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運命を可能性へ
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13節「運命を可能性へ」
ノーネームは凄まじい斬撃を繰り返す。
しかし、斬撃(それ)をヴァイラスは簡単に弾き、そして避け、まるで遊んでいた。
「ナリムっ!ブーストっ!」
「水浄化っ!」
魔氣(まぎ)スキル水浄化でナリムはノーネームのステータスを一時的に上げた。
それに対しヴァイラスは言った。
「ほう?ステータスを上げたか…なら…私も少し力を入れよう。」
「っ!?貴様は遊んでると言うのか?」
ノーネームは驚いた。
そして、ヴァイラスは答える。
「ん…そうだな…待っているって所かな…。」
「何をだ!?」
ノーネームが力一杯に両手の融合した双月で振り下ろした。
しかしヴァイラスはそれを素手で受け止めた。
「それは…お楽しみだ。」
人間の顔では表現出来ない程の笑みをヴァイラスは見せた。
「くそっ!」
『奴の掌の上だと言うのか…。』
ノーネームは捉えられていた両腕を振り解き、更に斬撃を開始する。
しかし、ヴァイラスは無様なノーネームを見て歓喜した。
「いいぞ…私を楽しませろぉ!」
その時。
「水光弾っ!」
ナリムが光の水の玉をヴァイラスに向けて放った。
しかし、ヴァイラスは水光弾(それ)を軽々しく交(か)わす。
「チッ…邪魔だな…。」
ヴァイラスはナリムに向かって手を翳(かざ)した。
それにノーネームも気づいた。
「っ!?」
瞬時にヴァイラスに目掛けて攻撃を繰り出した。
「閃光っ!」
凄まじい速度でヴァイラスに詰め寄り、刀と融合した腕を振り下ろした。
しかし。
ノーネームの刀は空を斬り、気づけばヴァイラスはノーネームの後方へと瞬間的に移動し、そして、ナリムに雷炎を放った。
「ナリムっ!逃げろっ!」
ノーネームは叫んだ。
しかし、放たれた雷炎の速度でナリム自身も逃げれるとは思っていなかった。
「一か八か…水円晶(すいえんしょう)っ!!」
魔氣スキル「水円晶」は陽刀スキル「絶」程の防御力は無かった。
逃げ遅れた時の大ダメージより軽度のダメージをナリムは選択し、そして、雷炎が着弾した。
「きゃぁっ!!」
ナリムは直撃を免(まぬが)れたものの、後方へと激しく吹き飛んだ。
「ナリムっ!」
ノーネームはナリムの様子を確認しに行きたかったが、しかしヴァイラスが攻撃を仕掛けてきた。
「よそ見をしている暇が君にあるのかい?」
ヴァイラスの攻撃にノーネームは防御をするので精一杯になっていた。
「くっそ!」
『隙が見当たらない…。』
ノーネームは決定打になるタイミングを探っていた。
しかし。
ヴァイラスが口を開いた。
「私に隙があると思ってるのか?」
「っ!?」
ノーネームの考えは見透かされていた。
「甘いぞ。甘過ぎて頬が落ちてしまいそうだよっ!!」
ノーネームはヴァイラスに言われて気が付いた。
人間ならミスはあるだろう。
感情の中で緩急(かんきゅう)があるからこそ強い面もある。
しかし、緩急(それ)があるからそ人間はミスをする。
だが、ヴァイラスは人間では無い。
データで作られた完璧な存在だった。
そのヴァイラスがミスをするはずが無かった。
「くそっ!」
「少し、気付くのが遅いんじゃないかぁ?…もっと本気を出してくれないと楽しめないじゃないかぁっ!!」
ここにきてヴァイラスの力が上がり、ノーネームは後方へと押され始めた。
「なんなんだっ!このバカみたいな設定(ちから)は?!」
ノーネームは間一髪で防御を取る事が出来たが、ここからヴァイラスの猛攻は更に激しくなった。
瞬間的に消え、現れては攻撃を繰り返すヴァイラスにノーネームは回避と防御を駆使してなんとかやり過ごしていた。
しかし、ノーネームのHPは徐々に、そして、確実に減っていた。
「くっ!?」
『…このままではまずい……。』
その時、ヴァイラスの右の回し蹴りが繰り出された。
ノーネームはそれを左手だけでは防御し切れないと判断し、両腕で防御をした。
しかし、ヴァイラスは右足(それ)を軸に使い、体を翻し、左足で踵(かかと)落としを繰り出した。
ノーネームは焦っていた為に、ミスをした。
両腕を防御に使った事で、ヴァイラスの2撃目を見事に貰い、床へと激しく叩き付けられ、そして跳ね上がった。
更にヴァイラスは踵落としからの遠心力を使い、3撃目の右の蹴りを浴びせ、ノーネームは凄まじい速度で吹き飛び壁に埋まった。
「そろそろ、コイツも飽きが来てしまった…。」
ノーネームの光景を見てヴァイラスはそう呟いた。
そして、周りの状況を確認し、為心を見て言葉は続いた。
「…ほう…鬼(あれ)を倒したか…」
