逢魔が刻の料理店/『双剣の陰陽師』『聖なる祓魔師』『厄災の魔導師』『ただの?調理師』ごきげんなスタッフが、皆様のご来店をお待ちしております!

ペンギン饅頭

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 2・容姿は大切ですが、それだけでは無いと思っています。

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 扉の鈴の音が響きます。

 その音を聞いて店頭に置いてある、おすすめメニューの看板を、珍しい事にアルバイトのさきちゃんが仕舞い忘れてしまったのかと思いました。
 慌てて厨房から客席に向かい閉店のお断りを告げようとして、意外なお客様に眼をみはります。
 高校生でしょうか、この店では珍しい制服姿の少女です。
 長い黒髪をなびかせ、木の床を軋ませ、細身の身体を弾ませるようにして店の中へと入って来ます。
 少女は私の前で立ち止まりました。

「申し訳ありませんが……」

 私を見詰める少女に、閉店を告げる言葉が詰まってしまいました。
 少女の切り揃えた前髪からのぞく、美しくも、射抜くような鋭い眼光に息を飲んでしまったのです。
 切れ長の眼に、長い影を落とすまつ毛、クッキリとした眉、薄く高い鼻梁。
 白い陶磁器のような肌に浮かぶ、赤く濡れそぼった薄い唇。
 かすかに柑橘系の香りが漂い、細身ながら自己主張の強い胸元が目を引きました。

 少女は私から視線を逸らすと、さり気なく店内を見渡して言いました。

「素敵なお店ですね」

 まあ! なんて素直で正直ななのでしょうか。
 小さなお店ではありますが、私なりのこだわりであふれています。
 木の温もりを感じて頂けるように、取り壊された旧家の、艶のある飴色の古木で内外装は仕上げました。
 大きな窓から柔らかな自然な光を取り入れ、お客様におくつろぎ頂けるよう、ゆったりとした座席をご用意し、什器備品の設えにも細心の注意を払い、見る人が見れば分かる、お高めの骨とう品を上品に飾り付けた自慢のお店です。
 
 少女の目にも私が舞い上がっているように映ったのでしょうか、打って変わって穏やかな笑顔を浮かべ言います。
 
「ここ、いいですか」

 浮ついている場合ではありませんでした。
 少女は私の前でスカートの裾をひるがえして向きを変えると、サッサと窓際の席に座ります。
 改めて閉店の旨を伝えようとすると、目をを丸くして少女が口を開きます。

美人さんですね」

 もー! もー! 本当に素直で正直な娘なんだから。

「何を仰いますか、貴女こそ、とてもお綺麗ですよ」

 私がそう言うと、少女は真っ白い歯をのぞかせて、笑いながら答えます。

「まー。良く言われますけどね」

 嫌味の無い、惹き込まれるような笑顔です。

「看板に書いてあった、おすすめメニュー。お魚料理でお願いします」

 釈然としない気持ちが頭をかすめました。

 ためらわず注文する少女に手玉に取られて、踊らされ、まるで閉店だと言わせない様にさせられたみたいです。
 この流れで断る事など出来る筈もありませんでした。
 まあ、食材はまだありますし、さほど手間が掛かる訳でもないですから、別段構わないのですが。

「直ぐにお持ちします」


 私は厨房に駆け戻りました。
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