公爵令嬢走る!/恋の闘争・正義は我にあり 序章

ペンギン饅頭

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55・あ! 骨折れてた。

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「ほら、行くわよ!」

 最愛のお母さまへのリリアの『想い』が痛いほど伝わり、嬉しい反面、恥ずかしくて仕方ないのを誤魔化すように、リリアを急かします。

 リリアは、ふくれっ面をしながら渋々重い腰を上げました。
 その腰を押しながら部屋を出ます。
 私は押し花を手にして調理場へと向かいます。

 リリアにとって、この押し花は宝物でしょうが、私にとっても黄金を産む宝物かもしれません。
 香草として食材に使うのはもちろんなのですが、気になるのは、この甘い香りです。
 もしかしたら代用砂糖として使えるのではないでしょうか?
 まだまだ砂糖は領民にとって高嶺の花。
 安価で品質の良い甘味料ができるとならば、食文化が進み、領民の食生活が豊かになるのは大変喜ばしい事ですし、新しいお菓子が開発されるかと思うとワクワクしてしまいます。
 
 エドに独り占めさせないで、ガッツリ商売に食い込んでやりましょう。

 そんな事を考えていると、自然と足取りも軽くなり、飛び跳ねながら歩いていると、通りすがりの部屋の扉が開くのが見えました。
 見知った給仕の娘が部屋から出てきたのですが、わずかに扉を開け周囲を窺っているようにも見て取れます。
 私とパッタリ眼が合うと、あからさまに驚いて、慌てて頭を下げ会釈して、そのまま走り去って行きました。

「……?」

 あまりに不自然な挙動でしたし、給仕の娘の顔は、上気したように赤らみ、如何にも恥ずかし気に見えました。
 いくら、男女の機微にうとい私でも、あの娘の様子を見れば分かります。
 なにかしら、部屋の中でひそか事でも行われていたとでも言うのでしょうか?
 だとしたら不謹慎極まりない事なのですが、相手は誰なのでしょう? 詳しくは分かりませんが、部屋は空き間だったはずで 確かめたい気持ち満々なのですが、さすがに部屋を訪れるのは嗜みというものがありますし、誰にせよ顔を合わせるのは気恥ずかしいですから、出来る筈もありません。

 う~ん、リリアが居ないのが残念です。
 リリアはこう言った時に、何のしんしゃくも無ければ、遠慮もありません。
 平気な顔をして、扉を蹴破らんばかりにしてズカズカと、部屋に踏み込んでいくのですが、あの強心臓ぶりは見習おうとしても、おいそれと、出来る事ではありません。
 ましてや、そこに御家にとっての不正行為や、秩序を乱すもの、或いは職務怠慢の現場などに居合わせでもしたら、大変な事になります。
 例え相手が誰であろうと容赦しません。
 実際、骨の一本や二本折れようとかまわないとばかりに、もの凄い勢いで蹴りつけたのを見た事もありました。

 いや~、怖かったです。

 後ろ髪引かれる思いではあるのですが、その場を後にし、調理場に向かって。

 走り出します。
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