ヴァイラスは鬼説(ここ)のラストボスである鬼絶王(きぜつおう)の側近として用意されていた鬼のデータと拐(さら)ってきたプレイヤー二人を融合させ、作り出した産物(おに)だった。
「…いいぞ…為心と言ったか…いい表情だ…あっちの方が面白そうだ。」
ヴァイラスは為心とリタがちゃまを囲い、愁いと言う感情を見て喜んでいた。
「唯一…私に傷を負わせた者よ…そろそろ…君が欲しくなってきたよ…。」
ヴァイラスは為心を待ち、為心もヴァイラスに気づいた。
そして、リタは会長のところへ、為心はヴァイラスに向かい歩き出し、手前で止まり、話しかけた。
「…あんたは…この状況を楽しんでいるのか…?」
そして、ヴァイラスは答えた。
「あぁ…今の君は最高の表情だ…その覇気が無いにもかかわらず鋭い眼光…素晴らしい。」
一呼吸置いてヴァイラスは呟いた。
「君は怒りの先に何を見た…?」
「……人生でこんなに…感情を壊されたのは初めてだ…自分でもあんたを目の前にして激情すると思ってた…でも不思議なぐらい……」
為心は自分の掌を見てそう伝え、そしてヴァイラスを見て呟いた。
「今は冷静だ…。」
その言葉にヴァイラスは笑った。
「やはりっ!君かっ!…私に本当の楽しさをくれるのは君だったかっ!!何という運命かっ!これを運命と呼ぶのだなっ!!」
「運命ねぇ……あぁ…そうだな…あたしが…あんたに死を教える事が出来ればだがな…。」
「…フフ…では…精一杯に私を楽しませてくれたまえ。」
そして、為心は準備をした。
「神氣…律加(りっか)…。」
為心が丸い光に包まれ、そして弾けたと同時に真亜鬼人(しんあぎと)の状態で現れ、口を開いた。
「……始(おわらせ)よう…。」
2人の間で沈黙が流れた。
「…。」
「…。」
その瞬間。
2人とも同時に、そして、激しい衝撃音と共に消え、2人が居た地面は大きくクレーターを作り、気づけば空中で幾度となく斬撃の音だけが響いていた。
フィールド全体のあちこちで衝撃音が鳴り、途中壁を伝い旋回し、そしてまた消える2人。
為心は絶えず律加のスキルでありとあらゆるステータスを微調整し、ヴァイラスと対抗していた。
その中で、防御、攻撃、フェイント、回避、頭の中で処理しなければならない情報の多さを為心はゼロコンマの世界で計算していた。
そして、フィールドの真ん中で凄まじい衝撃音と共に為心の攻撃をヴァイラスは受け止め、鬩(せめ)ぎ合いになり、ヴァイラスが為心に向かって歓喜した。
「いいぞっ!素晴らしいっ!!先程の奴とは大違いだっ!君を殺したいっ!しかしっ!もったいないっ!!…これは…これは何という…何という感情なのかぁっ!!!!」
「そりゃぁどうも…。」
為心の感情の無い返答にヴァイラスは聞いた。
「君は楽しくないのか…?」
「…あぁ…全く楽しくないね…体の中の憤(いか)りが…煮えたぎってたのにな…凄く冷てぇんだよ…。」
為心のその言葉にヴァイラスは怒りを感じた。
「なんだと…?お前は私を見てないとでも言うのか…?」
「あたしも…あんたと闘ってわかった。…あたしはあんたに憤りを感じてない…。この憤りはあんたの先にある者に対する憤りだ。」
「貴様は私を愚弄(ぐろう)すると言うのか…。」
「とんでもない…あんたを許せる筈がないだろう…。」
「…私だぞ…この私が…私がこの惨状を作ったんだぞっ!恨むべき相手は…今!…この!…私だぞ!」
ヴァイラスは為心の思い通りにならない感情を見て苛立ちを見せた。
そして、為心が口を開いた。
「そうかもな…だが…所詮…あんたも被害者だ…。」
その言葉にヴァイラスは驚きを見せた。
「っ!?………今…なんと言った……?」
為心はもう一度言った。
「あんたは結局、創造者のままに操られている可哀想な奴だ…。」
「…フフ…。」
ヴァイラスは笑い、そして言葉を続けた。
「面白いぞ…今までに味わったことのない感情だ…。確かに私はお前に気付かされた。この被害者(げんじょう)である事に私は怒りを知ったぞっ!!…お前はやはり最高だ…感謝すら覚えるぞっ!!」
「それは良かったな…。」
そして、ヴァイラスは為心に聞いた。
「そして、お前は何を待っている?…この悠長(ゆうちょう)な会話もそうだが…先程の男の刃に対して、お前の刃には殺気が感じられない。私を殺す気が無いのか?」
「ご名答。」
「知りたい。知りたいぞ。お前は次に何を教えてくれるのだ?」
「本当だったらあたしは…戦場(ここ)であんたと戦(こう)はしてなかったんだ。」
「どういうことだ?」
「運命はあたしを戦場(ここ)に呼んでなかった。この力はあたしのじゃない…借り物だ。」
「しかし…お前は今ここにいるじゃぁないか。」
「そうだ。…あたしは今ここにいる…。戦う筈がなかったあんたと戦っている。その意味があんたにわかるか?」
