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バトル祭1回戦 前編
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6 バトル祭1回戦 前編
バトル祭は3人1チーム、主将がいて他2名の構成、主将は試合ごとに変えられ、主将が勝つと勝ち点2ポイント貰えるが逆に言えば負けると2ポイント取られると言う事だ。同ポイントになった場合は3人の中から1人選出し、サドンデスになる。
更にバトルするに当たってお題が存在する。
ショートスタイル、ミディアムスタイルそして主将はフリースタイルで別れていて、それの振り分けを記したのがオーダー表である。
「初戦の主将はどうっ…」
「そこはやっぱり俺以外いなっ…」
「間違いなく、恵だな。」
放課後の教室に神鳥 切と千場 流の最後まで言わせんとする言葉が飛び交う。
上条 灯にオーダーの締め切り日が今日だと聞いて焦って会議をしている3人である。
「おい!俺をシカトしてっ…」
「俺は切が適任だと思ったんだけど。」
「恵まで俺をシカトしっ…」
「そんな大役俺には荷が重いな。何故俺なんだ?」
「だからフルシカトかよっ!!」
「その理由なんだけど…まず、流。」
「な…なんだよ改まって。」
「正直お前が持つ怒気の高さはかなり主将にはうってつけだ。そのテンションはきっと俺らも勇気付けられ、流れも変えられる。だがその怒気を使うにあたってお前にはスピードが無さすぎる。だから初戦は相手もわからないから今回は諦めてくれ。そして俺が切を進めた理由はそこだ!前回の切と流のバトルで切が見せた途中でのスタイル変更とその状態から切り返せる感性あるスタイルの選択、切のスピードと発想力共に行動に移す度胸が無いと成り立たないからだ。」
「そこまで恵が評価してくれるのなら今回は俺で構わない。」
主将には須堂 恵が適任だと思っていた為、思わぬ評価をもらい、半信半疑で納得した神鳥 切だが、何故か腑に落ちない自分がいた。
「悪いな切…よろしくな。それと千場はどっちで行く?」
「俺はショートスタイルが得意だしそこで攻めようかなって思ってるよ!」
千場 流も須堂 恵の説明に納得し、得意のショートスタイルで納得した。
「じゃー決まりだね!俺がオーダー表出してくる。」
須堂 恵が職員室にオーダー表を提出しに教室を後にしたところで、神鳥 切は最近ずっと疑問に思ってたことを千場 流に打ち明けた。
「千場…ここ最近、恵がバトルしてるところ見たことあるか?」
「ん?…そういえばないな。」
「だよな。」
大会までもうそんなに日が無い。思い過ごしであって欲しいと心から願う神鳥 切であった。
そして。
united beauty schoolバトル祭、第1試合目当日。
バトル祭は1ヶ月ごとに1日1試合行われる。
人数が多い為にAブロックとBブロックで別れており、Aブロックは午前から開始、Bブロックは午後から開始になっている。
そして、学園の地下にある広場がカットバトルの会場。
およそ100人以上の人数がチームでバトルを出来る広さ。
バトル会場の地下1階が吹き抜けの天井になっており、一階フロアから見下ろす事が出来る。
そのフロアはもうすでに多くのギャラリーで会場は賑わっていた。
そして、
神鳥 切は地下1階に向かう途中だった。
「切くーん!」
女性の声に引き止められた。
「お!為心!」
鷹柱 為心と咲ヵ元 広幸の2人が居た。
「一回戦で負けたら減給ね。」
咲ヵ元 広幸から嫌味が出た。
「あ、いや…それは…ちょっと…冗談でもやめていただきたいのですが…。」
神鳥 切の焦りに2人は笑った。
すると、
「あー!為心!」
「あ!灯!応援しに来たよー!」
