異なる世界、鬼説

伽藍 瑠為

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隔絶

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7節「隔絶(かくぜつ)」




NPCのカフェで為心は1人カウンターに座り、デバフ解除で食事を取っていた。



『ヴァイラスとまともに戦うには、あのスピードについて行かなきゃならない。』



為心はヴァイラスとの戦闘を思い返していた。



『…いや、そもそもあのスピードを超えないと話にならないのか。…印加に頼るしかないが、普通に使う事ができるのか……?』



答えが出ない思考にため息をついた。





「…はぁ…。」







「そういえば、聞いた?」



後ろの席でプレイヤーの雑談が聞こえてきた。



「あれでしょ?プレイヤー狩りの話しでしょ?」




『…プレイヤー狩り…?』



為心は耳を傾けた。




「装備奪ってるって話しだよね?こんな状況なのにやめて欲しいよね。」

「本当にそう思う。」

「俺だったら普通に逃げるわ。」





『暇な奴もいるもんだな。』



為心は朝食を食べ終え、店を出た。



「…。」



眩しい日差しに手をかざした。



「とりあえず、フリーステージに行くか。」



思考視点でシステムウィンドウを操作し、転送した。







森で囲われた誰も居ない草原。
中央では時空の歪みが発生し、鬼が出現していた。



「うらっぁあっ!!」



フリーステージは鬼が一定の間隔で出現し、レベル上げなど、多目的に使えるステージだった。
そこで為心は1人、鬼を討伐していた。



「ふぅ…スキルの速度だと、これが限界か…。」



為心は腕を組み、唇に手を当て考えていた。



「スキルも所詮(しょせん)は設定でしかないんだよな…。」



為心はここで何かを閃いた。



「いや……まてよ……プレイヤースキルで…コンボの繋ぎ目を埋めてインターバルをってのもありか……それと今までスキルスタートだったが、スキルの使い所も…。」



為心は設定されたスキルではなく、通常攻撃を駆使して何かできないかと試行錯誤していた。





「…。」



その時、ふと為心は周りを見渡した。



「好き好んでここに来る奴はもうさすがにいないか。」



鬼説(ゲーム)がこの状況になって楽しむ者はいなくなり、ロストを死と捉えるようになった事でここはもう誰も居なかった。



「心魂も使えるようにならないとな…。」


そう口にしながら為心は会長からの言葉が頭によぎり、少し躊躇(ためら)った。


しかし。



「制御してやるよ…。」



為心は笑みを浮かべた。









「…。」
『呑まれちゃいけない……呑まれるな…。』



為心は目を瞑り、心で自己暗示をしつつ、時空の歪みを待った。



『…制御しろ…自分の糧(かて)としろ…。』



目の前に時空の歪みが発生した。
為心は構え、スキルを使う。



「…心魂……」



為心の周りに青緑色の稲妻が激しく音を立てて舞った。


「…印加っ!!」



凄まじい光に丸く包まれ、光は徐々に大きくなって破裂した。





「ギャァァァアアアアッ!!!!!」




双月は腕と融合し、青緑の筋が入ったモノリスで補強され、長い尻尾と角を生やした為心が激しい奇声と共に現れた。

その場から一瞬で消え、距離が空いていた鬼の目の前に移動し、右手の剣を振り抜いた。



「ゥギァッアっ!!」



そのまま遠心力を利用し左手で2匹目を攻撃した。
そして3匹目、4匹目、次々と攻撃を繰り返す度に腕の刀に稲妻が纏う。

そして少し離れたところで時空の歪みが発生した。
そこに向け、為心は溜めた稲妻を斬撃と共に飛ばした。



「ァア゛ガァっ!!」



凄まじい衝撃音と共に時空の歪みは消え、更に現れる鬼を見つけては無差別に殺した。




「ゥギァッアっ!!」
『殺してやる。』



「ァア゛ガァっ!!」
『殺してやる。』



「ギャァアッ!!」
『破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、やめろ、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、やめろ、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、やめろ、破壊、破壊、破壊、やめろ。』



