聖女召喚された俺、嫌われスローライフを送っていたらいつの間にか好かれてました。

神崎ロクス

文字の大きさ
1 / 4

聖女、爆誕

しおりを挟む
 よく思い出せない。俺、どうしてここにいるんだっけ。そうだ、小学生の女の子を助けようと思って、飛びこんだら光に包まれて……。

「……!」
「ん……」
「……!」
「……わっ!? な、なんだアンタ!?」

 白を基調にしてる変な服を着た老若男女が床に大の字になってた俺を覗きこんでる。なにか言っているみたいだけど、全然わからない。それより、女の子は!?

 俺がばっと上半身を持ちあげると周囲は驚いたみたいで身を引く。そうだ、女の子。女の子を助けようと思ってトラックに飛びこんだんだ。こんな変な宗教みたいな場所は置いておいても、まずは人命だろ。

 すると、白い、口元がうっすら隠れるくらい薄い布で覆った女性が人の波をかき分けてトレイに水色の液体が入った小さなガラス瓶を持ってきて、俺の前でひざまずいて差し出す。これを、飲めってことか? 人に差し出すくらいだから毒じゃないよな……。

 ええい、ためらってたらなんにもわからない! 俺はガラス瓶を取るとガラスの蓋を取って一気に飲んだ。おお、と周囲がどよめき、聖女様が薬をお飲みになったぞ、とか、本当に言葉が通じるようになるのか、とか言ってるのがわかるようになる。言葉が通じるようになる薬だったのか。

「……っ、ぷは! な、なあ、女の子は!? 女の子はどうなった!?」
「無事です。あちらの世界では軽傷で済んでおります。聖女様、我々の言葉がおわかりですね?」
「え? あ、まあ」

 ずいぶんかしこまった口ぶりをする女性に返しながら、俺は、ん? と思いとどまる。今までもずっと、なんか聖女様って呼ばれてるよな? あの女の子じゃなかったら、俺のことなのか? でも聖女、ってつくんだから、女がなるもんじゃないのか?

 つか、俺明日も仕事なんだけど……。今日はまだ水曜日で、帰る途中だった。聖女とかはわからないけど、帰って飯食って支度しないと。

「聖女? ってのはわからないけど、遊んでる暇はないんです。明日も仕事だから、早く帰らないと」
「帰れません」
「え?」

 俺は耳を疑った。帰れないって、なんで。もしかして、こいつら誘拐犯だったの!? それだったらこんなところにいられない。女の子が無事なら俺は帰らないといけないんだ。目の前の若い女性をどかそうと手を触れた瞬間、感覚が体に流れこんでくる。

『無駄ですよ。ここは異世界なのですから』
「異世界!?」

 突然俺が大声をあげたのにびっくりして、周囲の人々が距離を開ける。驚きたいのは俺のほうだ。異世界なんて、そんな嘘だろ? でも、今の感覚はいったい……。俺、さっきの薬飲んでおかしくなったのか?

 髪も白い女性はにい、と微笑んで、俺の手をそっと外すと口を開く。

「タケル・イソヤマ様。我が国を、アストレアを救ってくださる聖女様」
「え、なんで俺の名前……。というか、聖女ってなんですか!? 俺、男ですよ!?」

 そうだ、俺は男だ。聖女なんて肩書は似合わない。女じゃないんだから。どちらかというと、俺が助けた小学生の女の子のほうが聖女って言われた方がわかる。相変わらず微笑んでいる女性が、胴と繋がっている長袖ロングスカートの裾を持って、足を少し交差させて少しかがむ。それがなんなのかわからなくて俺が呆然としていると、女性は名乗った。

「申し遅れました。わたくし、タケル様のお世話をする侍女のセイラと申します。聖女様は聖女様です。神の神託はタケル様に与えられました。最初はわたくしどももリカ様が聖女かと思ったのですが、この魔法陣に呼ばれたのはタケル様でございましたので」

 魔法陣、と言われて足元を見る。見れば、巨大な紫のチョークのようなもので描かれた紋様がある。周囲を見渡すと、周囲の人間は魔法陣の外に出ていたから全容がわかる。巨大な魔法陣が、俺を中心に描かれていた。

