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「大分時間たっちまったな……」
(ほんとだ……もうこんな時間)
「そろそろ帰るか」
先生がコーヒーを飲み干し、帰り支度を始めた。
(そうだよね)
いつまでもこんな時間が続くわけない。
たまたま相席になっただけで。
たまたま会話が弾んでいただけで。
私と先生は、ただの生徒と先生なのだから。
『あたしぃ、倉田のメアド知ってるんだけどぉ~』
ふと、森田さんの言葉が頭を過ぎった。
(……ダメ元で聞いてみる?)
こんなチャンスはきっと二度とこないだろうし、このまま帰ったら絶対後悔する気がする。
「どーした? 七瀬」
黙ったままの私を不思議に思ったのか先生が声をかけてくれて、
私は思い切って聞いてみることにした。
「せっ……先生、あの……」
「ん?」
「携帯の番号教えてくれませんか!?」
(言っちゃったけど……)
「……」
(先生困った顔してる……)
「……」
沈黙が先生の答えを物語っているようで。
(教えてもらえないのはやっぱり、森田さんは特別だった……ってこと、だよね)
わかっていたことだけど、現実を突きつけられたようで胸が痛い。
「……」
先生は断る理由を探しているのかもしれない。いっそのこと私から『気にしないで』と言って謝ろうか。
まだ、私が笑っていられるうちに。
そう思ったその時——
「080××××××××」
「えっ?」
先生が口にしたのは耳にしたことのある数字の羅列で、耳を疑った私は思わず聞き返す。
(今の……もしかして)
「知りたいんだろ?」
(やっぱり先生の番号だ!)
「待って待って! いま登録するから! もう一回!」
ずっと黙っていたし、無理なんだと思っていたから準備もなにもしていなくて、慌てて自分のスマホを取り出す。
「そういや、お前は知らなかったんだな」
スマホに先生の番号を登録していると、先生が思い出したかのように言った。
「え、なにをですか?」
「俺の番号」
「そんなの当たり前じゃないですか」
なんでそんなことを聞いてきたのか不思議に思ったけれど、その理由はすぐにわかった。
「まぁそうなんだけどな、生徒たちに番号が出回ってたっぽくてさ」
「そうなんですか?」
「おそらく部活の奴らから、だろうけどな」
(そっか、先生サッカー部の顧問だもんね)
「……メールアドレスも?」
もしかしたら森田さんもそういう経緯で知ったのかもしれないと思い、聞いてみる。
「さすがにアドレスは知ってる奴いないだろ。誰にも教えてないし」
(誰にも教えてない?)
一体どういうことだろう。
彼女はあの日『知っている』と言っていた。だけど、先生が本当に誰にも教えていないのだとしたら、あの言葉は嘘だったことになる。
(嘘……かもしれないんだ)
確かに、もし彼女がずっと前から先生のことが好きで距離を縮めようとしていたのに、後から出てきた私が先生の周りをちょろちょろしていたら、特別感を出して牽制したくなる気持ちも、なんとなくわかる。
本当のところは森田さんしかわからないけれど、嘘かもしれないと思えたことで、モヤモヤしていた心がすっかり晴れたのを感じた。
(あれ?)
森田さんの件が解決したことで、ふと疑問を抱く。
どうして先生は、私に番号を教えてくれたのだろう。
大方、生徒に出回っているし『いまさら』ってとこだろうけれど、直接教えてもらえたのはすごく嬉しい。
「着信残しますね」
「ん? おう」
登録したての番号にかけたら先生のスマホが震えて、本当に先生のなんだって実感した。
「じゃあ、俺はそろそろ帰るけど、お前も気をつけて帰れよ」
「はい! 先生も気をつけてください!」
「おー、お前は言いふらしたりしないだろうけど、今日のこと他の生徒に言うなよ? うるせーから」
そう口にしながら席を徐に立ち、軽く微笑んでは『じゃあな』と店をあとにした。
先生がいなくなって、今更ながら心臓がドキドキしてくる。
手元のスマホに視線を落とすと、先生の名前が目に入り、今日の出来事は夢じゃなかったのだと実感する。
ひとしきり余韻に浸った後、気持ちも落ち着いたので帰ることにした。
(あれ?)
お会計の伝票を探したけれど、どこにも見当たらない。仕方がないのでそのままレジに向かうことにした。
「すみません」
「いかがなさいましたか?」
「お会計をお願いしたいのですが、伝票が見つからなくて」
「?」
変なことは口にしていないはずなのに、なぜか不思議そうな顔をされて戸惑う。
「え? あれ? お金、払ってないですよね?」
「いえ、相席の方よりお客様の分もすでに頂戴しておりますが……」
(先生が? 一体いつの間に……)
「お客様もご存知だとばかり……申し訳ございません」
「あっ、大丈夫です。えと、美味しかったです。ごちそうさまでした」
「またのご来店、心よりお待ちしております」
会釈をして店を出る。
学校ではない場所で二人きりで話をして。
知らない間に会計を済ませてご馳走してくれて。
(本当に先生とデート、したみたい)
店を出てからもしばらくの間、私は夢心地な気分だった。
(ほんとだ……もうこんな時間)
「そろそろ帰るか」
先生がコーヒーを飲み干し、帰り支度を始めた。
(そうだよね)
いつまでもこんな時間が続くわけない。
たまたま相席になっただけで。
たまたま会話が弾んでいただけで。
私と先生は、ただの生徒と先生なのだから。
『あたしぃ、倉田のメアド知ってるんだけどぉ~』
ふと、森田さんの言葉が頭を過ぎった。
(……ダメ元で聞いてみる?)