「ありがとう!!私、今日Bブロックだから午後からなんだ!応援よろしくね!」
上条 灯が鷹柱 為心を見つけ騒いでいた。
「灯、俺は何ブロックだった?」
神鳥 切は上条 灯がトーナメント表確認しに行ったついでに自分のも見てないかと尋ねてみた。が、
「ごめーん!見てないや!」
「そうか。…ありがとう!」
そんなやりとりをしていた時、
「せっーつ!」
遠くから名前を呼ばれた。
今日は良く名前を呼ばれる日だと思った。
振り向くと金髪頭が手を上げていた。
千場 流だ。
「オーナー、もう僕行かなきゃいけないので、今日は楽しんでってください!」
「はいはーい。」
「為心も楽しんでね。じゃっ!」
神鳥 切はその場を立ち去ろうとしたが、
「切くん!頑張ってね!」
そして、上条 灯も、
「初戦で負けんじゃないわよ?」
「おう!」
神鳥 切はその場を後にし、トーナメント表を3人で確認しに移動していた。
「俺は!待ってたぜ!今日という日を!」
「お前はいつもうるさいんだよ。」
千場 流がかなり意気込んでいる中、神鳥 切は冷静な判断を下していた。
「…。」
「…?恵?どうした?大丈夫か?」
その会話に対し、須堂 恵が何も反応しない事に疑問に思った神鳥 切は声をかけた。
「あ!いや!何でもない!ちょっと考え事してただけだから。」
「…ならいいん…」
腑に落ちない神鳥 切だが、納得の言葉を掛けようとした途中で遮られた。
「俺らAブロックだって!この初戦の対戦相手の主将、恵がバトルしたことある奴じゃないか?」
千場 流が先にトーナメント表を確認していた。
そして、須堂 恵が名前を確認した。
「…あー…はいはい。覚えてる。覚えてる。確か…がたいがやたら凄かったのを覚えてるよ。」
「んで?どうなの?強いの?」
千場 流はウキウキ、ワクワク、している子供の様にはしゃいでいた。
「そこがあんま覚えてないんだよな…でも決して弱くない記憶だけあるんだよな…。」
「そっか…初戦は始まってみないとわからないか。ちなみに浦桐のチームはどうなってる?」
初戦の相手よりも、神鳥 切は浦桐チームの対策をしたい為、そっちが気になっていた。
「えーっと…うわ!浦桐のチームBブロックじゃん!決勝まで当たらねぇのか……え!?つか!誰だこれっ!?」
ホワイトボードに張り出されたトーナメント表を見ていた千場 流から驚きの声があがった。
「どうした?」
その驚きに神鳥 切が千場 流に問いかけた。
「これ見て!」
すると千場 流が指差す先にあったのは。
「…双葉 … 沙切?(フタバ サキ)確かに聞かない名だね。名前からして女の子だよね?…え?浦桐のチームで初戦主将?」
千場 流の驚きに神鳥 切がようやく理解できた。
須藤 恵も含め、女性を入れたチームがとても珍しいという事、そして主将でのオーダーに驚きを隠せなかった。
主将は1試合ごとに変えられる為、普通だと思いがちだが、第1試合目は相手が判断つかない為、確実にポイントを稼がなければいけない。その為、初戦のオーダーは必然的に最善の構成になる。
「俺らみたいに何か作戦があるのか?それとも…実力、スキルが本当に浦桐より…上なのか…?」
神鳥 切がその言葉を口にしたその時、後ろから、
「君が神鳥 切くんかな?」
「え?」
神鳥 切が後ろを振り返るとそこには。
黒縁眼鏡をかけ、髪は七三分けでいかにも頭が良さそうな心当たりがない男性が声をかけて来た。
「ごめん。えっと…君、俺と知り…」
「会うのは初めてだよ。僕と戦う相手、神鳥 切という人物を見ておきたくてさ。声かけさてもらったよ。」
言葉を言い終わる前にこの男はもう答えを口にしていた。
神鳥 切は次の対戦相手だと思い、名前を確認するべく、背後にあるホワイトボードのトーナメント表を見ようとし、振り返ろうとしたが
