異なる世界、鬼説

伽藍 瑠為

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真実とクオリア

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8節 「真実とクオリア」



学院の中央広間で5人は集まり、ノーネームが口を開いた。

「準備は出来たな?」

それに対し、会長が口を開いた。

「何が起こるか分からないのじゃ。その時出来る対処で頑張るしかないのう。」

その言葉に全員が顔を見合わせ頷いた。

そして、ノーネームは思考コマンドでストーリークエストを選択し、その場の全員が転送のライトエフェクトに包まれて消えた。



ストーリークエストで移動したフィールドは草原だった。
更に目の前には赤く染まる森へ向かう一本道があり、
更にその奥には赤く染まる山があった。
それを見てノーネームが口を開いた。

「ここのストーリーの最後は学院の校長の娘が拐われた為にそれを助けに行き、ラスボス鬼絶王を倒す事になっている。そのギリギリまでストーリーは進めておいた。…おそらく奴(ヴァイラス)はあの山にいる。」

それを聞いた会長が口を出した。

「ワシらもちゃまを助けに行くのじゃ。スートリーもワシらもなんら変わらないのう。」

「あぁ……俺もな…。」

ノーネームは最後の言葉を誰にも聞こえない声で口遊んだ。

「ん?名無しよ。なんか申したか?」

「いや。何でもない。…行くぞ。」

ノーネームの後を皆は続いた。
その時ナリムだけがノーネームを見て顔を歪ませていた。

そして、しばらく道なりを歩きながら会長が口を開いた。

「そろそろ教えてもらおうかの。」

それに対しノーネームは。

「なにをだ?」

「色々じゃ。」

「……必要か?」

「戦う意味はもう既にある。しかし、納得はしておらん。」

「わかった。」

ノーネームは話し始めた。

「まず、この俺たちの行動は奴には見られてる筈だ。…おそらく、何かしら準備をして待っているだろう。…それに奴が探していた人物は俺で間違い無いだろう。」

両手を頭の上に組み、歩きながらリタが口を開いた。

「やっぱりか。薄々そうだとは思ってたよ。」

そこで為心が口を開く。

「そもそもヴァイラスはなんなんだ?この鬼説(ゲーム)との関係はあるのか?」

「……その話をするには少し説明が必要だな。」

ノーネームは悩んだ挙句(あげく)、リアルでの出来事から話し始めた。

「……俺とナリムは日本政府直下の脳科学研究施設に所属している。この話はトップシークレットだが、お前らには話していいだろう。」

ノーネームの話しは続いた。

「俺はそこで脳の研究をしていた。脳に残る記憶をデータ化する物だ。」


「っ!?」


ナリム以外のその場の全員が驚いた。


「俺は……実験体…」

ノーネームの話しが途中で止まった。
それを見てナリムが言葉をかけた。

「ノネムさん無理はしないで。」

「いや、すまない。……俺は験体1人をそれに成功させた。しかし、ある時その研究の最中に日本政府のサーバーにサイバーテロが起こった。ハッキングやボットやパスワードスティーラーなど、ありとあらゆる攻撃を受けた。しかし、日本政府のスパイウェアの研究機関からの働きで大した事態にはならなかった。だが、それはカモフラージュでしかなかった。」

そこでリタが口を挟んだ。

「やられたんだね?」

「そうだ。…気づかぬ間にウイルスが入っていた。そして、そのコンピューターウイルスの分析の結果は他国が開発した兵器なのが判明した。」

為心が聞いた。

「兵器?」

「人工知能を備えたウイルス兵器だ。」

「っ!?」

リタがそれを聞いて驚いた。

「そんなことが可能なのかっ!?」


「現に奴が存在している。」


「はっ!?じゃーあいつはウイルスってことなのかっ!?」

「あぁ。人工知能のウイルス兵器だ。自分で考え、学び、成長する。」

ノーネームは為心達に聞き返す。

「奴は自分のことをヴァイラスと言ったのだろう?」

為心が答えた。

「ヴァイラスと言っていた。」

「ウイルスの別表記でビールスとも言うがその中でヴァイラスが存在する。…奴も自分がウィルスだと自覚してヴァイラスを名乗っているのだろう。」

ノーネームは更に言葉を続けた。

「奴に対し、政府のスパイウェア研究機関などが、ワクチンやありとあらゆる方法で対処してはいるが結果、早急な物ではどれも奴には効かなかった。」

会長が口を開いた。

「となるとお主には関係ない話しでは無いのか?」

「いや…成長を続けるウイルスに対し、こちらも人工知能型のワクチンも考えたが、時間がかかる上に日本にはまだそこまでの技術は存在しない。…だから俺のところに話が舞い込んできた。」

