捨てられた令嬢と錬金術とミイラ

炭田おと

文字の大きさ
25 / 41

25_詰問

しおりを挟む


「・・・・それはそうと、君の元婚約者の話だが」

 また、話が飛んだ。

「ベンジャミンのことですか?」

「婚約はなかったことになったんだろう? なのにその男が、君を訪ねてきていると聞いた。縁は切れたはずなのに、どうしてまだ会ってるんだ?」


 詰問口調で問われ、戸惑った。――――どうやらベンジャミンが私を訪ねてきているという噂は、陛下の耳にも入っていたようだ。


「会っているというか・・・・押しかけてくるというか・・・・」

「どういうことだ?」

 声からわずかに怒気を感じて、背筋が冷たくなる。

「詳しく話してくれ」

「え、でも・・・・」

「話すんだ」

「・・・・・・・・」


 なぜか陛下が詰問口調になっていたから、私は濁すこともできずに、数日前からベンジャミンやアデレードが、マテオおじさんの家に押しかけてきていることを説明した。


「どうして追い返さない?」

 話を聞き終えても、陛下の表情は厳しいままだった。

「押しかけてきたと言っても、追い返すことは礼儀に反することですから」

 ベンジャミンやアデレードの父親が、マテオおじさんの上役だから、ということは、伏せておくことにした。

「先に君を裏切ったのは、相手のほうだ。そんな人間に、礼を尽くす義理はないはず」

「・・・・マテオおじさんに、迷惑はかけたくありません」

 行き場がなくて困っていた私に、手を差し伸べてくれた人だ。万が一今回の件で、マテオおじさんが不利益を被ることになったら、申し訳が立たない。

 陛下は呆れた様子だ。

「まったく・・・・放っておくと、復縁したなどと噂を立てられるぞ」

 もう噂を立てられている、という言葉は、状況を悪化させるから、黙っておいた。

「そんなことにはならないでしょう。すでに、アデレードとの結婚式の準備をしている人ですよ」

「そのアデレードが、下心を持って俺に近づいてきたんだ」

「陛下は相手にしないんでしょう?」

「もちろんだ。だが、俺以外に適当な相手を見つけ、結婚の直前で、別の男に乗り換える可能性は高いぞ。そうなったとき、元婚約者が君に擦り寄ってくる可能性もある」

「はは、まさか、そんなことは・・・・」

 笑い飛ばそうとしたけれど、陛下は真剣そのものだ。


 アデレードが陛下に近づこうとしたのなら、彼女はまだベンジャミンとの結婚を決めかねていて、より高い場所にいる男性を捜しているのだろう。アデレードに捨てられたら、ベンジャミンは自分の面目を少しでも保つために、私に復縁を迫ってくるのかもしれない。


「今のうちに、望みがないことを伝えておけ」

「・・・・はい」

 面倒だ。もうあの二人には、関わりたくないと思う。考えると憂鬱になって、溜息ばかりが口から零れた。

「・・・・君が悩むのも仕方ない面はあるんだろう」

 ここで陛下が、理解を示してくれた。

「相手もそれなりの地位にいる。逆恨みされたら、厄介だろう。裏切った元婚約者に、悪びれもせずに会いに行くあたり、良心が欠如した人物のように見受けられた」

「・・・・一応、謝ってくれました」

「君の話を聞くかぎり、表面的な謝罪としか思えなかったが。その人物が、誤れば許されると思っていたのなら、君が許さなかった場合、怒りだした可能性もある」


 否定できない。


 浮気を打ち明けられて私が怒ったとき、ベンジャミンは反省するでもなく、うざいという気持ちを隠そうともしなかった。良心の欠如というか、言葉では謝っていても、自分が悪いことをしたという自覚がないように見えたから、客観性がないのだろうと思う。

 そんな人だとは思っていなかったから、ショックだった。忙しいから会えないというベンジャミンの言葉を鵜呑みにせず、我を通して頻繁に会っていれば、少しは彼の本性を見抜けていたかもしれないのに、と今さら後悔する。


「そこで、どうだろう。俺から提案があるんだが」


 そこで陛下が、にこにこと笑いながら、そんなことを言い出す。


「・・・・提案、ですか?」

「そう嫌な顔をするな。悪い提案じゃないはずだ」

 陛下がそう言えば、悪い提案にしか思えなくなってくるから不思議だ。


「今度君と俺、そして君の元婚約者とアデレードの四人で食事をしよう。それで君の悩みは、万事解決する」


「どうしてそうなるんですか!?」

「食事の席で、アデレードが俺に気があるようなそぶりを見せたことを、元婚約者殿の前で暴露してやればいい。きっと楽しい修羅場を観戦することができるぞ」

「・・・・・・・・」

 私は頭を抱えた。

「・・・・陛下は意地が悪いと思います」

「今さら気づいたのか? 俺の性格が悪いことなど、まわりの俺にたいする評価で、わかっていたことだろう?」

 陛下は意地悪く笑う。

「・・・・そんな方法で、解決するとは思えません。ベンジャミンとアデレードが喧嘩するだけじゃないですか」

「その場で、俺が、君が俺にとっていかに大事な友人であるのかを説明してやろう。君を裏切ったり、傷つけるものは断頭刃の餌食にしてやるとな。それで奴は、君には近づかなくなるはず」

「こ、怖すぎます・・・・!」

 波風が立たない、平和的解決を望んでいるのに、この人に任せていたら絶対大事になると確信できた。ベンジャミンには会わせないようにしよう、と私は決める。


(私の復讐のために、一役買ってくれるつもりだったのね)


