ターフの虹彩

おしゃんな猫_S.S

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紫電一閃 最後に咲くのは藤の花

オークス 私の後悔と彼女の成長Ⅱ

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『もしもし』
「あっ!お疲れ様です。今大丈夫ですか?」
『あぁ大丈夫だけど、どうした?』
「次のレースなんですけど……」
『……なるほどねぇ、それで俺にアドバイスが欲しいって事ね』

秋華賞、シルキーモーヴ…彼女の事も大事だが、私の事を必要としてくれている人達は多くいる。

「はい、お願いします先輩」

先輩は少し考えてから私にこう告げた。口下手では無いが物事をハッキリと時には残酷な現実を、突き付ける言い方をよくする先輩だがそれは相手を思いやってくれる人なのを私は知っている。

『とりあえず、お前の好きなように』
「えっ」
『だから好きなようにやれよ、お前がしたい事をすりゃいいんだ』

 いつもと同じトーンで淡々としているが、そこには確かな温もりがあった。私はこの先輩が大好きである。そして、この先輩は私がどんな風に走るのか楽しみなのだろう。そう思うと嬉しくなった。そして、改めてこの人が困った時は私が力になりたい、何か手伝いたいと自分の気持ちを再確認できた気がする。お礼を言って電話を切る。今日はなんだか良い気分で過ごせそうだ。


◇◆◇


 好きなように、とは言われたがそれはどういう意味なのだろう。感覚的には分かるのだ、ただ言語化をして理屈にしないとこれから先もやっていけない、そんな気がする。そもそも、好きに走れと言われただけで自分の得意な走り方を押し付けて勝てるほどこの世界は甘くない。いや、厳しいと言うべきか。とにかく自分に出来ることをやるしかないんだ。そう決心してコースに向かうと珍しく彼女が助手さんの指示通りに走っていた。

「シルキー、頑張ってるみたいですね」
「そうだね、調教でも指示を聞いてくれるから助かってるよ」

 調教師さんは笑顔で答える。やはり、馬が素直に従ってくれた時が一番嬉しいのだろう。私も頑張らねば、そう思って気合を入れ直す。彼女の走りを見ていると自分も自然と集中出来る気がする。しばらく、彼女を目で追っているとふと違和感を覚えた。

「……あっ、そっか」

その事に気付き助手さんと調教師の先生に伝えようと振り向くと彼らはまだ会話をしていた。邪魔するのは良くないと思いつつも伝える。

「あのシルキーはきっと溜めてるんですよ。今なら先行策も出来るはずです」

 それを聞いた調教師の先生はニヤリと笑い、更に話を展開する。どうやら、彼女は馬群を嫌う傾向があって逃げ以外の戦法が出来なかった。
しかし、夏を過ぎて初秋の頃には殆どの競走馬は精神が成熟し、内面的な成長が顕著に現れる時期だと言われている。今の彼女にはそういった面の成長が見られており、もしかしたら他の戦法を試せるかもしれないとの事だった。確かに言われてみればその通りだと思う。
今までずっと同じ作戦で戦ってきたのだから急に違う事を本番でしろというのは無理がある。それに彼女自身も限界を感じていたのかもしれない。だとすれば、ここで新たな可能性を見出だすチャンスだ。
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