そこでリタが口を開いた。

「人間の脳か。」

「そうだ。」

為心が言葉を挟む。

「どういうことだ?」

リタが説明した。

「成長出来て、撃退可能で、直ぐに用意出来る物……要するに今の俺らってことさ。」

「っ!?」

為心は驚き、歩いていた脚を止め、更に苛立ちを見せて言葉を発した。

「じゃ…ちゃまが拉致され、他のプレイヤーや佐藤さんや……ちくちゃんが死んだのも……お前の所為ってことかよっ!!」

リタも為心に便乗した。

「そうなるな。あんた…覚悟は出来てるんだろうな。」

しかし、そこで為心達に対し、ナリムは苛立ちを見せながら横から口を出した。

「ちょっと待ってくださいっ!ノネムさんだって……」

そこに会長が遮った。

「待つのじゃっ!まだ名無しの話しは終わっとらん。最後まで聞いてからでも遅くはないっ!」

3人は沈黙を選択し、ノーネームが口を開く。

「すまない、助かる。」

ノーネームは会長に礼を言い、話を続けた。

「……お前たちの言い分は間違い無い。……本当にすまないと思っている。」

ナリムが悲しく口遊む。

「ノネムさん……。」

「いいんだナリム……本当の事だ。」

ノーネームの話しは続いた。

「話しを戻そう。俺が研究していたのは脳の記憶だ。だから人間の脳を使う為、話が来た。…政府は人工的に作る脳は間に合わないとなり、元々存在する人間の脳をデータ内に入れ、抹消する事を考えた。わかりやすく言えばダイブみたいな所だ。しかし、実際に意識をデータに入れる事は困難だった。」

ノーネームは遠くを見ながら悲しい顔で言葉を続けた。

「脳に直接プラグを接続し、管理しなければならないからな。…政府は死刑囚たちを使い、幾度となく命を使った。……もう既に何十人もの命と引き換えにこの状況が成り立っている。しかし…ダイブは成功しなかった。」

それを聞いてリタが驚きを見せた。

「ダイブじゃない!?ダイブしてないとしたら俺らはいったいなんなんだ?」

それにノーネームが答える。

「命を犠牲にした結果、辿り着いたが、もっと早く考えていれば命を使わずに済んだのかもな…。政府は脳の人格の部分「クオリア」のデータ化に成功したんだ。」

為心が口を挟んだ。

「…クオリア?」

「クオリアとは人格や、意識、脳そのもの、そして魂、更に21グラムの何かとも言えるだろう。」

ノーネームは一つ深呼吸を入れて口を開いた。

「わかりやすく言うならお前たちは現実(リアル)の人格のコピーデータだ。」

「っ!?」

その言葉に3人は驚いた。
その中で為心が口を開いた。

「ちょっと待てよっ!じゃー現実(リアル)のあたし達はどうなっているんだ!?」

「生きている。何事もなく日常を送っているはずだ。」

「……本物は生きてて……あたし達がコピーデー…タ…。」

信じがたい真実、受け入れがたい現実、そして、突き付けられた状況に理解の処理が追いついていなかった。
その中で為心が堪え難い感情を乗せ、言葉を発した。

「じゃぁ何故、あんたはさっき謝った……ダイブだと仮定してた時にあんたは間違い無いと言ったっ!なんであんなは謝ったんだよっ!」

ノーネームは顔を伏せて言葉を口にした。

「悪魔でも……君たちはデータだ…しかし…本物の人格だ……クオリアのデータだとしても…俺が今、こうやって会話をしている君たちは人間と何も変わらない……。この鬼説(せかい)での出来事は全て俺の責任だ…。」

ノーネームは思い詰めていた。
そこでリタが言葉を口にした。

「とんでもない事やってくれたな…。」

「…。」

ノーネームからの言葉は返ってこなかった。
為心が言葉を口遊む。

「あたし達は偽物…?」

為心はまだこの状況を受け入れられなかった。
それを見ながらリタがノーネームに言葉を発した。

「ちなみにヴァイラスを殺せなかったらどうなる。」

「…おそらく…現実の世界……日本で戦争が起きる。」

「なんだって!?」

3人は驚き、その中で会長が言葉を挟んだ。

「待て待て待て待てっ!何故そうなるのじゃ!?話が大きくなりすぎてる!」

「ヴァイラスは兵器だ。それが日本政府のサーバーの中にいる。奴が今より成長した場合は核兵器の操作、日本の防衛機能、無人戦闘機の操作、ありとあらゆる手段で戦争を起こすことが可能だ。それに、日本政府が世界に伏せている機密情報なども漏れればそれでも戦争になりかねない。そうプログラムされているはずだ。」

