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交戦状態になったら、私がホワイトレディの力で援護をしなければ。
気合を入れた時ーーーー風が動くのを感じた。
「閣下、危ない!」
レスリーさんに腕を引っ張られ、体勢を崩し、ランプを落としてしまった。
次の瞬間、鋭い何かに、毛先を引っかかれる。
ーーーー慌てて振り返ると、切り取られた髪の向こう側に、剣を構えた襲撃犯の姿が見えた。
レスリーさんが抱きとめてくれたおかげで、壁に頭をぶつけずにすんだ。
けれど襲撃犯は追い打ちをかけ、続けざまに剣を振り上げる。
(まずい・・・・!)
避けることも逃げることもできず、その時の私にできたことは、衝撃に備えて、全身に力を入れることだけだった。
だけど、衝撃はなかった。
「動くな」
うなじに当てられた冷たい刃の感覚に、怖気だった。警告されるまでもなく、動けなくなった私の横で、男は私が落としたランプを拾い上げる。
そしてランプの光の輪を、私の顔に近づけた。眩しさで一瞬、目が開けられなくなる。
「・・・・この女がアルムガルト侯爵か?」
そんな声が聞こえて、私は瞼を開けた。
背後から襲撃してきた男達は、五人いた。その中の一人が、私の顔を覗きこんでいる。
二班に分かれて、それぞれ建物の両側から侵入し、一方のグループが警護の人員を引きつけている間に、もう一方のグループが目的を果たす。それが、襲撃犯の作戦だったのだろう。
ーーーーそして殺す前にわざわざ私の顔を確認していることから、彼らの目的は明白だった。
「おかしな仮面とウィッグで、顔と髪色を隠しているから、侯爵なのかどうかわからないぞ」
「ウィッグを外せばいいだろ」
「あっ・・・・!」
ウィッグを引っ張られて、私は前に引き倒された。
「なんだこれ、外れないぞ」
そう言いながら、男はぐいぐいとウィッグを引っ張る。ウィッグは魔法で、私の頭から外れないようになっているから、激痛で苦痛の声がこぼれた。
「解除の言葉がないと外れないようになってる魔法道具だろうな」
「くそ、面倒だな・・・・」
「侯爵が建物の外に出てないことは、確認済みなんだ。建物内にいる女を全員殺せば、問題ない」
ーーーーその冷酷な言葉に、血の気が引く。
「じゃ、さっさと殺して、女達の首を持っていこう。それで任務は終わりだ」
男達は笑い、その中の一人があらためて、剣を大上段に振りかぶった。
レスリーさんが私を庇うため、私を腕の中に抱えこんで、うずくまる。
それを見た男は、舌打ちした。
「・・・・邪魔しやがって」
「どうせ女は全員殺す予定なんだ。そいつごと斬れよ」
男達の殺意は、私を庇うレスリーさんに向かってしまった。
その時、廊下の先から靴音が響いてきた。
その音を聞いた瞬間、襲撃犯達の動きがぴたりと止まった。こんな騒動の中で、散歩でもしているようにゆったりと鳴るその足音を、不気味に感じたのかもしれない。
やがて見えた人影は、襲撃犯の間合いの外で立ち止まる。
「ヨルグ殿下・・・・」
現れたのは、ヨルグ殿下だった。無造作に提げられた抜き身の剣が、ランプの光を弾いて、鈍く光っていた。
(一人なの? 他の人達は?)