「僕の名前は相鐘 拓斗(アイガネ タクト)ちなみに君たちの初戦の対戦相手じゃないよ?決勝…楽しみにしてるね。切くん。」
相鐘 拓斗はその言葉と怪しい笑みを残し、その場から立ち去っていった。
「決勝…?」
神鳥 切、須堂 恵、千場 流の3人はトーナメント表を確認した。
「おい!あいつ、浦桐のチームじゃねぇか!しかも、相鐘って相鐘財閥のじゃないの!?」
「もしかして…あいつが噂の相鐘財閥の子孫の人!?」
千場 流、の発言に神鳥 切は驚きを露わにした。
相鐘 拓斗の噂は有名で、金の力を使い、美容師界の有名な人の講習や、勉強会に参加している噂があり、そのせいなのか、スキルに対し、卓越していると言われている。
そして神鳥 切は違う点に気づく。
「俺たちが決勝で戦うのを想定済って事だよな。それと、あの言葉…あっち側ではもう俺たちが勝ち進む前提で戦う相手ももう決まってる事になる。」
そして須堂 恵も考えがそこにいたり頷く。
「そうだね。そうなると…この双葉って女の子…相当できる子だね。」
「なんだよ!どういう事だよ!」
千場 流はそこまで頭が追いついていなかった。
「要するに、多分オーダー次第で、お前の相手は浦桐になるって事だよ。」
神鳥 切が答えを簡単にまとめた。
だが、裏付けは相鐘 拓斗のあの一言で、浦桐チームの絶対的主将は双葉 沙切に確定した事になる。
浦桐 啓多と千場 流のバトル時に浦桐 啓多の目的は明らかに須堂 恵に対するものであった。そうであるならば初戦のオーダー表は須堂 恵と戦いたい為、間違いなく浦桐 啓多が主将で出してきているはずである。
しかし。主将は双葉 沙切。
そして、その双葉 沙切のチームの相鐘 拓斗は明らかに神鳥 切に敵意をしめして『僕と戦う相手』とはっきりと言っていた。このことから今回の双葉 沙切チームのオーダー、つまり、スキル順は本当で、須堂 恵に勝つ為に、バトルする相手までもう決まっているという事になる。
「お前だけやたら目立ち過ぎだな。」
神鳥 切は沢山の人から一目置かれ、意識されている須堂 恵がちょっと羨ましかった。
「…。」
須堂 恵からの返答がなかった。
「なぁ。恵!」
「…あ、すまん。今なんて言った?」
「お前本当に大丈夫か?」
「平気。平気。全然大丈夫。双葉 沙切とのバトル…本気出さないとって思ってさ。」
「…あぁ、まぁ確かにな。」
キーンコーンカーンコーン。
学校のチャイムが鳴り、開会式の放送が流れた。
『地下1階ホールにて、大坪学園長の挨拶がありますので出場選手は地下1階ホールにお集まりください。』
地下1階ホールでは出場者の雑談で盛り上がっていた。
すると、司会者が進行をする。
『これより、united beauty schoolバトル祭を開催いたします。では、初めに学園長のお言葉です。』
「皆さん、おはようございます。またバトル祭の時期がやってきました。このバトル祭で沢山の生徒が成長するはずです。その1つとして、切磋琢磨の4文字熟語がありますが、まさにバトル祭にふさわしい言葉だと私は思います。ライバルは人生で居なければならない存在です。新たなライバルをこの機会に是非作ってください。」
「学園長ありがとうございました。それでは、制限時間90分、今回は審査員を各バトルチームに用意しています。それぞれ都内で名のある美容室からお越し下さった方々です。15分後にバトルを開始致しますので、各自準備をお願い致します。」
神鳥 切、須堂 恵、千場 流の3名は自分たちの準備をし始めた。
三脚のスタンドにウィッグを準備し、皆、スプレイヤーに水を入れたり、それぞれ準備をし始める。
そして、神鳥 切は自分の指定された主将の位置に移動した。右には須堂 恵、その横に千場 流がカットするスペースがある。
