58 / 58
59話
しおりを挟む
第五十九話:氷獄の女王
氷晶の迷宮の最深部。田中たちが辿り着いた空間は、まるで凍てついた宮殿のようだった。巨大な氷柱が天井まで伸び、青白い光を放ちながら広間全体を照らしている。その中央には、氷に閉ざされた玉座があり、そこに座す者の影が見えた。
氷がひび割れ、鈴のような声が響き渡る。
「ここまで辿り着くとは、なかなかのものだな――異界の来訪者よ」
氷が砕け散り、姿を現したのは一人の女性。白銀の髪が雪のように舞い、瞳は氷晶そのもののように澄んで冷たい。彼女は「氷獄の女王」と呼ばれる存在、迷宮そのものを支配する守護者だった。
リアンナは剣を構えながら低く問う。
「あなたが、この迷宮の主……?」
女王は微笑を浮かべながらも、その瞳には一切の情がなかった。
「我は忘却を司る者。ここに来た者の記憶を封じ、氷に刻む。それが我の宿命だ」
ミアが一歩前に出て叫ぶ。
「記憶を奪うなんて……そんなの、誰も救われない!」
女王の冷たい声が広間に響き渡る。
「救われる必要などない。記憶は苦しみを生み、愛は裏切りを招く。ならば凍りつかせ、永遠の静寂に閉じ込める方が幸福だ」
その瞬間、氷獄の女王が片手を振り上げ、無数の氷刃が天井から降り注いだ。ガルスが大剣を構えて受け止め、氷の破片が四方に散る。
「チッ! 話して分かる相手じゃねぇな!」
田中は前に出て、剣を構える。その剣には星海の試練で得た力が宿っていた。黄金の輝きと蒼白の冷気が刃に共鳴し、広間を照らす。
「記憶を凍らせるなんて……そんなのは間違っている。俺たちは苦しみを背負ってでも、生きる意味を掴むんだ!」
女王は微笑を崩さぬまま、両手を広げた。
「ならば証明してみせよ。記憶の重みを抱えてなお、歩むことができるかどうかを」
広間全体が震え、氷の大地が割れ、無数の幻影が吹き出した。それは田中たちそれぞれの記憶の化身だった。
ガルスの前には、戦場で倒れた戦友たちが。
リアンナの前には、救えなかった村の人々が。
ミアの前には、幼き日の孤独な自分が。
そして田中の前には――かつて地球でただの老人として死を待っていた「無力な自分」が立っていた。
「……俺は、あの頃の自分に戻るのか?」田中は剣を震わせながら呟いた。
だが、仲間たちがそれぞれの幻影に立ち向かう姿を見て、田中は深く息を吸い込んだ。
「違う。俺はもう一人じゃない。仲間と共にある限り、過去は俺を縛れない!」
剣が光を放ち、幻影の「老人の自分」を貫いた瞬間、仲間たちも同じように己の幻影を打ち破っていた。
氷獄の女王の瞳が大きく見開かれる。
「……記憶を受け入れた……だと?」
田中は一歩踏み出し、強く言い放った。
「記憶は俺たちの力だ! 忘却じゃなく、歩んだ証を抱いて進む――それが俺たちの選んだ道だ!」
剣が振り下ろされ、黄金と蒼白の光が交わる。その光は氷獄の女王を包み込み、氷の広間を震わせた。
次の瞬間、彼女は淡い氷の結晶となり、消えゆく前に静かに微笑んだ。
「……ならば進むがいい。氷晶の迷宮の先に、お前たちの運命が待つ……」
広間の氷が崩れ、奥へと続く扉が開かれる。
田中たちは互いに顔を見合わせ、そして頷いた。
「行こう。俺たちの旅は、まだ続く」
こうして一行は、氷獄の女王を超え、新たなる大地へと歩みを進めた。
その先に待つものが希望か、それともさらなる絶望か――彼らはまだ知らなかった。
氷晶の迷宮の最深部。田中たちが辿り着いた空間は、まるで凍てついた宮殿のようだった。巨大な氷柱が天井まで伸び、青白い光を放ちながら広間全体を照らしている。その中央には、氷に閉ざされた玉座があり、そこに座す者の影が見えた。
