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15_食事会
しおりを挟む王宮の食堂は、豪華だった。柱には金の縁取りがされ、天井ではシャンデリアが光り輝いている。
そして、蝋燭の光で縁取られたテーブルには、普段私が口にできないような、豪華な食事が並んでいた。
予想した通り、食事会は気まずいものとなった。私は何を話せばいいのかわからず、陛下の口数も少ない。
「・・・・食事にご招待いただき、お礼申し上げます、陛下」
招待されたお礼を言い忘れていたことに気づいて、そう言った。
「緊張しているようだな」
「いえ、そんなことは・・・・」
「堅苦しい席は苦手なのだろう? 緊張させないよう、町の店に連れて行くつもりだった。だが警護の問題があるからと、まわりから止められて・・・・」
陛下は途中で、言葉を切ってしまう。
「いや、何を言っても言い訳がましいな」
「い、いえ・・・・」
(・・・・真剣に考えてくれてたんだ)
ただ気まぐれで、食事に呼ばれただけかと思っていた。でも陛下は私のために、色々と考えてくれていたようだ。
「どの店に連れて行ってくれるつもりだったんですか?」
「モルデントという店だ」
「その店、知ってます。何か月も先まで、予約が埋まっているんですよね?」
リモージュでは有名な、高級料理店の一つだ。
「フィオーレというお店も有名ですよね。あまりにも値段が高すぎて、私は一度も行ったことがないんですけど・・・・」
「あの店はやめておけ」
「どうしてですか?」
「身分を隠して一度食べに行ったことがあるが、料理の味は値段には相応しくなかった。少なくとも宣伝しているような、高級食材は使っていないだろう。安い食材を、高級に見せかけているだけだ。内装も、それらしく見せかけているだけの張りぼてだった」
かなりの辛口選評だった。本当に皮肉屋なんだなと思い、思わず笑ってしまう。
「なんだ?」
「いえ・・・・」
「感じたことがあるのなら、素直に言ってくれと言ったはずだ」
「噂通り、皮肉屋なんだなって思っただけです」
言葉にしてから、すぐに我に返った。
(陛下に、なんて失礼なことを・・・・!)
疲れもあってか、すっかり気が緩んでしまっていた。普段ならこんなミスはしないはずなのに。
「皮肉屋か。アンベールにも、よく言われる」
でも、陛下は怒らなかった。それどころか、楽しそうに笑ってくれている。
「えっと・・・・」
「なんだ、皮肉屋と言われて、俺が怒るとでも? 事実を言われて、怒るはずがない」
意外に、寛容なところもあると、少し驚く。
「そして今君は、意外に俺が寛容だなと思っている。そうだろう?」
考えていることを言い当てられて、私はムッとした。
「当たりのようだな」
陛下はご満悦のようだ。
「・・・・ひねくれている、という噂も、真実のようですね」
「ひねくれていることは認めるが、俺は君の考えを言い当てただけだ」
「普通は相手の考えが読めても、あえて口にしません。それが礼儀です」
「そうかもしれないな。だが君も、皮肉屋の一面を持っていると思うぞ」
「私が、ですか?」
思いがけないことを言われて、目を見張る。
「残された衣類から、バルビエの人物像を推測した時、君は実に面白い見方をした。詐欺師であるバルビエ自身が、自分についた嘘に踊らされ、金遣いが荒くなったという説だ」
「面白い・・・・でしょうか?」
「普通の人間は、バルビエのような人間をただの金遣いの荒い詐欺師としか見ない。君はさらにそこから、一歩深く、バルビエの人物像に踏み込んだ。面白い推察だったが、やや穿った見方をしているとも言える」
「・・・・・・・・」
「皮肉屋同士、我々は気が合うかもしれないな」
陛下に笑いかけられて、私はまたムッとする。
「私は陛下ほど、皮肉屋ではありません」
「そうかもしれないな。穿った見方をする一方で、君は、少し素直すぎる面も持っている。不思議な性格だ」
「陛下が素直に話してくれって言ったんじゃないですか」
「相手の言葉を素直に信じるのも、君の美点ではあるが、騙されやすいとも言える。俺が君の本心を引き出そうとして、そう聞いたのなら? 自分から聞いたくせに、本音を言われて怒る自分勝手な人間もいるぞ」
――――意地が悪い。でも、反論できなかった。
「・・・・どうした?」
私の表情の変化に気づいたのか、陛下が顔を覗き込んでくる。
「・・・・わかってるんです。騙されやすい性格だって」
ベンジャミンのことが頭を過ぎる。
数年間、私はベンジャミンの人柄も、ベンジャミンの言葉も、すべて信じてきた。
「・・・・どうやら、知り合いに裏切られたことがあるようだな」
また、考えていることを読まれてしまったようだ。
「だが、落ち込むことはない。信じる相手を間違えただけだ。・・・・時には、そんなこともある」
「・・・・もしかして、陛下も、誰かに裏切られたことがあるんですか?」
まるで、誰かに裏切られたことがあるような口ぶりだったから、思わず聞いてしまった。
陛下の食事の手が止まる。もしかして聞いてはならないことだったのかもしれないと、ひやりとした。
「・・・・若い頃に何度か、裏切られたことがある。本当に信頼できる人間を見つけるのは、難しい」
「・・・・・・・・」
「だが、今は違う」
陛下は笑う。
「人を見る目も培って、腹に一物ある人間は見抜けるようになった。・・・・そういった意図を持って近づいてきた人間は、むしろ遠ざけずに利用することにしている」
腹黒い笑顔だ。でも、陛下らしいと思って、私は安心する。
「陛下は大丈夫そうですね」
「君も、その人間を利用してやるといい。溜飲が下がるぞ」
「はは・・・・」
「復讐は楽しいものだ」
そう言った陛下の笑顔は、生き生きと輝いていて、私は背筋が寒くなった。
「・・・・どうした?」
「いえ――――絶対に陛下を敵にまわさないほうがいいと、再確認しただけです」
「君は、俺の敵にはならないだろう?」
「そうですが・・・・」
「君の望みは領地を取り戻し、そこで穏やかに暮らすことのようだ。だったら、俺を利用するメリットはあるまい」
「陛下を利用するなんて、恐れ多くてできませんよ・・・・」
陛下を利用しようとするなんて、なんて恐れ多い。――――いや、陛下の人柄が噂通りだったと知った今は、恐れ多いというよりも恐ろしい。
陛下は私の反応を見て、楽しそうに笑っていた。
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