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25_詰問
しおりを挟む「・・・・それはそうと、君の元婚約者の話だが」
また、話が飛んだ。
「ベンジャミンのことですか?」
「婚約はなかったことになったんだろう? なのにその男が、君を訪ねてきていると聞いた。縁は切れたはずなのに、どうしてまだ会ってるんだ?」
詰問口調で問われ、戸惑った。――――どうやらベンジャミンが私を訪ねてきているという噂は、陛下の耳にも入っていたようだ。
「会っているというか・・・・押しかけてくるというか・・・・」
「どういうことだ?」
声からわずかに怒気を感じて、背筋が冷たくなる。
「詳しく話してくれ」
「え、でも・・・・」
「話すんだ」
「・・・・・・・・」
なぜか陛下が詰問口調になっていたから、私は濁すこともできずに、数日前からベンジャミンやアデレードが、マテオおじさんの家に押しかけてきていることを説明した。
「どうして追い返さない?」
話を聞き終えても、陛下の表情は厳しいままだった。
「押しかけてきたと言っても、追い返すことは礼儀に反することですから」
ベンジャミンやアデレードの父親が、マテオおじさんの上役だから、ということは、伏せておくことにした。
「先に君を裏切ったのは、相手のほうだ。そんな人間に、礼を尽くす義理はないはず」
「・・・・マテオおじさんに、迷惑はかけたくありません」
行き場がなくて困っていた私に、手を差し伸べてくれた人だ。万が一今回の件で、マテオおじさんが不利益を被ることになったら、申し訳が立たない。
陛下は呆れた様子だ。
「まったく・・・・放っておくと、復縁したなどと噂を立てられるぞ」
もう噂を立てられている、という言葉は、状況を悪化させるから、黙っておいた。
「そんなことにはならないでしょう。すでに、アデレードとの結婚式の準備をしている人ですよ」
「そのアデレードが、下心を持って俺に近づいてきたんだ」
「陛下は相手にしないんでしょう?」
「もちろんだ。だが、俺以外に適当な相手を見つけ、結婚の直前で、別の男に乗り換える可能性は高いぞ。そうなったとき、元婚約者が君に擦り寄ってくる可能性もある」
「はは、まさか、そんなことは・・・・」
笑い飛ばそうとしたけれど、陛下は真剣そのものだ。
アデレードが陛下に近づこうとしたのなら、彼女はまだベンジャミンとの結婚を決めかねていて、より高い場所にいる男性を捜しているのだろう。アデレードに捨てられたら、ベンジャミンは自分の面目を少しでも保つために、私に復縁を迫ってくるのかもしれない。
「今のうちに、望みがないことを伝えておけ」
「・・・・はい」
面倒だ。もうあの二人には、関わりたくないと思う。考えると憂鬱になって、溜息ばかりが口から零れた。
「・・・・君が悩むのも仕方ない面はあるんだろう」
ここで陛下が、理解を示してくれた。
「相手もそれなりの地位にいる。逆恨みされたら、厄介だろう。裏切った元婚約者に、悪びれもせずに会いに行くあたり、良心が欠如した人物のように見受けられた」
「・・・・一応、謝ってくれました」
「君の話を聞くかぎり、表面的な謝罪としか思えなかったが。その人物が、誤れば許されると思っていたのなら、君が許さなかった場合、怒りだした可能性もある」
否定できない。
浮気を打ち明けられて私が怒ったとき、ベンジャミンは反省するでもなく、うざいという気持ちを隠そうともしなかった。良心の欠如というか、言葉では謝っていても、自分が悪いことをしたという自覚がないように見えたから、客観性がないのだろうと思う。
そんな人だとは思っていなかったから、ショックだった。忙しいから会えないというベンジャミンの言葉を鵜呑みにせず、我を通して頻繁に会っていれば、少しは彼の本性を見抜けていたかもしれないのに、と今さら後悔する。
「そこで、どうだろう。俺から提案があるんだが」
そこで陛下が、にこにこと笑いながら、そんなことを言い出す。
「・・・・提案、ですか?」
「そう嫌な顔をするな。悪い提案じゃないはずだ」
陛下がそう言えば、悪い提案にしか思えなくなってくるから不思議だ。
「今度君と俺、そして君の元婚約者とアデレードの四人で食事をしよう。それで君の悩みは、万事解決する」
「どうしてそうなるんですか!?」
「食事の席で、アデレードが俺に気があるようなそぶりを見せたことを、元婚約者殿の前で暴露してやればいい。きっと楽しい修羅場を観戦することができるぞ」
「・・・・・・・・」
私は頭を抱えた。
「・・・・陛下は意地が悪いと思います」
「今さら気づいたのか? 俺の性格が悪いことなど、まわりの俺にたいする評価で、わかっていたことだろう?」
陛下は意地悪く笑う。
「・・・・そんな方法で、解決するとは思えません。ベンジャミンとアデレードが喧嘩するだけじゃないですか」
「その場で、俺が、君が俺にとっていかに大事な友人であるのかを説明してやろう。君を裏切ったり、傷つけるものは断頭刃の餌食にしてやるとな。それで奴は、君には近づかなくなるはず」
「こ、怖すぎます・・・・!」
波風が立たない、平和的解決を望んでいるのに、この人に任せていたら絶対大事になると確信できた。ベンジャミンには会わせないようにしよう、と私は決める。
(私の復讐のために、一役買ってくれるつもりだったのね)
ベンジャミンとアデレードの両親は、強い力を持っていて、敵に回すと厄介だ。そんな事情から、二人に裏切られても、私は何もできなかった。
陛下は私のそんな事情を察し、手伝いをしてくれるつもりだったのだろう。私を〝友人〟という立ち位置に置けば、私を侮辱することは、国王を敵に回すことになってしまうから、ベンジャミン達は私にたいして、何もできなくなる。
「お気持ち、ありがとうございます。だけど陛下、私は平和的解決を望んでいるので、ベンジャミンが諦めるのを待とうと思います。だから、陛下もこのまま、見守っていてください」
「・・・・・・・・」
陛下は考え込む。
「・・・・仮定の話だが」
「はい?」
「君がもし――――王宮の役職を賜ることになったら、君はその役を引き受けるか?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「・・・・どういうことでしょう?」
「君は鋭い観察眼を持っている。俺が君に役職を与えたいと言ったら、君はそれを引き受けてくれるか?」
「・・・・・・・・」
とっさに答えることができなかった。
「その・・・・常々私の父は、誰もが身の程をわきまえなければならないと言っていました」
その質問にどんな意図があるのか、わからなかったけれど、自分なりの考えを言うことにした。
「私は領主の娘とはいえ、田舎者です。陛下のご厚意は嬉しいのですが、お役に立つことはできないでしょう」
「・・・・・・・・」
陛下は頭を横に振る。
「・・・・つまらない話をした。忘れてくれ」
ちょうどいいタイミングで、給仕がオードブルを運んできてくれる。
「食べるとしよう」
「・・・・ええ、そうしましょう」
私は気を取り直して、フォークを手に取った。
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