捨てられた令嬢と錬金術とミイラ

炭田おと

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 次の日の夜、またノアム陛下に食事に誘われ、私は陛下と一緒に、食卓を囲んでいた。

「バルビエから、ミイラを買おうとしていた人物が見つかった」

 そして食事の席で、陛下がそう教えてくれた。

「本当ですか?」

「本当だ。名前は伏せておくが、爵位を持つ領主だ。父の時代に、財産をたんまりと溜め込んでいる」

「バルビエさんは、その人の領地にいるんじゃないでしょうか?」

「今、捜索している。見つけ次第、捕縛しろと命じた」

 陛下は、ワイングラスを持ち上げた。

「解決も近い。喜ばしいことだな」

「本当に」

 私もワイングラスを持ち上げる。

 事件が解決に近づいているという実感があって、嬉しくなった。

「それでは、食事を楽しもう」

「ええ」

 それから、ナイフとフォークを手に取った。目の前には、王宮のシェフが腕によりをかけて作った料理がある。


「君の元友人――――名前は、アデレード、だったかな?」


「はいっ!?」


 突然アデレードのことを話題にされ、私は危うくフォークを落としそうになった。


 動揺で震える手を押さえつつ、私はフォークをお皿に置く。

「な、何の話でしょう?」

「君の元友人で、君の元婚約者を寝取った女性の名前だ」

「それは知ってます! 寝取ったとか言わないでください! アデレードの名前が、どうしてここで出てくるんですか?」


 嫌な予感を抱きつつ、怖々と聞く。


「昨日、彼女が俺に会いに来た。君の友人だと名乗ったので、会ってみることにしたんだ。君に忘れ物を届けに来たが、君が不在だったから、俺に会いに来たという話だったぞ」

(・・・・どういう理屈よ・・・・)

 なぜ私が不在だから、陛下に会いに行こうとするのか。それに私はミラのように、王宮で働いているわけじゃない。

 私に会おうと思ったのなら、マテオおじさんの屋敷を訪ねてくるのが筋なのに、わざわざ王宮に来たところに、アデレードの狙いが透けて見える。


(まさか、陛下を狙ってるの?)


 いくらなんでも、それは無謀すぎる。相手は国王だ。アデレードの身分はとても国王には釣り合わない。親友の婚約者を奪うのとは、わけが違う。

(・・・・でも、アデレードなら、やりかねないのかも・・・・)

 アデレードには大きすぎる野心があって、私は今まで、それを見抜けていなかった。

 アデレードは時々、自信過剰な振る舞いをすることはあったけれど、あからさまに前に出ていくことはなかったから、美人なのに謙虚なぐらいだと、私は誤解していたぐらいだ。


「そ、それで、アデレードは陛下とどんなお話を?」

 アデレードが美人であることは間違いない。

 陛下ももしかしたら、少しは興味を持ったのかもしれないと、平静を装うためにもう一度カップを口に運びつつ、聞いてみた。


「どうやら俺は、粉をかけられたようだぞ」


「ぶっ!」


 思わず紅茶を吹き出してしまった。


「・・・・ずいぶんと古典的な反応だな」

「す、すみません・・・・いえ、アデレードは一体何をしたんですか!?」

「一緒に庭園を歩いただけだが、思わせぶりな態度をとったり、転んだふりをしてしなだれかかってきた。別れ際にはしつこく、また会いたいと何度も言われた」

 ――――頭が痛い。こめかみを揉んで、私は頭痛に耐える。

「・・・・申し訳ありませんでした、陛下。もし次があるのなら、アデレードのことは問答無用で追い返してください」

「なかなか楽しかったぞ」

「えっ」

「あれほどわかりやすく、野心を見せてくれる女性も、めったにいない。自分の魅力で相手を操れると、本当に信じているタイプだ。実際に今までは、笑顔を振りまくことで、色々な貢物がもらえたんだろう。それで彼女は自信を持ち、もっと高みを目指している」

「・・・・相変わらず、皮肉たっぷりですね」

「歯に衣着せないのは、俺の長所だ」

「短所では?」

「・・・・はっきり言ってくれる」

 怒らせたのかと陛下の表情を窺うと、陛下と目が合う。目が合うと、陛下は笑った。

「アデレードは最初の恋人から、君の婚約者に乗り換え、そして今は俺を狙っている。己の地位を上げるためならば、手段は選ばないし、人のものだろうがなんだろうが奪い取る。その潔さには、ある意味感心する」

「・・・・・・・・」

 私を捨てたベンジャミンが、今度はアデレードに捨てられそうになっているなんて、複雑な気持ちだ。

 もう未練なんて欠片も残っていないし、因果応報だと、ベンジャミンを嘲笑う場面なのかもしれないけれど、かつては大切に思っていた存在が、上に登るための足場のように簡単に蹴り捨てられようとしていることが、少し悲しい。

(・・・・アデレードのことを、気に入ったのかな?)

 アデレードは美人だけれど、陛下の好みではないと思っていた。予想に反して、高評価のようだ。

「・・・・・・・・」

 複雑な気持ちになったものの、私はそれを呑み込んで、笑顔を浮かべる。

「それでは私は、協力したほうがいいでしょうか?」

 すると、陛下は険しい顔になる。

「・・・・誤解されているようだな」

「え?」

「彼女ほどわかりやすい人間は、逆に面白いと言っただけだ。異性として、興味を持ったわけじゃない」

「そ、そうですか・・・・」

 私の勘違いだったようだ。胸を撫で下ろす。

「わかりやすいのが、面白いんですか?」

「俺のまわりには、面従腹背の連中しかいないからな。・・・・君もある意味、素直なタイプだ。俺におもねることを、面倒だと思っている」

「それは・・・・まあ」

「・・・・否定しないのか」

 陛下に睨まれて、私は目をそらす。

「まあ、いい。それよりも、今度アデレードに会うことがあれば、忠告してやるといい」

「忠告ですか?」

「彼女は自信満々のようだが、アデレードのような女性は、彼女よりも上手の男性にとっては、転がしやすい相手だ。手玉に取ったつもりが手玉にとられて、遊ばれて捨てられることもある」

 私は目を瞬かせる。

「・・・・どうした?」

「いえ、アデレードのことまで心配するなんて、陛下にお優しいところがあるんだなって思ったんです」

「優しさ? 君には、これが優しさに感じたのか」

「違うんですか?」

 陛下はにこりと笑う。


「君が俺を優しいと思うことは、間違いじゃない。俺は、俺が大切に想っている人達にとっては、誰よりも優しい人間のはずだ」


「・・・・・・・・」


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