2人はまだ準備から戻ってきていないみたいである。
そして、
目の前にはすでにこれからカットバトルをする相手、敵の主将がこちらを睨んでいた。
対戦相手の名前は…河大道 健(ガタイドウ ケン)。
神鳥 切はその威圧を無視し、淡々と準備をする。
しかし…
「あぁーあ!主将が須堂 恵じゃないってどうなってんのかねぇ!」
目の前に居た体格が大きく、髪はスポーツ刈り、美容師ではなく、まるで、力仕事をしている職人のようで、場所を間違えているのではと疑ってしまうような男が敢えて聞こえるように言葉を口にした。
「…。」
「だんまりかよ。こっちは須堂 恵にリベンジ出来ると思ってたのなよぉ!とんだハズレくじ引いたぜぇ。」
この男は腕に自信があるのだろう。
そして、須堂 恵にバトルを挑み、負けた者の中の1人なのだろう。須堂 恵のチームで主将は誰もがどう見ても須堂 恵なのであろう。
神鳥 切はそれを耳に入れてないかのように、その挑発に乗らないかのように黙り混んでいた…と誰もが思っていた。
「…ざ…んな…。」
神鳥 切が小さく、聞こえにくい声で口を開いた。
自分自身に言葉をかけたのだ。
「あ?なんか言ったか?」
「ふざけんな。って言ったんだ。どいつもこいつも須堂 恵、須堂 恵、須堂 恵って言いやがって。」
相手の挑発にハマった…ではなく、自分自身に対して怒りを露わにしていた。
神鳥 切自身、須堂 恵のスキルの高さは認めている。発想、技術、感性、才能、どれを取ってもレベルはかなり高い。だが、この3人で1つのチームであるはずなのに、須堂 恵のワンマンチームの扱い。
決して、自分自身が強いと奢っている訳ではない。
チームでの扱いが全くされていない事、自分の努力を踏みにじられている事、千場 流の努力を踏みにじられている事、それは神鳥 切、千場 流、そして、その2人とチームを組んでしまったと言う須堂 恵にも当てはめられ、それは3人に対し、侮辱に値する。
須堂 恵の力に頼らなければ強くわないと思われている、そんな弱い自分自身を作ってしまった、弱い自分を演じてしまっていた、そんな自分に神鳥 切は怒りを感じている。
「はぁ?何言ってんだお前。」
だから…神鳥 切はここで証明しなければならない。
「ぜってぇぇ潰す。お前に負けるなんざあり得ない。100%有り得ることはない。」
その言葉を口にしている時、須堂 恵、千場 流が戻って来た。
2人は状況が読めず困惑していた。
「せ…切?どう…した?なんかあったのか?」
須堂 恵が闘志を燃やす神鳥 切に恐れながら声をかけた。
「恵…初戦から全力で飛ばす。」
「お、おう。そ、そうだな。」
須堂 恵は神鳥 切の余りの怒り、闘志、闘気、気迫に「うん」と言わざるおえなかった。
千場 流に関してはあまり見ない神鳥 切の状況にもう言葉を掛けられずにいた。
そして、
アナウンスが流れた。
『それでは!united beauty schoolバトル祭、第1試合を開始します!皆さん準備はよろしいですか?…それでは…スタート!!』
全ての出場選手全員が一斉にカットを始めた。
地下1階の会場には沢山の鋏の音が鳴る。
だがそれだけ、それ以外何も聞こえない。カットバトルをしている出場者の雑談など人の話声は一切聞こえてこない。
皆、集中している。が、1階フロアで観覧をしているギャラリー達は大盛り上がりであった。
友人、家族、知人、上司、美容師、OB、など、どれも応援を目的にバトル祭へおもむき、声援を送っている。
しかし。
神鳥 切は周りが鋏を鳴らす中、皆がカットを始めたにも関わらず、目をつぶって、ただウィッグの前に立ち、何も始めようとしない神鳥 切。