 ベンジャミンとアデレードの両親は、強い力を持っていて、敵に回すと厄介だ。そんな事情から、二人に裏切られても、私は何もできなかった。

 陛下は私のそんな事情を察し、手伝いをしてくれるつもりだったのだろう。私を〝友人〟という立ち位置に置けば、私を侮辱することは、国王を敵に回すことになってしまうから、ベンジャミン達は私にたいして、何もできなくなる。


「お気持ち、ありがとうございます。だけど陛下、私は平和的解決を望んでいるので、ベンジャミンが諦めるのを待とうと思います。だから、陛下もこのまま、見守っていてください」

「・・・・・・・・」

 陛下は考え込む。

「・・・・仮定の話だが」

「はい?」


「君がもし――――王宮の役職を賜ることになったら、君はその役を引き受けるか?」


 一瞬、何を言われたのかわからなかった。


「・・・・どういうことでしょう?」

「君は鋭い観察眼を持っている。俺が君に役職を与えたいと言ったら、君はそれを引き受けてくれるか?」

「・・・・・・・・」

 とっさに答えることができなかった。

「その・・・・常々私の父は、誰もが身の程をわきまえなければならないと言っていました」

 その質問にどんな意図があるのか、わからなかったけれど、自分なりの考えを言うことにした。

「私は領主の娘とはいえ、田舎者です。陛下のご厚意は嬉しいのですが、お役に立つことはできないでしょう」

「・・・・・・・・」


 陛下は頭を横に振る。

「・・・・つまらない話をした。忘れてくれ」

 ちょうどいいタイミングで、給仕がオードブルを運んできてくれる。

「食べるとしよう」

「・・・・ええ、そうしましょう」

 私は気を取り直して、フォークを手に取った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令嬢シルヴィアはシナリオを知らない

潮海璃月
恋愛
片想い相手を卑怯な手段で同僚に奪われた、その日に転生していたらしい。――幼いある日、令嬢シルヴィア・ブランシャールは前世の傷心を思い出す。もともと営業職で男勝りな性格だったこともあり、シルヴィアは「ブランシャール家の奇娘」などと悪名を轟かせつつ、恋をしないで生きてきた。 そんなある日、王子の婚約者の座をシルヴィアと争ったアントワネットが相談にやってきた……「私、この世界では婚約破棄されて悪役令嬢として破滅を迎える危機にあるの」。さらに話を聞くと、アントワネットは前世の恋敵だと判明。 そんなアントワネットは破滅エンドを回避するため周囲も驚くほど心優しい令嬢になった――が、彼女の“推し”の隣国王子の出現を機に、その様子に変化が現れる。二世に渡る恋愛バトル勃発。

【完結】王位に拘る元婚約者様へ

凛 伊緒
恋愛
公爵令嬢ラリエット・ゼンキースア、18歳。 青みがかった銀の髪に、金の瞳を持っている。ラリエットは誰が見ても美しいと思える美貌の持ち主だが、『闇魔法使い』が故に酷い扱いを受けていた。 虐げられ、食事もろくに与えられない。 それらの行為の理由は、闇魔法に対する恐怖からか、或いは彼女に対する嫉妬か……。 ラリエットには、5歳の頃に婚約した婚約者がいた。 名はジルファー・アンドレイズ。このアンドレイズ王国の王太子だった。 しかし8歳の時、ラリエットの魔法適正が《闇》だということが発覚する。これが、全ての始まりだった── 婚約破棄された公爵令嬢ラリエットが名前を変え、とある事情から再び王城に戻り、王太子にざまぁするまでの物語── ※ご感想・ご指摘 等につきましては、近況ボードをご確認くださいませ。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako
恋愛
以前の投稿をブラッシュアップしました。 ランズ王国フリードリヒ王太子に嫁ぐはリントン王国王女クラリス。 クラリスはかつてランズ王国に留学中に品行不良の王太子を毛嫌いしていた節は 否めないが己の定めを受け、王女として変貌を遂げたクラリスにグリードリヒは 困惑しながらも再会を果たしその後王国として栄光を辿る物語です。

地味でブスな私が異世界で聖女になった件

腹ペコ
恋愛
 どこからどう見ても、地味女子高校生の東雲悠理は、正真正銘の栗ぼっちである。  突然、三年六組の生徒全員でクラス召喚された挙句、職業がまさかの聖女。  地味でブスな自分が聖女とか……何かの間違いだと思います。  嫌なので、空気になろうと思っている矢先、キラキラ王子様に何故か目をつけられました…… ※なろうでも重複掲載します。一応なろうで書いていた連載小説をモチーフとしておりますが、かなり設定が変更されています。ただキャラクターの名前はそのままです。

婚約破棄で異世界転生を100倍楽しむ方法 ‐漫画喫茶は教育機関ではありません‐

ふわふわ
恋愛
王太子エランから、 「君は優秀すぎて可愛げがない」 ――そう告げられ、あっさり婚約破棄された公爵令嬢アルフェッタ。 だが彼女は動揺しなかった。 なぜなら、その瞬間に前世の記憶を取り戻したからだ。 (これが噂の異世界転生・婚約破棄イベント……!) (体験できる人は少ないんだし、全力で楽しんだほうが得ですわよね?) 復讐? ざまぁ? そんなテンプレは後回し。 自由になったアルフェッタが始めたのは、 公爵邸ライフを百倍楽しむこと―― そして、なぜか異世界マンガ喫茶。 文字が読めなくても楽しめる本。 売らない、複製しない、教えない。 料金は「気兼ねなく使ってもらうため」だけ。 それは教育でも改革でもなく、 ただの趣味の延長だったはずなのに―― 気づけば、世界の空気が少しずつ変わっていく。 ざまぁを忘れた公爵令嬢が、 幸運も不幸もひっくるめて味わい尽くす、 “楽しむこと”がすべての異世界転生スローライフ譚。 ※漫画喫茶は教育機関ではありません。

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

処理中です...