為心は、助ける事のできなかった仲間の拉致と、自分の弱さ故に身代わりになった仲間の死。
その時の忘れかけていた感情を今、目の前に起きた時の様に味わっていた。

己の弱さ、悲しさ、悔しさ、醜さ、残酷さ、怒り、その感情に押し潰され、力を制御するどころではなかった。



『破壊、破壊、憎い、破壊、殺す、やめろ…憎い、破壊、破壊、殺す、憎い、やめてくれ…憎い、破壊、破壊、殺す、破壊、憎い、憎い、破壊、殺す、殺す殺す、殺す、もう、やめろぉぉおおおっ!!!』



必死で感情に理性で抵抗した。
しかし為心の攻撃は止まらない。



『殺す…違うっ!…破壊…違うっ!憎い、…違うっ!破壊、やめろっ!』



精神の中はまるで主導権の取り合いの様になっていた。




「ァア゛ガァっ!!」



為心は暴れ狂い、無限に出現する鬼を殺しつづけていた。








その時。


「…心魂…累減(るいげん)…。」










突如として為心に向かって紅色の稲妻を纏った大きい光の玉が衝突してきた。




「ギャァアッ!!」



為心は瞬時に玉(それ)に気づき、腕の双月をクロスさせ止めた。
しかし、凄まじい力に為心は後方へと押されていく。



「…お前がその力を手に入れたか…。」

光の玉から声が聞こえた。




『破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、誰だ?、破壊、破壊、破壊、破壊、話しか、破壊、破壊、けている、破壊、のは、破壊、破壊、誰だ?、破壊、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す。』



為心は負の感情に精神を奪われそうになる中で微(かす)かにその誰かを認識していた。



「…神氣(じんぎ)…漸減(ぜんげん)っ!!」



その時、上空から広範囲で一筋の光が凄まじい勢いで為心に落ちた。



「ァア゛ア゛ア゛ァアアァアアアァアッ!!!!」



衝撃と共に為心は悲鳴を上げた。



「…解(かい)…。」



その言葉を堺(さかい)に光は収縮し、為心は元の姿でうつ伏せに倒れていた。



「はぁ…はぁ…はぁ。」



為心は印加で消耗し、動く事さえできなかった。



「コイツを回復させろ。」



すると、為心の倒れている地面に魔氣の魔法陣が生成された。



「っ!!」


少し回復した為心は跳ね起きて双月を構え、そして今の状況を確認した。



「…。」



目の前にはノーネームとナリムが立っていた。
為心は2人を見て口を開いた。



「あんた達か……助かったよ。」



そう口にしつつ為心は刀鞘に収めた。
そして、ノーネームが口を開いた。


「その力(システム)を使いこなせていない様だな。」

「システム?印加のことか?」

「そうだ。」

「…。」


為心は黙り込んだ。
それに対してノーネームが口を開いた。


「お前には扱えないかもな。」

「なんだと?」


その言葉に為心は苛立ちを見せた。
ノーネームは言葉を続けた。



「俺が観測した時にはお前に心魂は発生しない予定だった。」

「っ!?…どういう意味だ…?」



ノーネームの言葉に為心は驚ろきを見せた。



「その心魂は、元はお前のじゃない。」

「さっきから訳わかんねぇ事言ってんじゃねぇぞっ!!この心魂はあたしの力だっ!!この力であたしがヴァイラスを殺すんだっ!!」

「っ!?」



その名にノーネームとナリムが表情変え、ナリムが為心に聞いた。



「為心さんその名前をどこで?」



しかし、為心は印加の影響でまだ仲間を殺された感情のままだった為に、殺気を放って言葉を口にした。


「あんたらアイツの居場所を知ってんのか!?…教えろっ!!アイツはどこだっ!!あたしがアイツを今すぐ殺すっ!!」



為心はまた双月を取り出し、戦闘態勢に入り、力づくで話を聞き出そうとした。
それを見てノーネームが口を開いた。



「…話にならない…」



ため息をつき、続けて言葉を発した。



「…その答えを知りたいなら俺に勝ってみろ。」



ノーネームも双月を出し、戦闘態勢に入った。



その光景にナリムが口を出した。


「ノネムさんよろしいのですか?…こんな事してる場合じゃ…。」



それに対し、ノーネームは。




「構わん。…いずれコイツには手伝ってもらわなきゃならんからな。」

「わ、わかりました。」




為心が口を開いた。



「話はおわったか?」

「あぁ。待たせたな。」

「テメーらには聞かなきゃならないことが山ほどある。きっちり教えてもらうからな。」


「俺に勝てればな。」




「いい加減…」


為心は限界まで屈んだ。


「…黙れよっ!!」


その言葉と同時に為心はスキルを使わずにノーネームに向かって全速力でただ走った。





「貴様、やる気はあるのか?」



ノーネームもそれを見て呆れた。

しかし、為心は解っていた。
彼はこの鬼説(ゲーム)でランキング1位の男。
長い戦いになれば勝ち目など無いと。
だから為心は考えた。
プレイヤースキルを駆使しつつスキルの出しどころを。
その最初の一手でしか勝機がないことを。