氷がひび割れ、鈴のような声が響き渡る。
「ここまで辿り着くとは、なかなかのものだな――異界の来訪者よ」
氷が砕け散り、姿を現したのは一人の女性。白銀の髪が雪のように舞い、瞳は氷晶そのもののように澄んで冷たい。彼女は「氷獄の女王」と呼ばれる存在、迷宮そのものを支配する守護者だった。
リアンナは剣を構えながら低く問う。
「あなたが、この迷宮の主……?」
女王は微笑を浮かべながらも、その瞳には一切の情がなかった。
「我は忘却を司る者。ここに来た者の記憶を封じ、氷に刻む。それが我の宿命だ」
ミアが一歩前に出て叫ぶ。
「記憶を奪うなんて……そんなの、誰も救われない!」
女王の冷たい声が広間に響き渡る。
「救われる必要などない。記憶は苦しみを生み、愛は裏切りを招く。ならば凍りつかせ、永遠の静寂に閉じ込める方が幸福だ」
その瞬間、氷獄の女王が片手を振り上げ、無数の氷刃が天井から降り注いだ。ガルスが大剣を構えて受け止め、氷の破片が四方に散る。
「チッ! 話して分かる相手じゃねぇな!」
田中は前に出て、剣を構える。その剣には星海の試練で得た力が宿っていた。黄金の輝きと蒼白の冷気が刃に共鳴し、広間を照らす。
「記憶を凍らせるなんて……そんなのは間違っている。俺たちは苦しみを背負ってでも、生きる意味を掴むんだ!」
女王は微笑を崩さぬまま、両手を広げた。
「ならば証明してみせよ。記憶の重みを抱えてなお、歩むことができるかどうかを」
広間全体が震え、氷の大地が割れ、無数の幻影が吹き出した。それは田中たちそれぞれの記憶の化身だった。
ガルスの前には、戦場で倒れた戦友たちが。
リアンナの前には、救えなかった村の人々が。
ミアの前には、幼き日の孤独な自分が。
そして田中の前には――かつて地球でただの老人として死を待っていた「無力な自分」が立っていた。
「……俺は、あの頃の自分に戻るのか?」田中は剣を震わせながら呟いた。
だが、仲間たちがそれぞれの幻影に立ち向かう姿を見て、田中は深く息を吸い込んだ。
「違う。俺はもう一人じゃない。仲間と共にある限り、過去は俺を縛れない!」
剣が光を放ち、幻影の「老人の自分」を貫いた瞬間、仲間たちも同じように己の幻影を打ち破っていた。
氷獄の女王の瞳が大きく見開かれる。
「……記憶を受け入れた……だと?」
田中は一歩踏み出し、強く言い放った。
「記憶は俺たちの力だ! 忘却じゃなく、歩んだ証を抱いて進む――それが俺たちの選んだ道だ!」
剣が振り下ろされ、黄金と蒼白の光が交わる。その光は氷獄の女王を包み込み、氷の広間を震わせた。
次の瞬間、彼女は淡い氷の結晶となり、消えゆく前に静かに微笑んだ。
「……ならば進むがいい。氷晶の迷宮の先に、お前たちの運命が待つ……」
広間の氷が崩れ、奥へと続く扉が開かれる。
田中たちは互いに顔を見合わせ、そして頷いた。
「行こう。俺たちの旅は、まだ続く」
こうして一行は、氷獄の女王を超え、新たなる大地へと歩みを進めた。
その先に待つものが希望か、それともさらなる絶望か――彼らはまだ知らなかった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした
たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。
死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる