聖女召喚された俺、嫌われスローライフを送っていたらいつの間にか好かれてました。

神崎ロクス

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聖女、自分の力を知る

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 自由になった俺の行動は素早かった。王様たちの名前を聞いたのだ。その結果、王様はトパーディオ、王妃様はライラ、王子様はテオということがわかった。ふむふむ。やっぱり異世界転生漫画と似たような展開だ。原作知識を活かしてチート発動とかできるかもしれない。俺、世界救っちゃう!?

 セイラさんだけは唯一引いてはいなくて、ガンガン話しかける俺からトパーディオ様たちから引きはがすためか、手を引かれて部屋を出ていく。そして歩くこと十分くらいで地下から王族専用らしい階段にたどり着いて一気に上っていく。

 そのころには興奮から覚めて、ちょっとあれはやりすぎたかもしれない、と反省していた。でも聖女ってことは男だけどすごい力持ってそうだし、殺されることはないだろ。ヨシ!

 代々聖女が着てた衣装とかあるみたいだけど、俺男だしスカートはさすがに周囲の人間の目を潰すだろうと思って断った。俺自身、スカート履いてる俺を想像したら気持ち悪くなってきた。おえっ。

 賓客室からセイラさんが服を持ってきてくれて、俺は聖女なのに黒を基調とした服を選んだ。なんか、ダークな聖女っぽくて闇を感じていいじゃん。祈りを捧げるのに衣装とか関係ないだろ。二十六のお兄さんがスカート履いてたほうが神様も嫌がるだろうからね。うんうん、頭の中のクソ上司にお前のスカートは気持ち悪いって言われる。そうですね部長。

 やる気満々の俺をさすがに不審に思ったのか、服をスーツから着せ替えてくれたセイラさんが問いかけてくる。

「タケルさま、異世界に来て寂しくはないのですか? ご両親がいらっしゃる歳でしょう?」
「あ、うーん。親父とお袋に会えなくなるのは寂しいなあ。でも、会社から解放されたというだけで俺は幸せなんです! それに仕事が祈るだけって、どんだけ楽勝ですか!」
「は、はあ。心中穏やかならいいのですが」

 俺のポジティブさにさすがに驚いたらしい。ライラ王妃はそんなことなかったのかな。セイラさん自身が三十代に見えるからわからないけど。着替えた服を、姿見の前で見てみる。うーん。顔が平凡すぎるせいで着せられてる感が半端ない。

 でも、見ようによってはかっこいいかもしれない。うーん、俺もテオ王子くらい美形で背も高かったらなー。一六三はさすがにこういう服に着せられてる感がなー。

 その最中に、扉がノックされる。さっきの三人が入ってきて、テオ王子は嫌々といった感じが満載だ。嫌われたのかも。まあ、仕方ないか。ちょっと調子に乗っちゃったしね。仕方ない。よく考えたら王族に嫌われたら命を狙われるんじゃ。……やっちまったな! まあでもテオ王子はそんなことしない人な気がする。握手してこようとしてきたくらいだし。

「おお、衣装ではなく賓客室の服を着たのじゃな。言ってくれれば、一日はかかるが服を用意させたのに」
「いやあ、スカートは、さすがに。外に出るとき困るし」
「そんなしょうもない理由か……」
「しょうもなくないですよ。俺がスカート履いてるところ想像してみてください。むさ苦しいでしょ?」
「……確かに」
「ほらー」

 テオ王子もそう思うんだから、俺の判断は正しかったってこと。美的センスは人並みくらいだけどね。

「しかしだ。仮にも立場が上である王族に対してあれはなんだ。母上にまでも乱暴な握手をして。俺は、お前が嫌いだ」
「えー。俺は好きなのにー」
「……は?」
「え?」
「タケル様、それは……」

 変な雰囲気になった場の雰囲気でようやく気が付いた。そうだ、テオ王子は曲がりなりにも男性だ。俺が好きとか言ったら勘違いされてもおかしくない。実際勘違いしたらしく、テオ王子が一歩引く。

「俺は、同性愛者ではない」
「あ、えーと」
「もう俺に触れるな。汚らわしい」

 嫌われた。さすがにどうでもよくはない。王族に嫌われたら、いじめとか仕事の妨害とかされそうで怖いから。といっても、聖女がどんな仕事するのかわかってないから、ちょうどいいからトパーディオ王に聞いてみよう。

「でも、聖女って……祈るだけでなにが変わるんですか?」
「人の感情や、各地の気候の変動、豊作など様々じゃ。いい効果をもたらすものもあれば、戦争になれば前線に行って皆の慰労をすることもある危険な面もある。今は戦争の危険がないから平和そのものじゃがな」

 よかった。戦争してます、とか言われたら俺はこの部屋に隠れて出なかったかもしれない。護衛とかはつくんだろうけど、道中どんな危険があるかわかったもんじゃないし。

 俺の様子を感じ取ったのか、トパーディオ王は俺の肩をぽんぽんと叩いてくれる。俺はそれに安心して泣きそうになったけど、我慢。男はそんな簡単に泣くもんじゃない。

 聖女の仕事もわかったことだし、二年前ってことは不安定なんじゃないか? すぐその祭壇に行ったほうがいいんじゃないかと思うけど。

「トパーディオ王、質問なんですけど。儀式って今日やるんですか?」
「ほう、話が早いのう。さっそく儀式を行おうと思っておったところじゃ。そなたには、豊穣の祈りと天候の祈りを捧げてほしい。やり方は、中にある魔力が導いてくれるじゃろう」

 そんなにすごい力なんだ、この体の中にある力。国ひとつのことを変えちゃうとか本当にすごいな。テンション上がってくる。でもテオ王子には嫌われちゃったからちょっと自重しよう。俺を刺し殺さんばかりに睨んでるし。俺が口を滑らせたせいとはいえちょっと悲しい。