「やる気満々だ!おぉぉりぁぁああっ!!」



為心は左側の刀を大きく振りかぶり、振り下ろそうとした。
ノーネームもそれを受けようと腕を上げた。
剣と剣が接触するその瞬間だった。


「閃光っ!!」


為心は左の大振りを遠心力に使い、プラスで閃光を使う事でスピードをブーストさせ、一瞬で背後に周りながら右手の刀を裏持ちに変えた。
そして、ノーネームの背中に目掛けて攻撃を繰り出した。
ここまでの一連の流れは余りにも速く、誰もが見えていなかった。




「とっだぁぁああああっ!!!!!」

「神氣…漸減。」


誰もが為心の勝ちだと思った。
しかし、為心の攻撃は空を切った。



「なにっ!?」



為心は驚きを隠せなかった。



ノーネームは距離を取り、双月を閉まった。
それを見て為心も最初の一手で決められなかった時点で勝ち目は無いと悟り、双月を閉い、口を開いた。



「何をした?」



ノーネームが答えた。



「心魂には続きがある。…それが神氣(じんぎ)だ。」

「神氣?」

「そうだ。それを解放しないことにはお前の印加は使い物にならないだろう。」

「なるほど。でもあたしは負けた。聞きたい事があるならさっさと聞いてくれ。」

「そうさせて貰おう。だが、俺もお前を侮(あなど)っていた。…神氣がなければ間違いなくあのタイミングでやられていた。」

「それはどうも。」

「気が変わった。俺もお前が知りたいことを教えよう。だが、教えられる範囲でた。」



ノーネームがそう言った時、近くにいたナリムが口を挟んだ。



「ノネムさん!それは!?まず……!?」



ノーネームは手を翳(かざ)し、ナリムの言葉を遮(さえぎ)った。



「じゃー聞かせて貰おう。…ヴァイラスはどこにいる。」

「奴は基本的にクエストのデータ内を移動しているはずだ。…そしておそらくストーリークエストのボス手前の部屋を拠点としている。」

「なるほど。そこまで行かないとこっちからは仕掛けられないのか。クッソ…。」



為心は苛立ちを見せた。
その苛立ちはストーリークエストにあった。
この鬼説(ゲーム)はレベルの到達によって新しいストーリーを体験する事ができる。
しかし。
為心のレベルは今現在97レベルで、ヴァイラスのいる所にここから向かうにはレベルを100にしなくてはならなかった。



「どんなに頑張っても100まであげるのに一週間以上はかかるじゃねぇか。」



そんな為心にノーネームが口を開いた。



「そこでだ。…俺と来る気はないか?」

「どういう意味だ?」

「俺の今現在のレベルは99。後数日待てば100だ。…俺も奴を抹消しなければならないからな。」

「なるほど。そういうことか。100レベルのあんたとならストーリーが進められるっていいてぇのか?」

「そうだ。」

「ちっ…。」



為心は迷った。
ヴァイラスは確かに重要だが、一人で戦いに行くことに拘(こだわ)っていた。
何故なら、為心はもうこれ以上自分の弱さで仲間が死ぬ事を嫌い、クランを抜けたからだ。



