普通、ファミレスで子連れの男をナンパするか⁈〜Oh,my little boy〜

SA

文字の大きさ
1 / 19

(1)

しおりを挟む
たっぷりのタルタルソースをまとったエビフライがラスボスのように立ちふさがっている。
中原俊哉なかはらとしやは後悔していた。
メニューの中でも一番ボリュームのあるハンバーグ&ミックスフライセット(しかもライス大盛り)を頼んでしまったことに。
「それいらないの?」
向かいに座るさとしが訊いてくる。
「ああ、もうお腹いっぱいになったからやるよ」
俊哉は食べきれなかったエビフライを聡の鉄板皿に乗せる。
「やった。あ、チョコパフェも食べていい?」
同じセットメニューを平然と食べ終え、俊哉が食べきれなかったエビフライまでも頬張りながら、聡はそんなことを言う。
「いいけど、食べ切れるのか」
「余裕」
生意気な返事をする聡に思わず苦笑してしまう。

夕食時のファミレスにしてはそこまで混雑してなかった。
ちょうどこっちに向かって来るウエイトレスを呼び止め、チョコパフェを注文する。
その間にも聡はエビフライを尻尾まで平らげ、唇に付着した油まで舐め取っている。
この分だとデザートのチョコパフェもぺろっと食べてしまうのだろう。
俊哉はこの時、やっと気付いた。
食べ盛りの十二歳の息子と張り合って、同じセットメニューを頼んだことがそもそもの間違いだったのだと。
聡の最近の食事量は、三十代後半になり若い頃より食欲が落ちたのもあるが大人の自分と変わらないくらい、いや、それ以上なのだ。
そんな食欲旺盛な我が息子は水をごくごくと飲んでいる。
その姿に俊哉は思わず目を細めてしまう。
雨水を吸水してどんどん大きくなる若草のように、育ち盛りの聡はすくすくと成長している。
去年より身長が五センチも伸び、足のサイズも大きくなった。
服や靴のサイズがすぐに合わなくなって、買い替えるだけでも大変なのだ。
もちろん子供の成長を喜ばない親はいない。が、反面、寂しい気持ちになるのも親心というものだろう。
ふと頭に浮かんだのは、大きな枕を抱えた五歳頃の聡。
怖い夢を見たせいで一人で眠れなくなり、「一緒に寝よ」と甘えてきた微笑ましい一場面だ。
「覚えてるか?お前が五歳くらいの時、怖い夢を見て、一人で眠れなくなってさ、一緒に寝よって甘えてきて...」
「やめてよ。急になに?」
聡は話を遮り、怪訝な表情を向ける。
「いや、お前も成長したなと思ってさ。今は一人で寝れるし、俺が残したエビフライも食べてくれるし」
「当たり前じゃん。もう子供じゃないんだから」
そんな大人びたことを言う息子に俊哉は笑いながらも、複雑な心境になる。
自立心が芽生え、強がったり、素直に甘えてくれなくなった。
そういう内面の変化も成長の証だと分かっているが、成長すればするほど聡との間に距離ができるようで寂しい。
だが、それが親のエゴであることも分かっている。
そう。
皮肉なことに、未熟な親のために、子供は大人になろうとするのだから。

聡は残りの水を飲み干すと、「来週の金曜日、加代ばあちゃんとご飯食べることになったんだ」と報告してきた。加代ばあちゃんとは俊哉の母のことだ。
「二人だけで?」
「うん。ばあちゃんが知り合いの人にイタリアンレストランの食事券もらったんだって。じいちゃんは和食しか食べないから、それで僕を誘ってくれて」
「俺がイタリアン好きなの知ってるのに、なんで誘ってくれないんだよ」
「だって食事券は二枚しかないし、ばあちゃんは僕とデートがしたいんだって」
「デートか。じゃあ邪魔しちゃ悪いな。金曜ならちょうど一週間後か。二人で楽しんでおいで」
聡の口から「デート」というワードが出て、去年のバレンタインに聡がもらった数えきれないほどのチョコの山を俊哉は思い出していた。
恋人とデートする日もそう遠くはないだろう。
聡はモテるからな。
息子の端正な顔立ちを見つめる。
猫のようなアーモンド型の瞳、筋の通った鼻梁、歯科医をしている自分から見ても申し分のない綺麗な歯並び。両親のいいところを受け継いでいるが、全体的に見れば、やはり母親の華やかな美貌が目立つ。
俊哉の視線に気付いた聡が言う。
「なに?さっきから見てるけど」
「お母さんに似てるなって、ちょっと見惚れてた」
もちろん冗談で言ったのだが、思春期真っ盛りの息子は「きもっ」と眉根を寄せる。
その表情もまたそっくりで、「そのエスっぽいところもそっくりだな。恵理えりに日に日に似てくるような気がするよ」と言ってしまう。
「ばっかじゃないの」
聡は呆れたように笑い、さらっとこう続けた。
「お母さんの魂が僕に乗り移ってるのかもね。そんなことばっか言ってるから、父さんが心配でお母さんは天国に行けないんだよ」

母親が事故で死んでから五年が経ち、聡は普段の会話の中でもそのことに触れられるようになった。
もちろん自分も含めて、冷たい雨が降るあの日の悲しみが消えたわけではない。
ただ五年をかけて、その事実を少しずつ受け入れてきたのだ。
二人で乗り越えてきたのだ。

「そうだな。お母さんも呆れて笑ってるな」
俊哉がそう言うと、「呆れてるよ」と聡もうなずく。
ふふっと鈴の音のような恵理の笑い声が耳元で弾けた。
そう、ここにいる。
あたりきたりの言葉だけれども、「彼女は心の中で生きている」とそう思えるようになったのだ。
それで十分だった。
今この時もファミレスの小さなテーブルには家族三人が一緒に居る。
そう思えるのだ。

「お待たせしました。チョコパフェです」
頼んでいたチョコパフェが来て、聡の丸い頬が緩んだ。隣で恵理もそっくりな丸い頬を緩ませている。
これ以上、なにも望むものはない。
とりあえず幸せだった。
今はただ、家族三人が笑い合っているこの時間を誰にも邪魔されたくないだけ。
他になにもいらないー。

「お、そっちの方がうまそうだな」

大きな声が響いたのは、俊哉が幸福感に満たされたその時だったー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

この変態、規格外につき。

perari
BL
俺と坂本瑞生は、犬猿の仲だ。 理由は山ほどある。 高校三年間、俺が勝ち取るはずだった“校内一のイケメン”の称号を、あいつがかっさらっていった。 身長も俺より一回り高くて、しかも―― 俺が三年間片想いしていた女子に、坂本が告白しやがったんだ! ……でも、一番許せないのは大学に入ってからのことだ。 ある日、ふとした拍子に気づいてしまった。 坂本瑞生は、俺の“アレ”を使って……あんなことをしていたなんて!

処理中です...