どうして、一人でいるのだろうか。
「誰だ?」
襲撃犯は、ヨルグ殿下の顔を知らないらしい。襲撃犯が、ここに殿下がいることを知るはずもないし、おそらく彼らが与えられた情報は、暗殺対象である私の目の色や髪色だけなのだろう。
「・・・・無礼な連中だな。人の住処に押しかけてきたんだから、まずはそっちが名乗るのが筋だろ」
ヨルグ殿下の主張は正論だけれど、こんな状況では滑稽に聞こえてしまう。案の定、襲撃犯には鼻で笑われていた。
「すぐに死体になる人間に、名乗る意味があるか?」
「やめなさい! その方が誰なのかーーーー」
「確かに、お前達の言うとおりだ」
私の声をさえぎったのは、他ならぬヨルグ殿下だった。
「優雅な決闘じゃあるまいし、名乗るのも馬鹿らしいか。死体の名前なんて知ったところで、俺には何の得もない」
「そういうことだ。ーーーーさっさと殺せ」
指示されて、三人の男が前に出る。
ヨルグ殿下はにやりと笑って、なぜか剣を、利き手である右手から、左手に持ちかえる。その動きに、私は眉をひそめずにはいられなかった。
「殺せ!」
男達が動き出そうとした瞬間、殿下が右腕を大きく振りかぶる。
「・・・・っ!?」
ガラスが割れる音が響き、後ろの男が持っていたランプの灯が消えていた。
ヨルグ殿下が投げた、石のようなものが、ランプの覆いを砕いて蝋燭の火を消したのだと、少し遅れて気づいた。
そして廊下は、暗闇に支配される。
「ぎゃっ・・・・!」
その暗さに目が慣れる前に、暗がりから男達の悲鳴が響いてきた。
暗闇に、縦に横にと走る光の線は、剣先が生みだす閃きだった。灯りが消えた直後に、ヨルグ殿下がすぐに仕掛けて、交戦状態に入ったようだ。
五対一という圧倒的に不利な立場だったにも関わらず、ヨルグ殿下は初手で二人を斬ったようだった。すでに二人が、血だまりの中に伏している。
「うぐっ・・・・!」
残る三人の攻撃をかわしながら、ヨルグ殿下は白刃の線の合間をくぐり、敵の一人の腹部を蹴り上げた。敵の身体はボールのように吹き飛んで、壁に叩きつけられる。
殿下の動きが速すぎて、目で追うことすら難しい。何が起こっているのか把握できないまま、私が呆然としている間に、また一人倒れていた。
「ひぃぃ・・・・!」
残る一人も足を貫かれて立てなくなったらしく、尻餅をついた状態で壁際に逃げようとしていた。
殿下は剣刃がほころんでいることに気づいて、剣を投げ捨てる。
代わりにベルトからナイフを引き抜いて、それを片手でくるくると回しながら、最後の襲撃者に近づいていった。
「こ、こっちに来るな!」
襲撃者は殿下に剣を向けて、威嚇しようとするも、腕の震えが伝わって、剣先が揺れている。
そんな状態で殿下の攻撃を防げるはずもなく、防御の剣は、殿下のナイフにあっさり弾かれてしまう。そして無防備になったところを、襲撃者は床に蹴り倒され、心臓部にナイフを突き立てられた。
敵がもう動かなくなったことを確認してから、ヨルグ殿下は一息ついて、剣を鞘に戻す。それから私達に、目を向けた。
「無事か?」
「・・・・ええ、大丈夫です」
息も絶え絶えになんとか声を絞り出すと、ヨルグ殿下は眉をひそめる。
「今にも死にそうなのに、どこが大丈夫なんだよ」
「・・・・訂正します。今にも死にそうな気分ではありますが、まだなんとか息ができているので、一応無事です」
「・・・・皮肉が言える余裕があるなら、確かに大丈夫そうだな」
固かったヨルグ殿下の表情が、和らぐ。
「殿下に、お礼申し上げます」
ヨルグ殿下の助けがなかったら、私達は今頃、息をしていなかっただろう。
「でも今後のことは私達に任せてください。私達が殿下を護衛します」
「まだそんなことを言ってんのか」
ヨルグ殿下の声に、苛立ちがまじった。
「こんな状況になったらもう、護衛も護衛対象もないだろ。むしろ俺にとってはこれが本業なんだから、任せておけ。病人のあんたよりは、うまくやれる」
「でも、殿下は今は召喚術を使えなくて・・・・」
「俺のことを、召喚術だけの一発屋だと思ってんのか? 俺が何歳から戦場に出てたと思ってるんだよ」
そうだった。ヨルグ殿下は聖なる七剣の力に目覚める前から、異民族の強襲を受けるような厳しい土地で育ち、成人前に戦場に出て、血と泥の中を生き抜いてきた人だった。
ーーーーだから戦うことを、〝本業〟などと言えてしまうのだろう。
実際、召喚術や魔法などなくても、殿下はその身体能力だけで、五人の男を倒してしまったのだから、十分な説得力があった。
「・・・・出過ぎたことを言いました」
私がそう言うと、ヨルグ殿下はうなずいてくれた。
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