24 / 41
24_出し抜かれる
しおりを挟む次の日の夜、またノアム陛下に食事に誘われ、私は陛下と一緒に、食卓を囲んでいた。
「バルビエから、ミイラを買おうとしていた人物が見つかった」
そして食事の席で、陛下がそう教えてくれた。
「本当ですか?」
「本当だ。名前は伏せておくが、爵位を持つ領主だ。父の時代に、財産をたんまりと溜め込んでいる」
「バルビエさんは、その人の領地にいるんじゃないでしょうか?」
「今、捜索している。見つけ次第、捕縛しろと命じた」
陛下は、ワイングラスを持ち上げた。
「解決も近い。喜ばしいことだな」
「本当に」
私もワイングラスを持ち上げる。
事件が解決に近づいているという実感があって、嬉しくなった。
「それでは、食事を楽しもう」
「ええ」
それから、ナイフとフォークを手に取った。目の前には、王宮のシェフが腕によりをかけて作った料理がある。
「君の元友人――――名前は、アデレード、だったかな?」
「はいっ!?」
突然アデレードのことを話題にされ、私は危うくフォークを落としそうになった。
動揺で震える手を押さえつつ、私はフォークをお皿に置く。
「な、何の話でしょう?」
「君の元友人で、君の元婚約者を寝取った女性の名前だ」
「それは知ってます! 寝取ったとか言わないでください! アデレードの名前が、どうしてここで出てくるんですか?」
嫌な予感を抱きつつ、怖々と聞く。
「昨日、彼女が俺に会いに来た。君の友人だと名乗ったので、会ってみることにしたんだ。君に忘れ物を届けに来たが、君が不在だったから、俺に会いに来たという話だったぞ」
(・・・・どういう理屈よ・・・・)
なぜ私が不在だから、陛下に会いに行こうとするのか。それに私はミラのように、王宮で働いているわけじゃない。
私に会おうと思ったのなら、マテオおじさんの屋敷を訪ねてくるのが筋なのに、わざわざ王宮に来たところに、アデレードの狙いが透けて見える。
(まさか、陛下を狙ってるの?)
いくらなんでも、それは無謀すぎる。相手は国王だ。アデレードの身分はとても国王には釣り合わない。親友の婚約者を奪うのとは、わけが違う。
(・・・・でも、アデレードなら、やりかねないのかも・・・・)
アデレードには大きすぎる野心があって、私は今まで、それを見抜けていなかった。
アデレードは時々、自信過剰な振る舞いをすることはあったけれど、あからさまに前に出ていくことはなかったから、美人なのに謙虚なぐらいだと、私は誤解していたぐらいだ。
「そ、それで、アデレードは陛下とどんなお話を?」
アデレードが美人であることは間違いない。
陛下ももしかしたら、少しは興味を持ったのかもしれないと、平静を装うためにもう一度カップを口に運びつつ、聞いてみた。
「どうやら俺は、粉をかけられたようだぞ」
「ぶっ!」
思わず紅茶を吹き出してしまった。
「・・・・ずいぶんと古典的な反応だな」
「す、すみません・・・・いえ、アデレードは一体何をしたんですか!?」
「一緒に庭園を歩いただけだが、思わせぶりな態度をとったり、転んだふりをしてしなだれかかってきた。別れ際にはしつこく、また会いたいと何度も言われた」
――――頭が痛い。こめかみを揉んで、私は頭痛に耐える。
「・・・・申し訳ありませんでした、陛下。もし次があるのなら、アデレードのことは問答無用で追い返してください」
「なかなか楽しかったぞ」
「えっ」
「あれほどわかりやすく、野心を見せてくれる女性も、めったにいない。自分の魅力で相手を操れると、本当に信じているタイプだ。実際に今までは、笑顔を振りまくことで、色々な貢物がもらえたんだろう。それで彼女は自信を持ち、もっと高みを目指している」
「・・・・相変わらず、皮肉たっぷりですね」
「歯に衣着せないのは、俺の長所だ」
「短所では?」
「・・・・はっきり言ってくれる」
怒らせたのかと陛下の表情を窺うと、陛下と目が合う。目が合うと、陛下は笑った。
「アデレードは最初の恋人から、君の婚約者に乗り換え、そして今は俺を狙っている。己の地位を上げるためならば、手段は選ばないし、人のものだろうがなんだろうが奪い取る。その潔さには、ある意味感心する」
「・・・・・・・・」
私を捨てたベンジャミンが、今度はアデレードに捨てられそうになっているなんて、複雑な気持ちだ。
もう未練なんて欠片も残っていないし、因果応報だと、ベンジャミンを嘲笑う場面なのかもしれないけれど、かつては大切に思っていた存在が、上に登るための足場のように簡単に蹴り捨てられようとしていることが、少し悲しい。
(・・・・アデレードのことを、気に入ったのかな?)
