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伽藍 瑠為

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友の裏切り

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8  友の裏切り



神鳥  切、千場  流、須堂  恵の3人は学園の階段下スペースにいた。

「…。」

「…。」

「…。てぇめぇぇ…なんか言う事は無いのかよ。」

千場  流が須堂  恵に対し、怒声を口にした。
しかし、須堂  恵は俯いたまま。

「無い。」

その刹那の出来事だった。
聞いた事がない鈍い音が響いた瞬間、須堂  恵が後ろの壁に向かって吹き飛び、叩きつけられ、地面に崩れ落ちた。
千場  流が須堂  恵を迷わず左頬めがけ殴り飛ばしたのだ。
そして…
更に激声を飛ばした。

「ふざけてんじゃねぇんだよっ!…なぁぁっ!」

「…。」

須堂  恵からは言葉は返ってこない。

「…俺たちに謝るのが筋だろぉ!?…おいっ!…けいっ!!!」

「…。」

千場  流の怒りは収まらない。
神鳥  切は千場  流が須堂  恵を殴る事は分かっていた。だが、決して止めようとはしなかった。
なぜなら、今は千場  流が正しいからだ。

「聞いてんのかぁ?おいっ!!」

千場  流が言葉と共に須堂  恵に掴みかかる。が、須堂  恵は目をそらし、千場  流を見ようとしない。

「なにか言えよ……嘘だって…言ってくれよ…。」

掴みかかる千場  流の手が震え、感情で声も震え…そして…地面が濡れていた。

「なぁ…お前はそんなんじゃないだろぉ…そんなんじゃいけないだろぉ…あんな事するなよ…あんなダサい事するなよぉ!…俺らが悲しむ事するなよぉ…俺らにとって…あれは侮辱だろぉ!……俺が知るいつもの余裕のお前はいったいどこ行ったんだよぉ……なぁぁっ!!けいっ!!」

千場  流は須堂  恵が許せなかったのだ。
目標にしていた存在が途中で諦めてしまった事。
チームとして最後まで頑張ってくれなかった事。
自分自身に負けてしまった事。
千場  流の信頼を裏切られた事。
神鳥  切の信頼を裏切られた事。
相談してくれなかった事。
チームとして信頼が無かった事。
自分1人で全て抱え込んでいた事。

「どうして…何も言ってくれないんだよ…。何でもっと…何でもっと早く…俺たちに相談してくれなかったんだよ…。俺たちは仲間じゃないのか…?俺たちはそんなに頼りないかぁ!?」

「もう…その辺にしとけ、千場。」

神鳥  切が見かねて、千場を止めた。

「俺らにも少なからず責任はある。」

そう。
違和感を感じていた。その違和感を何処かで須堂  恵なら大丈夫と奢っていたのだ。
絶対の信頼を置き、頼り、任せ、全てを気づかない間に須堂  恵に背負わせていた自分たちにも、責任はある。だが、千場  流が感情的になる理由もわかる。
チームとしてやってはいけない事。
信頼を裏切ると言う事。
須堂  恵はあの瞬間全てを捨ててしまった。
それは一度でも、だった一度でも行えばチームにとって取り返しがつかない大問題だ。

「千場…お前がいると話が進まない。一度冷静になる為にここは俺に任せてくれないか?」

神鳥  切の言葉に千場  流は何も言わず、その場を後にした。

「…。」

黙り込んだままの須堂  恵に対し、神鳥  切が思い当たる節を言葉にして見た。

「恵…お前…スランプだろ…。」

「…はぁ…」

須堂  恵は深いため息を1つついて、次の言葉を並べた。

「お前にはかなわないな…。そうだよ。その通りだ…いざ、カットしようとすると…わからないんだ…。今までどうやって切ってて、どう作ってきたか…全くわからないんだ…。なんとか…間に合わせようと…家で練習したり…色々試したが…感覚が元に戻らないんだ…。」

須堂  恵は立ち向かっていたのだ。
2人が知らないところで、1人で、たった1人で、神鳥  切、千場  流の2人から、そして、周りのみんなからのプレッシャーを1人で受けて、自分自身と戦っていたのだ。

「いつからだ…?」

「1ヶ月ぐらい前から…。」

「なんで黙ってた?」

「すまん…お前らに…迷惑をかけたく無かった。でも…取り返しのつかない事になっちまった…。」

「なんで今謝るんだよ。さっきの千場になんで謝らなかった?」

「あいつが怒る事は分かってた。俺はあいつに殴られなきゃいけないと思った。…いや…きっと…俺は殴られたかったんだと思う。」

須堂  恵は自分の誤ちをしっかり理解していた。
神鳥  切、千場  流、仲間達に一時的でも裏切ってしまった自分自身をわかっていた。

「なぁ…切…。俺はどうしたらいい…?」

その言葉に神鳥  切は驚いた。
高校時代からずっと一緒にいる須堂  恵だが、神鳥  切に弱音を吐いた事は今まで一度だって無かったのだ。
だから神鳥  切は須堂  恵が本当に助けを求めている事を理解した。

