一人ぼっち令嬢はアナタの幸せを願います

ツムギ

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あなたの幸せを願います

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「無礼をお許し下さい。直ぐに消えます」

震える唇でそう呟くと、「ふん」と剣を投げ捨てた。
不当な扱いを受けて居ても、死ぬような思いをしていても、いざ目の前にその瞬間が来ると怖気付く。

そのまま姿が見えなくなった彼の背を追うように使いの男が「姫君もお部屋へ」と前を歩きだし、私もそれに続いた。

「王の無礼お許し下さい。姫君の部屋はこちらです。後日、使いの者をお連れしますので今日はゆっくりと休まれてください。」

こちらは先程と変わらずで、これはこれでたいへんな違和感だ。「皆からの不当な扱いは明日からかなあ」なんて考えてるうちにウトウト眠りに落ちてしまった。


どれほど眠ってしまったのだろうか。外は、ぼんやり日が差していた。城の中も騒がしい様子はない。

「…気持ちがいいなあ」

こんなに柔らかい布団で暖かい1枚の布で寝たのは一体いつぶりだろうか、体の疲れが取れるようだった。

「さあてと、」

ガタガタと部屋を整えると自分の身支度も手早くすませ、昨日に「明日また来ます」と言っていた使いの男の到着を待つ。
しばらくするとコンコンとノックの音と共に

「レディおはようございます。起きていらっしゃいますか?」

と声が聞こえた。「どうぞお入り下さい」と扉を開けて彼の目の前で地べたに正座をする。
使いの男は目を丸くすると、慌てて目線を合わせるように屈んだ。

「レディ足でも痛むのですか?」

「いえ、これ以上の無礼をする訳には行きませんので。私の事は使用人と考えて頂いて大丈夫です」

心配そうに顔を歪めていた使用人の男は、やはり怪訝な顔をして口をつぐんでいたが暫くするとハッとしたようにこう続けた、

「…レディもしかして、正式な王家の挨拶をご存知ないのですか?」

「…お恥ずかしながら分からないのです。」

やはりと口にすると使用人の男は片膝をつき、

「親愛なるルシア、我が名はイルティ・カルナ。アナタに照らされ、アナタの幸福を祈るもの」

長々とそう呟くとスラッとした長身を屈めやがて額を合わせる

「ここでは国名をいい最後に祝福をと続けます。これが王家のキチンとした挨拶です。王家の者しかこの挨拶はしてはなりません。それは太陽の国も同様です」

呆気にとられた顔をしているとバチッとまだ額をくっつけたままのカルナと目が合う。
カルナは何でしょう?と言うように首を少し傾げた。
彼もまた黒髪が美しい整った顔立ちの青年だった。

「…では、私はとんでもない無礼をはたらいたのですね…」

汚らしい幼稚な丈の足りないドレスに王家の者とは到底思えない無作法。王が怒るのも無理がなかった。

「…もし良ければ私が「カルナ」」

カルナと声を重ねたのは、

「何をしているんだ」

そう冷たく吐き捨てた、名も知らぬ王であった。
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