公爵令嬢走る!/恋の闘争・正義は我にあり 序章

ペンギン饅頭

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61・自分の事など分かるはずありません。

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 私に向けられたやいば

 いえ、向けられたのは刃ではありません。御家に仇なすものであらば、身を挺し、命を賭して排除するという、リリアの覚悟であり、自らの感情におぼれる事の無い、強い意思なのです。

 私は何と愚かだったのでしょうか『先ずは赤鬼の事。委細漏らさず知らなくては』と思いつつも『男と女』という想いが混ざれば、見るものすべてに霞が掛かり、感情に振り回されて、冷静な判断が出来ないのは当然です。
 いつもリリアには教えられてばかりです。深い自責の念に、苛まれて……反省終了!
 私に向けられた刃を、鷲掴みに握り締めました。

「あ! お嬢、何を!」

『何を』と、問われても、説明のしようが無いのですが、刃に込められたリリアの意思を『しっかりと受け止めた』とでも言えば良いのでしょうか。あまり深い思惑も無いのですが、可哀想になってしまう位、リリアは狼狽えてしまいました。

「け、怪我でもしたら、ど、どーするんですか!」

(いや、しねーから)

 切っ先こそ鋭いものの、リンゴの皮さえろくすっぽ剥けないナイフです。握り締めたからといって、何の痛痒も感じません。どうやらリリアの頭の中から、すっぽりと、その事が抜け落ちてしまっている様です。
 リリアの手元がお留守になっているのをこれ幸い、ナイフを取り上げてしまいます。

「主人に向かって刃を向けるとは、言語道断。没収するわ」

「えーー!?」

「あら? 何を驚いているの? 当然の処置、いえ、最大限の温情ある処置じゃなくて」

 これ見よがしに、ナイフを摘まみ上げて、リリアの目の前で二度三度と振りかざすと、

「い゛っだぁあー!」

 何と、リリアに手刀をお見舞いされて仕舞いました。ナイフで刺されるよりよほど痛いに違いありません。何たる非礼。
 リリアは私が思わず取り落としたナイフを、素早くすくい上げるようにして、手にします。

「どんな処罰も甘んじてお受けしましょう! しかし、しかしですよ! このナイフだけは決して、お渡ししませんよ!」

「ぷぷっ」

 あぁ、いけません。リリアの剣幕に思わず吹き出してしまいました。もう少し意地悪をしてやろうと思っていたのに残念です。

 最愛のお母さまのナイフを何よりも大事な物として……。
 いえ、リリアにとって、ナイフはただの象徴に過ぎないのでしょう。最愛のお母さまより『エレナを守りなさい!』と、私の身辺警護の厳命を受けた事がリリアにとって、何よりも誇らしい……自惚れなのでしょうか? 何だか悲しくなってきてしまいました。どうにも感情が昂って抑制が効きません。

「お嬢……」

 リリアがナイフを放り投げて、私の肩を掴んで優しく引き寄せました。
 自分自身が良く分からない感情の昂りを、リリアはお見通しのようで……。

 うん、こうなれば空元気も元気のうち。

「リリア! 行くわよ!」

 私はリリアを置き去りにして、城外に向かって、

 走り出します!
 
 
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