 俺はそのままの格好で、三階の居住スペースから四階の祭壇に移動した。なんか、ここに来ると気持ちが落ち着く。さっきまでハイテンションだった心が静かになって、おとなしくなった俺をテオ王子がじろじろと見てきても気にならない。

 体が自然と奥の祭壇に向かって歩いて、独特な衣装を着た若い女性たちが蝋燭に火をともすと足元が明るくなる。俺は導かれるようにして祭壇に膝を折って座り、俯いた顔の前で祈りを捧げた。

『祈り、聞き届けたり』

 男性の声で、そう聞こえた。そう思った瞬間に体から力が抜けていく。妙な満足感があって、倒れそうになるのを衣装を着た若い女性が支える。俺はほんのわずかに汗ばんでいた。

「せ、成功したの?」
「はい。神聖なる創造主が聖女様の魔力を受け取りましたので。お疲れ様にございます」

 はあ。これだけでいいなんてなんて楽な仕事だろう。毎日十二時間PCに向かって目薬をさして、部長に嫌味を言われつつ仕事をするよりずっと簡単だ。体はだるくて支えられてないと立てないけど、これぐらい深夜二時就寝早朝五時起きに比べたらまだまだマシだ。

 セイラさんたちに支えられながら戻ってくると、トパーディオ王が両手を広げて感嘆したと言わんばかりの顔をしてる。一応、媚び売れたかな。

「素晴らしい! ライラとまったく同じ力ではないか! タケルよ、一時は心配したがそなたはやはり聖女だ! これからも頼りにしているぞ!」
「へへへ、そりゃもう、バリバリ祈っちゃいますよ……あれ……」

 視界がひっくり返る。背中の痛みと同時に、俺は意識を失った。

 ばっと飛び起きると、そこは俺の部屋だった。きちんと掃除してあるおかげで埃っぽくもないし、ふかふかのベッドで寝られたからか疲れとかもない。高級ベッド最高!

 なんとはなしに横を見て、俺はびくっとする。俺を睨んでいるテオ王子と、床に置いてある桶でタオルを絞っているセイラさんと目が合ったからだ。てかテオ王子こわ。何歳か知らないけど、ちょっと乱暴に握手したくらいでキレる人いる? あ、取引先にそういう人いたからありえるか。

 一応目上だし、媚び売っとこう。俺は営業スマイルを顔に貼りつけると、外行き用のいい声で話しかける。

「テオ王子、俺の儀式どうでしたか……」
「猫撫で声で話すな。虫唾が走る」

 あっ、ハイ。もうなにしても気に食わないみたいだから取り繕うのはやめよう。人間万人に好かれる人なんていない。ときには諦めも肝心だ。

「じゃあテオ王子はなんでここに?」
「お前の見張りだ。よからぬことを考えていないかのな」

 そこで俺はテオ王子の顔面に噴き出してしまう。唾がついたテオ王子の膝の上の拳が強く握られるのを見て、俺はひえっ、と声をあげてしまう。わざとじゃない、わざとじゃないんだ! だってテオ王子が面白いこと言うから!

「ち、違うんです! テオ王子が俺のこと嫌いなくせに見張るとかいうダブスタするからおかし……いや、なんか怖くて!」
「悪かったな、おかしくて」
「テオ王子殿下、お顔を拭きますのでこちらを向いてください」

 セイラさんは慣れたのか、どこ吹く風だ。テオ王子の顔を吹くと、また桶にタオルを浸して絞り始める。いやセイラさん! 俺のお付きなら俺のこと助けるべきじゃない!? テオ王子の顔拭いてはい終わり、って、主人のケアにもなってないよ!

 うぐぐ、ここは素直に謝ろう。斜に構えすぎると足元を掬われるからな。俺は頭を下げてテオ王子の出方を伺った。テオ王子は俺をぶつでもなく、ただ見ている感じがする。

「テオ王子、本当にすみませんでした。部屋に来るほど俺のこと心配してくれるなんて思ってなくて……」
「だから、心配はしていない」
「見張りならセイラさんだけで十分では?」
「セイラはお前の侍女だ。一方、俺は立場が上である。お前が父上や母上に失礼なことをしないか見張ってないと……」
「つ、ツンデレ……」
「なにか言ったか?」

 ものすごく冷たい声に俺はぶんぶんと首を横に振る。こわぁ! テオ王子は続けた。

「俺の家族を守るために、毎日ここに来る。しばらくしたら公務などがあるから離れるが、お前が死ぬまで見張ってやるからな」
「それってプロポーズですか? 斬新だな……」
「お、ま、え、な!」
「わー! すみません!」

 またテオ王子の琴線に触れてしまった。どうしてこうなった。俺のせいだよ! ちくしょうめ!

 俺とテオ王子はテオ王子からの一方的な喧嘩を買わないで謝り倒したけど、テオ王子は満足いかなかったようで不機嫌で部屋から出ていった。これはだめだ。ここまで嫌われたら命狙われて俺は死ぬんだ。親父、お袋。異世界で先立つ俺を許してくれ。

 俺が悲壮な覚悟を浮かべていると、ぺち、と絞った冷たいタオルが額に乗せられる。優しくしてくれるのはセイラさんだけだよ……ホント……。さて、これからどうやって仲良くなったもんかなあ。

 それから本当に毎日テオ王子殿下は俺の様子を見ては罵倒して帰っていった。ストレス発散に使われてないか、俺。そうされてもしょうがないことしたけどさあ。だいいちテオ王子の沸点が低すぎると思わない? ……思わないな。うん。
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