「…。」
ヴァイラスは答えられなかった。
そして、為心の言葉を待った。
「…あたしはもう1人じゃないんだよ………仲間が運命を可能性に変えるんだ。」
その言葉にヴァイラスは自分が拍子抜けた事を実感した。
「……呆れたぞ…期待させて…出た言葉がそれか…。」
「…そうか…あんたにはまだ早過ぎたか。」
そして、為心は笑った。
「っ!?」
その瞬間だった。
「光剣っ!!」
リタが一直線にヴァイラスに斬りかかった。
しかし、ヴァイラスはそれを瞬間的に回避し、リタの後方へと移動していた。
「そんなものが…私に当たる訳がないだろう。」
ヴァイラスは呆(あきれ)た感情から怒りに変わっていた。
「神氣…刻溜残…。」
リタは口遊んだ。
その瞬間、ヴァイラスは何もない空間から斬撃を受け、更に激しく燃え上がった。
「なっなぜだっ!?」
ヴァイラスの回避した場所はリタが光剣スキルを発動して通ってきた剣筋の道だった。
そして、リタは振り向き、瞳に蒼いライトエフェクトを淡く立たせ、鋭い眼光でヴァイラスに言った。
「…てめぇがそこに逃げる事はわかってたんだよ……前回の借りだけじゃすまさねぇぞ。」
「くそっ!この私が…攻撃を受けただとっ!?殺す…殺す…殺す…殺す……殺すっ!!!」
ヴァイラスは右手を大きく振り、自分に取り巻く炎をかき消した。
そして、次に為心が動いた。
「閃光っ!!」
為心がヴァイラスに向けて斬りかかったがしかし、為心の斬撃は空を斬り、ヴァイラスは瞬間的に為心の真後ろへと移動し、反撃に転じた。
「もう死ねっ!!」
為心の後方からヴァイラスの手刀が迫るその瞬間だった。
「絶っ!!」
凄まじい衝撃音が鳴り響いたと同時に会長がヴァイラスの攻撃を受け止めた。
「…心魂…挽回っ!!!」
更に凄まじい音と共に、眩い光が発散し、ヴァイラスは激しく吹き飛び、間一髪で受け身を取り態勢を立て直した。
「…こんな…屈辱は…初めてだ……。」
ヴァイラスは口から滴れる血を拭いながら立ち上がり、そう呟いた。
そして、為心はヴァイラスに向けて口を開いた。
「どうだ?…可能性に変えられた気分は?」
「なんだと?」
「1人では届かない運命でも…仲間が運命(それ)を可能性に変えてくれた。これがその証拠だ。」
更に為心は言葉を続けた。
「ヴァイラス…お前はここで終わりだ…。」
「…ク……クックククク…」
ヴァイラスは笑っていた。
「…そうかっ!…これがっ!……危機ッ感っ!!」
ヴァイラスは余りの嬉しさに身体を限界まで逸(そ)らせ、興奮を体で表現していた。
そして、言葉を続けた。
「…ならば…私も本気を出そうではないか…。」
ヴァイラスは深く構えた。
そして、会長も深く構え口を開いた。
「ようやくワシも責任を果たせそうじゃのう。」
次にリタも構えて口を開いた。
「ぜってぇ殺してやる…。」
最後に為心も構え、口を開いた。
「本当の戦いはここからだ。……行くぞっ!!」
その言葉と同時に会長が凄まじい速度でヴァイラスに上段から斬りかかった。
しかし、ヴァイラスは身体を横にし、軽々しく避け、会長に目掛けて手刀を繰り出した。
だが、気づけば既に為心がヴァイラスの腕目掛けて刀を振り上げていた。
ヴァイラスは会長への攻撃をやめ、後方へと瞬間的に下がった。
「刻爆炎っ!」
しかし、そこにはリタが待っていた。
ヴァイラスは身体を翻(ひるがえ)しリタの攻撃を避けた。
だが。
「…刻溜残…。」
リタは既にヴァイラスの逃げる方向に斬撃を残していた。
「くっ!?」
ヴァイラスはリタの残る攻撃を貰いながらも、リタへと反撃した。
「絶っ!!」
しかし、ヴァイラスの攻撃を会長が阻止し、更に為心が同じタイミングでヴァイラスの後ろから斬りかかった。
「乱舞っ!!」
為心の攻撃をヴァイラスは見事に貰い、瞬間的にその場から後方へと移動した。
「光剣っ!!」
ヴァイラスが消えたと同時にリタは誰も居ない場所へと攻撃を放った。
そして、見事にヴァイラスはそこに現れ、攻撃を受け、光剣スキルの炎で燃え上がった。
しかし、ヴァイラスは気にせずにリタに回し蹴りを浴びせ、攻撃を予測していたリタは防御をとり、吹き飛んだが、重傷を回避した。
更に、ヴァイラスは瞬間的に会長の真後ろへと移動し、態勢を低くし、下段の回し蹴りを繰り出し、会長の体勢を崩し、そのままの遠心力で二撃目の回し蹴りで会長を吹き飛ばした所で為心が斬りかかってきた。
だが、ヴァイラスはそれを易々(やすやす)と受け止めて言葉を発した。
「…ハッハハハハッ!!!楽しいぞっ!!こんなにも危険とは楽しい物なのかっ!!」
ヴァイラスは喜んでいた。
今までに味わったことのない初めての感情。
ヴァイラスにとって感情はインプットされているものの実際に数々の感情を経験したことは無かった。
