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しおりを挟む「まるで赤ちゃんみたいに俺に抱かれたまま寝ちゃってさ。それで、その夜はそのまま一緒に寝たんだけど、久しぶりに間近で息子の寝顔見れて、いやあ、もう、かわいくてかわいくて、思い出しただけでもニヤけちゃうな」
俊哉はそう言いながら、実際、顔をニヤけさせている。そして、浮かれる気分のままマロンパフェをスプーンですくい、口に入れた。その甘さがより顔をニヤけさせる。
「へえ...」
能條はチョコパフェをスプーンでグチャグチャに掻き回しながら、気のない返事をする。
聡とののろけ話が面白くないのか、さっきから返事が素っ気ない。が、のろけたい俊哉はかまわず続ける。
「それからなんだよ。それから毎晩、聡が枕を持って、一緒に寝よって甘えてくるようになったんだ。でも、朝になると、いつものクールな聡に戻ってるんだから、そういうところがまたグッときちゃうんだよな」
「へえ...ツンデレかよ。そう来るか...」
能條は身を乗り出して、「今度は完全に分からせてやる。誰が本当に一番かわいいのかを」と性懲りもなく、聡に対抗意識を燃やしている。
「子供相手に大人気ない喧嘩をするのはもうやめろよな。まったく...」
俊哉は呆れるが、ただ能條にはある意味、感謝している。
「...でも、聡が素直に甘えてくれるようになったのは、対抗心を燃やす相手がいるからかもしれない。だから、これからも時々、喧嘩相手になってあげて」
そう言うと、能條はニヤリと口角を上げ、不適な笑みを返してきた。
まさか、これも?
この男のことだ。どこまで本気かは分からない。
もしかしたら、あの幼稚な喧嘩をしかけたのも計算なのかもしれない。
そう思うのは、少し買いかぶり過ぎだろうか...。
俊哉は向かいに座る男を見つめる。
ぐちゃぐちゃにしたチョコパフェを半分残したまま、「チョコパフェ飽きたな」と呟きながらメニューを開いている。
そういえば、この席だったな、と俊哉は気付く。
この場所で出会い、ここから始まった。
出会う前まで、このテーブルに誰も座らせる予定はなかった。
誰も入り込む隙間なんてなかった。
そう思っていた。
隣の席の男が俺の人生に入り込んできたなんて...。
いや、ほとんど無理やり割り込んできたようなものだ。
後先考えない子供のように。
「やっぱ、そっちの方がうまそうだ」
たっぷりのマロンクリームが乗ったアイスをスプーンですくったところで、能條がこっちに目を向けて言った。
「一口ちょうだい」「あげないよ」が一緒になる。
鈴の音のような笑い声が耳元で弾けた。
[完]
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