「少し考える。その返答は待ってくれ。」

「わかった。他にはあるか?」

「この鬼説(せかい)はいったいどうしてこうなった。」

「それは答えられない。」

「何故(なぜ)だ。」

「それを答えればここを出る事が出来なくなる。」

「なるほど。ここを出る方法は一応はあるわけだ。」

「…。」

「なんでだまる?」

「いや。…他にはあるか?」

「心魂があたしのじゃないってどういうことだ?」

「俺が最初に観測した限り、お前には心魂は発生しないはずだったのだかな。…あの幼女はどうした?」



その言葉に為心は顔を落とし、少し間を空けてようやく言葉を押し出した。



「……………死んだよ。」

「その時、1番近くにお前がいたのか?」

「あぁ…あたしが最後を見取った。」

「なるほど。…その心魂はその仲間の力だ。」

「っ!?」



為心は驚きの表情を浮かべた。
続けてノーネームが口を開いた。



「恐らく、1番近くにいたお前に移動したんだろう。」

「……ちく…ちゃんの……力(ちから)…。」

「お前は守られていたのでは無いのか?」

「…?」

「その力(ちから)に……いや、その仲間に。」

「…え…?……ちくちゃんに…守られてた…?」



思い返せば意識のない中、戦っていたのは自分では無かった。
思い返せば印加を怒りの力と思っていたのは自分の感情だった。
仲間を殺され、拉致され、自分の弱さを隠し、印加に頼り、ヴァイラスを殺すと決めたのも、全て自分だった。
為心はこの時、印加の印象が破壊する力では無く、輔翼(ほよく)する力なのを理解した。



「…ちくちゃん…ごめん…あたし…正しく使えて…いなかった…。」


為心は震えるほど拳を握った。
自分の弱さの所為(せい)で勘違いをし、間違った使い方をし、まるで仲間を自分が汚していた感覚。
涙を流せればどれだけ感情が楽になるだろう。
どれだけ謝れば許してくれるのだろう。
もう今は亡き仲間を思い為心はただただ拳を力一杯握った。




しかし、その時だった。




ここは数字の羅列(られつ)によって作られた世界。
データで設定された世界のはずだった。

しかし為心は。






「…え…?……涙…?」






泣いていた。







「ちくちゃん…ごめん…。」


大粒の涙が頬を伝い、顎から地面へと落ちた。
その時、地面に落ちた涙から急に為心の足元で魔法陣が生成された。




「…え……?」




魔法陣は優しく発光し、為心の身体を淡く包み込み、浸透して光は消えた。
そして、為心の視界に「神氣開放」の文字が浮かんだ。



「…っ!?…神氣……律加(りっか)…?」



その言葉を聞いたノーネームが口を開いた。



「どうやら開放したようだな。」

「…。」



為心は考え、答えを出した。



「…あんたについていくよ。ヴァイラスを倒すにはあたしだけじゃ不可能なのはわかってた。でも、あたしがやらなきゃいけないってどっかで思ってた。同じ目的なら…あたしに協力してくれ。」

