復讐のための五つの方法

炭田おと

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63_審問会



「陛下。――――私はどうやら、毒を盛られたようです」


 カエキリウスの前に跪き、私はそう訴えた。


 目覚めた私が、毒を盛った人物として、ルジェナを名指ししたことで、本格的にこの件を追求するため、審問会しんもんかいが開かれることになった。


 審問会の場として、いつもの会議室ではなく、謁見の間が選ばれた。

 そして今、招集された閣僚達は居並び、難しい顔で私を見ている。


 ――――皇后候補者が、毒物で殺されそうになったという、前代未聞の事件だ。その重たさが、閣僚達の顔を険しくしている。


 皇宮で毒が使われるなんて、あってはならないこと。パンタシアの歴史がはじまって以来、少なくとも表向きは、皇室の関係者が毒殺されたことはなかった。


「陛下! 私は無実です!」


 ここまで連行されてきたルジェナは、カエキリウスの前に跪かされ、必死に叫んでいる。


「陛下、どうか・・・・っ」

「ルジェナ。今は君が発言する時ではない」

 みなの手前、カエキリウスはルジェナに冷たい態度をとった。

「・・・・申し開きの機会は、いずれ与える。それまでは、黙っているんだ」

「・・・・はい」

 ルジェナは深く項垂れた。


「それで、ローナ。――――毒を盛られたのだと、君は断言できるのか?」


 あらためて、カエキリウスが問いかけてくる。


「はい、私は紅茶を飲んだ直後、体調を崩し、意識を失いました。私が昏睡状態の間は――――」


 突然、立ち眩みに襲われ、私はよろめく。


「ローナ様!」

 カタリナが、私を支えてくれた。


「・・・・本当に大丈夫なのか、ローナ」

 カエキリウスは、心配してくれている。他の閣僚達も、私の体調を危ぶみ、審問に耐えられないと考えている様子だ。

「完治はしていないのだろう? その状態で、審問に耐えられるとは思えない。ここは私達に任せ、まだ休んでいたほうが――――」

「いえ、大丈夫です」

 私は強く否定した。

「これは、私が言わなければならないことなのです」

「・・・・そうか」

 カエキリウスは吐息を零す。

「では、続けよ」

「はい。私が昏睡状態にある間、お父様が私の食事や飲み物から、毒を盛った侍女を特定してくれました」

 カエキリウスは、グレゴリウス卿に目を向ける。

「コンラドゥス。その侍女はどこにいる?」

「・・・部屋に踏み込むと、侍女は死んでいました。その状態から、服毒したものと考えられます。・・・・自殺なのか、他殺なのかは、判別できません」


 閣僚達は難しい顔で、落胆の溜息を吐いた。


「しかしながら陛下、ローナに盛られた毒は特殊なものでしたので、入手経路を特定できました。証人を連れてきています」


 ルジェナの顔が引き攣った。


 ――――私が回復したこと、そしてこんなに早く、毒が混入した経路を突き止められたことは、ルジェナにとっては想定外だったはず。これほど早く察知されなければ、証拠も痕跡も消されてしまっていただろう。


「ヘレボルスの手先が、商人から毒を買う場面を目撃したと申しております」

「その人物を、ここへ」

 カエキリウスの許可が下りたので、グレゴリウス卿は目で、壁際に立っていたディデリクスに合図する。


 廊下に出てから、また戻ってきたディデリクスは、一人の男を連れていた。


「陛下、彼はヒープスという男で、東の大陸の商人から、香辛料などを仕入れる仕事をしています。ヘレボルスとも何度か取引をしたことがあるそうで、関係者の顔を知っています」


 ヒープスという男性は、ディデリクスに背中を押され、おずおずと前に出てきた。


「陛下、お目にかかれて光栄です・・・・」

「今は、堅苦しい挨拶は省こう。――――ヒープスと言ったな」

「はい、陛下」

「君は確かに、ヘレボルスの関係者が、毒を買う場面を見たのか?」

「はい、購入している場面を、確かに目撃しました」

「毒だと、どうして断言できる?」

「私は、東方の薬草の取引をしております。滋養や強壮の効果がある薬草が、今、ニベアで人気なので」

 ヒープスはまず、そう切り出した。


「仕事柄、毒を持つ薬草にもくわしくなりました。薬草の中に、毒を持つ植物が混ざっていることもあるからです。それでこの前、東方の商人から、ヘレボルスの商人が買おうとしている薬草が、毒だと気づきました。だから私は、止めたんです。『それは毒だから、買ってはならない』と。でも、ヘレボルスの商人は『知っている。だから必要なんだ』と答えました」


「――――」


 謁見の間は、しんと静まり返った。


「嘘よ! そいつはグレゴリウスの手先なんだわ!」

 不利な空気を感じ取ったのか、ルジェナが叫ぶ。

「・・・・ルジェナ。今は黙っていなさいと言ったはずだ」

「だ、だけど、陛下・・・・」

 カエキリウスはすぐに、ルジェナから目を逸らしてしまった。


「ヒープス。証言してくれたことを感謝する。下がりなさい」

「はい、陛下」

 一礼して、ヒープスは謁見の間から出ていった。


「・・・・申し開きはあるか? ダヴィド」

 扉が閉まる音を聞き終えてから、カエキリウスは問いかけを投げた。


「まったくのでたらめです」

「あの男が嘘をついていると?」

「我々を陥れたい者があの男を買収し、嘘の証言をさせたとも考えられます」

 ダヴィドは、落ち着いたものだった。

 ヒープスさんが買収されて偽証している可能性を否定できない以上、まだ証拠としては弱いと、高を括っているのだろう。


「・・・・あの男が雇われていないと、誰が言いきれます?」

 ダヴィドは視線を横に流し、グレゴリウス卿を見る。


 視線だけで、グレゴリウス卿に疑惑を向けたのだ。


「ローナ様が毒を飲んだことも、自演だと言うつもりか?」

 他の閣僚が、声を上げる。

「後ろで糸を引いている者の企みで、ローナ様ご自身は、毒のことは知らなかった可能性もあります。しかしながら――――」

 ダヴィドは顎をさする。

「診察したサルウィウス大医によると、ローナ様が服毒したのは、劇薬ということでした。原液のまま飲めば、一口で命を落とすほど、強力な毒です。毒にくわしい、サルウィウス大医だからこそ、すぐにローナ様が飲んだ毒を突き止め、解毒することができたのでしょう。・・・・奇妙ではありませんか?」

 歌うように、ダヴィドは反証する。

「サルウィウス大医は高齢で、体調不良を口実に、参内しないこともしばしばあります。なのに、ローナ様が毒で倒れたその日に、偶然、毒にくわしい医者が近くに控えているなんて、できすぎています」

 閣僚達はざわめき、カエキリウスの表情はますます険しくなる。

「お父様の言う通りです!」

 ルジェナがまた、口を開く。

「毒を本当に飲んでいたのなら、生きているはずが・・・・!」

 ルジェナは言い淀んで、視線を動かす。

 ルジェナと、目が合った。


 ――――毒が入った飲み物を、本当に飲み干したのなら、生きているはずがない。


 ルジェナはきっと、そう言おうとしていた。


(その通りよ、ルジェナ)


 私は心の中で、そう呟いた。


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