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第1話: 忘れられた過去と始まりの予言
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「俺の名前は…何だっけ?」
冒険者ギルドの薄暗いカウンターで、青年はまたもや自問していた。答えはない。いや、あったとしても、すでにその記憶は忘却の彼方だ。彼が「忘却の呪い」をかけられてから、どれだけの時間が経ったのかも、すでに定かではない。覚えているのは、常にぽっかりと空いたような、空虚な感覚だけ。
「なんで俺だけ…こんな目に…」
青年は目を閉じ、過去を思い出そうとした。しかし、頭に浮かぶのは断片的なイメージばかり。自分の名前さえも覚えていないが、一つだけわかっていることがある。それは、「100年先の未来を視る力」を持っているということ。
奇妙な力だった。100年後の世界の出来事が、まるで自分の目の前で起こっているかのように視える。大規模な戦争、王国の滅亡、偉大な英雄の活躍…すべてが鮮明に見えてしまうのだ。だが、自分自身に関することは何一つ視えない。未来に自分の姿はなく、自分がどうなるのか、何もわからない。
そんな彼は、ギルドでも底辺の冒険者として扱われていた。戦闘力は皆無に近く、冒険者ランクも最低クラス。今日も雑用ばかりが押し付けられる日々が続く。
「よぉ、またボケっとしてんのか?」
隣のテーブルから聞こえる声に、青年はハッと顔を上げた。彼に話しかけたのは、同じ冒険者ギルドに所属する豪腕の戦士だった。筋肉隆々の彼は、いつも最弱の冒険者をからかって楽しんでいた。
「なぁ、100年後の未来が視えるってのに、どうして今、こんな底辺でうだつが上がらないんだ?お前の“予言”が本当に当たるなら、もっとマシな仕事でもしてるだろうよ」
その言葉に、青年は軽く肩をすくめた。確かに、彼の未来予知は百発百中だ。しかし、それが現在の自分に役立つわけではない。100年先の未来が視えるからといって、今目の前の問題を解決できるわけではないのだ。
「俺は、自分の未来はわからないんだ。それに、今のことは…どうせ100年後には関係ない」
自嘲気味にそう言い放つと、戦士は嘲笑を浮かべて立ち去っていった。青年はため息をつきながら、またぼんやりと天井を見上げた。こんな日々が、ずっと続くのだろうか――。
しかし、次の瞬間、ギルドの扉が勢いよく開き、彼の運命は大きく動き始めた。
「ここに最強の冒険者はいるか?」
少女の声がギルド全体に響き渡った。彼女は堂々とした態度でカウンターに向かい、受付嬢に向かって話しかけている。その姿は美しく、背負った剣からは強大な力を感じさせた。ギルド内の冒険者たちが次々と彼女に注目し始める。
「私の名前はリディア。伝説の武具を探している。手伝ってくれる最強の冒険者を探しているの」
その言葉に、周囲の冒険者たちはざわつき始めた。伝説の武具――その言葉は、冒険者なら誰もが憧れるものだ。しかし、最強の冒険者という条件があるため、簡単に手を挙げられる者は少ない。
青年は、その瞬間、リディアの未来を垣間見た。100年後、彼女は王国を救う英雄となり、その名を世界中に轟かせている。彼女こそ、未来を変えるカギとなる存在だ。
「…俺が行く」
青年は、無意識のうちに立ち上がり、リディアのもとに歩み寄った。彼の突然の行動に、周囲の冒険者たちは驚きの声を上げた。最弱の冒険者が、最強の冒険者を探す少女に名乗りを上げるなど、誰も予想していなかったのだ。
「お前が…?最強とはほど遠い冒険者だろうが、冗談か?」
冒険者たちの嘲笑が聞こえる中、リディアは青年をじっと見つめた。彼女の目には、何かを見抜こうとする鋭い光が宿っている。
「お前の名前は?」
その質問に、青年は言葉を失った。そうだ、自分の名前は忘れてしまった。彼はぎこちなく口を開き、呟いた。
「名前は…ない。でも、俺には未来が視える。100年先の未来を」
リディアはその言葉に驚きの表情を浮かべたが、やがて小さく微笑んだ。
「未来を視る力か…いいわ。信じてみる。私を手伝ってくれる?」
青年は頷いた。彼女と共に歩むことが、自分の未来を見つける手がかりになるかもしれない。そう思いながら、彼はリディアと共に新たな冒険へと踏み出した。
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