「それはこっちも同じだ。…他に聞きたいことはあるのか?」

「…いや……ヴァイラスを倒せば全ては丸くおさまるのだろう?」

「そうだ。」

「ならあんたは早急にレベル100にしてくれ。仲間が1人拐われたままなんだ。」

「っ!?…今、なんて言った?」



ノーネームは為心の発言に驚き、もう一度聞いた。



「仲間が1人ヴァイラスに拐われたんだ。」

「……拐われたのは誰だ?」

「仲良くしてたプレイヤーの「ちゃま」って幼女だ。」

「…。」



ノーネームは深く悩みあぐねいていた。

「なにか、まずいのか?」

「ヴァイラスを倒す上で、そのプレイヤーの心魂が唯一の鍵だったんだ。強いて言えば前に死んだ「ユナ」の心魂も本当は必要だった…クソ…全てが狂った…。」

「っ!?」

「いや…無いものはしょうがない。しかし、急を要する事態になった。急げば間に合うか、もう遅いか。助けるにしろ、早急に向かうしかないな。」



ノーネームの言葉はさらに続いた。



「為心だったか?…お前の仲間だったリタと、会長に声をかけろ。…もう勝つ方法はあの2人に頼るしかない。一応会長にはあらかじめ事情は伝えている。」

「わかった。」

「頼む…。ナリム行くぞ。」




ノーネームは大体の話が分かり、先を急ぐ為、その場をナリムと後にした。





✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎





繁華街の裏路地で3人の男性が屯(たむろ)していた。



「おいみろよ!このレア装備っ!めっちゃいい感じじゃね!?」

「さっきのアイツいいのもってたもんな!俺にも寄越せよっ!」

「騒ぐなっ!また狩ればいいんだから!」

「そうだな、次どれ狙う?」

「お!ちょうどむこうから歩いてくるアイツにしようか!」



路地の奥の方から黒い服で包まれ、フードを深く被った少年が歩いてきた。



「なぁ!坊主!止まりなよ!」


「…。」


「ここら辺はプレイヤー狩りがいるから気をつけた方がいいぞ!俺たちがついてってやろうか!?ぁあ!?」


「…。」


「なんだ!?ビビッて声もでないか!?しょうがないなー!おら!あそこの角曲がればすぐだ!こっち来いよ!」



少年は誘導されるがまま角を曲がったが、目の前は行き止まりだった。



「あっははははは!!」

「余りにも騙されすぎじゃね!?こいつ!?」

「いい装備持ってそうじゃん!」



少年が振り返れば出入り口は3人に固められていた。




「…。」


「全て置いてけば悪いようにはしない。全部出しな?」



少年がようやく口を開いた。



「…クズで本当に助かるよ。」

「あ?今なんつった?」

「クズで本当に助かるって言ったんだ。…リタって名前は知らないだろうけど、本当のプレイヤー狩りは目が蒼い銀髪の少年だって知らないのか?」



フードを取った少年の目は淡く蒼いライトエフェクトが立っていた。




「こいつっ!?本物の!?」


「もう……」


リタは背中の刀に手を掛け、限界まで屈んだ。



「おそいんだよっ!!」


その瞬間凄まじい速さで3人に斬りかかった。
余りにもリタの優勢に闘いは呆気なく終わった。



「か、勘弁してくれ……。」


「一つ聞く……ヴァイラスを知ってるか?」

「知らないっ!知らないようっ!!」

「チッ、ハズレか。」



リタはヴァイラスが探している人物を探していた。
さらに探しながらプレイヤーとの戦闘で経験値を培(つちか)い、ヴァイラスとの戦いに備えていた。



「最近、弱い奴らばっかじゃねぇか。」 



そう口遊(くちずさ)みつつ、その場を後にし、さらに奥の路地へとしばらく歩いた。



「主はてっきり落ちぶれてるかと思ったのじゃがのう。」


突然、通り過ぎた死角の路地から声が飛んだ。
しかし、話し方でリタは誰かわかっていた。




「何しにきた。」

「強い奴を探しとるのじゃろう?……どうじゃ、ワシなんか適任ではないかの?」

「もうあんたより強い自信しかないけどね。……やる?ここで……今。」

「吠えるのう。」



2人の間には沈黙が続いたが、既に読み合いは始まっていた。



「…。」

「…。」



そして、最初に動いたのはリタだった。
言葉を発しながら太刀の柄を持ち、突進した。



「最初に俺が動かねぇとはじまんねぇよなぁあっ!!」

「じゃろうな。」



2人の距離はギリギリまで詰まった。



「絶っ!!」



会長がシールドを張った。
しかし、リタは攻撃に転じず、フットワークで切り返し、シールドが張られていない後ろ側へと回り込んだ。



「ま、そうなるじゃろぅと思ったわい。」



リタの後ろからの攻撃に会長は前へと転がり、リタの一太刀目の攻撃は空を斬った。

会長が態勢を立て直そうとリタを確認したその時にはもうリタの瞳には淡く蒼いライトエフェクトが立っていた。



「いやらしいのう。」



会長はそのままさらに後方回転(ばくてん)で大きく後方へと移動した。
リタは構え直し、そして口を開いた。



「対峙して初めてわかるよ。あんたの心魂とお互い相性が悪いなっ!」



またリタが斬り込みにかかった。
リタにはこの時、会長の絶からの挽回と、太刀でただ受け止める先の未来が見えていた。



「……これなら余裕じゃん!」



リタにとっては、絶でもただの受け止めでもどちらでも良かった。
二手目にくる挽回さえ回避してしまえばなんとかなるとそう思っていた為に、リタは一手目をお取りに使った。