「俺がなんとかする。宛てを探してみる。だから待ってろ。」

「悪いな迷惑かけて…。俺も頑張るから…。…でも…やっぱり…いつか…こんな日が来るじゃないかと思ってたよ。」

「それ、どういうことだ?」

「俺は…親父が美容師だから、基礎知識や技術だったり先に知ることができた。母親からも物覚えがいいってことで才能あるとまで言われた。だからこそ、俺はこの学園でも、一目置かれるようになった…。でも…俺より知識も技術も無いお前が常に俺の後ろにいた…。いつかは抜かされるじゃないかと、ずっとお前を意識してた。だから…お前に負けないように…抜かされないように…置いていかれないように…実は俺…必死だったんだ。」

須堂  恵の突然の本音に動揺する神鳥  切だったが、その反面…何故か今この場所で、この時に、この瞬間で、報われた様な気がした。
自分だけが須堂  恵を意識してるだけだと。
ライバルだと認識してるだけだと。
何処かでそう思っていた。
だから、肩を並べたことで努力を認めてもらいたい。
同等の立場で戦いたい。
同じチームとして心強く思ってくれる様な存在を目指して、今日のバトルですら弱い自分を作ってしまった事に怒りを感じ、そして、感情は抑えきれないほどに、必死で戦った。
なのに…
須堂  恵は初めから認めていた。
神鳥  切という人物を意識してくれていた。
それはつまり…神鳥  切自身が願っていた存在にすでになっていたのだ。
だから、報われた気がしたのかもしれない。が、嬉しさの反面、責任も隣にはいた。
知らず知らずの内に神鳥  切は須堂  恵を追い詰めていたのだから。

「必ず次のバトルまでは間にあわせよう。俺も頑張るから…だから…恵…お前も自分自身を超えろ。今度は本当に肩を並べて俺と一緒に戦ってくれ。」

須堂  恵が言ったあの言葉は…
『いつか、こんな日が来るじゃないかと思ってたよ』

きっと…肩を並べられず、一歩先に行ってしまった神鳥  切の背中に向かって出た言葉なのだろう。
須堂  恵の本音に神鳥  切は今日初めて気づき改めて須堂  恵と約束をした。

「よろしくな。切。」

須堂  恵の挫折はあったものの、バトル祭の初戦の結果は千場  流が勝ってくれたおかげで、なんとか、一回戦突破を果たした。だが、須藤  恵のスランプの噂は瞬く間に広がった。
敵の付け入る隙を作ってしまい、神鳥  切チームは大きな問題を抱える事になった。


❇︎      ❇︎      ❇︎


「お前の予想通りだったぞ。須堂  恵のネタを使って挑発したら簡単に引っかかってきやがった。ただ、バトルしてわかったが、神鳥  切は何かおかしい。あいつのあの集中力は桁違いだ。本気にさせたらマジでやべーぞ。もしかしたら須堂  恵と同等…いや…それ以上かもしれない。」

河大道  健が男子トイレの壁に寄りかかり、その横の仕切りされているドアの向こうの誰かと会話をしていた。

「うん。見てたよ。君本当に弱いね。」

「俺が弱いんじゃねぇ、あいつが化け物なんだ。あいつのカットが始まってからの雰囲気の違いはいったいなんなんだ?普通じゃねぇ。」

「リミッターっていうらしいよ。」

「リミッター?なんだそりゃ。」

「スポーツ競技とかでたまにあるゾーンって言葉聞いたことない?」

「聞いた事はある。だがそんなのできる人間がこの世の中にいるのか?」

「まー所詮は噂だけどね。ただ、彼のが本当にリミッターだとしたら…彼の精神力は君じゃ確かに叶わないだろうね。」

「どういうことだ?」

「激しい悲しみの果てを経験した者、精神の先を見た者。極めし者、死を彷徨った者。色々とあるらしいけどね。」

「さっぱりわからねぇ。…お前なら勝てるとでも言うのか?」

「それを確かめる為に君に仕事をしてもらったんじゃないか。あぁ…早くバトルしたいな。楽しみだな。須堂  恵とバトル出来ないと決まった時は残念だったけど…神鳥  切か…僕を楽しませてほしいな。」
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