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100_奇襲作戦開始2!
しおりを挟む「・・・・!」
全員の視線が、轟音が響いてきた方向に釘付けになる。
俺達の位置からは、どの建物が崩れたのか、それは見えなかったが、屋根の向こう側に跳ね上がる、粉塵の幕は見えた。
その薄い煙の壁が、進むべき道を遮り、視界を霞ませる。馬車を先行していた騎士達も、粉塵から逃れるように、慌てて引き返してきた。
「何が起こった!?」
轟音に驚いたエセキアスが、馬車から身を乗り出して、叫んだ。
「た、確かめてきます!」
そう言って、数人の兵士が粉塵の中に飛び込んでいく。
俺も一刻も早く事態を確かめたかったが、役職上、国王の馬車の側を離れるわけにはいかなかった。
「こ、この先の廃屋が、崩れたようです!」
戻ってきた兵士達が、咳き込みながら報告してくれた。
「怪我人は?」
「不明ですが、おそらくいないでしょう。ずっと前に、土地開発のために、住民を無理やり立ち退かせた区域ですから」
「浮浪者もいなかったのか?」
「立ち退きに抗議して、居座ろうとする者が大勢いたため、厳重に封鎖されていました。猫一匹、入り込めなかったはずです」
負傷者がいないと知り、俺達はいったんは安堵する。
「崩れた原因は?」
「わかりませんが、もともと貧民層の住処だったので、老朽化による崩壊が考えられるでしょう。虫食いなどで、柱が倒れた可能性も――――」
報告の途中で、また爆音が轟いた。
「・・・・!」
――――今度は、民家が倒壊した場所とは真逆の方向にある橋が、崩落していた。
石造りのアーチ形の橋は、粉塵を撒き散らしながら、真ん中から崩壊し、瓦礫となって川底に沈んでいった。橋の両脇にいた人々が、慌ててこちらに逃げてくる。
「は、橋が崩れたぞ!」
エセキアスが目を白黒させながら、見ればわかることをわざわざ叫ぶ。
「怪我人は!? 怪我人はいるか!」
国王の行列が、通り過ぎた直後の出来事だ。封鎖されていた区域と違い、橋の上には、見物人が多数集まっていた。どれほどの犠牲者が出たか、想像するだけで背筋が寒くなる。
「い、いないようです!」
「橋が崩落したのに、怪我人がいない・・・・?」
その報告が、信じられなかった。
「ほ、崩落する前に、橋の上で、怪しい男達が見物人に向かってわけがわからないことを喚いたため、巻き込まれることを恐れた人々は、付近から立ち去っていたようです。残っていた人間も、その者達に無理やり、立ち退かされたんだとか。橋のまわりに誰もいなくなってから、爆発が起こったということでした」
「・・・・まずいぞ、エンリケ」
「・・・・ああ、どうやら、民家の倒壊は老朽化が原因じゃなさそうだ」
長く廃屋となっていた建物が、老朽化のため倒れることはあっても、最近補修されたばかりの橋が、同時刻に崩落することはありえない。
廃屋の倒壊と橋の崩落が人為的に引き起こされたことは、兵士の報告を聞いても明らかだ。
――――何者かが、国王を狙っているようだ。
実際前後の道を塞がれ、行列は分断し、俺達は中洲のような区域に閉じ込められていた。
(誰がこんなことを?)