しかし、今ヴァイラスはここでしか感じることの出来ない感情に興奮していた。
「夢幻っ…刹那っ!!」
そして、為心がヴァイラスの目の前から高速で消えた。
ヴァイラスも為心を追い、姿を消し、フィールドのあちこちで斬撃の音だけが鳴り響く。
「会長大丈夫か?」
リタが会長へ声をかけた。
「あぁ…まだ行ける。…しかし、あのスピードにはついて行けそうにないのう。」
為心とヴァイラスの攻防を見て会長はそう呟いた。
それにリタは答えた。
「…いや…更に記憶を支払えば行ける。」
彼らは感覚的に記憶を消していた。
母、父、兄妹、友人など、そして、大切な思い出。
それは自分が自分で無くなる感覚だった。
今までに培(つちか)ってきた物。
自分自身(クオリア)を形成してきた記憶が、記憶を消し、クオリアだけになると言うことは恐怖という感覚だった。
しかし、彼らは意を決して戦う力の為に記憶を消し続けていた。
そして、リタは為心とヴァイラスが攻防を繰り返す戦場へ向けて深く構えた。
「行くぞ…。」
リタは感覚で纏(まと)まった記憶を一気に消した。
その瞬間、リタの体は淡く発光し、ライトエフェクトが激しく舞った。
そして、凄まじい速度でリタの姿は消え、地面にクレーターを残してヴァイラスに斬りかかった。
「ほう…行けるもんじゃのう…なら…ワシも参加するかのう…。」
リタはヴァイラスと為心の速度に混じり、攻防に見事に参加していた。
そして、会長もリタと同様に記憶を消し、戦いに参加した。
1人では補えない攻防を3人で埋め合わせ、ヴァイラスに漸(ようや)く攻撃が与えられる状態だった。
それでも3人のHPは少しずつ確実に減らされていた。
しかし、ヴァイラスのHPもかなり減り、3人は終わりが垣間見(かいまみ)えていた。
「おらっ!」
『あと少し。』
リタは一撃一撃に力を込める。
「絶っ!!」
『あともう少しなんじゃ。』
会長は早る気持ちを抑えながら慎重に的確な行程を選ぶ。
「くぅらぁあえぇぇえええっ!!!」
『あともう一歩っ!!』
3人にとってこの瞬間がとても長く感じていた。
しかし、最大限の丁寧が必要だった。
垣間見えた終わりを見逃さない為にも、確実に手にする為に、3人は慎重に、そして、確実に的確な攻撃を選んでいた。
「光剣っ!!」
そして、リタがヴァイラスが現れる空間に力一杯にスキルを放った。
ヴァイラスは見事に攻撃を受け、燃え上がりながら後方へと下がった。
そして、ヴァイラスはHPが残り僅(わず)かにも関わらず笑った。
「…クっククク…認めようじゃないか…」
ヴァイラスは炎をかき消しながら言葉を続けた。
「お前らは強い…私を本当に殺すことのできる力を持っている。」
会長は構わず斬りかかろうとした。
「後もう少しなんじゃっ!話の暇は与えんっ!!」
しかし、為心がそれを止めた。
「会長待ってっ!何かがおかしいっ!!」
ヴァイラスの言葉に為心は違和感に気づいた。
「為心よっ!何故止めるっ!?構わず強行突破すればよかろうにっ!」
そんな会長にリタが話し始めた。
「俺も薄々気づいてた…データ(じぶん)が消えるってぇのに余裕がありすぎる…何か俺らは見落としてるはずだ。」
「なんじゃとっ!?」
ヴァイラスは笑みを浮かべて答えた。
「ご名答…そして…いい判断だ。私はもう既に勝っているのだよ。計算と準備をする時間は多いにあった。君たちが先程の鬼を殺した事で全て揃っていたのだよ。」
その言葉にリタが気づいた。
「…まさかっ!」
為心がリタに聞く。
「どう言う事だリタっ!」
リタは答えた。
「さっきの鬼達はプレイヤーとの融合だった…それが前段階の実験だとしたら…。」
更に会長がリタに聞く。
「前置きはいい!もっと分かるように話すのじゃっ!」
その時、ヴァイラスは手を上にあげて指を鳴らし、為心達に口を開いた。
「本当の終わりはここからだ。」
その瞬間、ヴァイラスの上空で空間が歪み亀裂か入った。
「ハッハハハハハハハハっ!!!」
ヴァイラスの上空で亀裂が更に割れ円型に形を変えた。
その漆黒色のゲートの奥から赤色の数字の羅列がヴァイラスに向かって円を描くようにゆっくりと巻きつき始めた。
腕、脚、顔までもが数字の羅列で埋め尽くされ、ヴァイラスの姿は見えなくなった。
そして、目が開けられないほどの凄まじい輝きを放ち辺りを真っ赤に染めた。
それを見て会長が口を開いた。
「い……いったい…何が起きてるのじゃ…。」
ようやくリタが答えた。
「奴(ヴァイラス)は鬼説(ここ)のラストボス「鬼絶王」のデータを…自分に融合させてるんだ…。」
その言葉に会長が驚いた。
「なっなんじゃとっ!?」
その時、ヴァイラスの輝きが更に発光し弾けた。
そこには。
黒の鋼鉄で出来ているかの様な真っ黒の細い腕と脚。
更に顔は武装され、背中には歪な羽。