こんなチャンスはきっと二度とこないだろうし、このまま帰ったら絶対後悔する気がする。
「どーした? 七瀬」
黙ったままの私を不思議に思ったのか先生が声をかけてくれて、
私は思い切って聞いてみることにした。
「せっ……先生、あの……」
「ん?」
「携帯の番号教えてくれませんか!?」
(言っちゃったけど……)
「……」
(先生困った顔してる……)
「……」
沈黙が先生の答えを物語っているようで。
(教えてもらえないのはやっぱり、森田さんは特別だった……ってこと、だよね)
わかっていたことだけど、現実を突きつけられたようで胸が痛い。
「……」
先生は断る理由を探しているのかもしれない。いっそのこと私から『気にしないで』と言って謝ろうか。
まだ、私が笑っていられるうちに。
そう思ったその時——
「080××××××××」
「えっ?」
先生が口にしたのは耳にしたことのある数字の羅列で、耳を疑った私は思わず聞き返す。
(今の……もしかして)
「知りたいんだろ?」
(やっぱり先生の番号だ!)
「待って待って! いま登録するから! もう一回!」
ずっと黙っていたし、無理なんだと思っていたから準備もなにもしていなくて、慌てて自分のスマホを取り出す。
「そういや、お前は知らなかったんだな」
スマホに先生の番号を登録していると、先生が思い出したかのように言った。
「え、なにをですか?」
「俺の番号」
「そんなの当たり前じゃないですか」
なんでそんなことを聞いてきたのか不思議に思ったけれど、その理由はすぐにわかった。
「まぁそうなんだけどな、生徒たちに番号が出回ってたっぽくてさ」
「そうなんですか?」
「おそらく部活の奴らから、だろうけどな」
(そっか、先生サッカー部の顧問だもんね)
「……メールアドレスも?」
もしかしたら森田さんもそういう経緯で知ったのかもしれないと思い、聞いてみる。
「さすがにアドレスは知ってる奴いないだろ。誰にも教えてないし」
(誰にも教えてない?)
一体どういうことだろう。
彼女はあの日『知っている』と言っていた。だけど、先生が本当に誰にも教えていないのだとしたら、あの言葉は嘘だったことになる。
(嘘……かもしれないんだ)
確かに、もし彼女がずっと前から先生のことが好きで距離を縮めようとしていたのに、後から出てきた私が先生の周りをちょろちょろしていたら、特別感を出して牽制したくなる気持ちも、なんとなくわかる。
本当のところは森田さんしかわからないけれど、嘘かもしれないと思えたことで、モヤモヤしていた心がすっかり晴れたのを感じた。
(あれ?)
森田さんの件が解決したことで、ふと疑問を抱く。
どうして先生は、私に番号を教えてくれたのだろう。
大方、生徒に出回っているし『いまさら』ってとこだろうけれど、直接教えてもらえたのはすごく嬉しい。
「着信残しますね」
「ん? おう」
登録したての番号にかけたら先生のスマホが震えて、本当に先生のなんだって実感した。
「じゃあ、俺はそろそろ帰るけど、お前も気をつけて帰れよ」
「はい! 先生も気をつけてください!」
「おー、お前は言いふらしたりしないだろうけど、今日のこと他の生徒に言うなよ? うるせーから」
そう口にしながら席を徐に立ち、軽く微笑んでは『じゃあな』と店をあとにした。
先生がいなくなって、今更ながら心臓がドキドキしてくる。
手元のスマホに視線を落とすと、先生の名前が目に入り、今日の出来事は夢じゃなかったのだと実感する。
ひとしきり余韻に浸った後、気持ちも落ち着いたので帰ることにした。
(あれ?)
お会計の伝票を探したけれど、どこにも見当たらない。仕方がないのでそのままレジに向かうことにした。
「すみません」
「いかがなさいましたか?」
「お会計をお願いしたいのですが、伝票が見つからなくて」
「?」
変なことは口にしていないはずなのに、なぜか不思議そうな顔をされて戸惑う。
「え? あれ? お金、払ってないですよね?」
「いえ、相席の方よりお客様の分もすでに頂戴しておりますが……」
(先生が? 一体いつの間に……)
「お客様もご存知だとばかり……申し訳ございません」
「あっ、大丈夫です。えと、美味しかったです。ごちそうさまでした」
「またのご来店、心よりお待ちしております」
会釈をして店を出る。
学校ではない場所で二人きりで話をして。
知らない間に会計を済ませてご馳走してくれて。
(本当に先生とデート、したみたい)
店を出てからもしばらくの間、私は夢心地な気分だった。
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