隣に居た須堂 恵が、目の前にいる河大道 健が自分のウィッグにカットをしながら、何も始めない神鳥 切に驚いていた。
バトル祭は3人1チーム、主将がいて他2名の構成、主将は試合ごとに変えられ、主将が勝つと勝ち点2ポイント貰えるが逆に言えば負けると2ポイント取られると言う事だ。同ポイントになった場合は3人の中から1人選出し、サドンデスになる。
更にバトルするに当たってお題が存在する。
ショートスタイル、ミディアムスタイルそして主将はフリースタイルで別れていて、それの振り分けを記したのがオーダー表である。
「初戦の主将はどうっ…」
「そこはやっぱり俺以外いなっ…」
「間違いなく、恵だな。」
放課後の教室に神鳥 切と千場 流の最後まで言わせんとする言葉が飛び交う。
上条 灯にオーダーの締め切り日が今日だと聞いて焦って会議をしている3人である。
「おい!俺をシカトしてっ…」
「俺は切が適任だと思ったんだけど。」
「恵まで俺をシカトしっ…」
「そんな大役俺には荷が重いな。何故俺なんだ?」
「だからフルシカトかよっ!!」
「その理由なんだけど…まず、流。」
「な…なんだよ改まって。」
「正直お前が持つ怒気の高さはかなり主将にはうってつけだ。そのテンションはきっと俺らも勇気付けられ、流れも変えられる。だがその怒気を使うにあたってお前にはスピードが無さすぎる。だから初戦は相手もわからないから今回は諦めてくれ。そして俺が切を進めた理由はそこだ!前回の切と流のバトルで切が見せた途中でのスタイル変更とその状態から切り返せる感性あるスタイルの選択、切のスピードと発想力共に行動に移す度胸が無いと成り立たないからだ。」
「そこまで恵が評価してくれるのなら今回は俺で構わない。」
主将には須堂 恵が適任だと思っていた為、思わぬ評価をもらい、半信半疑で納得した神鳥 切だが、何故か腑に落ちない自分がいた。
「悪いな切…よろしくな。それと千場はどっちで行く?」
「俺はショートスタイルが得意だしそこで攻めようかなって思ってるよ!」
千場 流も須堂 恵の説明に納得し、得意のショートスタイルで納得した。
「じゃー決まりだね!俺がオーダー表出してくる。」
須堂 恵が職員室にオーダー表を提出しに教室を後にしたところで、神鳥 切は最近ずっと疑問に思ってたことを千場 流に打ち明けた。
「千場…ここ最近、恵がバトルしてるところ見たことあるか?」
「ん?…そういえばないな。」
「だよな。」
大会までもうそんなに日が無い。思い過ごしであって欲しいと心から願う神鳥 切であった。
そして。
united beauty schoolバトル祭、第1試合目当日。
バトル祭は1ヶ月ごとに1日1試合行われる。
人数が多い為にAブロックとBブロックで別れており、Aブロックは午前から開始、Bブロックは午後から開始になっている。
そして、学園の地下にある広場がカットバトルの会場。
およそ100人以上の人数がチームでバトルを出来る広さ。
バトル会場の地下1階が吹き抜けの天井になっており、一階フロアから見下ろす事が出来る。
そのフロアはもうすでに多くのギャラリーで会場は賑わっていた。
そして、
神鳥 切は地下1階に向かう途中だった。
「切くーん!」
女性の声に引き止められた。
「お!為心!」
鷹柱 為心と咲ヵ元 広幸の2人が居た。
「一回戦で負けたら減給ね。」
咲ヵ元 広幸から嫌味が出た。
「あ、いや…それは…ちょっと…冗談でもやめていただきたいのですが…。」
神鳥 切の焦りに2人は笑った。
すると、
「あー!為心!」
「あ!灯!応援しに来たよー!」
「ありがとう!!私、今日Bブロックだから午後からなんだ!応援よろしくね!」
上条 灯が鷹柱 為心を見つけ騒いでいた。
「灯、俺は何ブロックだった?」