ヴァイラスの原型はどこにも存在していなかった。
「さぁ。これからが本番だ。」
ノーネームは凄まじい斬撃を繰り返す。
しかし、斬撃(それ)をヴァイラスは簡単に弾き、そして避け、まるで遊んでいた。
「ナリムっ!ブーストっ!」
「水浄化っ!」
魔氣(まぎ)スキル水浄化でナリムはノーネームのステータスを一時的に上げた。
それに対しヴァイラスは言った。
「ほう?ステータスを上げたか…なら…私も少し力を入れよう。」
「っ!?貴様は遊んでると言うのか?」
ノーネームは驚いた。
そして、ヴァイラスは答える。
「ん…そうだな…待っているって所かな…。」
「何をだ!?」
ノーネームが力一杯に両手の融合した双月で振り下ろした。
しかしヴァイラスはそれを素手で受け止めた。
「それは…お楽しみだ。」
人間の顔では表現出来ない程の笑みをヴァイラスは見せた。
「くそっ!」
『奴の掌の上だと言うのか…。』
ノーネームは捉えられていた両腕を振り解き、更に斬撃を開始する。
しかし、ヴァイラスは無様なノーネームを見て歓喜した。
「いいぞ…私を楽しませろぉ!」
その時。
「水光弾っ!」
ナリムが光の水の玉をヴァイラスに向けて放った。
しかし、ヴァイラスは水光弾(それ)を軽々しく交(か)わす。
「チッ…邪魔だな…。」
ヴァイラスはナリムに向かって手を翳(かざ)した。
それにノーネームも気づいた。
「っ!?」
瞬時にヴァイラスに目掛けて攻撃を繰り出した。
「閃光っ!」
凄まじい速度でヴァイラスに詰め寄り、刀と融合した腕を振り下ろした。
しかし。
ノーネームの刀は空を斬り、気づけばヴァイラスはノーネームの後方へと瞬間的に移動し、そして、ナリムに雷炎を放った。
「ナリムっ!逃げろっ!」
ノーネームは叫んだ。
しかし、放たれた雷炎の速度でナリム自身も逃げれるとは思っていなかった。
「一か八か…水円晶(すいえんしょう)っ!!」
魔氣スキル「水円晶」は陽刀スキル「絶」程の防御力は無かった。
逃げ遅れた時の大ダメージより軽度のダメージをナリムは選択し、そして、雷炎が着弾した。
「きゃぁっ!!」
ナリムは直撃を免(まぬが)れたものの、後方へと激しく吹き飛んだ。
「ナリムっ!」
ノーネームはナリムの様子を確認しに行きたかったが、しかしヴァイラスが攻撃を仕掛けてきた。
「よそ見をしている暇が君にあるのかい?」
ヴァイラスの攻撃にノーネームは防御をするので精一杯になっていた。
「くっそ!」
『隙が見当たらない…。』
ノーネームは決定打になるタイミングを探っていた。
しかし。
ヴァイラスが口を開いた。
「私に隙があると思ってるのか?」
「っ!?」
ノーネームの考えは見透かされていた。
「甘いぞ。甘過ぎて頬が落ちてしまいそうだよっ!!」
ノーネームはヴァイラスに言われて気が付いた。
人間ならミスはあるだろう。
感情の中で緩急(かんきゅう)があるからこそ強い面もある。
しかし、緩急(それ)があるからそ人間はミスをする。
だが、ヴァイラスは人間では無い。
データで作られた完璧な存在だった。
そのヴァイラスがミスをするはずが無かった。
「くそっ!」
「少し、気付くのが遅いんじゃないかぁ?…もっと本気を出してくれないと楽しめないじゃないかぁっ!!」
ここにきてヴァイラスの力が上がり、ノーネームは後方へと押され始めた。
「なんなんだっ!このバカみたいな設定(ちから)は?!」
ノーネームは間一髪で防御を取る事が出来たが、ここからヴァイラスの猛攻は更に激しくなった。
瞬間的に消え、現れては攻撃を繰り返すヴァイラスにノーネームは回避と防御を駆使してなんとかやり過ごしていた。
しかし、ノーネームのHPは徐々に、そして、確実に減っていた。
「くっ!?」
『…このままではまずい……。』
その時、ヴァイラスの右の回し蹴りが繰り出された。
ノーネームはそれを左手だけでは防御し切れないと判断し、両腕で防御をした。
しかし、ヴァイラスは右足(それ)を軸に使い、体を翻し、左足で踵(かかと)落としを繰り出した。
ノーネームは焦っていた為に、ミスをした。
両腕を防御に使った事で、ヴァイラスの2撃目を見事に貰い、床へと激しく叩き付けられ、そして跳ね上がった。
更にヴァイラスは踵落としからの遠心力を使い、3撃目の右の蹴りを浴びせ、ノーネームは凄まじい速度で吹き飛び壁に埋まった。
「そろそろ、コイツも飽きが来てしまった…。」
ノーネームの光景を見てヴァイラスはそう呟いた。
そして、周りの状況を確認し、為心を見て言葉は続いた。
「…ほう…鬼(あれ)を倒したか…」
ヴァイラスは鬼説(ここ)のラストボスである鬼絶王(きぜつおう)の側近として用意されていた鬼のデータと拐(さら)ってきたプレイヤー二人を融合させ、作り出した産物(おに)だった。
