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「殿下! 一緒にお酒を飲みませんか!?」
ある夜、断りもなく突然、俺の部屋に押しかけてきたアルベルタは、その時点でかなり酔っているようだった。
「・・・・酔ってるのか?」
「酔ってませんよー、あ、グラスを置きますね」
よろめきながら、アルベルタは強引に俺の前に座ると、叩きつける勢いでテーブルにワインのボトルとグラスを置いた。
「どう見ても酔ってるだろ。パーティーでもしてきたのか?」
「酔ってませんってばー!」
どう見ても酔っているが、アルベルタは酔っていないと言い張る。
「殿下は今日も、綺麗なごろつき顔ですね! 目の保養になります」
「・・・・褒めてんのか、けなしてんのか、どっちなのかはっきりしろ」
「褒めてるんですよ! 殿下が無名の舞台俳優だったら、舞台に一瞬だけ出てくるごろつき役に選ばれるでしょうね。そして一瞬しか出てこないくせに、美形すぎて逆に目立ってしまうタイプです」
「なんだ、その意味不明なキャラ設定は・・・・」
「どうぞ、飲んでください!」
そしてアルベルタは、ワインが入ったグラスを突きつけてくる。
(珍しいな。酔うとこんなキャラになる奴だったのか?)
普段はお堅いキャラなのに、意外だった。これまでもアルベルタは、正体に繋がるような失言をすることはあったし、毒でへろへろになっていたりしたが、ここまでだらしない姿を見せたことはなかった。
(お堅い雰囲気が、酒を飲んだだけでここまで変わるもんなんだな)
あまりにも珍しい姿だったから、状況を忘れて観察してしまう。
だけどアルベルタは明らかに飲みすぎているのに、さらに自分のグラスにワインを注ごうとしている。それを見て、さすがに止めなければと思った。
「もうよせ」
俺はグラスと、ワインのボトルを取り上げる。
「返してください!」
アルベルタは、ボトルを取り返そうとしてきた。俺のほうが背が高いことを利用して、ボトルを頭上に持ち上げると、彼女は手が届かずに、俺のまわりをぴょんぴょんと飛びまわる。
「返してーーーーあ・・・・っ!」
取り返そうと必死になるあまり、アルベルタは床の段差につまずいて、転びそうになっていた。
「おい!」
慌てて腕を伸ばして、アルベルタの身体を抱きとめる。代わりにボトルを手放してしまい、ボトルが床に落ちて大きな音を立てた。
「あれ・・・・?」
転ぶところだったのに、アルベルタ本人はとろんとした目のままで、慌てることもなかった。それどころか俺に寄りかかったまま、ずるずるとへたりこみそうになっている。
「しっかり立て」
仕方なくアルベルタを抱き寄せて、彼女の身体を支えた。
「うぅ・・・・」
だけど酔ったアルベルタには、俺の言葉が伝わっているかどうかも怪しい。俺の胸に顔をうずめたまま、ぐずぐずと何か言っているようだった。
「こんなに酔いつぶれるまで、飲むからだーーーー」
声の大きさに驚いたのか、アルベルタはばっと顔を上げた。
俺に寄りかかっているような状態だから、顔はかなり近かった。互いの息がかかるような距離で見つめ合うことになり、一瞬、呼吸が止まる。
「ーーーー」
近くで見ると、アルベルタの瞳が、深い色合いをしていることがわかった。深緑色の奥に、エメラルドのような明るい緑がある。吸い込まれそうな色合いに魅入られ、目をそらせなくなっていた。
「うぅん・・・・」
でも、魅入られたのは俺だけだったようだ。アルベルタは俺の顔を見上げるのも飽きたのか、頭突きするような勢いで、俺の胸に顔をうずめる。俺のほうは、頭突きされた痛みに耐えるはめになった。
「・・・・・・・・」
「おい、まさか立ったまま寝る気か?」
寝息が聞こえはじめたので、揺り起こそうとしたが、アルベルタは子供のようにむずがった。まるで赤ん坊に戻って、言葉を忘れてしまったような姿だ。
「うぇ・・・・」
「おい、吐くなよ!」
今アルベルタが吐いたら、俺が被害をこうむることになる。
襲撃後、別の拠点までの移動中に、アルベルタに一度、嘔吐されたことがあった。だがあれは毒の影響で、しかも彼女の意識がない間に起こったことだから、仕方がない。
勝手にパーティーで楽しんできた誘拐犯に、睡眠を妨害された上に、また服に嘔吐されるのは、勘弁してほしい。
だから吐き気が収まるよう、あやすように彼女の背中をさすっていると、そのうちに症状は落ち着いたようだった。
でも同時に、眠気も遠ざかってしまったようだ。
「踊りましょう、殿下!」
酔いからくる妙なテンションの高さのまま、アルベルタは俺の手を取って、ステップを踏みはじめる。
「そんな状態で踊れるのか?」
「踊れますよ! ダンスのステップを、小さいころから嫌ってほどに叩きこまれていますからね!」
「足を踏むな」
確かにアルベルタのダンスのステップは完璧だが、俺の動きを無視して動くから、当然のように足を踏んでくる。
「しょうがない・・・・」
このまま足を踏まれ続けるのも嫌なので、仕方なくアルベルタの手を握り、もう一方の腕を彼女の腰にまわし、動きを合わせた。
モルゲンレーテの舞踏会でよく踊られるダンスの動きだったから、合わせることは難しくなかった。
幼いころにダンスのステップを叩きこまれたと豪語しただけあって、酔っていてもアルベルタの動きはしっかりしている。だから無理して動きを合わせる必要もなく、ごく自然に踊ることができた。
(やっぱり、モルゲンレーテの貴族のようだな)
モルゲンレーテの貴族は幼いころから、作法や教養の他に、言葉のイントネーションにいたるまで教育されるので、平民とは明らかに言葉遣いが違う。おまけに貴族階級の人間しか参加しない舞踏会のダンスまで習ってきたなら、アルベルタは間違いなく、貴族階級の人間だ。
「うぇぇっ・・・・」
「吐きそうになるぐらいなら、じっとしてろ!」
激しく動いたことで、さらに酔いがまわって、また吐き気がぶり返したらしい。俺もまた、アルベルタの背中をさするはめになった。
アルベルタはまた眠くなったのか、俺の肩に頭を預けて、目を閉じた。
吐きそうになったと思ったら、赤ん坊のように身体を預けてくる。
俺のほうはいつ吐かれるかひやひやするから、まるで荒波の上の小舟に乗っている気分だった。
アルベルタは大人しくなり、部屋の中は静かになった。
「・・・・・・・・」
静けさの中に、自分の鼓動が高く響いている。たいして動いてもいないのに、鼓動の音で耳が塞がれるほど、その音が妙に大きく聞こえた。なぜこんなに鼓動が早いのか、自分でも説明できなくて、混乱する。
混乱する一方、この時間に妙な心地よさを感じていた。肩に感じるアルベルタの体温や呼吸の振動、重さを、嫌だと感じない。
むしろ、この時間が長く続けばいいと思っている自分に気づいて、戸惑いが強くなった。
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