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22.ねがいごとはなんですか?
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(あった!)
下駄箱に先生の靴を見つけた私は、まだ校内に先生がいると分かり、ほっと胸を撫で下ろす。
可能性の一番高い体育職員室へ行ってみることにした。
(先生、いるかな?)
深呼吸をひとつして呼吸を整えてから、職員室のドアをノックする。
「失礼します」
職員室の中へ入ると、机に向かって仕事をしている先生が目に映った。室内を見回すと先生一人しかおらず、手を休めてこちらを見た先生と目が合う。
「七瀬か……どうした?」
「先生、今大丈夫ですか?」
「あぁ。まぁ、座れや」
引いてくれた隣の椅子に浅く腰掛けて口を開く。
「テストのことなんですけど……」
「おー! マジで満点とってて驚いたよ。お前頑張ったなぁ」
先生の言葉に笑顔で頷けたらどんなに良かっただろう。テストを持っている手に力が入る。
「満点じゃないんです」
首を横に振ってそう口にすると、先生は困惑の表情を浮かべた。
「……満点じゃない? え、俺つけたけど間違いなんかあったか?」
「ここ、です。漢字の書き間違い……」
先生の問いかけに頷いて、問題の箇所を指差すと。
「あー……マジかよ……」
「……」
「ごめんな? お前、喜んでたのに……」
間違いに気がついた先生にとても申し訳なさそうに謝られ、少しでも先生が責任を感じないようにと精一杯明るく笑ってみせる。
「だから約束なくなっちゃいました!」
「俺……なぁ」
「え?」
言葉が被ったせいか先生の声が聞き取れなくてとっさに聞き直すと、先生が頭の後ろで両手を組みながら椅子の背もたれに寄りかかり、少し不機嫌そうに言う。
「惜しかったなって言ったんだよ」
先生の口調を不思議に思ったのも少しの間で。
「……なんでもって訳じゃねぇけど、なんか聞いてやってもいいぞ」
先生から思いもよらない言葉を聞いて目を丸くする。
「満点じゃなかったけどいいんですか?」
「まぁ、他の教科も頑張ったらしいからな」
「なんで知って……」
「職員室で先生たち、お前のことえらい褒めてたぞ」
確かに前回よりかなり良かったと自分でも思うけれど、先生たちの話題になっていた上に、それを先生の口から聞いてなんだか少し照れくさい。
「で、どーする?」
『ねがいごと』は決まっていた。
ただ、こんなことをお願いすると不快に思われるかもしれない。それが心配で躊躇っていると、背中を押すように先生が一言放つ。
「言わなきゃ聞かねーぞ」
(それは嫌! もう言うしかない!)
「先生のシャープが欲しい! いつも使ってるやつ!」
思い切って口にすると、今度は先生が目を丸くしていて。
「だめ……ですか?」
恐る恐るそう尋ねると、先ほど使用していたシャープペンシルを私の前に差し出す。
「こんなんでいいのか?」
「うん! これがいい!」
受け取った筆記具を握りしめながら満面の笑みで答える。
「なんでシャープ?」
「そんなの先生のシャープだって思ったら勉強頑張れる、か……ら」
あまりの嬉しさに目の前にいるのが好きな人だということを忘れて、思ったことをそのまま口に出している自分に途中で気づく。
(しまった!)
言葉通りだと最早先生が『好きだから』と告白しているようなものだ。
「なによりせっ、先生のシャープは御利益がありますから!」
咄嗟に思いついた苦し紛れの言い訳を慌ててすると。
「御利益ねぇ」
先生がそう言いながら席を立ち、室内の奥にある戸棚へ向かった。
背中を向けているから顔は見えないけれど、先生の様子を窺うにさっきの発言を特に気にしている感じはなかった。
(ごまかせた……)
「そういやお前、進路決まってんのか?」
ほっとしていると、突然進路のことを聞かれてドキッとする。
「ううん、まだ……だけど進学はするつもりです」
本当はもう決まっていた。
確かに今までは将来のことなんて漠然としか考えていなかったのだが、今は自分の中で進みたい道が固まり、教育大学を受験するつもりだった。
きっかけは、先生のことを好きになって『先生』を知ったからだけれど、生徒のことを真剣に考えて向き合って、時には一緒に笑って時には本気で怒ってくれる、先生みたいな『先生』になりたいと思ったから。
でも、先生に話すのはなんだか照れくさいからまだ秘密。
「そうか……じゃあ受験に合格したら、ちゃんと聞いてやるよ」
「え……?」
「俺様のシャープは御利益があるからな」
そう言って先生は笑ったけれど、私の心中は穏やかではなかった。
(聞いてやるって『ねがいごと』だよね? まさか……ね)
下駄箱に先生の靴を見つけた私は、まだ校内に先生がいると分かり、ほっと胸を撫で下ろす。
可能性の一番高い体育職員室へ行ってみることにした。
(先生、いるかな?)
