夢見心地の気分でその日の夜を過ごした。

次の日。
なぜかわからないが、俺のチャンネルの登録者が10万人を超えていた。
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