捨てられた令嬢と錬金術とミイラ

炭田おと

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7_錬金術

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「それでは、君の意見を聞かせてほしい」


 あらためて、陛下からそう言われた。


 私は深呼吸をして、頭の中を整理する。


「ありきたりな質問になりますが、まずは前提を知っておきたいので・・・・今の段階で、容疑者として名前が挙がっている人は、何人いるんでしょうか? アンティーブ辺境伯夫人は貴族派でしたから、皇室派の中に敵がいたのでは?」

「いいや、オセアンヌは常にまわりに気を使っていて、敵を作らないようにしていた。だから誰一人、調査では浮かび上がらなかったんだ」

 ミラも、容疑者としてカンペール公爵夫人の名前を挙げていた。裏を返せば、他に適当な人物が思い当たらなかったということでもある。

 アンティーブ辺境伯夫人は恨みを買わないよう、とてもまわりに気を使っていたのだろう。


「だとしたら、商売敵はどうでしょうか?」

 私は、カンペール公爵夫人に目を向ける。


 アンティーブ辺境伯夫人の商売の内容については、陛下よりも、カンペール公爵夫人のほうが詳しいと思ったからだ。

 カンペール公爵夫人は考え込む。

「・・・・特に思い当たらないわ。確かに商売敵は多いけれど、私達の立ち位置は特殊だったから、直接目の敵にされるようなことはなかったの」

「特殊・・・・」

「私達の役割は、市場調査と、社交界から流行を生み出すことよ。あなたの読み通り、私達はアサレアとマカレナに、その年に流行らせたいドレスや装身具をつけてもらうことで、流行を生み出そうとしたの。・・・・すべてが思い通りに動いてくれたわけじゃないけれどね。移り気なご令嬢方の意識を引き止めておくのは、本当に大変で、何度も失敗したわ」

 カンペール公爵夫人は、微笑する。

「社交界での私達の立場を利用して、売り出したいものを宣伝しようと言い出したのは、オセアンヌなの。天才的な発想だと思ったわ」

「本当に、そうですね」

「ええ、彼女には才能があったの」

 アンティーブ辺境伯夫人のことを思い出したのか、カンペール公爵夫人の表情は、哀しそうな顔になってしまう。

「ごめんなさい、感傷的になってしまって・・・・宣伝であることがばれてしまったら、誰も流行に乗ってくれない。だから私達は、そのことを隠していた。所領からの宝石や絹の輸出も、それぞれ担当者がいるから、商売敵が目の敵にするとしたら、その人達じゃないかしら?」

 誰も、アンティーブ辺境伯夫人達の本来の役割を知らなかった。

 商売敵である、宝石商や仕立て屋が目の敵にしていたのは、アンティーブ辺境伯夫人達の下で働いていた商人達で、夫人達に直接、敵意がいくことはなかったのだろう。

「だとしたら・・・・新たな事業に手を出していたということはありませんか?」

「そうね」

 カンペール公爵夫人は考え込む。

「彼女はいつも、新たな事業について考えていたわ。どんな事業も、いつまでも安定した収益を得られるわけじゃないから、次々に新しい分野を探していたみたい。最近は・・・・そうね――――錬金術にも興味を示していたわ」


「錬金術?」


 つい、声が裏返ってしまった。カンペール公爵夫人は苦笑する。


「おかしいでしょう? 最初に話を聞いたときは、私も、詐欺だからやめなさいって注意したのよ」

 錬金術とは、黄金を作り出そうとする試みを中心に、発達してきた分野のことだ。

「黄金を作り出す、なんて、あまりにも非現実的じゃない」

「俺の知り合いにも、錬金術師を雇った者がいたが、見事に金を持ち逃げされていたな。そんな話は山ほどあるのに、よくオセアンヌは、錬金術師を雇おうと思ったものだ」


 以前から錬金術で、黄金を作り出そうとする研究はあったものの、活発になったのは最近の話だ。その成果に期待して、投資を試みる貴族は多い。

 だけど研究に多額のお金を費やしたにもかかわらず、そのほとんどが黄金を作り出すことは叶わず、徒労に終わっているらしい。

 錬金術師の中にも、はじめから詐欺目的の人も少なくないようだ。お金をもらってすぐに逃亡してしまう人もいるほどだと聞いている。


「成果はあったんですか?」

「いえ、黄金を作り出す研究に関しては、芳しくなかったようだわ」

「・・・・・・・・」

 私は考える。

「・・・・雇われていた錬金術師に、話を聞いているべきかもしれません」

「怪しいのかしら?」

「いえ、まだなんとも言えません。だけど錬金術師の中には、最初から詐欺目的で貴族に近づく人達も、少なくないと聞きました。アンティーブ辺境伯夫人がそのことを見抜いて、お金の支払いを拒否したことで、逆恨みされた可能性もあるんじゃないでしょうか」

 二人は考え込む。

「・・・・確かに、十分考えられる可能性だ」

「調査できないでしょうか?」


「それなら、ゼレールに話を聞いたらどうでしょうか」


 そう言ったのは、カンペール公爵夫人だ。


「それは誰のことだ?」

「クレモン・ゼレール。オセアンヌの補佐をしていた男です。錬金術師達のことも、彼の管轄だったと聞きました」

「補佐か。なるほど。では、さっそくその男に話を聞いてみることにしよう」


 やるべきことが決まり、陛下は立ち上がる。私も、カンペール公爵夫人も面食らった。


「まさか、陛下本人が聞き取りに行くつもりですか?」

「そのつもりだが。なにか問題があるだろうか?」

「わ、私が行きます! だから陛下は、ここで報告を待っていてください」

 国王なのに、自分で動こうとするなんて、とんでもない人だ。


「陛下が相手では、ゼレールさんも緊張するでしょう。リラックスしていたほうが、うまく話を聞きだせると思うんです。私に任せてもらえませんか? それに今日はもう遅いです。話を聞くにしても、日を改めたほうがいいでしょう」


 陛下は薄く笑う。

「ならば、君に頼もう」

「ありがとうございます」

 一礼して、私は身を翻した。

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