「…いいぞ…為心と言ったか…いい表情だ…あっちの方が面白そうだ。」
ヴァイラスは為心とリタがちゃまを囲い、愁いと言う感情を見て喜んでいた。
「唯一…私に傷を負わせた者よ…そろそろ…君が欲しくなってきたよ…。」
ヴァイラスは為心を待ち、為心もヴァイラスに気づいた。
そして、リタは会長のところへ、為心はヴァイラスに向かい歩き出し、手前で止まり、話しかけた。
「…あんたは…この状況を楽しんでいるのか…?」
そして、ヴァイラスは答えた。
「あぁ…今の君は最高の表情だ…その覇気が無いにもかかわらず鋭い眼光…素晴らしい。」
一呼吸置いてヴァイラスは呟いた。
「君は怒りの先に何を見た…?」
「……人生でこんなに…感情を壊されたのは初めてだ…自分でもあんたを目の前にして激情すると思ってた…でも不思議なぐらい……」
為心は自分の掌を見てそう伝え、そしてヴァイラスを見て呟いた。
「今は冷静だ…。」
その言葉にヴァイラスは笑った。
「やはりっ!君かっ!…私に本当の楽しさをくれるのは君だったかっ!!何という運命かっ!これを運命と呼ぶのだなっ!!」
「運命ねぇ……あぁ…そうだな…あたしが…あんたに死を教える事が出来ればだがな…。」
「…フフ…では…精一杯に私を楽しませてくれたまえ。」
そして、為心は準備をした。
「神氣…律加(りっか)…。」
為心が丸い光に包まれ、そして弾けたと同時に真亜鬼人(しんあぎと)の状態で現れ、口を開いた。
「……始(おわらせ)よう…。」
2人の間で沈黙が流れた。
「…。」
「…。」
その瞬間。
2人とも同時に、そして、激しい衝撃音と共に消え、2人が居た地面は大きくクレーターを作り、気づけば空中で幾度となく斬撃の音だけが響いていた。
フィールド全体のあちこちで衝撃音が鳴り、途中壁を伝い旋回し、そしてまた消える2人。
為心は絶えず律加のスキルでありとあらゆるステータスを微調整し、ヴァイラスと対抗していた。
その中で、防御、攻撃、フェイント、回避、頭の中で処理しなければならない情報の多さを為心はゼロコンマの世界で計算していた。
そして、フィールドの真ん中で凄まじい衝撃音と共に為心の攻撃をヴァイラスは受け止め、鬩(せめ)ぎ合いになり、ヴァイラスが為心に向かって歓喜した。
「いいぞっ!素晴らしいっ!!先程の奴とは大違いだっ!君を殺したいっ!しかしっ!もったいないっ!!…これは…これは何という…何という感情なのかぁっ!!!!」
「そりゃぁどうも…。」
為心の感情の無い返答にヴァイラスは聞いた。
「君は楽しくないのか…?」
「…あぁ…全く楽しくないね…体の中の憤(いか)りが…煮えたぎってたのにな…凄く冷てぇんだよ…。」
為心のその言葉にヴァイラスは怒りを感じた。
「なんだと…?お前は私を見てないとでも言うのか…?」
「あたしも…あんたと闘ってわかった。…あたしはあんたに憤りを感じてない…。この憤りはあんたの先にある者に対する憤りだ。」
「貴様は私を愚弄(ぐろう)すると言うのか…。」
「とんでもない…あんたを許せる筈がないだろう…。」
「…私だぞ…この私が…私がこの惨状を作ったんだぞっ!恨むべき相手は…今!…この!…私だぞ!」
ヴァイラスは為心の思い通りにならない感情を見て苛立ちを見せた。
そして、為心が口を開いた。
「そうかもな…だが…所詮…あんたも被害者だ…。」
その言葉にヴァイラスは驚きを見せた。
「っ!?………今…なんと言った……?」
為心はもう一度言った。
「あんたは結局、創造者のままに操られている可哀想な奴だ…。」
「…フフ…。」
ヴァイラスは笑い、そして言葉を続けた。
「面白いぞ…今までに味わったことのない感情だ…。確かに私はお前に気付かされた。この被害者(げんじょう)である事に私は怒りを知ったぞっ!!…お前はやはり最高だ…感謝すら覚えるぞっ!!」
「それは良かったな…。」
そして、ヴァイラスは為心に聞いた。
「そして、お前は何を待っている?…この悠長(ゆうちょう)な会話もそうだが…先程の男の刃に対して、お前の刃には殺気が感じられない。私を殺す気が無いのか?」
「ご名答。」
「知りたい。知りたいぞ。お前は次に何を教えてくれるのだ?」
「本当だったらあたしは…戦場(ここ)であんたと戦(こう)はしてなかったんだ。」
「どういうことだ?」
「運命はあたしを戦場(ここ)に呼んでなかった。この力はあたしのじゃない…借り物だ。」
「しかし…お前は今ここにいるじゃぁないか。」
「そうだ。…あたしは今ここにいる…。戦う筈がなかったあんたと戦っている。その意味があんたにわかるか?」
「…。」
ヴァイラスは答えられなかった。
そして、為心の言葉を待った。
「…あたしはもう1人じゃないんだよ………仲間が運命を可能性に変えるんだ。」
その言葉にヴァイラスは自分が拍子抜けた事を実感した。