候補者は数多くいる。
ロタリンギア地方を中心に活動する、反体制派の活動家、政権を国王から奪おうとする貴族、思想など何もなく、ただ不満を国王に向ける落伍者――――あるいは、魔王軍の残党かもしれない。
候補者が多すぎて、この段階ではまだ、敵の正体に見当をつけられそうにない。
「どうするんだ? どうするつもりなんだ!?」
誰よりも、泰然と構えていなければならないエセキアスが動揺し、喚き散らす姿を、国民に見せてしまっていた。
「・・・・落ち着いてください、陛下」
「落ち付いていられるか! 何者かが、俺達を攻撃しようとしているんだぞ!」
「取り乱すほどのことじゃありません。この橋が使えなくなっても、別の道があります」
ブランデの町には、いくつもの橋がある。迂回すれば、城に戻る道など何本もあった。
――――だが、国王の行列が礼拝堂に向かうルートを探り、橋を爆破するような大胆な作戦を実行する人物が、これで攻撃の手を緩めるとは思えなかった。
「・・・・仕掛けてきたのが誰だか知らないが、攻撃がこれで終わるとは思えないぞ」
エドアルドが耳打ちしてくる。さすが付き合いが長いだけあって、俺と同じことを考えていたようだ。
「・・・・南国に行かなくても、刺激的な体験をすることになったな」
苦笑交じりに言うと、エドアルドに睨まれた。
「楽しむな。俺達の頭をぽんぽん叩く国王でも、命を懸けて守らなければならない人なんだぞ」
「わかってる。・・・・兄貴のために命を張ろうとは思えないが、今回ばかりは命を張らないと」
ことさらに使命を語るような人間じゃないが、騎士団長を任された身の上として、国を守る、国民を守るという役目はやり遂げなければならないと感じてきた。普段サボってきた分、こういう時は命をかけなければならない。
それに今は、ルーナティア様がいる。何でもない一日を過ごしてほしいという俺の願いは叶わなかったが、彼女の安全だけは何としても守らなければ。
リーベラ家の馬車は、崩落した橋からは離れていたから、被害はないはずだ。今後も、危険からは遠ざけておきたい。
ルーナティア様達を安全な場所へ誘導し、そのついでにエセキアスのことも、城に連れ戻そう。そして脅威の正体を突き止め、ブランデを守るのだ。
「まずは陛下達に、城に戻っていただかなくては。・・・・どの道を通る?」
「そうだな・・・・」
「俺の話をちゃんと聞いているのか、この馬鹿者が! これからどうするつもりなんだ!?」
俺達が安全なルートを考えている間も、エセキアスは怒鳴り続けていた。
「だから落ち着いてください、陛下」
「落ち着いてなど――――」
「陛下、国民が見ています」
エセキアスは見栄っ張りで、人の目を異常に気にする性格だ。
そんなエセキアスに冷や水を浴びせるには、人目があることを指摘することが一番だと、長い付き合いから俺は学んでいた。
実際、国王がやかましく騒ぎ立てる様子を目にした国民は、呆気にとられていた。彼らの視線に気づいたエセキアスは、とたんに大人しくなる。
「陛下、礼拝は即刻中止し、直ちに城に戻りましょう。それから、門もすべて封鎖すべきです」
ブランデの町は巨大な外郭と、いくつかの内閣で区切られていて、一つ一つに門が設置されているが、今日は観光客を迎えるために、すべての門が一時的に解放されていた。
今は敵を自由に行き来させないため、攻撃を仕掛けてきた敵を逃がさないためにも、門を封鎖する必要があった。
「陛下を無事城に送り届けた後、このような事態を引き起こした犯人を突き止め、捕縛します」
「・・・・わかった」
生唾とともに、エセキアスはようやく、俺の意見を呑み込んだ。
「礼拝は中止だ!」
後ろにいる閣僚達に向かって、エセキアスは声を張り上げた。
「フィデル、ベルナルド、お前達は第二連隊を率いて、門に向かってくれ。そしてすべての門を封鎖しろ」
「はっ!」
俺が門の封鎖をフィデルとベルナルドに任せると、二人は背筋を伸ばして敬礼した。
「リノ、コンラドは第三連隊を指揮して、この区域を封鎖し、ここの住民を別の区域の集会場に避難させてくれ。他の区域の住民には自宅に戻り、戸締りをして外出を控えるようにとうながすんだ」
「お任せください」
リノ達は敬礼し、列を離れていく。
「城に戻るぞ! ついてこい!」
それだけ言って、エセキアスは馬車の中に頭を引っ込めた。
「一刻も早く、城に戻りたい。もっとも近い橋を使え、エンリケ」
「しかし、敵がこちらのルートを読み、先回りしている可能性があります。今回は迂回して――――」
「それでは、時間がかかりすぎるではないか! それに、出てくるならば好都合だろう。こちらには精鋭がそろっている。返り討ちにしてやればいい!」
そう言って、エセキアスは笑う。
「わかったら、一番近くの橋を使うんだ! これは命令だ!」
「・・・・仰せの通りに」
国王命令ならば、従うしかない。
行列は蛇のように頭の向きを変え、城に戻る道を進みはじめた。
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