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41_自分で決めた道
しおりを挟む「陛下!」
廊下の先に陛下の姿を見つけて、私は進路に立ち塞がった。
「カロル譲」
陛下は私の登場に、面食らったようだ。目を見開いている。
ここ数日、まわりに悟られないように、近習の動きから陛下の行動を読み取り、ついに陛下と会うことができた。隣には、アンベールさんもいる。
「お話があります!」
こうして直接対決しても、やはり逃げられるかもしれないと危惧していた。でも、陛下の答えは予想外のものだった。
「・・・・ああ、俺も君に話があった」
「私に、話ですか?」
私は陛下にうながされ、一番近くの部屋に入る。
陛下が目配せすると、後ろに控えていた数人の近習が、ぞろぞろと部屋から出ていき、部屋には私と陛下、アンベールさんと黒髪の男性だけが残った。
「近いうちに、君に紹介しようと思っていた」
そういって陛下は、黒髪の男性を見る。黒髪の男性が前に出てきた。
「名前はジョフロワ。君の補佐だ」
「ほ、補佐!?」
「今後ともよろしくお願いします」
「ア、ハイ」
ジョフロワさんが一礼したから、私も反射的に礼を返していた。
「ジョフロワ、彼女に話があるから、少し席を外してくれ」
ジョフロワさんは一礼して、部屋から出ていく。
「補佐とはどういうことですか?」
扉が閉まってから、私はあらためて、陛下に質問した。
「――――俺は君に、ここに留まってもらいたいと思っている」
陛下の言葉に、ハッとした。
「今回の事件があって、調査部門がないことを問題視する声が挙がった。俺もその点は重要視している。事件を調査するための知識が誰にもなく、調査に時間がかかり、危うくゼレール達を取り逃がすところだった」
「・・・・・・・・」
「事件を調査する部署を、作りたいと思っている。そして、君にその顧問になってもらいたい」
私は面食らい、固まってしまった。
「君が適任だと思ったんだ」
――――なんだか、とても大変なことになっているらしい。混乱しながら、私は必死に、断るための言葉を捜していた。
「で、でも、陛下。私はルシヨンの領主になるんです。とても、そんな重要な役との掛け持ちはできません」
「ルシヨンの領主になるという、君の意志を無視するつもりはない。だから仕事を補佐するものを選んだ。君がリモージュにいる時は、彼はルシヨンで、君がルシヨンに戻った時は、彼がリモージュで、君の代役を務める」
「あ、あの・・・・」
「簡単ではないだろうが、俺が全力で後援する。人手が足りないというならば、もっと雇えばいい」
「・・・・・・・・」
どうしよう、どうしよう。陛下がこんなことを言い出すなんて、想像もしていなかったから、何と答えればいいのかわからない。
「・・・・陛下。やはりこれは、まわりくどい気がします」
固まって、何も言えずにいると、アンベールさんが沈黙を破ってくれた。
「・・・・アンベール」
「素直に、カロル様に結婚を申し込んだほうが、百倍早いと思います」
「アンベール!」
「・・・・申し訳ありません、カロル様。陛下は少し面倒な方なので」
「下がっていろ」
「はい」
言いたいことだけ言って、アンベールさんは部屋を出ていった。
二人残された私達の間には、気まずい空気が流れる。
「・・・・確かに、回りくどかった」
しばらくして、陛下はそう言った。
「殺人事件を調査する部署の設立も、その顧問に君を推したいという気持ちにも、嘘はない。・・・・ただ、時間稼ぎだった面も否めない。いずれ君に、結婚を申し込みたいと思っていた」
呼吸が止まった。陛下は真っ直ぐ、私を見つめている。
「・・・・だが、きっと君は、断るだろうと思った。おれは面倒な立場にいる。君は自分の気持ちや俺の気持ちよりも、立場や状況を先に考える。だから時間が欲しかったんだ。もっと距離を縮められる時間が必要だと思った」
「・・・・強引すぎます」
陛下は苦笑している。
「自覚はしている。だが君の場合、強引にいかなければ望みはないだろう」
「・・・・だから先に、私がルシヨンに戻らなくてもいい状況を整えていたんですか?」
「そうだ。君は、ルシヨンの領主になろうとしている。そのために勉強もしてきたんだろう? 君のその望みを、阻むつもりはない。ただ・・・・調査部門の顧問と、ルシヨンの領主を兼任できると伝えたかった。君がここに留まってくれるのなら、俺は何でもしよう」
「・・・・・・・・」
「ここに留まってほしい。――――俺の隣に」
陛下が私に向かって、手を差し出す。もし、好意を受けとる気があるのなら、その手を取ってほしいということだろう。
辞退すべきだ、ということはわかっていた。
殺人事件を調査する部署が必要なのは事実だけれど、私よりも適任がいるだろうし、辺境の貴族の一人でしかない私が、王妃になるとなれば、批判や非難の集中砲火を浴びることは目に見えている。
以前の私なら、すぐに断っていたはずだ。
ずっと、無難な道を選んできた。ルシヨンの跡継ぎになるというのは自分の意志だったけれど、友人も婚約者も、親が選んだ相手と付き合ってきた。
それでいいと思っていたし、親が決めた道筋からの脱線を恐れているところもあった。そのまま順調に進めば、私はルシヨンから出ることなく、一生を終えたはず。
でも、それではうまくいかなくて、私の道は脱線した。脱線した先で陛下に出会い、奪われたものを取り戻そうともがいて――――楽しいと感じた。自分にはできることもあるし、無力じゃないとも思えた。
自分で、道を選ぼう。――――その瞬間に、そう決めた。
「・・・・俺の申し出を受けてくれるだろうか?」
いつも自信満々な人なのに、その時だけは少し自信なさそうに見えるところを、おかしく感じた。
「・・・・!」
陛下の手に、自分の手を重ねる。
「はい。私は、ここにいます」
陛下は最初は驚きを見せて、それから徐々に、頬が緩んでいく。
「そうか! よかった・・・・」
私の両手は、陛下の手が優しく、だけど強く包み込んでくれた。
――――私は今、新しい道に入った。
だけど、後悔はない。
窓から差し込んでくる光を浴びながら、私は陛下を、陛下は私を見つめていた。
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