 そんな。まだ二十六で、昇進も決まりかけていたのに。こんな異世界で、聖女なんてわけのわからない役職まで背負わされて。

「……俺はどうなるんですか」
「力がなくなっても、元の世界に帰ることは叶いません。死ぬまでここ王都で聖女として王城で生活していただきます」
「外に出たりは?」
「なりません。聖女は希少な存在。他国からのスパイに誘拐でもされたら大変です」
「それじゃ監禁じゃないですか!」
「聖女様の政治的、国家的な価値を考えれば妥当かと。もちろん、待遇は最上級のものです。食物などもそちらの世界にあるものもあるので、そこまで不便はしないと思いますが」

 セイラは微笑んだまま告げる。つまり、俺はここで飼い殺しってわけだ。

 すると、部屋の入口のほうからざわざわと人間が話す声と、道を開ける動きが見えた。そこには豪勢な、まるでゲームの世界から出てきたようなマントと王冠を頭に乗せた五十代くらいの男性と綺麗な同じくらいの女性。

 そして彫刻がそのまま動いているかのような端正な二十代くらいの男が部屋に入ってきた。周囲の人間は陛下だ、とか王子殿下だ、とか言っている。この人たちが、このアストレアとかいう国の王様たち……?

「おお、セイアよ。無事聖女召喚には成功したようだが……。男ではないか」
「この魔法陣に選ばれたのがたまたま男性なのであって、聖女としての力はお持ちかと」
「困ったのう。女ならばよほど醜くない限りはテオの結婚相手に、と思っていたんだが……」

 け、結婚!? 冗談じゃない! 男と結婚させられるなら俺は男でも聖女やってやろうじゃんか! この王様、突然なにを言い出すんだ。

「たまたま我が国の歴代の聖女が女性だったというだけで、他国では男性だったこともあります。ご結婚はできないかもしれませんが、役目を果たすには十分ではないかと」
「それはそうじゃが。そなた、名は」
「健ですけど……」
「タケル。ふむ。確かに異世界から来たのは確かなようじゃ。タケルよ。聖女の仕事、やってくれるな? ……といっても、拒否権はないんじゃが」

 くそ、どうしてこんなことに……。小学生の女の子を助けたことは後悔してないけど、召喚されたことはすごく後悔してる。だって拒否権はないってことは、拒否したらなにかされるんだろ? こんなブラック職場、ありかよ。

 王子殿下、と呼ばれていたプラチナブロンドの髪に青色の目をした二十代の男は黙って俺を見ていた。そして前に出たと思うと、右手を差し出してくる。な、なんだ? 握手……?

 俺は殺されたくない一心で、手を掴んでぶんぶんと上下に振った。ちょっと痛かったらしい。王子らしき人が顔をしかめる。でも、俺は聖女をしないことで殺されたくない。そのためなら、なんだってできる。現代日本でも社畜だったんだ。媚びを売るのは得意だぞ!

「あのっ、俺、健っていいます! よろしくお願いします! なんでもしますから殺さないでください!」
「あ、ああ……」
「あ、それともこの職場の労働力足りませんか!? それだったら俺、データ計算とか経理とか経験あるんでそういうのも……」
「お前はなにか勘違いをしているな」
「え?」
「お前は、その体に宿る膨大な魔力でこの国を豊かにすることが仕事だ」

 なに、それー!? 魔力!? やっぱりここファンタジーな世界かなんかなの!? 俺異世界転生漫画とか読んでたからテンション上がってきた! 明日から俺は会社から自由だ! クソ上司とも顔を合わせずに済む! ヒャッホー!

「この国を豊かにするって、具体的にどんな?」
「ここアストレア王都の祭壇で祈りを捧げるのじゃよ。祈禱の強さで国も豊かに……」
「祈るだけ!? なにそれ楽勝じゃないですか! 毎日祈って……あ、給料とか出ますか?」
「給金は出ん。しかし、国を豊かにする聖女なれば、特別待遇が待っている」

 マジかよ。さっきセイアさんは食べ物も似通ってるところがあるって言ってたし、おいしいご飯食べれたりするの!? カップラーメンじゃなくて!? なんて健康的なんだ! それに祈るだけでいい。これがますますいい。

 毎日目と頭を痛くしながらPCに向かわなくてもいいし、聖女ってなんか偉いっぽいから上司にガミガミ叱られることもない。ヒャッハー! 俺の時代の始まりだー!