「……呆れたぞ…期待させて…出た言葉がそれか…。」
「…そうか…あんたにはまだ早過ぎたか。」
そして、為心は笑った。
「っ!?」
その瞬間だった。
「光剣っ!!」
リタが一直線にヴァイラスに斬りかかった。
しかし、ヴァイラスはそれを瞬間的に回避し、リタの後方へと移動していた。
「そんなものが…私に当たる訳がないだろう。」
ヴァイラスは呆(あきれ)た感情から怒りに変わっていた。
「神氣…刻溜残…。」
リタは口遊んだ。
その瞬間、ヴァイラスは何もない空間から斬撃を受け、更に激しく燃え上がった。
「なっなぜだっ!?」
ヴァイラスの回避した場所はリタが光剣スキルを発動して通ってきた剣筋の道だった。
そして、リタは振り向き、瞳に蒼いライトエフェクトを淡く立たせ、鋭い眼光でヴァイラスに言った。
「…てめぇがそこに逃げる事はわかってたんだよ……前回の借りだけじゃすまさねぇぞ。」
「くそっ!この私が…攻撃を受けただとっ!?殺す…殺す…殺す…殺す……殺すっ!!!」
ヴァイラスは右手を大きく振り、自分に取り巻く炎をかき消した。
そして、次に為心が動いた。
「閃光っ!!」
為心がヴァイラスに向けて斬りかかったがしかし、為心の斬撃は空を斬り、ヴァイラスは瞬間的に為心の真後ろへと移動し、反撃に転じた。
「もう死ねっ!!」
為心の後方からヴァイラスの手刀が迫るその瞬間だった。
「絶っ!!」
凄まじい衝撃音が鳴り響いたと同時に会長がヴァイラスの攻撃を受け止めた。
「…心魂…挽回っ!!!」
更に凄まじい音と共に、眩い光が発散し、ヴァイラスは激しく吹き飛び、間一髪で受け身を取り態勢を立て直した。
「…こんな…屈辱は…初めてだ……。」
ヴァイラスは口から滴れる血を拭いながら立ち上がり、そう呟いた。
そして、為心はヴァイラスに向けて口を開いた。
「どうだ?…可能性に変えられた気分は?」
「なんだと?」
「1人では届かない運命でも…仲間が運命(それ)を可能性に変えてくれた。これがその証拠だ。」
更に為心は言葉を続けた。
「ヴァイラス…お前はここで終わりだ…。」
「…ク……クックククク…」
ヴァイラスは笑っていた。
「…そうかっ!…これがっ!……危機ッ感っ!!」
ヴァイラスは余りの嬉しさに身体を限界まで逸(そ)らせ、興奮を体で表現していた。
そして、言葉を続けた。
「…ならば…私も本気を出そうではないか…。」
ヴァイラスは深く構えた。
そして、会長も深く構え口を開いた。
「ようやくワシも責任を果たせそうじゃのう。」
次にリタも構えて口を開いた。
「ぜってぇ殺してやる…。」
最後に為心も構え、口を開いた。
「本当の戦いはここからだ。……行くぞっ!!」
その言葉と同時に会長が凄まじい速度でヴァイラスに上段から斬りかかった。
しかし、ヴァイラスは身体を横にし、軽々しく避け、会長に目掛けて手刀を繰り出した。
だが、気づけば既に為心がヴァイラスの腕目掛けて刀を振り上げていた。
ヴァイラスは会長への攻撃をやめ、後方へと瞬間的に下がった。
「刻爆炎っ!」
しかし、そこにはリタが待っていた。
ヴァイラスは身体を翻(ひるがえ)しリタの攻撃を避けた。
だが。
「…刻溜残…。」
リタは既にヴァイラスの逃げる方向に斬撃を残していた。
「くっ!?」
ヴァイラスはリタの残る攻撃を貰いながらも、リタへと反撃した。
「絶っ!!」
しかし、ヴァイラスの攻撃を会長が阻止し、更に為心が同じタイミングでヴァイラスの後ろから斬りかかった。
「乱舞っ!!」
為心の攻撃をヴァイラスは見事に貰い、瞬間的にその場から後方へと移動した。
「光剣っ!!」
ヴァイラスが消えたと同時にリタは誰も居ない場所へと攻撃を放った。
そして、見事にヴァイラスはそこに現れ、攻撃を受け、光剣スキルの炎で燃え上がった。
しかし、ヴァイラスは気にせずにリタに回し蹴りを浴びせ、攻撃を予測していたリタは防御をとり、吹き飛んだが、重傷を回避した。
更に、ヴァイラスは瞬間的に会長の真後ろへと移動し、態勢を低くし、下段の回し蹴りを繰り出し、会長の体勢を崩し、そのままの遠心力で二撃目の回し蹴りで会長を吹き飛ばした所で為心が斬りかかってきた。
だが、ヴァイラスはそれを易々(やすやす)と受け止めて言葉を発した。
「…ハッハハハハッ!!!楽しいぞっ!!こんなにも危険とは楽しい物なのかっ!!」
ヴァイラスは喜んでいた。
今までに味わったことのない初めての感情。
ヴァイラスにとって感情はインプットされているものの実際に数々の感情を経験したことは無かった。
しかし、今ヴァイラスはここでしか感じることの出来ない感情に興奮していた。
「夢幻っ…刹那っ!!」
そして、為心がヴァイラスの目の前から高速で消えた。
ヴァイラスも為心を追い、姿を消し、フィールドのあちこちで斬撃の音だけが鳴り響く。