神鳥 切は上条 灯がトーナメント表確認しに行ったついでに自分のも見てないかと尋ねてみた。が、
「ごめーん!見てないや!」
「そうか。…ありがとう!」
そんなやりとりをしていた時、
「せっーつ!」
遠くから名前を呼ばれた。
今日は良く名前を呼ばれる日だと思った。
振り向くと金髪頭が手を上げていた。
千場 流だ。
「オーナー、もう僕行かなきゃいけないので、今日は楽しんでってください!」
「はいはーい。」
「為心も楽しんでね。じゃっ!」
神鳥 切はその場を立ち去ろうとしたが、
「切くん!頑張ってね!」
そして、上条 灯も、
「初戦で負けんじゃないわよ?」
「おう!」
神鳥 切はその場を後にし、トーナメント表を3人で確認しに移動していた。
「俺は!待ってたぜ!今日という日を!」
「お前はいつもうるさいんだよ。」
千場 流がかなり意気込んでいる中、神鳥 切は冷静な判断を下していた。
「…。」
「…?恵?どうした?大丈夫か?」
その会話に対し、須堂 恵が何も反応しない事に疑問に思った神鳥 切は声をかけた。
「あ!いや!何でもない!ちょっと考え事してただけだから。」
「…ならいいん…」
腑に落ちない神鳥 切だが、納得の言葉を掛けようとした途中で遮られた。
「俺らAブロックだって!この初戦の対戦相手の主将、恵がバトルしたことある奴じゃないか?」
千場 流が先にトーナメント表を確認していた。
そして、須堂 恵が名前を確認した。
「…あー…はいはい。覚えてる。覚えてる。確か…がたいがやたら凄かったのを覚えてるよ。」
「んで?どうなの?強いの?」
千場 流はウキウキ、ワクワク、している子供の様にはしゃいでいた。
「そこがあんま覚えてないんだよな…でも決して弱くない記憶だけあるんだよな…。」
「そっか…初戦は始まってみないとわからないか。ちなみに浦桐のチームはどうなってる?」
初戦の相手よりも、神鳥 切は浦桐チームの対策をしたい為、そっちが気になっていた。
「えーっと…うわ!浦桐のチームBブロックじゃん!決勝まで当たらねぇのか……え!?つか!誰だこれっ!?」
ホワイトボードに張り出されたトーナメント表を見ていた千場 流から驚きの声があがった。
「どうした?」
その驚きに神鳥 切が千場 流に問いかけた。
「これ見て!」
すると千場 流が指差す先にあったのは。
「…双葉 … 沙切?(フタバ サキ)確かに聞かない名だね。名前からして女の子だよね?…え?浦桐のチームで初戦主将?」
千場 流の驚きに神鳥 切がようやく理解できた。
須藤 恵も含め、女性を入れたチームがとても珍しいという事、そして主将でのオーダーに驚きを隠せなかった。
主将は1試合ごとに変えられる為、普通だと思いがちだが、第1試合目は相手が判断つかない為、確実にポイントを稼がなければいけない。その為、初戦のオーダーは必然的に最善の構成になる。
「俺らみたいに何か作戦があるのか?それとも…実力、スキルが本当に浦桐より…上なのか…?」
神鳥 切がその言葉を口にしたその時、後ろから、
「君が神鳥 切くんかな?」
「え?」
神鳥 切が後ろを振り返るとそこには。
黒縁眼鏡をかけ、髪は七三分けでいかにも頭が良さそうな心当たりがない男性が声をかけて来た。
「ごめん。えっと…君、俺と知り…」
「会うのは初めてだよ。僕と戦う相手、神鳥 切という人物を見ておきたくてさ。声かけさてもらったよ。」
言葉を言い終わる前にこの男はもう答えを口にしていた。
神鳥 切は次の対戦相手だと思い、名前を確認するべく、背後にあるホワイトボードのトーナメント表を見ようとし、振り返ろうとしたが
「僕の名前は相鐘 拓斗(アイガネ タクト)ちなみに君たちの初戦の対戦相手じゃないよ?決勝…楽しみにしてるね。切くん。」