 勝手にテンション上がって鼻息を荒くしている俺に王子様はドン引いてるみたいで、俺の手を振り払った。

「なんのつもりか知らないが、俺は慣れあうつもりは……」
「あっ、もしかしてコミュ障の人? 王子様でコミュ障ってつらいっすね! お疲れ様です! あっ、王子様にこんな態度でいいのかな……お、俺殺されないですか?」
「大丈夫ですよ。ふふふ、タケルは明るいのね。私が召喚されたときは怖くて固まってたのに」
「王妃様も召喚された人なんですか?」
「ええ。先代の聖女でもあったわ。でも、二年前に力を失ってしまって……それで、新しい聖女を呼ぶことにしたのよ」

 ふむふむ。そんないきさつが。でも王妃様はこの王様と結婚してるから帰れないだけで、仕事が終わったら帰れるんだよね?

「わかりました。男だけど、聖女の仕事、やってみます! ちなみに、帰れますよね?」
「帰れるわけがないだろう。一方通行だ」

 え……。俺のテンションがちょっと下がる。帰れないってことは、積んでるゲームとかもできないってこと!? 慌ててスマホを見ると、圏外の文字。終わった。ソシャゲのログインもできない。娯楽を失った世界なんて、生きててもつまらない。

 アシュール・レーンのミナトちゃんが推せないなんて……っ! この世界は残酷だ。もうおしまいだ。悲しむ俺の肩を、王妃様が叩いてくれる。

「大丈夫よ、タケル。私たちもできるかぎりの支援はするし、あなたが家族に会えない悲しみも考慮して私たちが家族のように接するから……」
「俺は嫌です」
「テオ!」
「異世界に来て喜ぶなんて異常です。普通は悲しむものでしょう。この男は、力を持っているかもしれませんがなにか思惑があるのです、母上」

 ありゃ、嫌われちゃった? まあいいか。俺が楽しければそれで。ゲームはできないけど異世界には異世界にしかない娯楽もあるだろうし、なんとかなるって! 元気づけられた俺は王妃様の手を握ってやっぱりぶんぶん縦に振った。王妃様も若干引いてる気がしたけど、気にしない。俺は、もう自由なんだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

告白を全部ドッキリだと思って振ったら、三人のアイドルが壊れかけたので彼氏役をすることになりました

海野(サブ)
BL
大人気アイドルヘイロー・プリズムのマネージャーである灯也はある日、その担当アイドル 光留 輝 照真 に告白されるが、ドッキリだと思い、振ってしまう。しかし、アイドル達のメンタルに影響が出始めてしまい… 致してるシーンと受けが彼氏役を引き受けるとこしか書いてませんので悪しからず。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

BLゲームの主人公に憑依した弟×悪役令息兄

笹井凩
BL
「BLゲーの主人公に憑依したら、悪役令息の兄が不器用すぎてメロかった」……になる予定の第一話のようなものです。 復讐不向きな主人公×ツンツンクーデレな兄ちゃん 彼氏に遊ばれまくってきた主人公が彼氏の遊び相手に殺され、転生後、今度こそ性格が終わっている男共を粛清してやろうとするのに、情が湧いてなかなか上手くいかない。 そんな中、ゲームキャラで一番嫌いであったはずのゲスい悪役令息、今生では兄に当たる男ファルトの本性を知って愛情が芽生えてしまい——。 となるアレです。性癖。 何より、対人関係に恵まれなかったせいで歪んだ愛情を求め、与えてしまう二人が非常に好きなんですよね。 本当は義理の兄弟とかにしたほうが倫理観からすると良いのでしょうが、本能には抗えませんでした。 今日までの短編公募に間に合わなかったため供養。 プロットはあるので、ご好評でしたら続きも載せたいなと思っております。 性癖の近しい方に刺されば、非常に嬉しいです。 いいね、ご感想大変励みになります。ありがとうございます。

余命半年の俺を、手酷く振ったはずの元カレ二人が手を組んで逃がしてくれません

ユッキー
BL
半年以内に俺は一人寂しく死ぬ。そんな未来を視た。きっと誰も悲しむ人は居ないだろう。そう思っていたから何も怖くなかった。なのにそんな俺の元に過去手酷く振り、今では世界的スターとなった元カレ二人がやってきた。彼らは全てを知っていた。俺がどうして彼らを振ったのか、そして俺の余命も。 全てを諦めた主人公と、主人公を諦めきれないイケメンサッカー選手とシンガーソングライターの再会が導く未来は?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

処理中です...