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58・限度を超えた盗み食いです。
しおりを挟む残念です。
精肉はロースとヒレしかありません。
タン、バラ、ハラミにモモ、色々な部位を欲しかったですし、せっかくの仔牛ですから胸腺肉を食べてみたかったです。
あまり馴染みのないお肉ですが、胸の辺りにある免疫細胞を成形する臓器です。
成牛になると固く小さくなってしまって、美味しくなくなりますが、仔牛の胸腺は高級部位でお味も絶品です。
仕込みも、調理も簡単で、表面の余分な脂や血合いを取り除き、白葡萄酒を湿らせた麻布で包んで、軽く重しをしておいて、後は塩胡椒して炒めるだけです。
まあ、無い物ねだりをしても仕方ありませんので、メインとなるお肉のお味見と行きましょう。
端の方を切り取って炭火と岩塩プレートで焼いてみます。
3人娘は勿論、私の後ろにピッタリ付いて待機しています。
う~ん、美味しい!
こんなに美味しいお肉は食べた事がありません。
仔牛の肉ですから、和牛のようなサシの入った上質の脂の旨味、とろける柔らかさとは質が異なり、サリパリとした肉の旨味を想像していましたが、どちらかと言うと極上の長期乾燥熟成の赤身肉の旨さです。
柔らかいのですがしっかりとした弾力があり、噛み心地に快感を覚える程で『あー、今、私は美味い肉喰ってんな!』としみじみ思います。
どちらが良いか、3人娘の意見を聞こうとして……。
「何やってんの!」
勝手に肉をスライスしてパクパク食べているではありませんか! 本当に何やってくれちゃっているのですか。
「だって、日向。その肉汁が炭火に落ちた時の『ジュ、ジュッ』という音だけで美味しいですし、ましてやその香りを嗅いだら我慢しろという方が無理ですわ」
「うむ、リコの言う通りだ! 我々は何も悪く無いぞ、自然の摂理に従ったまでだ」
「ん゛ん゛ぐふっぐ!」
開き直りやがった、コイツら!
それにしてもマリは頬をパンパンに膨らませているので、何を言っているのかサッパリ分かりません。
も―どーでも良いです。
「それで、どっちが美味しい」
「炭火焼きだ」「岩塩プレートですわ」「どっちもー!」「マリ、それは答えになっていないですわ」「リコもだ、どう考えても炭火焼の香ばしさが上だろう」「いいえ、岩塩プレートで焼いた塩味のまろやかさの方が上ですわ」「分かってないなリコは、塩気がまばらな方が味に変化があって旨いぞ」「はあ? 分かってないのはハルですわ。全体的に塩味が染み込んでムラの無い方が美味しいに決まっていますわ」「何だと!」「何ですの!」「けんかしちゃ、やー!」「マリがどちらか決めないからいけないのだ」「そう、マリは優柔不断なのですわ」「なにをー!」
聞いた私が馬鹿でした。
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