深呼吸をひとつして呼吸を整えてから、職員室のドアをノックする。
「失礼します」
職員室の中へ入ると、机に向かって仕事をしている先生が目に映った。室内を見回すと先生一人しかおらず、手を休めてこちらを見た先生と目が合う。
「七瀬か……どうした?」
「先生、今大丈夫ですか?」
「あぁ。まぁ、座れや」
引いてくれた隣の椅子に浅く腰掛けて口を開く。
「テストのことなんですけど……」
「おー! マジで満点とってて驚いたよ。お前頑張ったなぁ」
先生の言葉に笑顔で頷けたらどんなに良かっただろう。テストを持っている手に力が入る。
「満点じゃないんです」
首を横に振ってそう口にすると、先生は困惑の表情を浮かべた。
「……満点じゃない? え、俺つけたけど間違いなんかあったか?」
「ここ、です。漢字の書き間違い……」
先生の問いかけに頷いて、問題の箇所を指差すと。
「あー……マジかよ……」
「……」
「ごめんな? お前、喜んでたのに……」
間違いに気がついた先生にとても申し訳なさそうに謝られ、少しでも先生が責任を感じないようにと精一杯明るく笑ってみせる。
「だから約束なくなっちゃいました!」
「俺……なぁ」
「え?」
言葉が被ったせいか先生の声が聞き取れなくてとっさに聞き直すと、先生が頭の後ろで両手を組みながら椅子の背もたれに寄りかかり、少し不機嫌そうに言う。
「惜しかったなって言ったんだよ」
先生の口調を不思議に思ったのも少しの間で。
「……なんでもって訳じゃねぇけど、なんか聞いてやってもいいぞ」
先生から思いもよらない言葉を聞いて目を丸くする。
「満点じゃなかったけどいいんですか?」
「まぁ、他の教科も頑張ったらしいからな」
「なんで知って……」
「職員室で先生たち、お前のことえらい褒めてたぞ」
確かに前回よりかなり良かったと自分でも思うけれど、先生たちの話題になっていた上に、それを先生の口から聞いてなんだか少し照れくさい。
「で、どーする?」
『ねがいごと』は決まっていた。
ただ、こんなことをお願いすると不快に思われるかもしれない。それが心配で躊躇っていると、背中を押すように先生が一言放つ。
「言わなきゃ聞かねーぞ」
(それは嫌! もう言うしかない!)
「先生のシャープが欲しい! いつも使ってるやつ!」
思い切って口にすると、今度は先生が目を丸くしていて。
「だめ……ですか?」
恐る恐るそう尋ねると、先ほど使用していたシャープペンシルを私の前に差し出す。
「こんなんでいいのか?」
「うん! これがいい!」
受け取った筆記具を握りしめながら満面の笑みで答える。
「なんでシャープ?」
「そんなの先生のシャープだって思ったら勉強頑張れる、か……ら」
あまりの嬉しさに目の前にいるのが好きな人だということを忘れて、思ったことをそのまま口に出している自分に途中で気づく。
(しまった!)
言葉通りだと最早先生が『好きだから』と告白しているようなものだ。
「なによりせっ、先生のシャープは御利益がありますから!」
咄嗟に思いついた苦し紛れの言い訳を慌ててすると。
「御利益ねぇ」
先生がそう言いながら席を立ち、室内の奥にある戸棚へ向かった。
背中を向けているから顔は見えないけれど、先生の様子を窺うにさっきの発言を特に気にしている感じはなかった。
(ごまかせた……)
「そういやお前、進路決まってんのか?」
ほっとしていると、突然進路のことを聞かれてドキッとする。
「ううん、まだ……だけど進学はするつもりです」
本当はもう決まっていた。
確かに今までは将来のことなんて漠然としか考えていなかったのだが、今は自分の中で進みたい道が固まり、教育大学を受験するつもりだった。
きっかけは、先生のことを好きになって『先生』を知ったからだけれど、生徒のことを真剣に考えて向き合って、時には一緒に笑って時には本気で怒ってくれる、先生みたいな『先生』になりたいと思ったから。
でも、先生に話すのはなんだか照れくさいからまだ秘密。
「そうか……じゃあ受験に合格したら、ちゃんと聞いてやるよ」
「え……?」
「俺様のシャープは御利益があるからな」
そう言って先生は笑ったけれど、私の心中は穏やかではなかった。
(聞いてやるって『ねがいごと』だよね? まさか……ね)
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