ノーネームは一度沈黙を入れて言葉を口にした。

「この鬼説(ゲーム)は遊戯(ゲーム)では無いんだ。」


「…。」

勝手な重すぎる重圧、そして責任、託された日本国民の1000億人以上の命を背負わされた3人は言葉を口にできなかった。
その3人を見てノーネームはまた謝罪をいれた。

「本当にすまないと思っている。お前たちが降りると言うのなら構わない。俺はやれるだけの事をやるだけだ。」

その言葉に為心は自分が今は亡き仲間のちくちゃんに言った言葉を思い出した。

「やれるだけのことか……。」

為心はもしかしたら今の自分は自分自身が1番成りたくなかった無責任な人間になっていたのかも知れないとノーネームの言葉を得て思った。

リタが口を開いた。

「そもそも、何故そんな危険(ヴァイラス)が鬼説(ここ)にいるんだ?」

リタの質問に返した。

「データ上で奴を探すことが困難だったのもあり、何処かへ誘導し、隔離する必要があった。それに、奴と戦うためには俺たちにも何かしらの攻撃が出来る設定が必要だった。」

「なるほど。毒(データ)には毒(データ)をか。…しかし何故、鬼説(ここ)にした?」

「奴は今成長仮定にある。…自分の成長の為にたくさんの人格に興味があったのが分かった。…その規模のデータを構築する時間は無かった。しかし、その時この鬼説があったと言うわけだ。」

それを聞き会長が口を出した。

「しかし、それなら訓練された者に鬼説をプレイさせれば良かったのではないか?」

「もちろんそれも既に考えられていた。しかし、データの世界に対応できる脳はデータの世界にどれだけ関わって来たかが需要になった。」

「どう言うことじゃ?」

「ここはデータの世界だ。ここでの行動は全てが数値化され、計算され、結果が既に存在する。簡単に言えば訓練された者は既に結果が存在し、数値化され、反映されている。」

「なんじゃか難しいのう。要するに現実(リアル)で培(つちか)った物は鬼説(ここ)では役に立たないってことでいいんじゃな?」

「その解釈でいい。」

ノーネームの話しは続いた。

「現実(リアル)でどれだけ遊戯(データ)の世界に触れてきたか、どれだけ体感してきたか、…更に攻略や、考え方、穴の見つけ方、その様々な社会的に必要の無い事が今回のこの状況はとても重要だった。」

それを聞きリタが言葉を挟んだ。

「要するに社会不適合者、又はゲーマーが必要だったのね。」

「悪く言えばそうなるな。しかし必要なのはそれだけでは無かった。鬼説の設定を借りた事でゲームステータスも関係してきた。…少なからずここにいるメンバーはランカーである必要があった。」

それを聞いて会長がノーネームに聞いた。

「そもそも、ワシらでなきゃならない理由は無さそうに聞こえるが。」

「選定はランダムではあるが適合者を探す必要もあった。鬼説(ここ)を始めた時に質問を受けた筈(はず)だ。」

「あ!あの謎の質問か!?」

「そうだ。あの答え方から選定し、奴と戦うためのシステムを入れた。それが心魂だ。」

「なるほどのう。しかしシステムを入れられるならもっと一発で倒せるシステムは無かったのか?」

「それも既に考えられていた。しかし、それも数値化された上での物に過ぎない。無数値化、いわゆる結果がわからない物も作るしか無かった。」

「なるほど…それが神氣じゃな?」

「そうだ。見事に心魂は神氣へと進化した。ここでは未知の可能性がとても重要なんだ。」

そこでリタが口を挟んだ。

「選ばれるべくして選ばれたのか。…まぁ、そういうのは嫌いじゃないけどね。…ただ荷が重すぎるけど。」

為心が疑問を投げかけた。

「そういえば、どうやって現実(リアル)のあたしたちからクオリアを入手したんだ?」

「エリア51機関に協力を要請した。」

「エリア51?」

「デバイスを持つ地球上の全ての人間の情報はエリア51が一括で管理している。その情報を元にし、更にデバイスから瞳の水晶体を媒介(ばいかい)にした特殊な光を使ってクオリアの情報を取った。」

「あの光の事か。」

「そうだ。」

そこでリタが唐突に言葉を発した。

「ちょっと待てよ。要するに現実世界の俺ら自身を助けるのはわかった。しかし…俺らはいったいどうなる?」

「…。」

ノーネームからは言葉が返ってこなかった。
さらに為心が口を開く。

「そういえばあんた前に言ったよな?真実を教えれば出れなくなるって。」

「…。」

ノーネームは沈黙のままだった。
リタが予測の範囲で言葉を発した。

「デリートされんだな?」

それに対して為心が反応した。

「はっ!?それって死ぬのと一緒じゃねぇか!!」

「…。」

ノーネームは口を開くことができなかった。
そこでナリムが横から入ってきた。

「それでも…ここで奴を倒さないと現実世界のあなた達が死ぬことになるんですよ?」

その言葉にリタが返した。

「俺はリアルの自分が死のうが構わない。俺は今のリタが俺だからな。」

その言葉にナリムは驚いた。

「あなた何を言ってるかわかってるんですか!?この戦いは家族や、世界を守るためでもあるんですよっ!?」

「別に戦わないとは言っていない。俺は姉が拐われているんだ。…奴は必ず殺す。」

「…。」

リタの無責任な発言は被害者であるリタにとって当たり前の言葉だった為にナリムは言葉を返せなかった。

そこで会長が言葉を発した。

「名無しよ。他にワシらに話しておかなきゃらない事はないか?」

「…。」

ノーネームは少し考えてから言葉を口にした。

「無い。」

この世界の状況を聞いた全員は複雑な気持ちで足を運んでいた。
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