相鐘 拓斗はその言葉と怪しい笑みを残し、その場から立ち去っていった。
「決勝…?」
神鳥 切、須堂 恵、千場 流の3人はトーナメント表を確認した。
「おい!あいつ、浦桐のチームじゃねぇか!しかも、相鐘って相鐘財閥のじゃないの!?」
「もしかして…あいつが噂の相鐘財閥の子孫の人!?」
千場 流、の発言に神鳥 切は驚きを露わにした。
相鐘 拓斗の噂は有名で、金の力を使い、美容師界の有名な人の講習や、勉強会に参加している噂があり、そのせいなのか、スキルに対し、卓越していると言われている。
そして神鳥 切は違う点に気づく。
「俺たちが決勝で戦うのを想定済って事だよな。それと、あの言葉…あっち側ではもう俺たちが勝ち進む前提で戦う相手ももう決まってる事になる。」
そして須堂 恵も考えがそこにいたり頷く。
「そうだね。そうなると…この双葉って女の子…相当できる子だね。」
「なんだよ!どういう事だよ!」
千場 流はそこまで頭が追いついていなかった。
「要するに、多分オーダー次第で、お前の相手は浦桐になるって事だよ。」
神鳥 切が答えを簡単にまとめた。
だが、裏付けは相鐘 拓斗のあの一言で、浦桐チームの絶対的主将は双葉 沙切に確定した事になる。
浦桐 啓多と千場 流のバトル時に浦桐 啓多の目的は明らかに須堂 恵に対するものであった。そうであるならば初戦のオーダー表は須堂 恵と戦いたい為、間違いなく浦桐 啓多が主将で出してきているはずである。
しかし。主将は双葉 沙切。
そして、その双葉 沙切のチームの相鐘 拓斗は明らかに神鳥 切に敵意をしめして『僕と戦う相手』とはっきりと言っていた。このことから今回の双葉 沙切チームのオーダー、つまり、スキル順は本当で、須堂 恵に勝つ為に、バトルする相手までもう決まっているという事になる。
「お前だけやたら目立ち過ぎだな。」
神鳥 切は沢山の人から一目置かれ、意識されている須堂 恵がちょっと羨ましかった。
「…。」
須堂 恵からの返答がなかった。
「なぁ。恵!」
「…あ、すまん。今なんて言った?」
「お前本当に大丈夫か?」
「平気。平気。全然大丈夫。双葉 沙切とのバトル…本気出さないとって思ってさ。」
「…あぁ、まぁ確かにな。」
キーンコーンカーンコーン。
学校のチャイムが鳴り、開会式の放送が流れた。
『地下1階ホールにて、大坪学園長の挨拶がありますので出場選手は地下1階ホールにお集まりください。』
地下1階ホールでは出場者の雑談で盛り上がっていた。
すると、司会者が進行をする。
『これより、united beauty schoolバトル祭を開催いたします。では、初めに学園長のお言葉です。』
「皆さん、おはようございます。またバトル祭の時期がやってきました。このバトル祭で沢山の生徒が成長するはずです。その1つとして、切磋琢磨の4文字熟語がありますが、まさにバトル祭にふさわしい言葉だと私は思います。ライバルは人生で居なければならない存在です。新たなライバルをこの機会に是非作ってください。」
「学園長ありがとうございました。それでは、制限時間90分、今回は審査員を各バトルチームに用意しています。それぞれ都内で名のある美容室からお越し下さった方々です。15分後にバトルを開始致しますので、各自準備をお願い致します。」
神鳥 切、須堂 恵、千場 流の3名は自分たちの準備をし始めた。
三脚のスタンドにウィッグを準備し、皆、スプレイヤーに水を入れたり、それぞれ準備をし始める。
そして、神鳥 切は自分の指定された主将の位置に移動した。右には須堂 恵、その横に千場 流がカットするスペースがある。
2人はまだ準備から戻ってきていないみたいである。
そして、
目の前にはすでにこれからカットバトルをする相手、敵の主将がこちらを睨んでいた。