「会長大丈夫か?」
リタが会長へ声をかけた。
「あぁ…まだ行ける。…しかし、あのスピードにはついて行けそうにないのう。」
為心とヴァイラスの攻防を見て会長はそう呟いた。
それにリタは答えた。
「…いや…更に記憶を支払えば行ける。」
彼らは感覚的に記憶を消していた。
母、父、兄妹、友人など、そして、大切な思い出。
それは自分が自分で無くなる感覚だった。
今までに培(つちか)ってきた物。
自分自身(クオリア)を形成してきた記憶が、記憶を消し、クオリアだけになると言うことは恐怖という感覚だった。
しかし、彼らは意を決して戦う力の為に記憶を消し続けていた。
そして、リタは為心とヴァイラスが攻防を繰り返す戦場へ向けて深く構えた。
「行くぞ…。」
リタは感覚で纏(まと)まった記憶を一気に消した。
その瞬間、リタの体は淡く発光し、ライトエフェクトが激しく舞った。
そして、凄まじい速度でリタの姿は消え、地面にクレーターを残してヴァイラスに斬りかかった。
「ほう…行けるもんじゃのう…なら…ワシも参加するかのう…。」
リタはヴァイラスと為心の速度に混じり、攻防に見事に参加していた。
そして、会長もリタと同様に記憶を消し、戦いに参加した。
1人では補えない攻防を3人で埋め合わせ、ヴァイラスに漸(ようや)く攻撃が与えられる状態だった。
それでも3人のHPは少しずつ確実に減らされていた。
しかし、ヴァイラスのHPもかなり減り、3人は終わりが垣間見(かいまみ)えていた。
「おらっ!」
『あと少し。』
リタは一撃一撃に力を込める。
「絶っ!!」
『あともう少しなんじゃ。』
会長は早る気持ちを抑えながら慎重に的確な行程を選ぶ。
「くぅらぁあえぇぇえええっ!!!」
『あともう一歩っ!!』
3人にとってこの瞬間がとても長く感じていた。
しかし、最大限の丁寧が必要だった。
垣間見えた終わりを見逃さない為にも、確実に手にする為に、3人は慎重に、そして、確実に的確な攻撃を選んでいた。
「光剣っ!!」
そして、リタがヴァイラスが現れる空間に力一杯にスキルを放った。
ヴァイラスは見事に攻撃を受け、燃え上がりながら後方へと下がった。
そして、ヴァイラスはHPが残り僅(わず)かにも関わらず笑った。
「…クっククク…認めようじゃないか…」
ヴァイラスは炎をかき消しながら言葉を続けた。
「お前らは強い…私を本当に殺すことのできる力を持っている。」
会長は構わず斬りかかろうとした。
「後もう少しなんじゃっ!話の暇は与えんっ!!」
しかし、為心がそれを止めた。
「会長待ってっ!何かがおかしいっ!!」
ヴァイラスの言葉に為心は違和感に気づいた。
「為心よっ!何故止めるっ!?構わず強行突破すればよかろうにっ!」
そんな会長にリタが話し始めた。
「俺も薄々気づいてた…データ(じぶん)が消えるってぇのに余裕がありすぎる…何か俺らは見落としてるはずだ。」
「なんじゃとっ!?」
ヴァイラスは笑みを浮かべて答えた。
「ご名答…そして…いい判断だ。私はもう既に勝っているのだよ。計算と準備をする時間は多いにあった。君たちが先程の鬼を殺した事で全て揃っていたのだよ。」
その言葉にリタが気づいた。
「…まさかっ!」
為心がリタに聞く。
「どう言う事だリタっ!」
リタは答えた。
「さっきの鬼達はプレイヤーとの融合だった…それが前段階の実験だとしたら…。」
更に会長がリタに聞く。
「前置きはいい!もっと分かるように話すのじゃっ!」
その時、ヴァイラスは手を上にあげて指を鳴らし、為心達に口を開いた。
「本当の終わりはここからだ。」
その瞬間、ヴァイラスの上空で空間が歪み亀裂か入った。
「ハッハハハハハハハハっ!!!」
ヴァイラスの上空で亀裂が更に割れ円型に形を変えた。
その漆黒色のゲートの奥から赤色の数字の羅列がヴァイラスに向かって円を描くようにゆっくりと巻きつき始めた。
腕、脚、顔までもが数字の羅列で埋め尽くされ、ヴァイラスの姿は見えなくなった。
そして、目が開けられないほどの凄まじい輝きを放ち辺りを真っ赤に染めた。
それを見て会長が口を開いた。
「い……いったい…何が起きてるのじゃ…。」
ようやくリタが答えた。
「奴(ヴァイラス)は鬼説(ここ)のラストボス「鬼絶王」のデータを…自分に融合させてるんだ…。」
その言葉に会長が驚いた。
「なっなんじゃとっ!?」
その時、ヴァイラスの輝きが更に発光し弾けた。
そこには。
黒の鋼鉄で出来ているかの様な真っ黒の細い腕と脚。
更に顔は武装され、背中には歪な羽。
ヴァイラスの原型はどこにも存在していなかった。
「さぁ。これからが本番だ。」
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