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13_ミイラ
しおりを挟む※一部、グロテスクな描写があります。ご注意ください。
私達は部屋に入り、棚に置かれているものを見た。
瓶の中には、液体に浸された動物の死骸が入っていた。液体は、保存液なのだろう。見たことがない動物だ。
「気味が悪い・・・・どうしてこんなものを、保管しているんでしょうか?」
「これはおそらく、南の大陸の動物だろう。昔、見たことがある。数十年前、ディエレシス軍が南の大陸に遠征した時に、現地で手に入れた民芸品や動物の死骸を、戦利品として持ち帰ってきたんだ。それらの品が異国情緒に溢れているということで人気が出て、高値で取引されるようになったと聞いている。それ以来、輸入品が高額で取引されているそうだ」
「動物の死骸を、買いたがる人がいるんですか?」
「悪趣味なことに、珍しいものなら、何でも買うという奇特な金持ち連中がいるんだ」
動物の死骸を飾るなんて、私には信じられないことだ。
悪趣味という言葉を使うあたり、陛下もそんな趣味を持つ人達を、快く思っていないのだろう。
「ディエレシスが輸入を禁じている薬草などもあるようだから、これらの品はおそらく、密輸品だろうな」
「盗品だけじゃなく、密輸品まで混じっているんですか?」
「かなり値の張るものばかりだ。・・・・一介(いつかい)の詐欺師が、どうやってこれらの品を入手したのか・・・・」
陛下は考え込んでいる。
私が棚の瓶を覗き込もうとすると、陛下がその前に、瓶の上に布を被せてしまった。
「見ないほうがいい」
「どうしてですか?」
「気分が悪くなるぞ」
それでなんとなく、中身が想像できた。
「・・・・何が入っていたのか、それだけ教えてもらえませんか?」
だけど調査を続けるなら、中身を知っておく必要があると思い、私は陛下に聞いた。
「気分が悪くなってもか?」
「・・・・はい」
「勇気があるな。では、教えよう。――――おそらく、人間の臓器だ」
「・・・・・・・・」
殺人事件の調査に関係がないことなら、絶対に聞いたりしなかっただろう。私は奥歯を強く噛むことで、吐き気を堪える。
奥には、棺桶のようなものも置かれていた。
それを見た瞬間に嫌な予感がしたから、私は近づけずにいた。陛下は、躊躇なく近づいていく。
そして、棺桶の蓋を開けた。
「・・・・!」
中を覗き込み、私は息を呑む。
――――乾いて、水気を失い、骨と皮だけになった死体が、白いシーツの上に横たわっていた。死体の頭部には黒い髪が残っていて、その上から冠のようなものが被せられている。
胸の上には、文字が刻まれた、石碑の欠片のようなものも置かれてあった。
「こ、これは――――」
「・・・・ミイラだな」
「み、ミイラ? これがミイラなんですか?」
南の大陸では、死体を乾燥させ、保存するという習慣があると聞いたことがある。
「こ、これも、南方から持ってきたものなんでしょうか?」
「そうだろう。ミイラはとても希少だから、こういった品の中でも、ひときわ高く売れると聞いている。南の大陸に行って、かなりの額を払えば入手は可能なようだが、運搬方法が難しいらしい。南の大陸からこちらに持ち帰ってくるには、海路で何か月もかかる。当然船内の環境は最適とは言えない。ミイラの身体は脆く、保存方法が悪ければ、すぐに痛んでしまう」
「なるほど・・・・だから余計に、高値になるんですね」
陛下は頷きを返してくれる。
「そもそも、船を出すだけでも大金を用意しなければならないんだ。それだけの金を支払ったのに、ミイラが痛んで駄目になってしまったら、大きな損失だ。金持ちになるどころか、借金を背負うことになるだろう。だからミイラが高く売れると知っていても、商人達はなかなか手を出そうとしない」
「・・・・この石碑は、何でしょうか?」
「わからないが・・・・刻まれているのは、南の大陸の文字なのだろう。冠のようなものも被っているし、もしかしたらこのミイラは、どこかの国の、王族だったのかもしれない」
他には、特別目を引くものはないようだ。
「このすべてを、バルビエさんが集めたんでしょうか?」
「状況から考えれば、そうだろうが・・・・奇妙だな」
いつの間にか、陛下の顔は険しくなっていた。
「何が奇妙なんですか?」
「どの品も、商人でも入手が難しい、貴重な品ばかりだ。これだけ集めるのに、どれだけ金がかかると思う? 船の調達、船を動かす人員、翻訳のための現地の人間、買い取るための金――――バルビエのような程度の低い詐欺師に、それらの元手を用意できるだろうか? すべて売りさばいていれば、バルビエは今頃、大金持ちだったはず。窃盗に手を染めなくてもよかっただろう」
「そうですね・・・・」
確かに、不思議だ。ここにある品物は、悪趣味ではあるものの、大金を動かせるだけの一級品で、すべて売り払えば大金持ちになれる。
なのにバルビエさんは、窃盗をして、贋作を売っていたことがばれた上に、アンティーブ辺境伯夫人を殺害した。
「バルビエさんは画商を名乗り、贋作を売りつけていたことを考えると、これらの品が贋作である可能性も、十分にありえる」
「だけど、このミイラは贋作とは思えないほど精巧です・・・・」
乾いた皮膚や毛髪の一本一本まで、あまりに真に迫っていて、人の手でこれほど精巧なものが作れるのかと、疑ってしまう。
「陛下。これを見てください」
私達がミイラに気を取られている間に、護衛の人が、何かに気づいたようだった。
彼は、隅のテーブルに置かれていたカップを持ち上げている。
「紅茶が入っています。・・・・まだ色が変わっていないようなので、これが入れられてから、それほど日にちは過ぎていないのでしょう」
陛下は考え込んでいる。
「・・・・昨夜、少年が足音を聞いてから、朝、ここを出ていくまで、何者かがこの部屋にいた証拠だろう」
「バルビエさんでしょうか?」
「おそらくは。・・・・だが、残念だな。少年達が出ていった後に、バルビエも去ったのだろう。入れ違いになったようだ」
陛下はカップを、元の位置に戻す。
「この器具は何でしょうか?」
私はテーブルに置かれていた、奇妙な形の器具を持ち上げた。よく見ると、赤錆のようなものがついている。
「何に使うのか、俺には見当もつかない」
「・・・・どうしますか? 陛下」
考え込んでいると、陛下の護衛が近づいてきた。子供を家に送り届けていたもう一人の護衛も、いつの間にか戻ってきている。
「これらの品をすべて、城に運べ。専門の者に、調査させよう」
「わかりました」
護衛の人達は、忙しく動き出した。
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