対戦相手の名前は…河大道 健(ガタイドウ ケン)。
神鳥 切はその威圧を無視し、淡々と準備をする。
しかし…
「あぁーあ!主将が須堂 恵じゃないってどうなってんのかねぇ!」
目の前に居た体格が大きく、髪はスポーツ刈り、美容師ではなく、まるで、力仕事をしている職人のようで、場所を間違えているのではと疑ってしまうような男が敢えて聞こえるように言葉を口にした。
「…。」
「だんまりかよ。こっちは須堂 恵にリベンジ出来ると思ってたのなよぉ!とんだハズレくじ引いたぜぇ。」
この男は腕に自信があるのだろう。
そして、須堂 恵にバトルを挑み、負けた者の中の1人なのだろう。須堂 恵のチームで主将は誰もがどう見ても須堂 恵なのであろう。
神鳥 切はそれを耳に入れてないかのように、その挑発に乗らないかのように黙り混んでいた…と誰もが思っていた。
「…ざ…んな…。」
神鳥 切が小さく、聞こえにくい声で口を開いた。
自分自身に言葉をかけたのだ。
「あ?なんか言ったか?」
「ふざけんな。って言ったんだ。どいつもこいつも須堂 恵、須堂 恵、須堂 恵って言いやがって。」
相手の挑発にハマった…ではなく、自分自身に対して怒りを露わにしていた。
神鳥 切自身、須堂 恵のスキルの高さは認めている。発想、技術、感性、才能、どれを取ってもレベルはかなり高い。だが、この3人で1つのチームであるはずなのに、須堂 恵のワンマンチームの扱い。
決して、自分自身が強いと奢っている訳ではない。
チームでの扱いが全くされていない事、自分の努力を踏みにじられている事、千場 流の努力を踏みにじられている事、それは神鳥 切、千場 流、そして、その2人とチームを組んでしまったと言う須堂 恵にも当てはめられ、それは3人に対し、侮辱に値する。
須堂 恵の力に頼らなければ強くわないと思われている、そんな弱い自分自身を作ってしまった、弱い自分を演じてしまっていた、そんな自分に神鳥 切は怒りを感じている。
「はぁ?何言ってんだお前。」
だから…神鳥 切はここで証明しなければならない。
「ぜってぇぇ潰す。お前に負けるなんざあり得ない。100%有り得ることはない。」
その言葉を口にしている時、須堂 恵、千場 流が戻って来た。
2人は状況が読めず困惑していた。
「せ…切?どう…した?なんかあったのか?」
須堂 恵が闘志を燃やす神鳥 切に恐れながら声をかけた。
「恵…初戦から全力で飛ばす。」
「お、おう。そ、そうだな。」
須堂 恵は神鳥 切の余りの怒り、闘志、闘気、気迫に「うん」と言わざるおえなかった。
千場 流に関してはあまり見ない神鳥 切の状況にもう言葉を掛けられずにいた。
そして、
アナウンスが流れた。
『それでは!united beauty schoolバトル祭、第1試合を開始します!皆さん準備はよろしいですか?…それでは…スタート!!』
全ての出場選手全員が一斉にカットを始めた。
地下1階の会場には沢山の鋏の音が鳴る。
だがそれだけ、それ以外何も聞こえない。カットバトルをしている出場者の雑談など人の話声は一切聞こえてこない。
皆、集中している。が、1階フロアで観覧をしているギャラリー達は大盛り上がりであった。
友人、家族、知人、上司、美容師、OB、など、どれも応援を目的にバトル祭へおもむき、声援を送っている。
しかし。
神鳥 切は周りが鋏を鳴らす中、皆がカットを始めたにも関わらず、目をつぶって、ただウィッグの前に立ち、何も始めようとしない神鳥 切。
隣に居た須堂 恵が、目の前にいる河大道 健が自分のウィッグにカットをしながら、何も始めない神鳥 切に驚いていた。
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