「おらっぁああっ!!」



敢えて、一手目を大袈裟に振りかぶり、会長の絶を誘い込んだ。



「絶っ!!」



見事に会長は絶を選んでしまった。
リタの刀身が絶に当たると同時だった。



「挽回っ!!」



会長は挽回のタイミングをピンポイントで発動した。その差はコンマの世界での発動の速度だった。



しかし。



リタは刀身を当てながら斜め右下にスライディングで移動していた。
会長の挽回はリタには届かなかった。



「っ!?」

「あんたの負けだ会長っ!」


リタは反転し、体を翻(ひるがえ)しながら下から上に斬り上げる攻撃を繰り出した。


「くっ!!」


会長は見事にリタの攻撃を受け、後方へと転がり態勢を立て直した。



「しくじったのう。」

「まだやるか?会長さんよ。」

「これはちとピンチじゃのう。」



そう言いながらも会長は笑っていた。



「随分と余裕そうじゃん。」

「ワシにはまだ取って置きがあるのじゃ。」

「へぇ。」

「リタよ。この闘いでワシが勝った時はワシとヴァイラスを一緒に討ち取ると約束してくれるか?」

「今負けてるあんたについて行くと思うのか?」

「そうじゃ。逆を言えば相手が身計れないほど、お主はまだ弱いと言うことじゃ。」

「良く言うぜ。この状態から勝ってみろよ。」

「そうさせてもらうかの。」

リタと会長は構え、そして、会長が奥の手を見せた。




「……神氣……起死回生。」



会長がスキルを使用した瞬間、下から風圧が巻き上がるようにオレンジ色のライトエフェクトが会長を包み始めた。

それを見てリタが驚いた。



「おいおい…なんだよそれ……。」



リタは会長を見て苦笑いを浮かべた。



「これか?ワシも知らぬ。」



会長はそう言って笑みを浮かべ、言葉を続けた。



「まっ、強いて言えば責任かの?尻拭いはせんとな。それをワシは本気で決意したのじゃ。」

「なるほど。なんとなくわかった気がするよ。」









「行くぞ、リタよ。」







そして、会長が本腰を入れて構えに入った。























しかし。







「……まいった。」

「っ!?」

「主!今なんと!?」

「参ったって言ったんだよ。」



会長はスキルを解いた。



「なぜじゃ?主は戦ってみないと分からないって言うタイプではなかったか?」

「あんたのその神氣ってやつ…先が見えなかった…勝ち目がなかったんだよ。」

「もっと骨が折れるかと思っとったが、なんか拍子抜けじゃのう。」



刀を終(しま)いながら会長は言葉を続けた。



「どじゃ?さっきの話しはよろしいかの?」

「あぁ、強い奴は大歓迎だ。」

「なら、主も神氣を開放せんとな。」

「俺にも神氣があるのか!?」

「恐らくな。しかし、どう開放するか分からん。練習で開放できるものでもなさそうじゃ。」

「……チッ……ま、そんだけの力ならそうか。時間が惜しいから適当にまた開放するよ。」

「主も安易(あんい)よのう。」

「お互いだろ。」


その時。


会長とリタの目の前に転移のライトエフェクトが現れた。
そこから出てきたのは為心だった。


「あれ?リタも一緒か!」



会長付近に転移した為心はリタもいることに驚いた。



「久しいの為心よ。ちょうど主のところにも行こうと思っとったが、その様子だと名無しに会ったか。」

「さすが会長。話し早いね。」



続けて為心はリタを見て言葉を口にした。



「リタ。後、数日でヴァイラスを撃(う)ちに行く。お前も来い。ちゃまを助け出せるかも。」

「俺はあんたが1番落ちぶれていると思ってたけど。そうじゃないみたいだね。安心したよ。元リーダー。」

「俺?今、俺って言ったか?」

「っ!?」



リタは自分が俺と言っていることに驚いた。
それについて会長が口を挟んだ。


「2人とも自覚がなかったのじゃな?この世界で心魂を使えば使うほど記憶が消える。そして、ゲーム上のキャラクターイメージその物に変わっていく。リタは俺になり、為心はあたしに変わっておろう。」

「っ!?」



為心も気づいていたかった為に驚いた。
さらに会長の言葉はつづいた。



「…もしかしたらそれを代価に力を使っているのかもな。…ワシだってさすがに「じゃ」とか「ワシ」など現実のリアルで使っている筈はない。…ま、もう大分思い出す事が出来なくなったがな。」

「…。」

「…。」



少し間が空き、為心が口を開いた。



「奴を倒し、すべてを終わらせるしかない。」



リタが決意する。



「次は勝つ。」



会長が口を開いた。



「各々準備といくかの。」





3人の隔絶(かくぜつ)していた関係は無くなり一つになり始めていた。




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