アデレードは美人だけれど、陛下の好みではないと思っていた。予想に反して、高評価のようだ。
「・・・・・・・・」
複雑な気持ちになったものの、私はそれを呑み込んで、笑顔を浮かべる。
「それでは私は、協力したほうがいいでしょうか?」
すると、陛下は険しい顔になる。
「・・・・誤解されているようだな」
「え?」
「彼女ほどわかりやすい人間は、逆に面白いと言っただけだ。異性として、興味を持ったわけじゃない」
「そ、そうですか・・・・」
私の勘違いだったようだ。胸を撫で下ろす。
「わかりやすいのが、面白いんですか?」
「俺のまわりには、面従腹背の連中しかいないからな。・・・・君もある意味、素直なタイプだ。俺におもねることを、面倒だと思っている」
「それは・・・・まあ」
「・・・・否定しないのか」
陛下に睨まれて、私は目をそらす。
「まあ、いい。それよりも、今度アデレードに会うことがあれば、忠告してやるといい」
「忠告ですか?」
「彼女は自信満々のようだが、アデレードのような女性は、彼女よりも上手の男性にとっては、転がしやすい相手だ。手玉に取ったつもりが手玉にとられて、遊ばれて捨てられることもある」
私は目を瞬かせる。
「・・・・どうした?」
「いえ、アデレードのことまで心配するなんて、陛下にお優しいところがあるんだなって思ったんです」
「優しさ? 君には、これが優しさに感じたのか」
「違うんですか?」
陛下はにこりと笑う。
「君が俺を優しいと思うことは、間違いじゃない。俺は、俺が大切に想っている人達にとっては、誰よりも優しい人間のはずだ」
「・・・・・・・・」
0
あなたにおすすめの小説
転生令嬢シルヴィアはシナリオを知らない
潮海璃月
恋愛
片想い相手を卑怯な手段で同僚に奪われた、その日に転生していたらしい。――幼いある日、令嬢シルヴィア・ブランシャールは前世の傷心を思い出す。もともと営業職で男勝りな性格だったこともあり、シルヴィアは「ブランシャール家の奇娘」などと悪名を轟かせつつ、恋をしないで生きてきた。
そんなある日、王子の婚約者の座をシルヴィアと争ったアントワネットが相談にやってきた……「私、この世界では婚約破棄されて悪役令嬢として破滅を迎える危機にあるの」。さらに話を聞くと、アントワネットは前世の恋敵だと判明。
そんなアントワネットは破滅エンドを回避するため周囲も驚くほど心優しい令嬢になった――が、彼女の“推し”の隣国王子の出現を機に、その様子に変化が現れる。二世に渡る恋愛バトル勃発。
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
【完結】王位に拘る元婚約者様へ
凛 伊緒
恋愛
公爵令嬢ラリエット・ゼンキースア、18歳。
青みがかった銀の髪に、金の瞳を持っている。ラリエットは誰が見ても美しいと思える美貌の持ち主だが、『闇魔法使い』が故に酷い扱いを受けていた。
虐げられ、食事もろくに与えられない。
それらの行為の理由は、闇魔法に対する恐怖からか、或いは彼女に対する嫉妬か……。
ラリエットには、5歳の頃に婚約した婚約者がいた。
名はジルファー・アンドレイズ。このアンドレイズ王国の王太子だった。
しかし8歳の時、ラリエットの魔法適正が《闇》だということが発覚する。これが、全ての始まりだった──
婚約破棄された公爵令嬢ラリエットが名前を変え、とある事情から再び王城に戻り、王太子にざまぁするまでの物語──
※ご感想・ご指摘 等につきましては、近況ボードをご確認くださいませ。
王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】
mako
恋愛
以前の投稿をブラッシュアップしました。
ランズ王国フリードリヒ王太子に嫁ぐはリントン王国王女クラリス。
クラリスはかつてランズ王国に留学中に品行不良の王太子を毛嫌いしていた節は
否めないが己の定めを受け、王女として変貌を遂げたクラリスにグリードリヒは
困惑しながらも再会を果たしその後王国として栄光を辿る物語です。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
地味でブスな私が異世界で聖女になった件
腹ペコ
恋愛
どこからどう見ても、地味女子高校生の東雲悠理は、正真正銘の栗ぼっちである。
突然、三年六組の生徒全員でクラス召喚された挙句、職業がまさかの聖女。
地味でブスな自分が聖女とか……何かの間違いだと思います。
嫌なので、空気になろうと思っている矢先、キラキラ王子様に何故か目をつけられました……
※なろうでも重複掲載します。一応なろうで書いていた連載小説をモチーフとしておりますが、かなり設定が変更されています。ただキャラクターの名前はそのままです。
歴史から消された皇女〜2人の皇女の願いが叶うまで終われない〜
珠宮さくら
恋愛
ファバン大国の皇女として生まれた娘がいた。
1人は生まれる前から期待され、生まれた後も皇女として周りの思惑の中で過ごすことになり、もう1人は皇女として認められることなく、街で暮らしていた。
彼女たちの運命は、生まれる前から人々の祈りと感謝と願いによって縛られていたが、彼らの願いよりも、もっと強い願いをかけていたのは、その2人の皇女たちだった。
婚約破棄で異世界転生を100倍楽しむ方法 ‐漫画喫茶は教育機関ではありません‐
ふわふわ
恋愛
王太子エランから、
「君は優秀すぎて可愛げがない」
――そう告げられ、あっさり婚約破棄された公爵令嬢アルフェッタ。
だが彼女は動揺しなかった。
なぜなら、その瞬間に前世の記憶を取り戻したからだ。
(これが噂の異世界転生・婚約破棄イベント……!)
(体験できる人は少ないんだし、全力で楽しんだほうが得ですわよね?)
復讐? ざまぁ?
そんなテンプレは後回し。
自由になったアルフェッタが始めたのは、
公爵邸ライフを百倍楽しむこと――
そして、なぜか異世界マンガ喫茶。
文字が読めなくても楽しめる本。
売らない、複製しない、教えない。
料金は「気兼ねなく使ってもらうため」だけ。
それは教育でも改革でもなく、
ただの趣味の延長だったはずなのに――
気づけば、世界の空気が少しずつ変わっていく。
ざまぁを忘れた公爵令嬢が、
幸運も不幸もひっくるめて味わい尽くす、
“楽しむこと”がすべての異世界転生スローライフ譚。
※漫画喫茶は教育機関ではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる