二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

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 糸口は見つけたものの、結局私達の戦いは、出発点に戻ってしまったような状態だった。


 ヴュートリッヒは打撃は受けたものの、依然として、派閥の長としてまだまだ健在で、アリアドナも聖女としての影響力を保っている。

 クリストフがこの機会に勢力を伸ばそうと努力したものの、この件は私達の思惑とは裏腹に、これだけの大罪を犯してもヴュートリッヒは揺らぐことはないという印象を、貴族達に与えてしまったようだ。もともと風見鶏だった貴族達には、いっそう距離を取られる結果に終わってしまった。


 かなりの労力を割いて、ヨルグ殿下まで巻きこんで、ヴュートリッヒに攻撃を仕掛けたのに、不発に終わってしまったようだ。


 ーーーーとはいえアリアドナにとっても今回のことは、さすがに簡単に流せるようなものでもなかったようだ。


 暗殺未遂事件以降、アリアドナは急に大人しくなった。以前は頻繁に、貴族の集まりに顔を出していたのに、今ではめったに出席しなくなったのだ。


「アリアドナもさすがに懲りて、目立つことを避けているんだろう」


 クリストフはそう考えているようだけれど、私は彼女がこのていどで、野望を諦めるとは思えなかった。むしろ以前よりももっと、アリアドナの動きが読めなくなったことで、よりいっそう彼女の静けさを不気味に感じている。


 だから警戒を怠らずに、アリアドナが次の計画に出た時もすぐに動けるよう、備えておくことにした。


 まずは別名義で運営していた商業組合を、アルムガルト名義で買収し、事業を統合した。一つにまとめたことでアルムガルト商団は大きな力と資金力を持つようになり、モルゲンレーテの経済界で、より大きな存在感を放つようになった。

 経済的に力を持ったことで、貴族達は私に一目置いてくれるようになったようだ。社交場に出ても、以前のようなあからさまな嘲笑や、嫌がらせを受けることはほとんどなくなった。

 なので私は、貴族の催し物に積極的に参加するようになった。アリアドナや彼女の取り巻きの動きで、今後の動きを読めないかと考えたからだ。


 でも、うまくはいかなかった。以前よりも催し物に参加しなくなったアリアドナとは、めったに会えなかったからだ。


 ーーーーただ貴族の集まりに参加することで、別の収穫はあった。


(ヨルグ殿下だわ)


 その日参加した乗馬クラブで、私はヨルグ殿下と再会した。


 再会と言ってもヨルグ殿下は私の素顔を知らないので、現れるなり貴族に取り囲まれてしまった殿下を、私は遠くから眺めるだけだった。


 ーーーーヨルグ殿下は以前よりも積極的に、貴族の集まりに顔を出すようになっていた。


 今までの予想外の出来事が、殿下にどんな心境の変化をもたらしたのかわからないけれど、ヴュートリッヒの件で、貴族達を味方につけることが大事だと実感したのかもしれない。クリストフは、殿下が皇位継承に備えて、有力貴族と関係を築こうとしているのではと推測していた。

 ヨルグ殿下の意図はどうであれ、殿下が顔を見せると、貴族達は次の皇帝に取り入ろうと、彼のまわりに殺到した。自分の名前を覚えてもらおうとする貴族もいたし、自分の娘を紹介しようとする貴族もいた。

 権力や派閥などには関係なく、個人的にヨルグ殿下に近づきたいと思う令嬢も多いから、殿下のまわりには常に人の姿が絶えない。


 ーーーー最近、陛下の体調が芳しくないという噂が流れている。


 高齢なので不調続きなのは以前からだったけれど、それでも政務を続けられる体力はあった。

 今の陛下の体調は、政務をこなしたり、公的な場に出てくるのも難しいほど、悪化しているようだ。


 だからこそ、貴族達は以前よりも熱心に、ヨルグ殿下に取り入ろうとしているのだろう。


(一応公的な場ではちゃんと、皇子様の仮面をかぶれているのね)


 隠家での乱暴な言動が嘘のように、社交場で見かけるヨルグ殿下は大人しく、皇子らしく、礼儀正しい。一応、仮面を使いわけることはできるようだ。

 礼儀正しくふるまっていると、見た目の良さも相まって、おとぎ話に出てくるような理想的な皇子様に見えた。


「・・・・・・・・」


 大勢の人に取り囲まれているヨルグ殿下を見ると、距離を感じた。今後は言葉をかわすことなど、永遠にないと思えてしまう。


 でもこれが、私とヨルグ殿下の、本来の距離感なのだろうとも感じた。

「・・・・・・・・」


 感傷に浸っている場合じゃないと、私は自分を戒めた。


(午後に、神官達とも会わないと)


 私達は、ヴュートリッヒの存続を上奏した神官達の素行を徹底的に調べ上げ、彼らの弱みをつかむことに成功していた。


 ーーーーそして彼らを脅迫し、今は彼らを通じて、ヴュートリッヒの情報を得ている。


(次こそは、アリアドナの失脚に繋がる情報があればいいんだけど)


 そう願った。



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