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第2話:コード階層都市《オルド》の影
しおりを挟む第2話:コード階層都市《オルド》の影
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光が、失われた。
それは停電でも日蝕でもなく、
“上の階層に光を奪われた” という方が正しかった。
世界は巨大な階層都市《オルド》によって縦に分断されている。
“上層”にはSランク以上の高資格者、
“中層”にはライセンス持ちの一般階級、
そして“最下層”――
UNQUALIAたちがうごめく、資格を持たぬ“影の街”。
無名はその最底部、“フレームD-0”にいた。
「ここが……人間扱いされない世界か」
天井に見えるのは鉄骨と腐敗した排気孔だけ。
陽光など届くはずもなく、
街全体が人工灯と廃棄熱で薄く霞んでいる。
マリアは彼の隣で宙に浮いていた。
データコードで構成されたその身体は、わずかに透けている。
「コード汚染度、臨界まであと12時間。
このままだと君の存在は自動削除対象になる」
「勝手に計るなよ、俺の“寿命”を」
「私は君の監視官でもあるの。
UNQUALIAという危険因子が、何を壊すか見届ける義務がある」
「なら、ちゃんと見てろ。
俺が“何を救うか”も、だ」
そう言って、無名は歩き出す。
その背中を、マリアはどこか奇妙な目で見つめていた。
⸻
***
フレームD-0には、秩序も法も存在しない。
代わりにあるのは「階層税」と呼ばれる搾取制度。
中層以上の人間たちが、下層から“物資と人”を回収することで、
その生活を維持している。
その徴収を担っているのが――
階層騎士《コードライセンサーズ》。
「そこをどけ、UNQUALIAども!」
黒いコード装甲に身を包んだ数名の兵士たちが、
バリケードのように並ぶ子どもたちを蹴散らしていた。
「やめろッ!!」
声が響く。
間に割って入ったのは、一人の少女だった。
まだ十代の少女。
短く刈り込まれた髪と、左腕に走るコード焼印が印象的だった。
「アイン……またお前か」
「ここに“資格持ちの人間”なんていない。
ただ、食って、生きようとしてるだけだろ!」
コードライセンサーが鼻で笑う。
「“資格がない”ってのは、“人間じゃない”って意味だよ。
物だ。商品だ。運べ。消せ。使え。それだけの話だ」
無名がそこに現れたのは、ちょうどそのときだった。
「へぇ、そうかよ」
その声に、兵士たちが一斉に振り返る。
「誰だ、お前は。認証コードを――」
「ねぇよ」
無名の手が、ふわりと持ち上がった。
次の瞬間、
コードライセンサーの持つ端末が全てバグを起こし、
アーマーが崩壊を始めた。
「何ッ!?機能障害……!?おい、動けねぇ!!」
「オーバーライド……されてる!?いや、そもそもこの反応は……」
彼らが怯えた理由は、直感ではなかった。
背中に埋め込まれたランクモジュールが、**“識別不能”**と告げたからだ。
「お、お前は……UNQUALIAの中でも……
最上級バグ認定個体、“XXXランク”……ッ!?」
「勝手にランク付けしてんじゃねぇよ」
無名の瞳が静かに光る。
そして――爆ぜた。
無音のまま、空間そのものが“再起動”されたように、
周囲の構造がリセットされ、騎士たちは一瞬にして無力化された。
誰も、何が起きたのか分からなかった。
ただ、“消去”されたような感覚だけが残った。
⸻
***
その場にいた全員が、静まり返った。
あの少女――アインが、口を開いた。
「……あんた、何者?」
「さあな。たぶん……“誰でもない”」
「でも、助けてくれた。
あたしたちは……こういうの、ずっと待ってたんだよ」
「待つなよ。
自分で壊せ。自分で奪え。
……それが、“UNQUALIA”ってもんだろ?」
アインの目が見開かれる。
マリアが後方で、微笑したような気がした。
「いい言葉ね。
……録音しておくわ、“UNQUALIA宣言第一号”として」
「ふざけんな」
「ふざけてないわ。あなたは今、初めて他者の中で“存在した”のよ。
それは、世界を変える初期コードに等しい」
無名は空を見上げた。
鉄の天井の、その遥か上――
まだ、彼の“破壊すべき秩序”がいくつも存在していた。
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そして世界は、再び静かにバグり始める。
⸻
🔚 第2話・完
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